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1.展望塔のラプンツェル 2.黒鳥の湖 3.ボニン浄土 4.夜の声を聴く 5.羊は安らかに草を食み 6.子供は怖い夢を見る 7.月の光の届く距離 8.夢伝い 9.ドラゴンズ・タン 10.逆転のバラッド |
鳥啼き魚の目は泪、誰かがジョーカーをひく、その時鐘は鳴り響く |
「展望塔のラプンツェル The Rapunzel's observation tower」 ★★☆ | |
2022年11月
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親から虐待、ネグレクトを受けている子供たちの物語。 複数のストーリィが並行して描かれます。 主人公の一人は、多摩川市の児童相談所職員である松本悠一。彼は、熱気あふれる「こども家庭支援センター」職員の前園志穂と共に問題家庭への対処に明け暮れています。 一方、フィリピーナの息子であるカイ(海)と、家族から散々に踏みつけられきたナギサ(那希沙)は今、寄り添いながら地道に生きていこうと奮闘中。そんな2人が出会ったのは、一人で街をうろついている5歳の男の子。 ナギサは男の子をハレ(晴)と呼び、カイと2人で弟のように可愛がります。 そして落合郁美は、夫の圭吾に協力を求め妊活に懸命ですが、少しも成果は得られないでいる。 虐待やネグレクトを罪悪であると少しも思わぬ親たち、子どもたちを守ろうとする職員たち、そして子供を望むのに叶えられないでいる夫婦。それぞれ対象的な存在です。 しかし、本来主役たるべきなのは子供たちである筈。その肝心の子供たちは、言うべき言葉を持たない。 少しも言葉を話すことのないハレは、その象徴的な姿というべきでしょう。それと同時に、たった一人で街を歩き回る姿は、自由でありたいという願いの象徴でしょう。 本作で悠一や志穂が出会う親子関係は過酷な現実。そして、ナギサが追いやられた状況は、目を覆いたくなるような凄惨なものです。 カイとナギサ、そしてハレは、こうした状況から逃れ出られないのか。手に汗握る気持ちになります。それなのにあぁ・・・。 ヤラレタ!と思ったのは、こうしたストーリィには珍しい仕掛けが施されていたこと。 そのおかげで、最後には救われるような気持ちになれました。ただ一点を除いては。 どうしようもなくダメな親なら、親から離れ一人で強く生きて行って欲しい、そう願うばかりです。 過酷な現実から子供たちの救済を描く圧倒的なストーリィ。是非お薦めです。 |
「黒鳥の湖 Black Swan Lake」 ★★ | |
2021年07月
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不動産会社を経営する財前彰太は、伯父から貴金属店を継承後事業転換をして大成功。妻の由布子と一人娘の美華と満足すべき幸せな生活を送っていましたが、あることからその生活が崩れ始めます。 ひとつは、若い女性を監禁していたぶるという猟奇的犯罪者“肌身フェチの殺人者”の出現。 かつて小さな興信所に勤めていた時、同じ手口の犯罪者を探してほしいという依頼を受けた彰太は、自分を店の跡継ぎにすることを拒んだ伯父をその犯人とする偽の報告書を作成したという過去があった。今なぜ、同じ手口の事件が起きたのか。 もうひとつは、名門附属女子高校に通う美華が突然、両親に反抗的な態度を示し、不行跡を繰り返すという行動をし出したこと。何が美華をしてそうさせたのか。 かなり深い、複層的な物語です。 では、本作をミステリとして読むべきなのでしょうか。 ミステリとした場合、冒頭の謎と謎解きと結末に、ズレがあるように感じてなりません。また、題名とも違和感を覚えます。 そうであるなら、家族ドラマとして受け取るべきか、というと、そのように感じる部分もありますが、中途半端という気がする。 要は、余計なことは考えず、ただこうしたドラマを描いた物語なのだとして、読んでいればいいだけのこと、と思います。 そうであれば、充分驚かされますし、次々と真相の皮が暴かれていく展開は圧巻の読み応え、と言って良いだろうと思います。 ただ、本作の主題、あるいはテーマは一体何だったのだろうか、という思いが残らざるを得ず。 1.何もかもが似すぎている/2.悪い黒鳥は、罰を受ける/3.正しいものと邪悪なものは背中合わせで存在する/4.愛なき世界で夢をみる/5.黒はあらゆる色が重なり合った色である |
「ボニン浄土 Bonin Pure Land」 ★★ | |
2023年07月
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漂流話、「ボニン」という名前から、架空の島への漂着記かと思ったのですが、題名の「ボニン」とは「ボニン・アイランド」、小笠原諸島(欧米人が呼んだ島名)のことでした。 江戸時代の1840年、気仙沼の千石船=観音丸が暴風雨にあって漂流、漂着した先がボニン・アイランド。 そこでの主人公は水主の一人である吉之助。この島には、欧米人や南太平洋から渡って来たカナカ人たちの居住し、出身国や民族に囚われない、純朴で公平な暮らしが営まれていることを知ります。 一方、現代日本。音楽家一家に育ち自らもチェロリストを目指す中一の中塚賢人は、ある事故に遭って以来チェロの音が聴こえなくなります。そんな賢人に気分転換をと、フリーカメラマンの父親=雅人が小笠原への撮影旅行に賢人を連れ出します。 また一方、父母のことをよく知らないまま祖父母に育てられた田中恒一郎は、妻子と別れて以来ずっと一人暮らし。フリーマーケットで亡祖父が持っていた木製の置物を偶然見つけた恒一郎は、祖父母と亡母にまつわる真相を知ろうと、彼らの出身地である小笠原へと向かいます。 3つの物語(現代の2つは同時進行)を辿りながら、日本本土から遥かに離れた南太平洋上に位置する小笠原諸島のあり様、歴史(戦中・戦後の苦難期を含む)を語っていくストーリィ。 それと同時に、田中恒一郎が知った野本秀三という老人の死の謎を解き明かすミステリ要素が加わっています。 何よりの魅力は、小笠原という風土がもたらす土地の魅力、そして島民気質でしょう。 「ボニン・アイランド」ではなく、「ボニン浄土」という題名、その<浄土>の意味合いを考えながら、本作舞台の小笠原の雰囲気にただ浸れることが楽しい。 ※吉之助が親密になったマリアという女性と、賢人が親しくなった時子という娘との、時空を超えた繋がりが圧巻です。 1.浄土へ流れ着く/2.海の天女/3.巻貝の呪術/4.南洋桜/5.ボニンブルー/6.血赤珊瑚/7.セロ弾きの少年 |
「夜の声を聴く」 ★★ | |
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中二からずっと不登校、高校にも進学せずヒキコモリ状態だった堤隆太・18歳を主人公にした、再生ストーリィ&ミステリ。 IQ138 と頭脳優秀な余りかえって教師たちから理解されず、同級生らからも浮き上がり、結果的に居場所のない隆太。 公園で隆太の目の前でリストカットした加島百合子・23歳との出会いから、彼女が通う春延高校定時制課程に入学します。 そこで出会ったのが重松大吾・16歳。定時制高校の生徒になっても昼は暇な隆太、大吾が住み込みバイトしているリサイクルショップ<月世界>に毎日のように出入りするようになります。 その店の社長である野口タカエ・70代、物の売買だけでなく「よろず相談」も商売に掲げていることから、店には様々な相談事が持ち込まれます。 その対処に駆り出されるのが大吾と隆太。おかげで事件解決にも活躍することになるという、連作ミステリの展開へ。 ・百合子の叔父の飛び降り自殺と、おが屑の中で飼育されていたカブト虫の幼虫が全滅した真相は何か。 ・病床にある老夫が、タヌキが息子に化けて何かを伝えようとしている、としきりに訴えている。その内容を解き明かして欲しいという資産家の老婦人からの依頼。 ・両親が離婚して離れ離れになった母親と妹に会いたいと依頼してきた姉と、それを拒絶する妹との間の騒動。 ・そして、それらの出来事の中で見聞きしたことが偶然にも、11年前に起きて未解決のままとなっている<一家4人殺害事件>へと繋がっていく展開が圧巻。 本作、連作ミステリの仕掛けにおいても秀逸なのですが、見逃せないのは定時制高校での、また上記出来事の中での様々な人物たちとの新たな出会いが、隆太が初めて得た友情&成長ストーリィへと繋がっていく処にあります。 特に、複雑な関係にある大吾と社長のタカエ、意地っ張りな比奈子・18歳等々、各登場人物の存在感も抜群です。 お薦め! |
「羊は安らかに草を食み Sheep May Safely Graze」 ★★☆ | |
2024年03月
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認知症になった友を含む、老女3人の旅。 目的は、何か「つかえ」を抱えているらしい友の、語られることのなかった過去を手繰り、そのつかえを晴らしてあげること。 老女3人によるロードノベル&ミステリといった流れですが、それと並行して、敗戦直後の満州引き揚げにおける過酷な旅が語られます。二つの旅が出逢った時、そこにどんな謎解きが待ち受けているのか。 倒叙的な展開のミステリ&サスペンスにも魅力はありますが、それ以上に胸を打つのは、10歳程の少女2人が互いに助け合って過酷な状況を生き延び、日本への帰還を遂に果たしたこと。 戦争の記憶がどんどん薄れる中、こうしたストーリィを敢えて今描いた処を称えたい。 こうしたストーリィを読むたび戦争の悲惨さを感じるのですが、それに加えて国家権力に騙される恐ろしさもまた感じます。 持田アイ(80歳)、須田富士子(77歳)と都築益恵(86歳)は、俳句サークルで出会った親しい友人関係。しかし、益恵は今や認知症となり、施設入所が避けられない状況。 しかし、何か過去につかえを抱えていて自由になれずにいるらしい。50代で再婚した夫の三千男はアイと富士子の2人に、益恵がかつて暮らした土地を訪れ、施設入所する前に益恵のつかえを晴らしてやって欲しいと頼みます。 そこから老女3人による滋賀県大津、愛媛県松山、長崎県國先島を巡る旅が始まります。 大津、松山と訪れた先にはいずれも益恵を親しく知る人たちがいるのですが、益恵がしきりに口にする「カヨちゃん」という女性に出会うことはできるのか・・・。 そしてまた、アイ、富士子にも抱える秘密があり・・・。 1.旅の始まり/2.湖のほとりで/3.天守閣の下で/4.島の教会で/5.旅の終わり |
「子供は怖い夢を見る」 ★★ | |
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主人公の長谷部航(わたる)の人生が狂ったのは8歳の時。 妊娠中にもかかわらず父親に捨てられた母親は、航を連れてチラシで知った新興宗教団体に身を寄せる。 そこで生まれた妹=満里奈を航は大事にしますが、満里奈の具合が悪くなったとき、航の医者にという懸命な叫びは無視され、おやかたさまの薬に頼られた満里奈は死んでしまう。 その時に航が頼ったのは、小学校で唯一人の友人となった転校生=段田蒼人の家族。 蒼人の家族はそれぞれ異能を持ち、祖父の喜連によって満里奈は命を取り戻しますが、それ以来航は母親とも満里奈とも別れ、児童養護施設で育ちます。 23年後の今、航は町の惣菜屋で働いていますが、その中でジェイソン・ガオという不思議な青年と知り合い、企業の仲間に巻き込まれます。 いったいガオの狙いは何なのか。 そしてまた、ガオの個人的投資会社で働く成瀬亜沙子という女性を目にしたとき、もしや成長した満里奈ではないかと航は衝撃を受けます。 一方、23年間会うことのなかった蒼人とその家族が航の前に姿を現し・・・・。 最初は不幸に満ちた過去を持つ航の過去と現在の苦闘の物語、かと思ったのですが、次第に人には言えぬ異能を持っていた蒼人の家族と航の関わりにかかる部分の比重が大きくなっていき・・・一体これはどういう物語なのかと戸惑いも覚えました。 でも、不穏さを基調としながらも、面白いことは面白い、ストーリィにどんどん引きこまれていきます。 航と母・妹との関係、航と蒼人一家との関係、そして最も危なさの漂うガオという青年との関係。 最後は、航という青年の人生は結局救われないものだったのかと覚悟した処で、ある人物によって航は救われます。 それによって読者もまた救われた気持ちになるストーリィ。 読み手の好み次第かと思いますが、私としては面白く堪能できた作品です。 1.何もかもが秋に起こったこと/2.夜から生まれた男は、月の光に象られる/3.記憶は時に手ひどい嘘をつく/4.緩慢な生は、緩慢な死と同じくらい耐えがたい/5.何もかもを知ることは、とてつもなく悲しいこと/6.血がつながっているからこそ、憎悪は募る/7.目覚めよと呼ぶ声が聞こえ |
「月の光の届く距離」 ★★ | |
2024年11月
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高校2年、17歳の柳田美優は、思わぬことに交際相手との子を妊娠してしまいます。 そうと知った父親は激怒、家にいられなくなった美優は居場所を失い、ビルの屋上から飛び降り自殺しようとするまでに追い詰められますが、その時美優を救ってくれたのは、少女たちを助けるNPO活動をしているという野中千紗。 その千紗に紹介されて美優は、奥多摩でゲストハウスを営んでいるという明良と華南子という兄妹の元に身を寄せます。そこで手伝い働きをしながら、出産の時までを過ごすという配慮。 井川明良と西村華南子という兄妹は、車椅子生活の母=類子の世話をしながら、3人の子ども=中2の久登・小2の未来・4歳の太一を育てていた。 久登と太一は里子、未来は華南子の養女だという。 このゲストハウスで働きながら美優は、親の保護を得られなかった子供たち、それどころか虐待を受けてきた子どもたちの過酷な状況、そしてそれは、明良、千紗もそうした一人だったことを知ります。 それと対照的に、血は繋がらないながら、明良や華南子、そして類子と3人の子どもたちの間に強い家族関係が築かれているのを目にします。 子を育てるうえで一番大切なことは何か。血の繋がりと家族としての繋がりは、不可分なものではなく別の問題だ、ということを身を以て語っていくストーリィ。 随分前から米国では既に見受けられる状況だと聞いていますが、日本でも、血の繋がりに捉われず家族関係が築けるようになればどんなに生きやすく、また子どもが救われる社会になるか、と思います。 ストーリィは、各章で主人公を変え、美優、明良、華南子、そして再び美優と推移します。 その中で美優の成長ぶりが鮮やかですが、多くの大人が学んで欲しいことでもあります。 1.夜の踊り場/2.夜叉を背負って/3.ただ一つの恋/4.月の光の届く距離 |
「夢伝い」 ★★☆ | |
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怪異、ホラー的な内容から成る短編集。 こうした短編集には普通、怖さや、不気味さを感じてしまうのですが、本作についてはそれよりも宇佐美さんの上手さに唸らされてしまいます。 そのため、怖さや不気味さは余り感じないままに読み進んでしまいます。最後にあっと思わされても、驚きより、そしてしてやられたという思いより、上手い!と感嘆。 また、中には明るい雰囲気の篇もありといった具合で、まさに多彩多様。 冒頭作で表題作の「夢伝い」は、作家、編集者、小説執筆を題材にした篇。この篇でグッと読書心を鷲掴みにされます。 どの篇も見事なのですが、中でも圧巻なのは「愛と見分けがつかない」。 7人の人物によって一人称で語られる話を連ねて、ひとつのストーリィを形作っていくという構成で、連作短編集を読んだような読み応え、ストーリィの大きさを感じさせられる篇です。 あっと言わせられ、面白かったのは「果てなき世界の果て」。 コロナ下のこれまでを基にしたストーリィなのですが、まさかこんな仕掛けが用意されていたとは。痛快な面白さです。 本書を、単純に短篇集と言って良いかどうか。 なにしろどの篇をとっても、長編作に劣らない内容、読み応えを備えているのですから。 たっぷり楽しめること間違いない一冊。是非お薦めです。 夢伝い/水族/エアープランツ/沈下橋渡ろ/愛と見分けがつかない/卵胎生/湖族/送り遍路/果てなき世界の果て/満月の街/母の自画像 |
「ドラゴンズ・タン 竜舌」 ★★ | |
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古代中国〜唐時代〜明時代〜戦争前上海〜現代日本と、長い年月を貫いて描く、ホラーファンタジーサスペンス。 古代中国、漢帝国に挑んで破れ、晒し首とされた姜イリョウ。強烈な破壊欲に駆られるイリョウは、人としての形骸を捨て、様々に変容しながら呪い続け、いつか<竜舌>となって世界を滅ぼしてやると執念を燃やす。 一方、その凶悪に対抗するため、何時の時代にも一組の男女が現れ、ある徴とある物を将来に向かって繋いでいく。 そして最後、現代日本において最終対決が行われる、という構成です。 壮大なスケールで描かれるホラーサスペンスですが、歴史ものとしての魅力もあって、古代中国の篇にこそ惹かれます。 まぁ全ての起点は、「第一章 流沙の王国」から始まるのですから、当然といえば当然なのかも。 そして、最終章は決着篇となりますからこれもまた見逃せませんが、甦った<竜舌>がこうしたものだったとは、全く予想外でした。 どんな時代にも悪はあるもの。しかし、同時にそれと対抗する善もまた常に存在し闘い続けている、というテーマが心躍ります。 各時代のストーリィ、それぞれの面白さがありますが、そうした中で魅力を感じた登場人物はというと、呂鳴晏、康來、王恂姚、家串梓といったところ。 その一方、不快極まる人物として、永遠の命をイリョウから与えられた鋭ケイビが各章に登場しますが、その存在があってこそ緊迫感が生まれているように感じます。 読み応えのある、歴史+サスペンスの面白さ! ※なお、長い時代に亘る闘争の物語という点で、かつて愛読したE・E・スミスの“レンズマン”シリーズを思い出しました。懐かしいです。 1.流沙の王国/2.機関木人(からくりにんぎょう)/3.紫禁城の雷獣/4.泥の河に沈む/5.そして竜はよみがえる |
「逆転のバラッド」 ★☆ | |
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始まりは、一人の若手銀行員がヤクザものに川に突き落とされて溺死した事件から(警察は事故と判定)。 死んだ行員=丸岡に釜修理資金の融資を頼んでいた銭湯<みなと湯>の主人と常連客は、融資が困難となり頭を抱えます。 そんな彼らの元を訪ねてきたのは、丸岡の婚約者だったと名乗る融資窓口係の女性=友永礼美。 その友永、丸岡は殺されたに違いない、その原因は松山西部病院あての融資41億円にかかる不正にあるらしいと彼らに訴えてきます。 みなと湯の面々とは、自ら希望して本社から松山支局に異動してきたベテラン記者の宮武弘之、みなと湯主人の戸田邦明、親が道楽で始めた骨董屋を継承した小松富夫、みなと湯の釜炊きで元暴力団員の定本吾郎。 さっそく宮武が、取材として調査を始めます・・・。 顔ぶれがそうだからか、シリアスな印象は余りなく、どうしてもコミカルな印象を受けてしまいます。その辺り、これまでの宇佐美まこと作品に比べると様変わり、という印象。 還暦前後の老人たちが義憤に駆られて奮闘という要素は有川ひろ「三匹のおっさん」を連想させますし、悪党たちへの逆転劇という要素は池井戸潤“半沢直樹”シリーズを連想させます。 また、病院を踏み台にして不正利潤を得ようとする悪事を暴き、悪党たちを裁こうというのが主ストーリィですが、その中には医療問題もあれば、ベテラン記者の復活劇もある。宮武弘之と小松富夫の家族問題もありと、実に多彩。 ただ、多彩過ぎてややまとまりを欠いているような印象を禁じ得ません。 最後はハッピーエンドですが、全てそれで良いのか、と思わないでもなし。 最初から、宮武弘之の再生ストーリィとして読んだ方が、すっきりと読めたように感じます。 1.雪うさぎ/2.春を刻む/3.甘露の口福/4.きゃらぶき/5.風の通り道 |