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21.白ゆき紅ばら 22.わたしたちに翼はいらない 23.こまどりたちが歌うなら 24.いつか月夜 |
【作家歴】、ビオレタ、月のぶどう、みちづれはいてもひとり、架空の犬と嘘をつく猫、大人は泣かないと思っていた、正しい愛と理想の息子、夜が暗いとはかぎらない、わたしの良い子、希望のゆくえ |
やわらかい砂のうえ、彼女が天使でなくなる日、どうしてわたしはあの子じゃないの、ほたるいしマジカルランド、声の在りか、雨夜の星たち、ガラスの海を渡る舟、タイムマシンに乗れないぼくたち、カレーの時間、川のほとりに立つ者は |
「白ゆき紅ばら Good girls go to heaven, bad girls go everywhere」 ★★☆ | |
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これまで数多く寺地作品を読んできましたが、珍しく、いや初めてか、本作の過酷さは衝撃的でした。 主人公の盛山祐希、両親に恵まれず、遠縁の盛山夫妻に引き取られますが、その夫妻も3歳の時に死去。 夫妻の娘である実奈子、24歳という若い身で祐希は自分が育てると宣言し、インカレサークルのボランティア活動で知り合ったという細田志道と一緒に、行き場所のない母子を受け容れる<のばらの家>を起ち上げます。 しかし、2人が口にする理想と、現実の2人の行動は大違い。 このままではずっと拘束され、こき使われるだけと、祐希は高校卒業式前日に逃げ出し、それ以来10年間を一人で生きて来た。 そして10年経った今、志道が祐希の前に姿を現わします。 10年前、祐希が置き去りにしてしまった親友=紘果(ひろか)を救い出すため、祐希は決意して<のばらの家>に戻ります。 ※題名の「白ゆき紅ばら」とは、祐希と紘果のこと。 冒頭から、実奈子、志道という2人の存在が、気持ち悪くてなりませんでした。 こんな大人が傍にいて、しかも育ててやっているんだ顔をされるなんて、どんなに不幸なことか。児童養護施設の方が余程マシなのではないか、と思うばかりです。 そうした環境で育ちながら、自分の将来を考えて逃亡し、その後もしっかり生きて来た祐希は、なんと勇気と行動力を備えた少女だったことか。 そして今、紘果を救おうと<のばらの家>に戻った祐希に対し、紘果は嫌悪するような態度を取る。 同じ環境で育ちながら、2人の少女の有り様、道を分けたものは何だったのか・・・。 (以下ネタバレ的です。) 志道から、一人では何もできない奴とバカにされていた紘果が、実は祐希に優るとも劣らない勇気の持ち主だったとは。そこには驚愕と感動があります。そこから後は、一気読み。 本作もまた、最近多くある、シスターフッド作品のひとつ。 そしてそれに加え、子どもによる大人たちとの闘い、子どもだからといって大人に頼るばかりではいけないのだ、ということをリアルに描いた感動作。 お薦めです。 1.2018年/2.2000年/3.2018年/4.2006年/5.2018年/6.2008年/7.2018年/8.2017年/9.2018年/10.2023年 |
「わたしたちに翼はいらない」 ★★☆ No need of wings to keep walking our own path |
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同じ地方都市に住む三人の男女が、自分を束縛してきた状況から逃れて自分の生きられる道を探そうとする、そこに至るまでのストーリィ。 佐々木朱音は離婚し、4歳の娘=鈴音を育てるシングルマザー。 中原莉子は中学時代からのカレシである大樹と結婚し専業主婦。娘の芽愛は鈴音と同じ保育園。 園田律は、マンション管理会社勤務、独身で孤独。 実はこの3人、中学時に同級生。しかし、莉子が大樹たち華やかなグループに属していた一方、朱音と律は地味な生徒だったためお互いに気付かなかった、という次第。 莉子は一見幸せそうだが、夫の大樹は親や仲間たちにずっと持ち上げられ続け、すっかり王様気質。莉子を何かにつけバカにして自己満足し、莉子は常に我慢を強いられている。 一方、律は中学時代に大樹と仲間たちに執拗なイジメを受けたことが今もトラウマ、大樹を殺してやりたいと憎んでいる。 親や上の世代が植え付けていたこと、何とうざったいことばかりだったことか。 同級生であれば「友だち」、仲良し。喧嘩しても謝れば許してあげないといけない、等々。 みな強い側に都合の良いことばかりなのかもしれません。表面的に格好つけているだけで、そこに弱い側への配慮などない。 友だちなんかいらない、一人で構わない、と言い切る朱音の言葉がなんと痛快、爽快であることか。 何かとコミュニケーションこそ大切だと唱えられる時代ですが、かえってその美辞麗句に苦しめられている人も多いのではないでしょうか。 しがらみに囚われるのをやめ、新しい歩みを始めた3人に、心からエールを送ります。 |
「こまどりたちが歌うなら」 ★★☆ | |
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耐えられない事情から前の会社を退職した小松茉子・27歳は、親戚が経営する地元企業「吉成製菓」に事務員として転職します。 しかし、そこは、50代男性社員が大声でパワハラ、セクハラ発言を平気で繰り返し、残業はタイムカードを押してからという、旧弊で法律違反がまかり通っている職場だった。 さっそく茉子が問題ありと指摘すると、社員以上に有能という評判のベテランパート社員=亀田から「この会社では嫌われる」と警告される始末。 しかも、前社長(現会長)の健康悪化から老人ホーム勤務を辞めて社長を継いだ吉成伸吾(茉子のはとこ、30代半ば)は、優柔不断で会長のいいなりと、頼りなく思われている。 中小企業とはいえ、様々な状況にある社員たちの間で、茉子はどう行動していくのか。 茉子のポジションが面白い。社員という当事者でありながらその視点は第三者的。また、一社員でありながら、社長への批判者でもある。 親戚だからこど言える、という面もあるでしょうが、逆に親戚だからこそ放っておけない、とも言えるでしょう。 前半、どうしようもなく古い体質の会社と思えていたのですが、次第に今後への明るい期待が見えて来るところが嬉しい。 若い社員、弁が立ち能力のある社員、パートが次々に入社してくれば、古い会社だってきっと変わっていく、そんな希望が持てるストーリー。 若い人たちへ希望を開くような作品、小気味よく、爽快です。 1.春の風/2.香る雨/3.夏の雪/4.秋の夢/5.冬の花/6.空と羽 |
「いつか月夜」 ★★ | |
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主人公の實成(みなり)冬至は、独身サラリーマン。 ふと夜遅く、外を歩いていたところ出会ったのは、会社の同僚である中年女性=塩田さん。 との塩田さんと一緒に歩いていた女子中学生は、塩田さんの娘ではなく、別れた元カレの娘で、不登校中かつ家出中という。 それがきっかけとなり、週に一度くらい、實成は塩田さん、女の子と3人で、連れ立って夜の町を散歩するようになります。 その後、偶然の出会いが重なり、そのウォーキング仲間に實成の元カノである伊吹さん、その伊吹さんが住む女性専用マンションの管理人である松江さんも加わります。 いったい、夜、連れ立ってのウォーキングに何の意味があるだろうと思う処なのですが、そこで女子中学生から披露されるのが「いつも月夜に米の飯」ということわざ。 苦労のない気楽な生活という意味ですが、一方で現実は中々そうはいかない、という意味でもあるのだとか。 上記登場人物たち、それぞれに問題を抱えていることが順次、語られていきます。 そんな彼らにとって、夜の散歩は気持ち良いのかも。 静かですし、余計な人に会わずに済む、仲間がいるのは心強い、居心地が良い、ということなのでしょう。 でもここで留まっていて良いのか、と言えば、決してそんなことはないでしょう。 改めて、新しく歩き出す必要がある、のは当然のこと。 でも、その前にこうした時間を持てるのは幸せなことではないかと思います。たとえ、いつも月夜でないにしても。 寺地さんらしい、地味で、ささやかなドラマ。でもその居心地良さ、気持ち良さは、とても快い。 |
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