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1.つぎはぐ、さんかく 2.さいわい住むとひとのいう |
「つぎはぐ、さんかく」 ★★☆ ポプラ社小説新人賞 | |
2025年02月
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開業して一年、惣菜と珈琲の店「△」を営み、三兄姉弟だけで寄り添うようにして暮らす主人公=ヒロ(24歳)、兄=晴太(1歳上)、弟=蒼(中三)を描いた物語。 中学卒業後の進路について蒼が、この家を出て全寮制の専門学校に行きたい、と言い出したことにヒロはショックを受けます。 しかし、ヒロが3人で暮らすことに固執している風なのは何故なのか。そもそも何故3人だけで暮らしているのか、という疑問が生まれます。 その事情は徐々に明らかになっていきます。 今に至るまでにどんなことがあったのか。幼い子どもにとってそれはどんなに過酷なことだったろうと思うと、胸の詰まる思いがします。 だからこそ寄り添うように3人だけの家族として暮らしてきたヒロの気持ちも理解できるというもの。 それでも、蒼の言葉、突飛な行動により、3人それぞれが抱えて来た思いが明らかになっていきます。 家族というものが、両親がいて子供たちがいるという定型的な形だけではないことが、今はもう明らかになっています。 本作の3兄姉弟もまた一つの家族の姿ですが、それぞれが成長していけば家族の形もまた変わっていくもの。それでも家族として繋がっていられるかどうかは、3人それぞれが問われる問題なのだろうと思います。 でも、忘れていけないのは、3人を助け、温かく見守っている人たちの存在です。3人だけで生きていける訳ではないのです。 とても胸の熱くなる作品。デビュー作でこのストーリィ、質の高さは凄い。お薦めです! |
「さいわい住むと人のいう」 ★★☆ | |
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冒頭、市役所地域福祉課の新人職員である青葉が、自治会長に勧められ、民生委員に伴われて香坂姉妹の家を訪ねるところからストーリーは始まります。 香坂姉妹の家は豪邸。挨拶した香坂桐子(82歳)は毅然として、厳しい印象。それと対照的に妹の百合子(2歳下)はにこやかな女性で、辞去する際青葉に稲荷ずしを持たせてくれる。 川島自治会長曰く、この辺の人は皆、香坂先生にお世話になっているんだ、と。 ストーリーはそこから、20年毎に過去へと遡っていく構成。 冒頭、姉妹は資産家の末裔としか思えなかったのですが、全く異なる人生を辿ってきたとは・・・。 深い悲哀、枷に嵌められた生活、重荷を背負った人生、その果てに姉妹が築き上げたのが今の暮らしなのだと知ると、感動を覚えざる得ません。 そしてもう一つの感動と感銘は、逆境を跳ね除けて二人の幸せを勝ち取っただけの閉ざされた人生ではなく、その過程で多くの人を世話し、助けてきたという、他者への広がりを持った人生だった、ということにあります。 是非、お薦め。 ・「2024年青葉」:青葉と、香坂老姉妹との出会い。 ・「2004年千絵」:DV夫から息子を連れて逃げて来た千絵を助けてくれたのは、香坂桐子という老女だった。 ・「1984年桐子」:中学校教諭。金を貯めて姉妹二人の家を建てることが悲願。 ・「1964年百合子」:桐子は教師に、百合子は結婚へ。二人にとっての岐路を迎えます。 ・「2024年百合子」:姉妹の現在の日々が語られます。 ・「2024年祐太郎」:千絵と祐太郎、香坂姉妹の墓参りへ。 ※題名は勿論、カール・ブッセの詩「山のあなた」でしょう。 2024年青葉/2004年千絵/1984年桐子/1964年百合子/2024年百合子/2024年祐太郎 |