寺地はるな(てらち)作品のページ


1977年佐賀県生、大阪府在住。会社勤めと主婦業の傍ら小説を書き始め、2014年「ビオレタ」にて第4回ポプラ社小説新人賞を受賞し作家デビュー。


1.ビオレタ

2.月のぶどう


3.みちづれはいても、ひとり

4.架空の犬と嘘をつく猫

5.大人は泣かないと思っていた

6.正しい愛と理想の息子

 


              

1.

「ビオレタ Violeta         ポプラ社小説新人賞


ビオレタ

2015年06月
ポプラ社刊
(1500円+税)


2015/06/22


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主人公の田中妙は27歳、もうすぐ結婚予定とあって勤務先も退職したところだというのに、突然婚約者から別れを告げられます。道端で泣きじゃくっていた妙を拾ったのが、北村菫。それから妙は、その菫が経営する風変わりな店「ビオレタ」で働くことになります。
菫手作りの品を売るその店で客が買い求めるのは、自分にはどうしようもないほどのものを収めるための美しい小箱(それを菫は「棺桶」と呼ぶ)。

結婚が取り止めとなって居場所を失くしたと感じる妙が、「ビオレタ」とそれが縁で知り合った
千歳健太郎らとの出会いを通じて、少しずつ変わっていく物語。

ポプラ社小説新人賞受賞作とのことであり、紹介されている書評もかなり良いので期待したのですが、私としては率直に言って物足りず。
自分の居場所を見い出すストーリィというコンセプトは理解できますし、最近の小説作品では何かとテーマになる問題ですが、本書については舞台設定、登場人物共に現実感を共有できず、したがってストーリィへの共感も持てず仕舞いだった、というのが正直なところ。

               

2.

「月のぶどう ★☆


月のふどう

2017年01月
ポプラ社刊

(1500円+税)

2018年10月
ポプラ文庫化


2017/01/31


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家業である“天瀬ワイナリー”を発展させるため精力的に活動してきた母親が突然に死去。
母親を敬慕しその背中を追いかけるように家業に従事してきた娘の
光実(みつみ)26歳は、余りにも早い母親の喪失に呆然とするばかり。
これからどうやって天瀬ワイナリーを存続させていけば良いのかと不安に駆られた光実は、双子の弟=
に協力を求めます。

実は光実と歩、双子と言っても幼い頃から“出来の良いほう”、“出来の悪いほう”と対照的な評価・扱いを受けてきた2人。
その歩は大学も中退、就職した会社もすぐ退職し、現在は叔母が営んでいるカフェでバイトする身とあって、葡萄栽培やワイン造りのことに関しては全く知識のない素人。
姉の頼みを受けて天瀬ワイナリーを手伝い始めた歩に対しては、先輩従業員や醸造長からの辛辣な視線が向けられ、歩にとってはまるで針の筵のよう。

ワイン造りという共通舞台での、姉弟2人の成長を描いた長編ストーリィ。
出来が良い方と言っても光実にも足りない部分は多々あり、また出来が悪い方と言われても歩には歩なりの良さがあります。
そうした2人がお互いに関わり合うことにより、2人にとって新たな成長が開けるという内容。
ストーリィを追う部分が多く、主人公たちの内面についてはもう一つという印象ですが、本作からそれらをどう読み取るかは読み手次第ということかもしれません。

                    

3.

「みちづれはいても、ひとり ★★


みちづれはいても、ひとり

2017年10月
光文社刊

(1500円+税)



2017/11/28



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ボロアパートでの隣人同士という関係のアラフォー女子=弓子と楓が、姿をくらました弓子の別居中の夫=矢嶋宏基を探しに、宏基の故郷である島へ旅する、というストーリィ。

弓子は37歳、27歳の時に宏基と結婚したが、最近になって宏基は前妻が引き取った娘の問題に熱中し、弓子は放ったらかしという風。それが問題と弓子が家を出て、別居1年という状況。
片や隣人の
島田楓は41歳、出会った男と簡単にセックスしてしまう傾向があるが、何故か弓子と意気投合。
そんな時、義母の光恵から、故郷の島で宏基が見かけられたらしい、ついては捜しにいってと頼まれ、楓も弓子と一緒のその島へ向かいます。

弓子と楓の関係と、弓子と宏基の関係を比べてみるのが、本作の面白さ。
さらに島で出会った、宏基を昔からよく知るらしい同年配のシングルマザー=シズという女性の存在を加え、3つの関係をそれぞれ対比させてみるとさらに面白い。

現代の夫婦関係、互いに頼り過ぎ、あるいは甘えるようなことがあってはいけないのでしょうか。
友だち関係、でも結局は一人一人という、弓子と楓のような関係が望ましいのでしょうか。
夫婦、元々は他人ですからね〜。
ストーリィの進展とともに弓子から枷が取れ、むしろ逞しくなっていく様子が結構楽しい。

              

4.

「架空の犬と嘘をつく猫 Imaginary Dog & Lying Cat ★★


架空の犬と嘘をつく猫

2017年12月
新潮社刊

(1400円+税)



2018/01/22



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祖父は性懲りもなく事業を思いついては失敗して家産を減らすばかり。祖母は怪しげな物を売り(と言っても唯一マトモ)、家業の工務店を継いだ父親は問題ごとから逃げてばかり。愛息子である3男を亡くした母親は嘘の世界に閉じ籠りっきり。
そんな家に生まれた姉の
紅(べに)は両親に反抗し、主人公である弟の山吹(やまぶき)は、彼らの嘘を受け入れて育つ。

本作は、皆がバラバラな家庭に育った山吹が(姉の紅も含め)、長い年月を経てようやく幸せな家庭を手に入れるまでの、長い遍歴の物語です。

羽猫(はねこ)家は、みんな嘘つきである、というのが本ストーリィのコンセプト。
ただ、一口に「嘘」と言っても色々なものがあるのでしょう。
人が憎めぬホラもあれば、暗黙の裡にお互いそうと承知している嘘もある、そして自分の為だけの嘘、さらには作り話というものもある、というように。
しかし、親がそんなであったら、子は堪ったものではないでしょう。自分の子供のことを放りだし、親が自分のことしか考えていないということなのですから。

親から放り出されたのも同然の山吹、紅、〇〇〇が模索を続けた末にようやく手に入れた幸せな姿の、何と愛おしいことか。
風変わりではあるものの、本作もまたひとつの、確かな家族の物語、と思います。


1988年5月/1993年9月/1998年8月/2003年12月/2008年1月/2013年2月/2018年5月

                

5.
「大人は泣かないと思っていた ★★☆


大人は泣かないと思っていた

2018年07月
集英社刊

(1600円+税)



2018/08/19



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九州の限界集落といってもいいような町で、母親が出て行った後大酒飲みの父親とずっと2人で暮らす、農協職員の時田翼・32歳が主人公。
庭の柚子の実を盗んだのは隣家の老女に違いないと父親が騒ぎ、仕方なく翼は友人の
鉄也と共に夜、見張りをします。
ところが捕まえたのは、隣家の老女ではなく、若い女の子。
本作は、翼とその女の子=
小柳レモンとの出会いから始まる連作ストーリィ。

各章の主人公は、時田翼といずれも関りのある人物たち。
翼が出会った小柳レモン、友人である“鉄腕”こと
時田鉄也、実母の白山広海、農協の同僚職員である平田貴美恵、鉄也の頑迷な父親である義孝、そして再び翼へと。

どの人物も大人です。でも、外見が大人だからと言って、中身も十分大人になっているとは限らない。
そんな大人たちが、ひとつずつ、大人の階段を上っていく、という印象を受ける内容。
その鍵となるのは、少しずつ他人の気持ちに近づく、寄り添うことを知る、ということからではないでしょうか。

一人一人が気持ちの上で繋がっていく、繋がりを強めていく、そこにある優しさ、労り、励ましが、素晴らしい。
そうした積み重ねが新しい家族の姿に繋がっていく、という可能性を感じて、とても嬉しい。

主役2人の絡み合いもとても嬉しいのですが、各章での脇役に過ぎない筈なのに、レモンの義父である
小柳さんや、鉄也の恋人である玲子松田えま、広海の友人である千代子さんといった登場人物たちも、すこぶる魅力的。

これまで寺地はるなさんについてはちょっと物足りなく感じていたのですが、本作で目を覚めさせられました。大いに反省。
今後、寺地さんから目を離すことはできません!


大人は泣かないと思っていた/小柳さんと小柳さん/翼が無いなら跳ぶまでだ/あの子は花を摘まない/妥当じゃない/おれは外套を脱げない/君のために生まれてきたわけじゃない

                  

6.
「正しい愛と理想の息子 Love sublime and An ideal son ★★


正しい愛と理想の息子

2018年11月
光文社刊

(1600円+税)



2019/01/03



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表題からは全く逆、と言う他ないストーリィ。
主人公は
長谷眞・32歳。女に寄っかかるばかりのロクでもない父親に育てられ、陰気な顔つきから誰にも好かれない。
そんな眞を初めて慕ってくれたのが、違法カジノでのバイトで知り合った
沖遼太郎・30歳
しかし、この沖が何をやってもドジばかり。カジノの経営者から損害を弁償しろと言われた金額が2百万。それを自分も一緒に返済すると答えたばかりに眞、沖とつるんで偽宝石販売の詐欺商売に手を出します。ところが騙したつもりで騙され、折角貯めた返済金を奪われてしまう。
そこで追い詰められた眞、次は老人相手の詐欺を思いつくのですが・・・。

本書題名の「正しい愛と理想の息子」、正面から向かい合おうとすると、こッ恥ずかしくて仕方ない。
また、目の前にぶら下げられようものなら、我が身を振り返り、思わず逃げ出したくなってしまいます。

親も子も人間である以上、完全とはいかない。親だからといって子供に正しい愛を振り向けられるとは限りませんし、子供だって理想の息子や娘でいられる訳がない。それが現実でしょう。

騙すつもりの老人たちと関わるうち、眞の心の中にも微妙な変化が生まれていく。だからといって、簡単に人間として変われる訳でもなし。
結局は老人たちからも励ましを貰えてようやく、といった内容ですが、今までロクな人間関係を築けなかった眞や沖が、老人たちとの間にいつのまにか相手を思いやる人間関係が生まれているところが面白い。
読了後、眞への好感が生まれていることが嬉しい。この後、眞と沖の2人が新たな道へ踏み出してくれると良いのですが。

   


   

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