白岩 玄
(げん)作品のページ


1983年京都府京都市生。京都府立朱雀高等学校卒業後約1年間英国に留学。専門学校在学中の2004年「野プタ。をプルデュース」にて第41回文藝賞を受賞。


1.
野ブタ。をプロデュース

2.空に唄う

3.ヒーロー!

  


 

1.

●「野ブタ。をプロデュース」● ★☆      文藝賞


野ブタ。をプロデュース

2004年11月
河出書房新社

(1000円+税)

2008年10月
河出文庫化



2006/04/18



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ブオトコで陰気、女生徒が思わず「気持ち悪い」と声を洩らしてしまうような転校生を、同級生がプロデュースしてクラスの人気者に仕立て上げようというストーリィ。まず、その着想の奇抜さに驚いてしまう。
漸く読めた話題本ですが、単に同級生をプロデュースするというだけの内容だけでなかったことが意外でした。

主人公は桐谷修二。クラスの男たちからも頼りにされ、男子生徒から人気の高い女生徒、奈美マリ子の好意も勝ち取っている。しかし、本人曰く、それはすべて自分をうまく装っているから、ということになる。
そこに転校してきたのが小谷信太。修二はふと気まぐれを起こして、野ブタと名づけた小谷のプロデュース役を買って出ます。修二の計画通り小谷はクラスの人気者となりますが、その一方で修二の化けの皮が同級生に剥がされてしまう。さて修二は?、というのが本書ストーリィ。

最初から修二という主人公には違和感を抱きました。むしろ、小谷信太の方が外見はともかくも、内面においてはずっと真情を備えている。
結局、プロデュースばかりを誇張するのは彼の弱さの証だった。最後は心を入れ直して彼女に救われるのかと思うのですが、そこがそうならないのが、本作品の本作品たるところ。
主人公に同情など感じようもありませんけれど、懲りないのであれば好きにしたら、と感じてしまう。
文藝賞受賞作ですけれど評価がもう一歩だったのは、個人的に修二という主人公が好きになれない故。
もっとも、作者の白岩さんも、好きになって欲しいと言っている訳ではないと思いますが。

  

2.

●「空に唄う」● ★★


空に唄う

2009年02月
河出書房新社

(1300円+税)

2012年06月
河出文庫化



2009/03/06



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寺の息子で新米僧侶の海星、23歳。
住職である祖父にしたがって通夜に臨んだ彼がその場に見出だしたのは、何と死んだ筈の女子大生の姿。
そこから始まる、気のいい若者=海星(かいせい)と、死んだ筈の同い年の女性=碕沢碧(さきさわあおい)との、2人の物語。

死んだ筈の女性の姿が見える、それも何故か主人公にだけ、というのは割りとあるストーリィ・パターンです。
すぐ思い出せるところでも、乙一しあわせは子猫のかたち」、マルク・レヴィ「夢でなければがあります。
ただし、それらのストーリィには、幽霊の姿が見える必然性とそれに応じたドラマがあったのですが、本ストーリィにはそれがありません。
何故碧の姿が海星に見えるのか、それがどういうストーリィ展開に繋がるのか。はっきりとしたものがない、というのが珍しい。
でも、その何も理由がない、という処がかえって気持ち良いのです。

最初はびっくりして碧から逃げ回った海星ですが、落着いてからは何とか碧のためにと心を尽くす。
何事にも受身な性格の海星がしたのは、ただ碧に寄り添うという単純なこと。
とかく個性発揮とか、自己主張することばかりが現代的と思われる昨今、本物語における海星の姿勢がとても新鮮、かつ清々しく感じられます。
突然に始まり(これは仕方ない)、突然に終わる2人の物語ですが、後には気持ちの良さばかりが残ります。
清々しいストーリィがお好きな方には、お薦めです。

     

3.
「ヒーロー! ★★


ヒーロー!

2016年03月
河出書房新社
(1400円+税)

2019年06月
河出文庫



2016/05/16



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学校からイジメを一掃するためには何をしたら有効か。
そんな良い方法があったら是非聞きたいと思う処ですが、子供の頃から特撮ヒーロー好きだった
新島英雄が考え出した方法とは思いも寄らぬ奇想天外なもの。

それは、イジメっ子の関心を引き付けるようなパフォーマンスを演じて気を逸らせば良い、というもの。
高校演劇部で演出担当の
佐古鈴は、英雄から協力してもらいたいと頼まれ、昼休みに校庭の真ん中で英雄が行うショーに引っ張り込まれます。その鈴が最初に提案したのは、英雄が大仏のマスクを被ってバレエを踊ること。
しかし、そのことが同じ演劇部で脚本担当の
小峰玲花と鈴の間に亀裂を招くことになろうとは・・・。
一方、自分は正しい、間違っていないという思い込みが人間関係を悪化させてしまうことになりかねないものであることを鈴は知ることとなります。

自分本位の正義感は、時として相手を追い込み、傷つけ、居場所を奪うことに繋がりかねないという一面の真実を、英雄の物言わぬパフォーマンスを通じて訴えようとする趣向が奇抜かつ秀逸です。
奇想天外にして痛快、そして爽快な高校生ストーリィ。是非お薦め!

なお、
「どうぶつ物語〜その後の演劇ショー〜」は上記中編小説の付録のようなものですが、結構楽しめます。

ヒーロー!/どうぶつ物語〜その後の演劇ショー〜

    


  

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