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12.桜庭一樹短編集(文庫改題:このたびはとんだことで) 13.ほんとうの花を見せにきた 14.少女を埋める 15.名探偵の有害性 |
【作家歴】、赤朽葉家の伝説、青年のための読書クラブ、私の男、荒野、書店はタイムマシーン、ファミリーポートレイト、製鉄天使、伏、ばらばら死体の夜、傷痕 |
11. | |
●「無花果とムーン」● ★★ |
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2016年01月
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無花果町に暮す高校3年、18歳の前嶋月夜は貰われっ子で、父親・長兄・次兄とは血の繋がっていない家族。月夜の出自は定かではないが、特徴的なのは青白い肌に紫色の目、そして狼のような犬歯。 禁断の兄妹愛を描いた不穏なストーリィなのか、兄を慕う妹の純粋な愛情から生まれたファンタジーストーリィなのか、それとも非現実的な事柄を取り込んだ仮想ストーリィなのか。月夜をどう見るかによってどうとも取れそうです。 本書がどういったストーリィであるかどうかは別として、本作品が面白いことに疑いなし。とくに月夜を中心として、死んだ次兄の奈落、そして月夜の周辺にいる人々との関係において。 |
12. | |
「桜庭一樹短編集」 ★★ |
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2016年03月
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各篇の趣向が多彩で、ファンであればなおのこと、ファンでなくても十分楽しめる短編集。 ファンにとって楽しいのは、長編作品の先触れと言える短篇が幾つかあること。「青年のための推理クラブ」は「青年のための読書クラブ」の幻のパイロット版であるとのことですし、「五月雨」は「伏」の手前にある作品となっています。 ・「このたびはとんだことで」は、競い合う2人に身動きできない1人という演劇風の展開が楽しい。 このたびはとんだことで/青年のための推理クラブ/モコ&猫/五月雨/冬の牡丹/赤い犬花/自作解題 |
13. | |
「ほんとうの花を見せにきた」 ★★☆ |
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2017年11月
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人間と吸血鬼の共棲を描き、そこから人間とは、を描く3部構成からなる長編小説。 |
「少女を埋める」 ★★ | |
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表題作の「少女を埋める」は、「文學界」掲載(2021年 9月号)当時から話題になった自伝的小説とのこと。 実際に読んでみると、小説よりエッセイという印象を抱きます。しかし、そこは作者が自伝的小説と言っているのですから、そう受け留めればいいだけのことと思います。 ずっと体調不良が続いていた父親、今度がもう最後かもしれないという知らせを受け取り、主人公は7年ぶりに郷里の鳥取に戻ります。 病院でもう意識も定かならぬ父親、過去に確執もあった母親、家族関係を再構築する日々の様子が描かれた、と感じます。 一方、何故7年も実家を訪れることがなかったのか、(母親が実家に娘が来ることを拒絶するというのも?なのですが)、そこには一個人を一族の中に埋め込むのが当たり前のこととしているこの土地の人々の考え方があったようです。 即ち、「出ていけ、もしくは従え」という姿勢。 そうした考えを押し付けられれば、この土地では生きられないと東京へ出て行って戻らない、主人公の在り様も当然のことと思います。 「キメラ」は「文學界」の2021年11月号の掲載された篇で、「少女を埋める」を取り上げた文芸時評をめぐるゴタゴタの経緯を描いたもの。 朝日新聞に掲載された上記文芸時評の中で、同作には書かれていないことを執筆者が<あらすじ>として記載していたことに、母親を傷つけかねないと抗議した処、論議を呼ぶことになったという経緯が描かれます。 私においても決して無関係なことではありませんが、事実としての<あらすじ>と、読んだ人個人の<解釈>は、やはり区別すべきもので、不可分なものとは思われません。 「夏の終わり」は、「キメラ」の後を描く書き下ろし。 結果的に、「少女を埋める」の最後に描かれた郷里における人々の閉鎖的で旧弊な考え方と、「キメラ」での論争への興味が印象に残った一冊でした。 少女を埋める/キメラ/夏の終わり |
「名探偵の有害性」 ★☆ | |
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かつて名探偵たちが目覚ましい活躍を見せた時代があった。中でも持て囃されたのが“四天王”と呼ばれた探偵たち。 それから30年後、四天王の一人だった五狐焚風(ごこたい)が突然にSNSで弾劾されることになります。 そんな非難を受けるようなことを名探偵はしていたのか。 かつて大学の同期生だった五狐焚風とコンビを組み、その活躍を本に記した“助手”の鳴宮夕暮は今、小さな喫茶店を両親から継いで年下の夫と営んでいる。 その店にいきなり現れた五狐焚風に引きずられ、鳴宮もまた過去の事件を検証するため、一緒に旅立つことに。 今までの推理ものではなかったような本作の設定に、興味を惹かれた次第。 過去の事件は7つ。二人は当時の現地に向かい、当時の関係者と再会して当時の事件を検証しようとします。 必然的に、回想として当時の事件の経緯が語られ、その後に関係者たちの今日までが語られるという趣向。 名探偵が事件の真相を明らかにしたからといって、関係者たちがその後の人生を幸せに送ることが出来た、という訳では決してなかった、ということに五狐焚風はショックを受けます。 過去の事件+その結果としての現在、というストーリー。 名探偵といっても神様ではないのだから、その後の結果まで責任を追及されるのはどんなものか。 警察だってその後のことにまで責任を負わないのですから。 ただ、それは五狐焚風と鳴宮夕暮の、あれから後の生き方にも通じる問題。そこが本作のミソでしょう。 久しぶりの桜庭一樹作品ですが、ひねった処が桜庭さんらしさかなと感じます。 1.「−−平成時代における名探偵の存在意義をだよ」 2.「だって、名探偵は特別な人だから」 3.「もしかしたら、名探偵に向いているかもね」 4.「彼は残った。俺は名探偵だから、と言って」 5.#名探偵の助手の有害性 6.「おばさんに必要なのはブルースだわ!」 7.あのころ二人ぼっちだった |