桜庭一樹
(さくらばかずき)作品のページ No.2



11.無花果とムーン

12.桜庭一樹短編集(文庫改題:このたびはとんだことで)

13.ほんとうの花を見せにきた

14.少女を埋める 

15.名探偵の有害性 


【作家歴】、赤朽葉家の伝説、青年のための読書クラブ、私の男、荒野、書店はタイムマシーン、ファミリーポートレイト、製鉄天使、伏、ばらばら死体の夜、傷痕

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11.

●「無花果とムーン」● ★★


無花果とムーン画像

2012年10月
角川書店刊

(1600円+税)

2016年01月
角川文庫化



2012/11/09



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無花果町に暮す高校3年、18歳の前嶋月夜は貰われっ子で、父親・長兄・次兄とは血の繋がっていない家族。月夜の出自は定かではないが、特徴的なのは青白い肌に紫色の目、そして狼のような犬歯。
その月夜が大好きだった1歳上の次兄=
奈落が突然死してあっという間の葬式。死因はアーモンドアレルギーの所為らしい。悲しむ月夜に、父親も8歳上の長兄も、奈落のこと忘れようと。
でも月夜は感じています、奈落が今もこの世に留まっていることを。そして姿の見えない奈落も、月夜が望んでくれたから戻って来れると言う。
本書は、月夜が幽霊とともに過ごすひと夏の物語。
そして<無花果UFOフェスティバル>に集まってきたトレーラーハウスの人々の中に月夜は、奈落そっくりの青年=
を見い出します。

禁断の兄妹愛を描いた不穏なストーリィなのか、兄を慕う妹の純粋な愛情から生まれたファンタジーストーリィなのか、それとも非現実的な事柄を取り込んだ仮想ストーリィなのか。月夜をどう見るかによってどうとも取れそうです。
なお、前嶋家を囲む人々が月夜をどう見ているのか、もまた本ストーリィの重要要素の一つとなっています。

本書がどういったストーリィであるかどうかは別として、本作品が面白いことに疑いなし。とくに月夜を中心として、死んだ次兄の奈落、そして月夜の周辺にいる人々との関係において。
その辺りは流石に桜庭さんらしいところ。

                     

12.

「桜庭一樹短編集」 ★★
 (文庫改題:このたびはとんだことで)


桜庭一樹短編集画像

2013年06月
文芸春秋刊

(1300円+税)

2016年03月
文春文庫化



2013/07/07



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各篇の趣向が多彩で、ファンであればなおのこと、ファンでなくても十分楽しめる短編集。
収録されている6篇は、2006年から2012年の間に執筆されたものであり、年代順に並べられているとのこと。そして巻末に桜庭さん自身による解題付です。

ファンにとって楽しいのは、長編作品の先触れと言える短篇が幾つかあること。「青年のための推理クラブ」は青年のための読書クラブの幻のパイロット版であるとのことですし、「五月雨」はの手前にある作品となっています。
それらを未読の方が読めば、きっと桜庭・長編作品世界への誘い水となることでしょう。
まぁそんなことを考えず、単純に独立した短編集として読んでも十分楽しい一冊です。

「このたびはとんだことで」は、競い合う2人に身動きできない1人という演劇風の展開が楽しい。
「青年のための推理クラブ」は、あるカトリック系高校での推理クラブを舞台にしたヒトコマ。読み手への仕掛けに桜庭さんらしさが感じられます。
「モコ&猫」、恋愛とは人それぞれである、という一例かも。
「五月雨」の最後は思いもよらぬ緊迫した場面。一瞬、すくみ上りました。
「冬の牡丹」は、アパートに一人住まいの30代独身OLと、その隣室に住む初老男性との間に通う、同胞感が楽しい。
「赤い犬花」は中編作品、小学生を主人公にした少年冒険物語です。キング「スタンド・バイ・ミーに比較してみるとさらに楽しい。

このたびはとんだことで/青年のための推理クラブ/モコ&猫/五月雨/冬の牡丹/赤い犬花/自作解題

  

13.

「ほんとうの花を見せにきた」 ★★☆


ほんとうの花を見せにきた

2014年09月
文芸春秋刊

(1400円+税)

2017年11月
文春文庫化



2014/12/12



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人間と吸血鬼の共棲を描き、そこから人間とは、を描く3部構成からなる長編小説。

本書の半分を占める
「小さな焦げた顔」は、母と姉をマフィアに殺された主人公=が、心優しき吸血鬼のバンブーに助けられ、2人のバンブー(ムスタァ洋治)に見守られて成長をしていくというストーリィ。
しかし、成長した梗の行動がもたらした結果は、とても切ない。それでも心優しき2人のバンブーの梗に対する深い愛は些かも変わるところがありません。

本書に登場するバンブーとは、中国の山間地方に棲んでいた竹のお化けで、植物性の吸血鬼。その一部が日本に住みついたという次第。
一般的に吸血鬼というとドラキュラを代表とする強力な力を持った化け物というイメージですが、バンブーという吸血鬼は植物性ということもあって人間よりは強いとはいえ優男、といったイメージです。バンブーの弱点は自分の姿を鏡に映せないこと。そのためコンビとなる相手がいないと自分を身ぎれいにしておくこともままならないと、結構切ない存在です。
それに対し、人間の特質とは成長すること、そして死ぬこと。だからこそ貴重、素晴らしいというのが、心優しきバンブー2人の言葉。
桜庭さんは明言していませんが、そんな人間だからこそ、どう生きるかを大切に考えた方が良いのではないか、とさりげなく諭されている気がします。
冷たい体のバンブーでさえ、あんなにも温かい心を持っているのですから、温かい体を持つ人間であればなおのこと・・・と。

表題作
「ほんとうの花を見せにきた」は、「焦げた顔」事後の物語。題名の意味がまるで解らなかったのですが、本篇を読んであぁそう言う意味だったのか、と初めて判り、気持ちの安らぐ思いでした。

最後の
「あなたが未来の国に行く」は、逆に「焦げた顔」から遡り、本書バンブーたちの原点を描いた物語。

吸血鬼が登場するというのにファンタジー的で、胸の内が優しい気持ちに満たされるストーリィ。桜庭作品中の傑作のひとつと言って過言ではありません。 是非、お薦め。

ちいさな焦げた顔/ほんとうの花を見せにきた/あなたが未来の国に行く

              

14.
「少女を埋める ★★


少女を埋める

2022年01月
文芸春秋

(1500円+税)



2022/02/16



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表題作の「少女を埋める」は、「文學界」掲載(2021年 9月号)当時から話題になった自伝的小説とのこと。
実際に読んでみると、小説よりエッセイという印象を抱きます。しかし、そこは作者が自伝的小説と言っているのですから、そう受け留めればいいだけのことと思います。

ずっと体調不良が続いていた父親、今度がもう最後かもしれないという知らせを受け取り、主人公は7年ぶりに郷里の鳥取に戻ります。
病院でもう意識も定かならぬ父親、過去に確執もあった母親、家族関係を再構築する日々の様子が描かれた、と感じます。
一方、何故7年も実家を訪れることがなかったのか、(母親が実家に娘が来ることを拒絶するというのも?なのですが)、そこには一個人を一族の中に埋め込むのが当たり前のこととしているこの土地の人々の考え方があったようです。
即ち、
「出ていけ、もしくは従え」という姿勢。
そうした考えを押し付けられれば、この土地では生きられないと東京へ出て行って戻らない、主人公の在り様も当然のことと思います。


「キメラ」
は「文學界」の2021年11月号の掲載された篇で、「少女を埋める」を取り上げた文芸時評をめぐるゴタゴタの経緯を描いたもの。
朝日新聞に掲載された上記文芸時評の中で、同作には書かれていないことを執筆者が<あらすじ>として記載していたことに、母親を傷つけかねないと抗議した処、論議を呼ぶことになったという経緯が描かれます。
私においても決して無関係なことではありませんが、事実としての<あらすじ>と、読んだ人個人の<解釈>は、やはり区別すべきもので、不可分なものとは思われません。

「夏の終わり」は、「キメラ」の後を描く書き下ろし。

結果的に、「少女を埋める」の最後に描かれた郷里における人々の閉鎖的で旧弊な考え方と、「キメラ」での論争への興味が印象に残った一冊でした。


少女を埋める/キメラ/夏の終わり

              

15.
「名探偵の有害性 ★☆


名探偵の有害性

2024年08月
東京創元社

(1800円+税)



2024/10/01



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かつて名探偵たちが目覚ましい活躍を見せた時代があった。中でも持て囃されたのが“四天王”と呼ばれた探偵たち。
それから30年後、四天王の一人だった
五狐焚風(ごこたい)が突然にSNSで弾劾されることになります。
そんな非難を受けるようなことを名探偵はしていたのか。

かつて大学の同期生だった五狐焚風とコンビを組み、その活躍を本に記した“助手”の
鳴宮夕暮は今、小さな喫茶店を両親から継いで年下の夫と営んでいる。
その店にいきなり現れた五狐焚風に引きずられ、鳴宮もまた過去の事件を検証するため、一緒に旅立つことに。

今までの推理ものではなかったような本作の設定に、興味を惹かれた次第。
過去の事件は7つ。二人は当時の現地に向かい、当時の関係者と再会して当時の事件を検証しようとします。
必然的に、回想として当時の事件の経緯が語られ、その後に関係者たちの今日までが語られるという趣向。
名探偵が事件の真相を明らかにしたからといって、関係者たちがその後の人生を幸せに送ることが出来た、という訳では決してなかった、ということに五狐焚風はショックを受けます。

過去の事件+その結果としての現在、というストーリー。
名探偵といっても神様ではないのだから、その後の結果まで責任を追及されるのはどんなものか。
警察だってその後のことにまで責任を負わないのですから。

ただ、それは五狐焚風と鳴宮夕暮の、あれから後の生き方にも通じる問題。そこが本作のミソでしょう。
久しぶりの桜庭一樹作品ですが、ひねった処が桜庭さんらしさかなと感じます。


1.「−−平成時代における名探偵の存在意義をだよ」
2.「だって、名探偵は特別な人だから」
3.「もしかしたら、名探偵に向いているかもね」
4.「彼は残った。俺は名探偵だから、と言って」
5.#名探偵の助手の有害性
6.「おばさんに必要なのはブルースだわ!」
7.あのころ二人ぼっちだった

     

桜庭一樹作品のページ No.1

       


   

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