|
|
1.赤朽葉家の伝説 3.私の男 4.荒野 7.製鉄天使 8.伏 9.ばらばら死体の夜 10.傷痕 |
無花果とムーン、桜庭一樹短編集、ほんとうの花を見せにきた、少女を埋める、名探偵の有害性 |
●「赤朽葉家(あかくちばけ)の伝説」● ★★ 日本推理作家協会賞 |
|
2010年09月
|
鳥取県の紅緑村。製鉄業を営み村の生活を支える名家であり、村人たちの上に天上人のように君臨する、赤朽葉家の3代にわたる女たちを描いた長篇小説。 「○代記」というような作品で思い浮かぶのは有吉佐和子「助左衛門四代記」ぐらいですが、本書はそうした作品とは趣きを異にする、不思議な味わいをもつ作品なのです。 本作品の面白さは、何も赤朽葉家の対照的な3代の女性を描いた圧倒されんばかりのストーリイだけにあるのではありません。 また、万葉、毛毬を初め、職工・穂積豊寿、造船所の跡継ぎ娘・黒菱みどり、夫の愛人である真砂と娘の百夜、毛毬の親友・穂積蝶子、編集者の蘇峰有、毛毬の影武者となったアイラ等々、どの登場人物も一度知ったら忘れられない男女ばかり。 第一部
最後の神話の時代 (1953年〜1975年 赤朽葉万葉) |
●「青年のための読書クラブ」● ★☆ |
|
2011年07月
|
本書の題名から、本書がどんな内容のストーリィかを予想できる人は、恐らくいないでしょう。 舞台は、修道女マリアンナにより1919年東京の山の手に設立された聖マリアナ学園。幼稚舎から高等部まで同じ敷地にあり、さらに大学も別にあるといった、まさに良家の子女のための園。 5篇のうち4篇は、有名な文学作品がストーリィの重要な鍵となります。「シラノ・ド・ベルジュラック」「マクベス」「緋文字」「紅はこべ」。 烏丸紅子恋愛事件/聖女マリアナ消失事件/奇妙な旅人/一番星/ハビトウゥス&プラティーク |
●「私の男」● ★★☆ 直木賞 |
|
2010年04月
|
凄い小説だ!、と思います。 時の流れを順々と経て現在に至るというのが普通のパターンですが、本作品は普通と全く逆を行っています。 いやだ、いやだと思いつつ引きずり込まれ、得体の知れない気分を感じつつも虜にされてしまうという妖しい魅力がいっぱいに広がり、読み手はただただ圧倒されるばかりです。 1.2008年6月-花とふるいカメラ/2.2005年11月-美郎とふるい死体/3.2000年7月-淳悟とあたらしい死体/4.2000年1月-花とあたらしいカメラ/5.1996年3月-小町と凪/6.1993年7月-花と嵐 |
●「荒 野」● ★★☆ |
|
2011年1-2月 2017年05月
|
「荒野」という題名から、またもや波乱に満ちたストーリィかと思ってしまうのですが、さにあらず。 本書は中学入学〜高校1年という、“大人になる手前”にある少女期を三部構成で描いた物語です。 「荒野」とは、主人公となる少女の名前。即ち山野内荒野。 本作品は、今まで読んだ桜庭作品の中では一番読み易い。 荒野は、母親が早く死んでからずっと、女性に人気高い恋愛小説家の父=山野内正慶と、荒野を抱え込むようにして世話してきた住み込みの家政婦との3人暮し。 本作品には、新しい世界がどんどん目の前に開けていくというこの時期のときめき感が、全頁を通して感じられます。だからこそ読み手は、理屈ぬきに本書に惹き付けられます。 |
●「書店はタイムマシーン−桜庭一樹読書日記−」● ★★ |
|
2010年11月
|
東京創元社のHP「Webミステリーズ!」連載、「桜庭一樹読書日記」に続く「続・桜庭一樹読書日記」の単行本化です。 ちょうど「赤朽葉家の伝説」が刊行されて3ヶ月後からの書き出しとあって、日本推理作家協会賞の長篇部門と短篇部門の両方に選ばれてどちらかを選択するよう言われた結果、「赤朽葉」が受賞作となったというエピソードから、直木賞を逸した顛末、「私の男」によって直木賞を受賞しての騒ぎと語られ、ファンとしては楽しさ満喫できる日記となっています。 そんな桜庭さん、“稀代の読書魔”と呼ばれているそうな。 あれこれ読んでは、担当の編集者さんらと語りに語る。 |
●「ファミリーポートレイト」● ★★☆ |
|
2011年11月
|
「私の男」が父と娘を描いた家族物語であったのに対し、本作品は母と娘を描いた家族物語。 本書の主人公であるコマコもまた、特異な状況下に育った少女。 第一部「旅」では、何かから逃亡を続ける母親=マコに連れられるまま、学校にも行かず、各地を転々としがなら育つコマコの5歳から始まる少女期が描かれます。 第二部「セルフポートレイト」は、母親に置き去りにされた喪失感そのままに、生きる指標を失って惰性のように生きる駒子の後半生が描かれます。 読者の気持ちがどうであれ、ぐいぐいと引っ張っていってしまう力強さ、目次毎にストーリイが切り替わっていくリズムの良さ、そして読みごたえたっぷりの量感。 |
●「製鉄天使」● ★★ |
|
2012年11月
|
「赤朽葉家の伝説」から生まれた物語。 赤朽葉の長女=毛毬は、中高生時代に“製鉄天使”と名乗るレディースを率いて中国地方を完全征服した女傑。 前半、ただ走ることが楽しいという小豆に周りに次第に仲間が集まりレディースを結成。鉄を支配し自由に操れるという特殊な能力を駆使して邪魔な敵を撃破していく。 マンガ的英雄物語、と言ってしまえばそれまでですが、非現実的だなどというありふれた批判は棚上げし、頭を空っぽにして読む限り、充分な読み応えあるストーリィ。読み手の目を少しもそらさせません。そこは桜庭さんならではのところ。 |
●「伏(ふせ)−贋作・里見八犬伝−」● ★★ |
|
2012年09月
|
米村圭伍さんによる南総里見八犬伝のパロディ「南総里見白珠伝」を読んだのが2年前。 しかしまぁ、何と原作とかけ離れたストーリィになっていることか。驚き呆れるばかりです。 浜路・道節や志乃たちの逃走・追走劇が繰り広げられる中、馬琴の息子である滝沢冥土が浜路に「贋作・里見八犬伝」を読み聞かせたり、志乃が自分たち犬人間の物語(「伏の森」)を浜路に語り明かすという部分もあります。その辺り、作中作としての面白さがいっぱい。 道雪・浜路の兄妹と伏たちの間に憎悪は感じられず、本作品、物語として面白かった、という印象です。 |
●「ばらばら死体の夜」● ★☆ |
|
2014年03月
|
久々に読んだ桜庭一樹作品。 神保町にある泪亭の2階、鍵もかからないような安っぽい部屋に住む、謎めいた美女が白井砂漠。吉野も院生の頃その部屋に住んでいた、というのが2人を結びつけるきっかけ。 現代社会的な悲劇で、狂気のような展開と言えるストーリィ。 |
●「傷 痕」● ★★ |
|
|
いつもどおり奇異なる設定からストーリィは始まります。 楽園の奥深くに父親と2人、隠れ住むように暮していた傷痕は、一人残された父の死後、どう生きていくのか? 過去、現在が描かれ、傷痕の未来は本書の頁が尽きる頃から始まります。描かれない傷痕のそれからのストーリィは、読者の胸の内で続いていく。そんなキザなセリフが、本作品には似合いそうです。 プロローグ/終末時計/孤島/胡蝶/風の歌/魔法/世界地図/エピローグ |