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12.何が困るかって 13.アンと青春 14.女子的生活 15.おやつが好き 16.アンと愛情 17.楽園ジューシー 18.ショートケーキ。 19.アンと幸福 20.うまいダッツ |
切れない糸、シンデレラ・ティース、ワーキング・ホリデー、ホテルジューシー、夜の光、短劇、和菓子のアン、ウィンター・ホリデー、大きな音が聞こえるか、ホリデー・イン |
11. | |
「肉小説集」 ★☆ |
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2017年09月
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肉屋さんに入った時目に留まったのが、壁に貼られた部位図。これが小説の目次だったら面白いという発想から生まれた短篇集だそうです。 なお、肉が牛肉ではなく豚肉なのは、坂木さんが関東者だから、とのこと。 とにかくどの篇も豚肉に関わっていますから、ユニークです。 私のように刺身・海老・蟹・牡蠣・鶏肉等々がダメという変わり者もいますから、豚肉が嫌いという方もいない訳ではないと思いますが、大抵の人は好きですよね? 各篇で当然ながら部位は異なり、豚足、トンカツ(ロース)、バラ肉、肩肉、ヒレ肉、ハムという順番。 どの篇が好きかという感想も、どの部位が好きかということにどうも影響されているような気がします。(笑) 冒頭の「武闘派の爪先」、こんな結末になろうとは思いもしませんでした。この脱線具合は6篇中でも図抜けています。 展開が面白くて主人公の嗜好に同情したくなったのが「アメリカ人の王様」。王様と王子、どっちもどっちという点が楽しい。 「肩の荷(+9)」は、同じ中年サラリーマンとして共感を抱きますが、ほのぼのとした温かさがあって良いですね。 「魚のヒレ」は、冗談毎の様な<青春の一ページ>篇。 「ほんの一部」は小学生が主人公ですが、ちょっぴり艶めかしいところが、肉の美味しさを引き出す胡椒のようで、言葉にし難い楽しさあり。 武闘派の爪先/アメリカ人の王様/君の好きなバラ/肩の荷(+9)/魚のヒレ/ほんの一部/あとがき |
12. | |
「何が困るかって」 ★☆ |
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2017年12月
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「短劇」に続く、坂木さんとしては2冊目のショートストーリィ集、収録18篇。 かつて「ショートショート」と言えば星新一さんの代名詞のようなものでしたが、星さんが亡くなった後はこのジャンル、寂しいものがありました。 ショートストーリィの面白さは、遊び心に富んだ多種多様な作品群を手軽に味わえるところにあると思いますが、坂木さんが新たな書き手として登場してくれたのは嬉しい限りです。 本書に収録された作品にも、ひねりの効いたジョーク的なものから、温かさのあるファンタジー的なもの、奇想天外なものもありといったところで、喩えてみれば小粒チョコレートの詰め合わせを食するようなものでしょう。 ただし、好みに合うものもあれば合わないものもある、というのは仕方ないことで、好みにヒットした篇が十分それをカバーしてくれるのが、ショートストーリィ集の良さと思います。 18篇の中で特に私が気に入ったのは、「怖い話」「勝負」「入眠」「仏さまの作り方」「神様の作り方」の5篇。 ちょっとした折の時間潰し、あるいは気分転換にお薦めです。 いじわるゲーム/怖い話/キグルミ星人/勝負/カフェの風景/入眠/ぶつり/ライブ感/ふうん/都市伝説/洗面台/ちょん/もうすぐ五時/鍵のかからない部屋/何が困るかって/リーフ/仏さまの作り方/神様の作り方 |
13. | |
「アンと青春」 ★★ |
2018年10月
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「赤毛のアン」に引っ掛けて「和菓子のアン」と題した、デパ地下にある和菓子屋「みつ屋」のバイト店員=梅本杏子を主人公にしたシリーズの続編。 美人でやり手の椿店長、乙女チックなイケメン男性の立花、元ヤンの人妻大学生である桜井から“杏ちゃん”と呼ばれて親しまれている主人公、高卒で何の資格も取り得もないと謙遜しますが、何でも美味しそうに食べ、幸せそう、と周囲の皆々から好かれるキャラクター。 本シリーズの魅力は、そんな杏のキャラクターと、杏を囲む「みつ屋」の個性的な面々とのチームワークの良さにあると言って間違いありません。 物事に対していつも真摯かつ謙虚に向かい合い、学ぶ姿勢を崩すことなく、美味しそうに食べる様子は周囲の皆にまで幸せを感じさせてくれるというのですから、楽しく読めるシリーズものにとっては格好の主人公像でしょう。 本書でも、悩み、究め、成長しようとする様子はまさに“青春”という題名に相応しい。 そんな中に日常ミステリの要素が取り入れられています。 今回も「アンの青春」にもじって「アンと青春」と題名が付けられていますが、この分なら“アン”シリーズ同様、今後の続編も大いに期待できそうです。楽しみ。 空の春告鳥/女子の節句/男子のセック/甘いお荷物/秋の道行き |
14. | |
「女子的生活 Life As a Girl」 ★★ |
2019年04月
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「女子的生活」という本書題名、“的”なのである。 その一文字に何か含みがありそうだなぁーと思っていたのですが、そうか、そういう仕掛けだったのか。 主人公のみきはブラック気味のアパレルメーカー勤め。毎朝メイクも着る服もバッチリ決め、鏡の前で一回転してから出かけるのが常。まるで戦闘服をまとって闘いに出て行く気分満載なんですよねー。 住まいは都会の2LDK。それが可能であったのもルームメイトがいたから。しかし、そのルームメイト=ともちゃんが彼氏と同棲するため同居を解消。 困っていた処へちょうど転がり込んできたのが、故郷で高校の同級生だった後藤。彼女がヤミ金に手を出し行方をくらましたことから、業者に身ぐるみ剝がれて住むところがないと泣きついてきた次第。 と言っても独身女子のマンションにいくら同級生とはいえ、男を居候させていいものか・・・。でも居候させる羽目になってしまうのですから面白い。似たような話に有川浩「植物図鑑」がありますが、全く異なる展開です。 何より面白く、かつ痛快なのは、みきの女子力が半端でないこと。 合コンで競い合うことになった女子に一歩も引かず、自分を見下す男には徹底的に反撃、テンプレ男は余裕をもって見下す等々、次々と相手をなぎ倒していくという風なのです。 “女子力”とは本質的に、決して負けないという覚悟と何があっても自分を押し通すという突進力のことだったのか、と圧倒されるばかりです。 “女子力”とは何ぞや。それをリアルに実感できる、ユニークで痛快な傑作。読み終えた後はきっと、みきや後藤を心から応援したくなることでしょう。 是非、お薦め! |
15. | |
「おやつが好き」 ★☆ |
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2022年01月
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「銀座百点」に連載されたエッセイの他、和菓子&洋菓子に関するエッセイ+お菓子を題材にした掌篇2作。 「和菓子のアン」「アンと青春」以来、食べ物エッセイ依頼が増えたのだそうです。 私もケーキ、フルーツデザートの類、大好きです。 独身時代には一人で食べ歩き等もしましたが、美味しい店、美味しいメニューって、わざわざ食べに行くつもりで出掛けないと、中々食べられないものですよね。 本書エッセイでの坂木さん、わざわざ食べに行っているという様子です。 私も東京生まれ・東京育ちですから、当然ながら知っている店も多くありますが、だからといって食べに行ったことはないというケースも多く、残念というべきなのかどうか。 本書に取り上げられた中では、メルヘンのフルーツサンド、東京駅で新幹線に乗るとき、最近何度か買っていますねぇ。 坂木さんが触発されたという池波正太郎の食べ歩きエッセイ「散歩のとき何か食べたくなって」「食卓の情景」、私も一時期愛読しました。 なお、私のお気に入りを上げるとしたら、店で食べるデザートではレストラン・ピラミッド直系の“ガトー・マルジョレーヌ”、市販の洋菓子なら(ありきたりかもしれませんが)“バウムクーヘン”かな。 和菓子で特にこれ、というのはありませんが、強いて言えばぜんざい、水羊羹というところでしょうか。 ※「おやつが好き」は銀座の名店紹介。参考になりますよ。 本と銀座とわたし/おやつが好き/勝手に和菓子普及委員会/ライク・ア・ローリングストーン/食エッセイと池波正太郎とわたし/或る休日/チョコレイコ/あとがき |
16. | |
「アンと愛情」 ★★ |
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2023年08月
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「アンと青春」に続く、“和菓子のアン”シリーズ第3弾。 もちろん、題名は「アンの愛情」のもじりです。 本ストーリィの舞台である、主人公=梅本杏子のバイト先、東京デパート地下階にある和菓子屋<みつ屋>の個性的な顔ぶれはこれまでどおり。 舞台、登場人物、ストーリィ展開に大きな変化がない分、安心してゆっくり楽しめる、というものです。 その分、各章で杏子が調べることという設定にて披露される、数々の和菓子の歴史、由来、がとても楽しい。 なお、やはり変化は多少あるもの。冒頭で杏子、成人式を迎えます。そして最後では世話になったあの人との別れ・・・。 ・「甘い世界」:外国人がある和菓子探し。宇宙がテーマで棒の刺さった、この時期だけのドラマチックな和菓子? ・「こころの行方」:催事の手伝いに空港店から同じ年の桐生という女子がやってきます。桐生に比べ自分の至らなさを見せつけられて、杏子はがっくり。 ・「あまいうまい」:友人3人と金沢旅行へ。そこで出会った和菓子<巻き柿>にまつわるドラマは・・・。 ・「透明不透明」:和菓子に無縁そうな若い男性客、知人にわらび餅を買っていきたいという依頼。しかし、その知人の言う“わらび餅”とはちょっと違うようで何度もやり直し・・・。 ・「かたくなな」:常連客から与えられた課題、甘い煎餅は正当なものか? ※「冬を告げる」:銀座三越の本和菓衆という老舗若旦那たちの集まりとのコラボイベントで配布された掌編。 ※「豆大福」:キャンペーンのための書き下ろし掌編。 甘い世界/こころの行方/あまいうまい/透明不透明/かたくなな/あとがき /冬を告げる/豆大福 |
17. | |
「楽園ジューシー」 ★★ |
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2025年02月
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「ホテルジューシー」再び! 混沌とし、異なるものもあっさりと受け容れてしまうあの沖縄の空気を醸し出していたホテルジューシー、あの雰囲気をまた味わえることが嬉しい。 主人公は、東京で大学生の松田英太。祖父は日独混血、祖母はロシア人、母は中国系マレーシア人という“ミックス”。デブで天然パーマだったことから小中とイジメ対象。中二の時似た境遇から意気投合したアマタツ、ゴーさんの2人だけが大切な友人。 そんな英太も今は、外国人っぽい容貌に。 そして今、バイト先の弁当屋が一時的休業し、バイト仲間のおばさんから強引に勧められ、春休みということもあって沖縄にあるホテルのバイト募集に応募。それがホテルジューシーだったという次第。 前作同様、オーナー代理の安城、料理人の比嘉さん、双子の掃除婦センばあとクメばあが登場、「ザッくん」という通称が決まった英太を助け、また翻弄します。 老女宿泊客の間にトラブルが発生。若い男子2人組と女子2人組の間に不和が生じた理由は? 常連客のい中年女性が遭遇している問題は? 夫婦客と男性一人客の間で対立が生じたのは? 日常ミステリ風ですが、そこを鮮やかに解決してしまうのが、オーナー代理だという安城。ただ昼の間はまるでだらしなく、夜になると別人のようにシャキッとするところも前作どおり。 その他、黒人系の風貌という主人公と同じ悩みを抱えていたユージンこと祐二と知り合ったり、それなりに色々な経験をした沖縄バイト記という雰囲気でしたが、最後にガツン! ザッくん、思わぬ批判にさらされるのですが、これは読み手にとってもかなり衝撃的。 批判する人もあれば、良い処を認めてくれる人もいる。 ザッくん、今は決して余生なんかではない、これを契機として是非自立しよう、とエールを送ります。 ※儒教絡みの家父長制、独身女性にとっての墓の問題、これには驚かされました。沖縄の全てが良い訳ではないようです。 約束/風の音/境界/ローリングカラーストーン/フェア/君ではない/眩しさ |
18. | |
「ショートケーキ。」 ★★ |
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ショートケーキを題材にした連作短編集。 共通するのは、ショートケーキが好き、という思いです。 冒頭の「ホール」、お互い小学生の時に両親が離婚し、おまけに一人っ子であるため、それ以降ホールケーキが食べられなくなったという思いを共有するところから、“失われたケーキの会”を結成している女子2人がとにかく好い。 その2人と、コージーコーナーの店員とのやり取りがまた好いんだな。 まさに私好みで、こうした処が坂木さんは美味しい・・・じゃなくて上手い! そんな冒頭篇から始まる連作ストーリィですから、各篇のテンポは好く、気分も好いとあって、心が弾んでくるようです。 ・「ホール」の主人公は、<ゆか>と<こいちゃん>という高校時代からの親友である女子大生2人。 ・「ショートケーキ。」は、その2人と関わった、コージーコーナーの店員<カジモト>。 ・「追いイチゴ」は、コージーコーナーでカジモトの先輩店員である上田さん。 ・「ままならない」は、ちょっと局面が変わって赤ん坊をもったばかりの若い母親三人。 ・「騎士と狩人」は・・・さて、誰が登場するでしょう? 5篇の中で一番ユニークな人物は誰かと言えば、私の推しは「騎士と狩人」に登場する、女性社員の<経理さん>。 ケーキが題材ですから、ストーリィも楽しんでばかりいたい、というものですが、その点本書はその願望をぴったり満たしてくれています。 美味しいものを食べたり、楽しい小説を読んだ後は、楽しいものです。 ホール/ショートケーキ。/追いイチゴ/ままならない/騎士と狩人 |
19. | |
「アンと幸福」 ★☆ |
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「アンと愛情」に続く、“和菓子のアン”シリーズ第4弾。 もちろん、題名は「アンの幸福」(村岡花子訳の邦題)のもじりです。 如何にもおいしそうな和菓子が続々登場、主人公である梅本杏子のキャラクターと相俟って大好きなシリーズですが、さすがに第4弾までくると読む方の気分として、マンネリ化が否めない処。 本巻では、杏子を初めとし、お馴染みの登場人物たちそれぞれのちょっとした前進が描かれます。 まず冒頭は、椿店長が、銀座に新しくオープンする<みつ屋>の旗艦店に店長として栄転。 その後任としてやってきた藤代店長(40代の男性)と、最初は多少の行き違いがあったものの、正社員登用試験への応募を勧められます。 ・「江戸と長崎」:接客中の杏子と客の間にやたら藤代店長が割り込んでくるのは、何故? ・「秋ふかし」:杏子、市民講座に申し込んで聴講。さっそく役立つとは。 ・「掌の上」:部下の女性たちへの差し入れだと生菓子を買っていく男性客。杏子にはその振舞いに気になる処があり・・・。 ・「はしりとなごり」:老人主体の俳句サークルに入会したという男子大学生2人。杏子と立花が相談に乗り・・・。 ・「お菓子の神さま」:椿店長に誘われ、一緒に和歌山県へ二泊三日の出張へ。 ・「湯気と幸福」:椿店長、立花と共に3人でアドベンチャーワールドを訪れ、大興奮。杏子の幸福とは・・・? 江戸と長崎/秋ふかし/掌の上/はしりとなごり/お菓子の神さま/湯気と幸福 |
20. | |
「うまいダッツ UMAI-DAZS」 ★★ |
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美味しいもの、というとグルメ、高級なもの、とついなりがちな処ですが、本作で中心となるのは、スーパーやコンビニ、何処にでも売られているようなスナック菓子。 そこが気楽で、親しみが感じられて、まず楽しき哉。 主人公たちは高校生。 高校に入学して入部したのは<喫茶部>。 しかし、一年生部員4人(アラタ・コウ・セラ・タキタの男女2人ずつ)が行っている活動は、喫茶店巡りでもなく、ただ集まってスナック菓子を食べながらダラダラとしていること。 そんな4人を見て先輩曰く、<おやつ部>って感じだな、と。 同じようにおやつ好きといっても、4人の性格や個性はまるで違います。それなのにおやつを介して繋がり合っているところが、何とも楽しい。 ストーリーは、そんな<おやつ部>の4人が、たまたま遭遇した問題を、緩く解決して見せる、というもの。 高校時代、こんな仲間がいたらさぞ楽しかっただろうなぁと、ちょっと羨ましくもあり。 ・「うまいダッツ」:うまい棒一本で世界の秘密が分かるという都市伝説。4人はその預言者を探しに行きます。 ・「チロル・ア・リトル」:コウの祖母からブローチを失くしたというSOS。祖母の本当に意図は・・・。 ・「バカみたいにウケない」:先輩に頼まれ、インスタグラマーが開催するおかしクイズに参戦。その結果は・・・。 ・「それは王朝の」:タキタ、かつての友が今やストーカー? 3人がタキタを守ろうと立ち上がります。 ・「百年の愛」:2年生に進級すると、1年生が3人入部。しかし、3人ともやたら真面目で、4人はちょっと窮屈。 うまいダッツ/チロル・ア・リトル/バカみたいにウケない/それは王朝の/百年の愛 |