佐川光晴作品のページ No.1


1965年東京都生、北海道大学法学部卒。2000年「生活の設計」にて第32回新潮新人賞、02年「縮んだ愛」にて第24回野間文芸新人賞、11年「おれのおばさん」にて第26回岡山市文学賞(坪田譲治文学賞)を受賞。


1.
おれのおばさん

2.おれたちの青空

3.静かな夜-佐川光晴作品集-

4.おかえり、Mr.バットマン

5.山あり愛あり

6.おれたちの約束

7.鉄童の旅(文庫改題:鉄道少年)

8.おれたちの故郷

9.校長、お電話です!

10.あたらしい家族


大きくなる日、日の出、駒音高く

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1.

●「おれのおばさん」● ★★☆       岡山市文学賞(坪田譲治文学賞)


おれのおばさん画像

2010年06月
集英社刊
(1200円+税)

2013年03月
集英社文庫化



2010/06/22



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主人公は、東京の有名進学校・開聖中学2年の高見陽介
福岡に単身赴任中の父親が愛人に貢ぐため顧客からの預かり金を横領していたことが発覚し、逮捕。一家は離散状態。
東京に残る母親と別れ、陽介は、札幌市内で児童福祉養護施設を運営する伯母・後藤恵子の元へ。
しかし、北大医学部に入学したものの退学して演劇の道に走ったという伯母と両親の間には深い溝があったらしく、伯母と会うのは陽介にとっても初めて。陽介もまた、その伯母の営む養護施設の預り児童の一人、という次第。

父親は逮捕、自宅も家庭も失い、せっかく入った進学校も退学して、ひとり札幌へ。それも4人部屋。かなり悲惨な状態と思うべきなのですが、本ストーリィはむしろ明るく、力強い。
とにかくバイタリティ溢れる恵子伯母のキャラクターが秀逸。
陽介に関して言えば、東京で一人っ子の暮らしより、ここで仲間とともに鍛えられた方が余っ程良かったのではないか、という様相なのです。
伯母からの感化、そして同じ家で暮らす卓也らとの仲間意識と、人と関わることの大切さがビンビン伝わってくるのです。
最初は単なる都会の優等生という印象の陽介が、本ストーリィの最後では他人の心配もきちんとでき、どう生きるべきかという覚悟もきちんと備えた逞しい少年に変貌しているのですから、これは爽快。

子供が育つべき環境の原点がここにはあると感じます。本ストーリィだけ読むと、仲間もいて、むしろ羨ましく感じてしまう程なのです。
恵子伯母に、素直に感嘆する陽介たちの姿勢も気持ち好い。
中学生が起こした最近の陰湿な事件を吹き飛ばすような、痛快にして爽快な青春ストーリィ。お薦めです!

明野照葉「家族トランプと本作品は、女性キャラクターの豪快な魅力で引っ張る点が似ています。片や家族選び、片や孤児たちの共同生活と対照的な面はあるものの、何が大切かという原点に立ち戻った点で、2作品には共通するものがあります。

        

2.

●「おれたちの青空」● ★★


おれたちの青空画像

2011年11月
集英社刊
(1200円+税)

2013年12月
集英社文庫化



2011/12/08



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札幌にある児童養護施設=魴鮄舎(ほうぼうしゃ)を舞台に、運営者である恵子おばさん、そこに暮す子供たちの力強い姿を描いて坪田譲治文学賞を受賞したおれのおばさんの続編。

「おれのおばさん」の主要登場人物である中3生・柴田卓也恵子おばさん各々の今ここに至るまでを描いたのが、「小石のように」「あたしのいい人」
柴田卓也の悲惨な生い立ち、また養母の元での不幸な経緯は気の毒なばかりですが、誰よりも力強く生きているといって良い卓也の姿には、子供たちの可能性を見るようで心強い気持ちになります。
その卓也に負けず劣らず、主役としての貫録十分な恵子おばさんのこれまでの道のりは、やはり圧巻。
加えて「あたしのいい人」の最終場面、見せてくれますねぇ。芝居好きなら拍手喝采したくなる小場面です。

「おれたちの青空」は、「おれのおばさん」の主人公であった高見陽介が主人公。卓也と同じく中学卒業=施設を出ていかなくてはならない時期を迎え、卓也自身で選択したこれからの道筋が描かれます。
卓也、恵子おばさんを主人公にした前2篇は、これまで経緯と今を描いていることから中篇、これからの道筋を描く「おれたちの青空」は短篇、という構成です。

本物語、卓也と陽介たちが施設を卒業し、それで完結なのでしょうか。まだまだ2人や仲間たち、そして恵子おばさんのその後を読みたいものですが。

小石のように/あたしのいい人/おれたちの青空

                

3.

●「静かな夜-佐川光晴作品集-」● ★★☆


静かな夜画像

2012年03月
左右社刊
(1600円+税)



2012/04/03



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“佐川光晴作品集”と題された本書、中篇~短篇、4篇を収録していますが、これまでに読んだ2作とまるで異った内容であることに驚きます。
前2作が辛くても明るく頑張るという風だったのに対し、本書収録の4篇は耐え難く苦しい状況の中で生きる姿、あるいは目標を見い出せないまま彷徨する大学生の姿を描くストーリィ。

4篇の中でも逸品なのが、表題作「静かな夜」
9歳の息子が暴走族のバイクにはねられて即死、さらに8ヶ月後刑事裁判の判決を知った直後に夫は倒れてあっけなく突然死。
主人公の平凡な主婦=ゆかりは、僅かの間に幼い娘と2人きりになってしまいます。それでも懸命に生きていこうとしますが、その彼女に仕打ちのよな試練がのしかかります。
前をすべて閉ざされたような苦しさ、耐え難さ、もう死んで逃れる他はないのかと思う程の辛さ。それでも逃げ出すことは許されず、ただ耐え忍ぶしかない。
結局、その辛さと折り合って生きていくしかないということなのかもしれませんが、その何と辛く苦しいことか。
次の
「崖の上」も同様。
まかり間違えばいつ自分がそんな状況に置かれても不思議ないストーリィ。両篇とも、身につまされる思いがします。

「二月」「八月」は連作、主人公は学生寮に住む北大生で、行動すべき目標が見いだせずに閉塞感と空虚感を抱いている。
与那国島でのサトウキビ収穫の季節労働、フィリピンのネグロス島住民の現地見聞という体験を巡りますが、結局何の答えも見いだせないまま。希望はまだ見い出せません。

静かな夜/崖の上/二月/八月

                

4.

●「おかえり、Mr.バットマン Welcome Back Mr.Batman」● ★★


おかえり、Mr.バットマン画像

2012年04月
河出書房新社
(1400円+税)



2012/05/02



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熟年離婚の危機、今更驚くこともない話題ですが、通常パターンの妻ではなく、夫側がそう決意した、というところが本ストーリィのミソ。

主人公の山名順一、翻訳家とはいえそれで食べていくことはできず、教員で今は教頭職にある妻との共稼ぎとは言いつつ、実は家事・子育ての全てを担ってきた主夫兼翻訳家。
しかし、息子が大学に入って家を出てしまうと張り合いがなくなり、言葉もろくに交わさない妻との生活はもう嫌だと、離婚を決意したという次第。
ところがそこに思わぬ事態が発生。昔親しかった外国人作家の娘が、小説を書くために来日。成り行きから自宅へのホームステイを受け入れることとなります。
家事への張り合いを取り戻したものの順一、25歳と若い
アガサにやがて押しまくられて・・・・という小騒動。

これまでに読んだ佐川作品に比べると、ユーモラスかつ軽快なストーリィ運びが印象的。しかし、話の内容自体は切実なことであって、本来軽視はできない問題。そのアンバランスさが本作品の妙でしょう。
なお、表題の「
バットマン」とは、自分の足できちんと立つことが出来ない自分を自虐してコウモリに譬えたことから。アクションヒーローのバットマンとは雲泥の差であるところが愉快です。

                  

5.

「山あり愛あり」 ★★


山あり愛あり画像

2013年01月
双葉社刊
(1500円+税)

2016年02月
双葉文庫化



2013/02/10



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主人公は大鉢周三、45歳。
大手銀行に就職したもののその殆どを不良債権処理に費やしてきて20年。元々望んで就いた仕事でもなく、このままでは終わりたくないと思っていたところ、郷里の信州で私立大学副理事長を務めている友人から経済学部専任講師の誘いを受け、決意して銀行を中途退職。東京に引き続き住む家族とは別居、単身赴任になるものの、好きだった登山を再開できると楽しみにしているところからストーリィは始まります。

そんな周三、世話になった弁護士の榊原から、シングルマザー支援のためのNPOバンクを発足させるつもりなので、ついては大口出資者の説得に一役買って欲しいという頼みを受けます。
人生再出発のスタートラインに立とうとしていた周三、そのことをきっかけに様々な問題に向かい合うことになります。
20年間を送った銀行員生活の意味とは何だったのか。そして大口出資者であるミュージシャン=
枝川が抱え込んでいた家族問題、シングルマザーだった実母と周三自身の深い確執、等々。
仕事、家族を通して人生の意味を改めて問う長篇小説。

お客さまのため、世の中のためと言いつつ、ホンネは自社の利益優先というのが企業の実態。その中でも典型的だったのがバブル期の銀行であったことでしょう。そう考えると、好きな登山を封印したまま銀行員生活で一生を終わりたくないと思った主人公の気持ちはよく判る気がします。
仕事、家族、生きがい、どれ一つとっても簡単には終らないテーマですが、本ストーリィは、人生の中盤を迎えたサラリーマンにとってはかなり考えさせられる内容を含んでいます。地味な作品ですが、その点においてお薦め。

               

6.

「おれたちの約束」 ★★


おれたちの約束画像

2013年06月
集英社刊
(1200円+税)

2016年05月
集英社文庫化



2013/07/18



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おれのおばさん」「おれたちの青空に続くシリーズ3作目。
相変わらずこのシリーズは、読んでいて爽快な気分になれるところが嬉しい。

「おれたちの約束」は、高見陽介を主人公とした中篇。
いよいよ陽介が札幌の児童養護施設を出て、授業料免除+返済不要の奨学金を勝ち得て仙台にある
東北平成学園高等学校に進学、生徒寮に入寮したところから本ストーリィは始まります。
本シリーズは第2作目の題名にあるように、主人公たち一人一人が住み切った青空をどこまでも高く登っていくような可能性、期待を感じさせてくれるところが楽しい。それが“爽快”という印象に繋がっています。
それでも悩みはつきもの。本書でも冒頭、陽介が「オレ」から「ぼく」状態に戻ってしまったのだろうかと悩みます。施設での共同生活から完全なる個室生活、また自分の家庭事情をどう扱えば良いのか、逡巡する故にまた非社交的になりかねません。
そこを救ってくれたのが、同級生の
中本、菅野という新たにできた友人たち。良き友人と出会い、彼らと腹を割った関係が築けるのも、陽介自身の資質と言って良いでしょう。
2つの試練を乗り越え、陽介がまた一歩大きく成長する姿が見れるのはとても嬉しいこと。
なお、仙台が舞台である故に、本ストーリィもまた東日本大震災の事実を無視することはできません。折角の物語が途中で頓挫しやしまいかと心配したのですが、さらなる成長ストーリィに上手く繋げられていたので、ホッ。

「あたしのあした」は、児童養護施設=魴鮄舎を運営する恵子おばさんのある一日を語った短篇。
短篇は短篇なりに、これもまた楽しい。

本シリーズは、その清新さ、強く生きようとする子供たちの個性的なところが魅力。今からでも、お薦めです。

おれたちの約束/あたしのあした

    

7.

「鉄童(てつどう)の旅」 ★★☆
 (文庫改題:鉄道少年)


鉄童の旅画像

2014年02月
実業之日本社
(1500円+税)

2017年04月
実業之日本社
文庫化



2014/03/02



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まるでファンタジーのような正念の冒険物語を感じさせられる題名です。
仕事で東京と函館の間を往復している
福士百合子が青函連絡船の中で見かけたのは5歳くらいの男の子。不思議なことに親が近くにいる様子はない。
そこからその男の子の冒険物語が繰り広げられるのかと思いきや、そうはなりません。
実はその出来事は30年も前のこと。百合子にその経緯を訊ねる主人公が、30年後のその男の子だと知らされます。
“鉄童”と呼ばれた不思議な男の子の旅にどんな秘密があったのか。そして30年後の現在、自分の過去を訊ねて回る主人公にどんな経緯があったのか。それは本書を読んでのお楽しみです。

何と言ってもストーリィ構成が巧みで、ストーリィにどんどん惹き込まれていきます。
主人公の成長物語を順次描いていくのと並行して、ミステリの謎解きといった彼の旅も描かれていきます。
そして終盤、すべての謎がやっと明かされる段階に至ると、もう感動で胸が一杯になる思いです。
列車に乗って長い距離を移動することはもちろん“旅”ですが、人生もまた“旅”に他なりません。本ストーリィは、鉄童の旅を描くと同時に、これまで長かった主人公の人生の旅を描くものでもあります。

なお、主人公の現在の職業が鉄道検査技師ということもあり、鉄道の話があちこちに登場し、鉄道ファンの興味をそそります。
また、鉄童が辿った旅は、分割前の国鉄時代に郷愁を誘うと同時に、鉄道旅ファンには陶然とするような旅でもあります。
その辺りもファンにとっては本書の見逃せない魅力。
お薦め!

1.青函連絡船羊蹄丸/2.中央線快速電車/3.東海道線211系/4.相模線/5.雑誌「鉄道の友」/6.ワム60000・キハ81・20系客車/7.DD51形ディーゼル機関車/8.東室蘭駅/9.「鉄童の旅」はつづく

     

8.

「おれたちの故郷(ふるさと) ★★


おれたちの故郷画像

2014年06月
集英社刊
(1200円+税)

2018年08月
集英社文庫化



2014/07/17



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おれのおばさんシリーズ4作目。

柴田卓也青森山田高校バレー部で2年生ながらエースアタッカーとして活躍中。同バレー部は春高バレーで2連覇、卓也自身もU-19の日本代表となり注目の的。一方の高見陽介は全国有数の進学校である仙台の東北平成学園で首席と、こちらも順調。
ところがそんな2人に、岩見沢の農業高校に進学した
奈津からとんでもない知らせが飛び込んできます。施設の耐震性強化の問題から、このままだと自分たちが巣立った恵子おばさん児童養護施設=魴ぼう舎がなくなってしまうかもしれない、と。
流石の卓也も陽介も動揺、バレー部の練習も勉強も身が入らないという状況です。
さて卓也と陽介はどう行動するのか。そして恵子おばさん本人の気持ちはどうなのか。

自分も帰る場所が無くなってしまうと卓也は激昂。それに対して陽介は、自分たちにとって魴ぼう舎が故郷であることは間違いないが、恵子おばさんにとっての故郷は何なのか、と冷静に考え始めます。
自分たちが心の拠り所とするものは何なのか。そのためにどう行動すべきか。卓也と陽介の行動ぶりもまた対照的ですが、自分で考え自分で行動する姿に2人の成長を感じさせられて、印象的です。
同時に、卓也・陽介と恵子おばさんの関係が、被保護者と保護者という関係から、互いに張り合う関係に変わりつつあることを感じます。

本書、シリーズ完結編かと思いきや、シリーズ“第一部完結編”だそうです。
このシリーズ、
灰谷健次郎「天の瞳」シリーズのような長い成長物語になるのでしょうか。
卓也と陽介、恵子おばさんの3人を中心にして多くの登場人物がそれぞれに成長していく姿をこれからも見ていくことができるのは、本シリーズのファンとして、とても嬉しいことです。

       

9.
「校長、お電話です! ★★


校長、お電話です!

2015年07月
双葉社刊
(1500円+税)

2018年07月
双葉文庫化



2015/08/13



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子供や家族の問題を描くことが多かった佐川さんが教育問題に取り組んだ作品。
と言っても真っ向から取り組んだということではなく、新任校長として赴任した中学校が前任校長時代から抱えた問題をどう解決するか、という具体的問題に絞ったストーリィ。
もっとも一事が万事という言葉があるくらいですから、その問題に留まることなく、普遍性をもったストーリィと感じます。

主人公である
柴山緑郎は47歳の若さで百瀬市立百瀬中学校の校長に任じられます。その百瀬中学校は、市長が学校改革で名を挙げようと教育評論家だった野田欣也を校長に据えた処、その独善的なやり方に教師や生徒らが反発して再三警察を呼ぶ騒動を巻き起こしたばかりか、野田校長のバッシングにより担任だった女性教師が心身を損ない長期休職に追い込まれ、さらには自殺未遂まで起こすという混乱を発生させた経緯あり。
さしづめ緑郎は再建を託された観がありますが、亡父の吾郎もまた同地域で父兄らに慕われた元校長で、緑郎に期待をかける知己が多いという状況。
さて緑郎は校長として、如何にして百瀬中学が抱えてきた問題を解決するのか、生徒や教師の信頼を勝ち得るのか、また周囲の期待に応えるのか。

校長としての真価を問われるという点ではお仕事小説のような面が無きにしも非ずですが、教育という舞台における責任者という立場は、お仕事小説と単純に言い切ることはできません。何しろ生徒たちを育てるという責務を担っているのですから。
そうした重要な問題を取り扱う作品にもかかわらず、全篇を通して軽快かつユーモラスな雰囲気に満ちているのが本作品の良さであり、読み易さ
何しろ主人公の“シバロク”こと柴山緑郎が人間味溢れていて魅力いっぱいです。稚気も茶目っ気もあり、そのうえ男気もある、その一方において常に自分の行動を自己チェックする慎重さも備えている、といった人物像。恋愛結婚したものの相手が一人娘で地元で教職にあるという理由から、結婚当初からずっと岡山と埼玉での別居夫婦という設定も愉快。なお、長女の
奈々江が東大に合格して現在は緑郎のマンションに同居中で、貴重なサポート役になっているという配役も上手い。

ユーモラスで健やかで、学校という教育現場が抱える問題を考えさせられるストーリィ、お薦めです。

             

10.
「あたらしい家族」 ★★


あたらしい家族

2015年11月
集英社文庫刊
(500円+税)



2015/11/29



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表題には何も書かれていませんが、“おれのおばさん”シリーズの外伝と言って良い作品ではないでしょうか。

主人公は
上杉瞭(アキラ)、大学二次試験の時に高熱を発して北大医学部を不合格、父親から東京で受験勉強してこいと言われ札幌から送り出された下宿先が、18歳年上でバツイチの従兄=後藤善男の営む老人グループホーム八方園
名前を聞けばはっと思い出すかもしれませんが、そう後藤善男と言えば、
おれのおばさんこと恵子おばさんの元夫。

その八方園、元々は学生相手の下宿だったが建物が古くなって学生の代わりに近所の独居老女たちが住むようになる。ふとした縁で善男が居候し始めた後、家主だった政子さんが亡くなり善男がその後を託されたという次第。
それ以来、介護福祉士の資格をもっていた善男は7人の老女たちと管理人として同居、「婆ぁども」とお互いに罵声を飛ばし合いながらも元気に暮らしているという状況。

本作品は、医学部を目指す浪人生=アキラの視点から、善男の生い立ちと恵子との結婚から離婚に至るまでの経緯、善男がひとりで奮闘する八方園の状況、善男の再婚経緯という<後藤善男の物語>を描き出します。それと同時に、このグループホームに住まざるを得なかった老女たちの人生と触れ合うことによって貴重な人生経験を得て少し人間的に成長するという、若者の成長物語。
そしてそれらを包含して、老女たち、善男が里親となって引き取った日本とインドネシアの混血児である少女姉妹2人、善男の再婚相手から成る、ひとつの“新しい家族像”を描くストーリィ。

“おれのおばさん”シリーズのファンであるなら、本作品はその“前史”として興味尽きないでしょうし、元夫を主役とするもう一方の側の物語として読み応えある魅力的な物語となっています。
勿論、主役の後藤善男だけでなく、アキラや同居老女たち、そして八方園の主治医を務めてくれている
細川節子、経理を担当している公認会計事務所勤務の河原有里という周辺人物も含め、登場人物各々が味のあるキャラクターであることも見逃せません。

プロローグ/子どものしあわせ/弔いのあと/婆さんたちの閑話/お嫁さんがやってくる/エピローグ

 

佐川光晴作品のページNo.2

     


  

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