小川洋子作品のページ No.2



11.最果てアーケード

12.ことり

13.いつも彼らはどこかに

14.注文の多い注文書

15.琥珀のまたたき

16.不時着する流星たち

17.口笛の上手な白雪姫

【作家歴】、博士の愛した数式、ブラフマンの埋葬、ミーナの行進、海、博士の本棚、科学の扉をノックする、猫を抱いて象と泳ぐ、原稿零枚日記、妄想気分、人質の朗読会

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11.

●「最果てアーケード」●(挿画:酒井駒子) ★★☆


最果てアーケード画像

2012年06月
講談社刊
(1500円+税)

2015年05月
講談社文庫化



2012/07/27



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世界で一番小さなアーケード商店街。大通りから脇に入った長屋のような店々。
目立たず、「いったい、誰がこんなもの買うの?」と思われるような品々を扱っている店ばかり。それでも各店の店主たちは、一人でも訪れる客を待ち続け、訪れた客の誰に対しても真摯に応対する。

本書は、
連載コミック「最果てアーケード」の原作として書き下ろされた作品だそうです。
コミックの方がどうであるのかは知りませんが、本書において主人公、そして語り手となっているのは、大家であった父親が火事で亡くなりその後を継いだ一人娘。
彼女が少女の頃、そしてアーケードの配達人となっている現在まで、時間設定を自在にこのアーケードを訪れる客たち、それを迎える店主たちそれぞれの物語を描いた10篇。

中でも使い古しのレース、使用済みの古い絵葉書という商品については思い出を扱っているという風。それを求める客たちにもそれなりの事情、想いありがあるでしょう。
些細なものを大事にする、そこには温かさと慈しみと、安らぎがあることを感じます。それは本書の一篇、一篇に対しても感じること。
そして本書10篇を通じて感じられるものは、主人公のこのアーケードに対する想いと並んで、亡き父親に対する想いです。それが切々と感じられるのは、本書の最後に至ってから。
どの店主、どの客も愛おしい、そんな連作短篇集。お薦めです。

衣装係さん/百科事典少女/兎夫人/輪っか屋/紙店シスター/ノブさん/勲章店の未亡人/遺髪レース/人さらいの時計/フォークダンス発表会

                

12.

「ことり」 ★★☆         芸術選奨文部科学大臣賞


ことり画像

2012年11月
朝日新聞出版
(1500円+税)

2016年01月
朝日文庫化



2013/01/17



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冒頭“小鳥の小父さん”と呼ばれていた孤独な老人が、家の中で倒れて死んでいるのが発見されたところから本ストーリィは始まります。
人々が驚いたのは、遺体の両腕は竹製の鳥籠を抱いていて、その中の止まり木に小鳥が一羽、大人しく止まっていたこと。
独居老人の孤独死。世間一般の見方からすれば、さも寂しい生涯だったように思えることでしょう。でも本当にそうなのか。そこから、小鳥の小父さんと呼ばれた人の生涯が静かに語られていきます。

小鳥を愛したその兄は、ある時から突然不思議な言葉でしか話すことができなくなります。その言葉の意味を理解できるのは弟であった小父さんのみ。
両親が死んだ後は小父さんがゲストハウスの管理人をして兄と2人の生活を支え、兄弟2人だけの寄り添うような生活。
そして兄の死去後に小父さんは、幼稚園の鳥小屋の世話を自ら申し出て引き受け、小鳥の世話と小鳥の声を毎日聞くことに喜びを見い出します。それが“小鳥の小父さん”と呼ばれることになった理由。
そんな小父さんの生涯の中で唯一彩があった出来事といえば、図書館分館の若い女性司書に対する淡い想いだけ。

世間から何の評価をされずとも、一つの完璧な世界を築き上げ、そこに十分満足して生きた人の物語という点では、博士の愛した数式」「猫を抱いて象と泳ぐと同じ系列にある物語と思います。
静かな佇まい、満足を知る生き方、それは清々しいものです。
決して人から絶賛されるような生き方ではないでしょうが、一つの生き方であり、恥じることも後悔することもない人生であったと言えるでしょう。能力の発揮、結果、成功がやたら求められる現代社会にあっても、人の生き方は画一的である必要はなく、こうした幸せな生き方もあるのだということを、本作品は教えてくれる気がします。
前半は兄弟の物語のようにも感じられますが、全編を通して本質的には弟の物語と言うべきでしょう。
兄には言葉という面において選択の余地がなかったのに対し、弟である小父さんには選択の自由はあったのですから。それにもかかわらず、兄を大切に、後には小鳥たちを大切にした静謐な人生には胸を打たれます。お薦め!

                   

13.

「いつも彼らはどこかに」 ★★


いつも彼らはどこかに画像

2013年05月
新潮社刊
(1400円+税)

2016年01月
新潮文庫化

2013/06/17

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人と動物たちとの関わりを哀感と愛しさをもって描いた作品集、8篇。

各篇の主人公はいずれも、何かしらの寂しさを抱えている人たちばかり。そんな彼らがふと身近に感じた動物たちの存在。
彼らの存在によって主人公たちは何らかの慰め、安らぎを感じて日々を過ごしています。
しかし、動物たちは何もそんなことをしようと考えている訳では勿論なく、人間側が勝手にその存在から安らぎを得ているに過ぎません。それでも、彼らが存在しているというだけで、何と気持ちが安らぐことか。
だから何なのか、というようなストーリィばかりですが、何となく哀感と、動物たちへの愛しさ、さらには動物たちへ感謝の思いすら感じられるところが、本作品集の魅力です。

もし地球上に存在している動物が人間だけであったなら、そこは何と味気ない世界であることか、と思うのです。    

帯同馬/ビーバーの小枝/ハモニカ兎/目隠しされた小鷺/愛犬ベネディクト/チーター準備中/断食蝸牛/竜の子幼稚園

        

14.

「注文の多い注文書」(共著:クラフト・エヴィング商曾 ★★


注文の多い注文書

2014年01月
筑摩書房刊
(1600円+税)



2014/02/15



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とても面白い趣向から成る一冊。
悪戯心あり、洒落っ気あり、そして探し物の妙に構成の妙、まさに堪えられないといった味わいです。

ふと目に入った一軒の店<クラフト・エヴィング商曾>。その看板には「ないもの、あります」と書かれている。
意を決して扉を開け店に入れば、女性店主が
「何かお探しですか」「ないものでもありますよ」と声を掛けてくる。その声に促され「じつは、昔、読んだ本に出てきたものなんですが−」と。そんなやりとりから蓋を開ける5幕のストーリィ。
各章、
「注文書」「納品書」「受領書」という組み合わせ。小川さんの注文に、クラフト・エヴィング商曾が納品により応じ、再び小川さんが受領という形で締めくくる、という構成です。そのうえ何と、現物の写真付き。(笑)

<人体欠視症治療薬>川端康成の未完小説「たんぽぽ」、
<バナナフィッシュの耳石>はJ.D.サリンジャー「バナナフィッシュにうってつけの日」、
<貧乏な叔母さん>
は村上春樹「貧乏な叔母さんの話」、
<肺に咲く睡蓮>
はボリス・ヴィアン「うたかたの日々」、
そして
<冥途の落丁>内田百「冥途」から、という次第。
小川さんが投げかける難問に、どうクラフト・エヴィング商曾が応じるか、その掛け合いが何と言っても上品で味があり、かつ少々幻想的で楽しめます。
私好みの仕掛けいっぱい、という一冊です。


人体欠視症治療薬/バナナフィッシュの耳石/貧乏な叔母さん/肺に咲く睡蓮/冥途の落丁

   

15.
「琥珀のまたたき」 ★★


琥珀のまたたき

2015年09月
講談社刊

(1500円+税)

2018年12月
講談社文庫化



2015/11/26



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幼い妹を失くした三姉兄弟とママは、父親が遺してくれた別荘に移り住みます。
妹が死んだのは魔犬の呪いの為というママは、そこで新しい生活を始めようと、3人にも新しい名前を与えます。14歳の長女は
オパール、8歳の長男は琥珀、5歳の次男は瑪瑙という具合に。
ママは外へ毎日働きに出ますが、その日から3人は閉ざされた家の中で生きていくことになります。

学校にも行かず、家の中に閉じ込められるという光景は本来異様なものですが、本ストーリィから感じられるのは、外界と閉ざされているということでむしろ純粋で静謐な雰囲気を感じます。その3人が物事を知るのは、父親がかつて出版した様々な図鑑によって。
ある日、琥珀は自分の左目に異変を感じ、やがて左目は別の世界を映しだすようになります。

特殊な世界にあるという点では、
博士の愛した数式猫を抱いて象と泳ぐ2篇を彷彿させるところがあります。
しかし、物理的に閉ざされた世界である故に、やがて3人の元をひそかに訪れる人物が現れ、また3人自身の成長によって、それまでの静謐な世界は少しずつ姿を変えていきます。

2度と取り戻せないものであるからこそそれは美しく、また貴重であるということを、本ストーリィは読み手の胸の中へ知らず知らずの内に伝えてくるようです。
理解し難い生活、世界。だからこそそれは、忘れ難く、静謐で美しい残像を放っています。

         

16.

「不時着する流星たち ★★


不時着する流星たち

2017年01月
KADOKAWA刊

(1500円+税)



2017/02/20



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風変わりな人物や出来事にインスパイアされて小川さんが書き綴った短篇集、かなり捻られた面白さです。

インスパイアされた人物が無名に近い、あるいは風変わりな人物であればあるほど、ストーリィも摩訶不思議なものに感じられます。(
「誘拐の女王」「散歩同盟会長への手紙」
一方、名前を知っている人物については、こんな奇矯なところがあの人物にあったのかとも思います。(
「カタツムリの結婚式」パトリシア・ハイスミス「若草クラブ」エリザベス・テイラーがインスパイア元)。パトリシア・ハイスミスについては、こんな奇妙な趣味を持っていたのかと驚きます。

奇妙ですけれどユーモアを感じたのは、葬儀での“お見送り幼女”が登場する
「手違い」、オリンピック関連話の「肉詰めピーマンとマットレス」

面白く感じる篇もあれば、戸惑う篇もある。その反対に、余り面白いと思えない篇もあるといった具合。
それら短篇が混じり合っている処にこそ、本短篇集の愉しみが潜んでいる、そのように感じる一冊です。


1.誘拐の女王/2.散歩同盟会長への手紙/3.カタツムリの結婚式/4.臨時実験補助員/5.測量/6.手違い/7.肉詰めピーマンとマットレス/8.若草クラブ/9.さあ、いい子だ、おいで/10.十三人きょうだい

                    

17.
「口笛の上手な白雪姫 ★☆


口笛の上手な白雪姫

2018年01月
幻冬舎刊

(1500円+税)


2018/02/19


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世界の片隅でこっそりと、それでもひたむきに生きる人々の姿を描いたという印象を抱いた短篇集。

どれもささやかで地味なストーリィですが、これは小川洋子さんが最近ずっと書き続けている作品集の同一延長上にあるものと思います。
ただ残念ながらそれらの中では、如何にもファンタジー風の題名ながら、余りストーリィに膨らみが感じられなかったような気がします。

それでも、吃音の少年の前に現れた不思議な老女との関係を描いた
「先回りローバ」、主人公がずっと通い続けたお針子“りこさん”との長きにわたる関係を描いた「亡き王女のための刺繍」、公衆浴場の一部設備であるかのように生きる小母さんを描いた「口笛の上手な白雪姫」は、素敵な物語と感じます。

本書8篇の中では、やはり表題作にもなっている「口笛の上手な白雪姫」が一番好き、でしょうか。


先回りローバ/亡き王女のための刺繍/かわいそうなこと/一つの歌を分け合う/乳歯/仮名の作家/盲腸線の秘密/口笛の上手な白雪姫

    

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