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1.こちら、郵政省特別配達課(1) 4.群青神殿 5.時砂の王 |
美森まんじゅうしろのサオリさん、アリスマ王の愛した魔物、ツインスター・サイクロン・ランナウェイ、ツインスター・サイクロン・ランナウェイ2、ツインスター・サイクロン・ランナウェイ3 、ツインスター・サイクロン・ランナウェイ4 |
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「こちら、郵政省特別配達課(1)」 ★ |
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2014年11月
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1999年08月ソノラマ文庫から刊行された「こちら郵政省特配課」が、個性的なキャラクターによる面白さを追求した次世代ラインナップ“新潮文庫nex”入り。 民間運送業者が始めた宅急便の隆盛に仰天した郵政省が、対抗手段として始めたPRサービスが“特配便”。切手を貼ればどんなものでも配達します、というのがその内容ですが、何と何と! 小川一水さんらしい上質でキレ味のあるSF小説を期待したのですが、ライトノベル。 トレーラーで家一軒を丸ごと運んだり、高層マンションに速達を配達するのに消防署顔負けの特殊はしご車を用いたりと、強烈な個性を発揮するキャラクターをも凌駕する、奇想天外なストーリィ。 何しろ、郵政省の底力をPRするため、特配課が仕える予算は無限、配達のために揃えている装備は“サンダバード”並みなのですから。 個性的な登場人物は、エリート公務員入りと喜んで上京してきたのに・・・という根性ピカ一の八橋鳳一と、特配に強烈な使命感を持ち若い女性ながら班長を務める桜田美鳥、そして・・・。 うーん、ストーリィとしてはかなり軽いなぁ、初期の作品でライトノベルとして書かれた作品ですから仕方ないのかもしれませんが。ただ、奇想天外さが15年経っても遜色ないのは流石というべきでしょう。 1.郵便配達はサイレンを鳴らす/2.郵駿/3.Fly mail to the moon/4.死の赤い香り |
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「こちら、郵政省特別配達課(2)」 ★ |
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2014年11月
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2001年10月ソノラマ文庫から刊行された「追伸・こちら特別配達課」が前巻と共に、個性的なキャラクターによる面白さを追求した次世代ラインナップ“新潮文庫nex”入り。 要は「こちら、郵政省特別配達課(1)」の続編です。 ただし局面は一転し、かつてのSF人形劇「サンダーバード」だった「(1)」に対し、全国に構想配送網を巡らして省益拡大を狙う郵政事業庁長官=水無川とその配下官僚である甥の灘竜也、女性秘書の七條慧が一気に特配課潰しに動くのに対し、その網から逃れ全国に散らばりながらゲリラ作戦的に対抗しようとする特配課チームの攻防を描くストーリィ。 そもそも国家予算を無制限に使う郵政省特別配達課という存在自体、官公庁の肥大化を防ぎ縮小すべき、官費を削減すべきという現代の流れとは現実的には合いませんし、必ずしも主人公たちに全面的には肩入れできないというのが正直な思い。 その面では、主人公の一人である八橋鳳一が、いろいろな経験を通して特配課の存続を守るべきものなのかどうかと迷うのも、むしろ当然のことと感じます。それを補うかのように、八橋とコンビを組む大学後輩にして上司である班長=桜田美鳥の間で徐々にロマンスが進むのは読者向けサービスでしょう。 最後は落ち着くべき処へ追い付いて大団円という処。 なお、今回は車同士のスピード勝負に情熱をたぎらせる舞島ちはるや杉枝静といった女子ドライバー、政界における裏実力者の多加良と彼に仕える少女の朱音といった副次的人物の登場も有り、京都市内での郵便配達競争も有りと、闘争以外の趣向も盛り込まれており、それなりに楽しめました。 ※なお、「暁のリエゾン」は、東日本大震災の被災地を舞台にした特別編。 1.エスケープは速達で/2.Powered by PSA/3.京の赤い流星/4.白き便り来る峰/エピローグ/2014-特別編-暁のリエゾン |
●「回転翼の天使 ジュエルボックス・ナビゲーターjewel box navigator」● ★★☆ |
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FA(フライトアテンダント)志望の夏川伊吹20歳が最後の砦と思い受験したのは地元の優良航空会社=シルバーウイング。 若い女性の、空への憧れと実際の仕事の格差への葛藤、遣り甲斐探し、使える社員になっていくまでの過程を描いた、空系お仕事小説。 伊吹のJBN入社、ヘリ会社事業の厳しさ、災害救助活動へ命懸けの勝手な参加、シルバーウイング航空の妨害、総一郎の変節、大規模災害の発生と、エンターテイメントとしての面白さもたっぷりです。 青春、お仕事、エンターテイメント、あらゆる要素を取り込んだ、面白さ一級品のお仕事小説。是非、読み逃しなく! |
4. | |
「群青神殿」 ★☆ |
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2011年03月 2019年08月
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潜水艇での海底調査に携わる主人公たち。 本作は、その深海を舞台にした海洋SF冒険小説。 鯛島俊機・28歳と見河原このみ・23歳は、潜水艇“デビルゾート”のパイロットと探索員。 2人が所属しているのは民間会社の神鳳鉱産探鉱部。仕事は、潜水艇による深海でのMH(メタンハイドレード)探査。 冒頭、2人は10日間にわたって潜りっぱなし、という探査仕事に従事しているところ。 若い男女が長い日数、狭い潜水艇内で2人っきりという状況が許されるのは、彼らが恋人同士であるという特殊事情から。 無事に調査が終わった彼らに突然、海上保安庁から沈没船の調査仕事が舞い込みます。 沈没した自動車運搬専用船は、何か得体のしれないものに衝突されたらしい。しかも最近、同様の沈没事故が相次いでいる。 探鉱部長である仙山悠華・32歳ら、スタッフが乗り込む支援母船“えるどらど”と共にデビルゾートは調査に向かうのですが、彼らは正体不明の深海生物に遭遇することとなります。 表題の「群青神殿」とは、俊機とこのみが潜った深海で目撃した光景のこと。 ユニークなフィリッピン海軍の老提督が登場するかと思えば、海上自衛隊、さらには米国第七艦隊まで登場するといった派手なシーンもあります。 得体のしれぬ生物に大騒ぎする様子は、ふとジュール・ヴェルヌ「海底二万海里」の冒頭を思い出させられます。 海洋冒険小説、という一言に尽きる作品。 そこには海に対する愛情と、海への警戒感、そして“深海”という未知の世界への魅惑があります。 それなりに楽しめました。 1.わだつみのよびごえ/2.みなそこのきば/3.ぐんじょうのふるさと/エピローグ |
5. | |
「時砂の王」 ★☆ |
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西暦26世紀の未来から 西暦248年邪馬台国・卑弥呼の時代へと時間を遡行するSFストーリィ。 太陽系全体に存在領域を広めた人類は、謎の増殖型戦闘機体群により地球は既に壊滅させられ、残る人類は存続の窮地に追い込まれていた。 そして人類と機体群の戦いは、時間を遡って過去へと向かい、歴史上の現実へと戦いの場を広げていた。 西暦 248年の邪馬台国へ伝達と支援のため送り込まれた人型人工知性体=メッセンジャーは「O(オーヴィル)」。 “使いの王”と名付けられた彼は、卑弥呼と手を携えて戦闘機体(猿猴)と激しい闘いを繰り広げますが、人類の形勢は挽回できるのか・・・・。 時間を遡っての闘い、そこで歴史が変わればそれ以降の状況も次々と変わって行くというストーリィ構成は気宇壮大ですが、一方かなり複雑だよなぁという思いも。 さらに私の好みからすると、卑弥呼も先頭に立って猿猴との闘いを繰り広げるというストーリィはどうもピンと来ない、というのが正直なところ。 ただ、小川一水さんの今後を期待させるに十分な作品です。 |
●「フリーランチの時代」● ★☆ |
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SF小説というと、学生時代はともかく、最近では星新一、梶尾真治作品くらいしか読んでいないので折角読んでももうひとつピンと来ない、というのが本音。 「フリーランチの時代」は、火星に到着した日本の探検隊員・三奈らがエイリアンに身体を乗っ取られてしまう話。ところがアメリカ映画のような乗っ取られ方ではなく、細胞より数十倍も小さいナノマシンで身体の構造を入れ換えるという方法ですから、感覚ベースでは今までの自分と全く変わらない。 「Slowlife in Starship」は、人と接するのが嫌で宇宙船のパイロットをしている十軒原という若い男性が主人公。操縦席の隣席を占領されないよう個人向け汎用ロボット=ミヨを購入して横に座らせているという次第。さてその結果は・・・。そのオチには思わずニヤリ。 「千歳の坂も」は、不老不死になった時代の悲喜劇を大ざっぱにコミカルに描いた一篇。人生千歳は冗談にしろ、高齢化が進む現代社会を思えば冗談では済ませられない要素もあり。 フリーランチの時代/Live me Me./Slowlife in Starship/千歳の坂も/アルワラの潮の音 |
●「煙突の上にハイヒール」● ★★ |
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2012年06月
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SF短編集ではあるけれど、ストーリィの肝心な部分は現代ものと変わらず。むしろSF部分が加わったことによって、楽しさ五割増し、という印象。 ・表題作「煙突の上にハイヒール」は、結婚詐欺男の騙されたと判ってショックを受けたOLが、喪失感の勢いで個人用ヘリコプター(Mew)
を買ってしまう、というストーリィ。 ・「カムキャット・アドベンチャー」は、猫と女の子の話。 ・「イブのオープン・カフェ」。年の暮れ、寒い屋外のカフェ・テラスで向かい合うことになった、若い女性と一体の介護用ロボット。まさに一期一会の人間とロボットの語らい、という舞台設定が洒脱。 ・「おれたちのピュグマリオン」、ピグマリオンは永遠のテーマかなァ。竹本健治「キララ、探偵す。」に似たメイド型アンドロメイドが登場。しかし、根本にあるのはやはり人間関係、という展開に妙あり。 ・「白鳥熱の朝に」は、パンデミックを題材にしたストーリィ。 煙突の上にハイヒール/カムキャット・アドベンチャー/イブのオープン・カフェ/おれたちのピュグマリオン/白鳥熱の朝(あした)に |
8. | |
「博物戦艦アンヴェイル」 ★ |
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2020年02月
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ファンタジー世界を舞台にした、海軍の大型帆船による海洋冒険物語。 今月の文庫化を機に読んでみた次第です。 “博物戦艦”という名称にまず、これって何ぞや?と思う処。 強大な島国ラングラフの国王ウルサール、平和がもたらされたところで今や伝説化している古の生物?“メギオス驚異”を再発見すべく遣わした軍艦がアンヴェイル号という次第。 主人公となるのは、海が苦手な新米少女騎士ティセル(テス)。 その役目は、様々な国の言葉を操ることができるためアンヴェイル号に乗り込むことになった少年ジェイミー(ジャム)の護衛。 そして軍艦であるからにはその操船に安心していられるかと思いきや、名門貴族出の少年艦長アルセーノ(アル)がいかにも自信なさげで心許ない。頼りにするのはアルの肩に留まり助言をし続ける老オウムのスパーという次第。 行く手にはラングラフ王国に敵対するオノキア王国の戦艦ドレンシェガー号を指揮する海軍終身艦長のシェンギルンが待ち受け、何度もアンヴェイル号に攻撃を加え、その任務遂行を困難にします。 そしてようやく、“メギオスの金毛氈”があるというヌソス諸島に辿り着くと、ガラリスク執政官のアンキヘオスとヌソス島の女族長グリーネの抗争に巻き込まれる、といった具合。 ※そのヌソス島諸島の人々、犬のような容貌・肢体をもつ<黄毛の人々>。 さて、その結末は・・・・。 如何にもライトノベル。 なにしろティセルは16歳、アルセーノ17歳という設定ですから。 ティセルは少女とはいえ一応騎士というものの、いつも慌てふためいているばかり。その点、天真爛漫でコミカルなジェイミーの方が臨機応変の対応力を見せ、心強い。 ストーリィとして感銘を受けるような部分は感じられませんが、作者の小川一水さん、さぞ楽しくこの物語を書いたのだろうなぁということは強く感じられます。 序章/1.博物戦艦の出港/2.世界の果てへ/3.黄毛の人々/4.メギオスの金毛氈/終章 |
●「トネイロ会の非殺人事件」● ★★ |
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2014年12月
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「非殺人事件」とはどういう意味か?とまず戸惑うのですが、ストーリィ設定に妙有りという3篇を収録した一冊。 ・「星風よ、淀みに吹け」 将来の月面基地建設を視野に入れた閉鎖環境長期滞在実験施設、男女計6人が8ヶ月を過ごして来たその実験施設内で起きた殺人事件。 密室事件ならぬ、密閉された場所の中で起きた事件というところに妙あり。 ・「くばり神の紀」 主人公である女子高生=石沢花螺は庶子。認知をしてもらっていない実父の死期が近いとその屋敷に呼ばれたところ、その実父が何と死の直前に彼女へ時価5億円近い不動産を与えると遺言します。何故? その裏にあったのは、伊勢山市に言い伝えられる“御配神”いう存在。 その正体はSF的なのですが、そんな御配神が広がれば人間も少しは幸せになるのだろうか、と考えてしまう処が楽しい。 ・「トネイロ会の非殺人事件」 とあるペンションに集まった訳有りの男女10人。彼らを脅迫し続け、追い詰めた相手を共謀して殺そうとしたらしい。10人各々が手を下して初めて成る殺人。ところが唯一人、手を下さなかった人間がいるらしい。 その結果、“非犯人は誰か”という推理劇が展開されていきますが、その推理過程も十分読み応えあり。そして最後は、お決まりのようなドンデン返し。 推理小説の常識をひっくり返した逸品、井上ひさし「四捨五入殺人事件」には及びまないものの、このストーリィ設定はお見事。 ストーリィとしての面白さはともかくとして、3篇とも着想のユニークさに拍手したい。 星風よ、淀みに吹け/くばり神の紀/トネイロ会の非殺人事件 |
10. | |
「コロロギ岳から木星トロヤへ」 ★★☆ |
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21世紀と23世紀をつなぐ驚天動地のSFストーリィ。 スケールの壮大さといい、時間的な広がりといい、本ストーリィの類稀なる発想にはもう脱帽です。 2014年の北アルプス・コロロギ岳山頂の観測所、そこに突如出現した巨大な物体。それは何と、宇宙のビッグバン以来時の流れの中を泳いでいる存在であるといい“カイアク”と名乗ります。 そのカイアク、時の泉を泳ぐ間に楔にぶつかりシッポを挟まれてしまった、ついてはシッポを解放して頼んできます。 そのシッポの場所は、何と2231年の木星前方トロヤ群の小惑星アキレスにある元戦艦内。その元戦艦内には少年2人が閉じ込められていて、彼ら2人も助けて欲しいというのがカイアクからの依頼事項。 2014年と2231年、両者の間でどう通信は行われるのか。そしてどうやって未来にいる2人を過去から救うのか。そこが本作品における強烈な面白さです。 場所的かつ時間的にも壮大なスケール、まるで夢物語みたいな展開に、思わず跳び上がって踊りたくなってしまうくらい。 様々なタイムトラベル・ストーリィの書き手である梶尾真治さんも、この発想には真っ青ではないでしょうか。 |