小川一水
(いっすい)作品のページ


1975年岐阜県生。96年「まずは一報ポプラパレスより」(河出智紀名義)にて集英社ジャンプノベル小説・ノンフィクション大賞を受賞し作家デビュー。2004年「第六大陸」にて第35回星雲賞日本長編部門、06年「漂った男」にて第37回星雲賞日本短編部門を受賞。


1.こちら、郵政省特別配達課(1)

2.こちら、郵政省特別配達課(2)

3.回転翼の天使

4. 時砂の王

5. フリーランチの時代

6.煙突の上のハイヒール

7.トネイロ会の非殺人事件

8.コロロギ岳から木星トロヤへ

9.美森まんじゃしろのサオリさん

10.アリスマ王の愛した魔物

  


        

1.

「こちら、郵政省特別配達課(1)」 


こちら、郵政省特別配達課(1)画像

1999年08月
ソノラマ文庫刊

2014年11月
新潮文庫
(590円+税)



2014/11/14



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1999年08月ソノラマ文庫から刊行された「こちら郵政省特配課」が、個性的なキャラクターによる面白さを追求した次世代ラインナップ“新潮文庫nex”入り。

民間運送業者が始めた宅急便の隆盛に仰天した郵政省が、対抗手段として始めたPRサービスが“特配便”。切手を貼ればどんなものでも配達します、というのがその内容ですが、何と何と!
小川一水さんらしい上質でキレ味のあるSF小説を期待したのですが、ライトノベル。
トレーラーで家一軒を丸ごと運んだり、高層マンションに速達を配達するのに消防署顔負けの特殊はしご車を用いたりと、強烈な個性を発揮するキャラクターをも凌駕する、奇想天外なストーリィ。
何しろ、郵政省の底力をPRするため、特配課が仕える予算は無限、配達のために揃えている装備は
“サンダバード”並みなのですから。
個性的な登場人物は、エリート公務員入りと喜んで上京してきたのに・・・という根性ピカ一の
八橋鳳一と、特配に強烈な使命感を持ち若い女性ながら班長を務める桜田美鳥、そして・・・。

うーん、ストーリィとしてはかなり軽いなぁ、初期の作品でライトノベルとして書かれた作品ですから仕方ないのかもしれませんが。ただ、奇想天外さが15年経っても遜色ないのは流石というべきでしょう。


1.郵便配達はサイレンを鳴らす/2.郵駿/3.Fly mail to the moon/4.死の赤い香り

     

2.

「こちら、郵政省特別配達課(2)」 


こちら、郵政省特別配達課(2)画像

2001年10月
ソノラマ文庫刊

2014年11月
新潮文庫
(670円+税)



2014/12/20



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2001年10月ソノラマ文庫から刊行された「追伸・こちら特別配達課」が前巻と共に、個性的なキャラクターによる面白さを追求した次世代ラインナップ“新潮文庫nex”入り。
要は
こちら、郵政省特別配達課(1)の続編です。
ただし局面は一転し、かつてのSF人形劇「サンダーバード」だった「(1)」に対し、全国に構想配送網を巡らして省益拡大を狙う郵政事業庁長官=
水無川とその配下官僚である甥の灘竜也、女性秘書の七條慧が一気に特配課潰しに動くのに対し、その網から逃れ全国に散らばりながらゲリラ作戦的に対抗しようとする特配課チームの攻防を描くストーリィ。

そもそも国家予算を無制限に使う郵政省特別配達課という存在自体、官公庁の肥大化を防ぎ縮小すべき、官費を削減すべきという現代の流れとは現実的には合いませんし、必ずしも主人公たちに全面的には肩入れできないというのが正直な思い。
その面では、主人公の一人である八橋鳳一が、いろいろな経験を通して特配課の存続を守るべきものなのかどうかと迷うのも、むしろ当然のことと感じます。それを補うかのように、
八橋とコンビを組む大学後輩にして上司である班長=桜田美鳥の間で徐々にロマンスが進むのは読者向けサービスでしょう。

最後は落ち着くべき処へ追い付いて大団円という処。
なお、今回は車同士のスピード勝負に情熱をたぎらせる
舞島ちはる杉枝静といった女子ドライバー、政界における裏実力者の多加良と彼に仕える少女の朱音といった副次的人物の登場も有り、京都市内での郵便配達競争も有りと、闘争以外の趣向も盛り込まれており、それなりに楽しめました。

※なお、「暁のリエゾン」は、東日本大震災の被災地を舞台にした特別編。

1.エスケープは速達で/2.Powered by PSA/3.京の赤い流星/4.白き便り来る峰/エピローグ/2014-特別編-暁のリエゾン

     

3.

●「回転翼の天使 ジュエルボックス・ナビゲーターjewel box navigator」● ★★☆


回転翼の天使画像

2000年09月
ハルキ文庫刊
(720円+税)



2011/09/24



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FA(フライトアテンダント)志望の夏川伊吹20歳が最後の砦と思い受験したのは地元の優良航空会社=シルバーウイング
しかしそこも面接で不合格となった伊吹が何とか確保した就職先は、僅か社員2名という地元の弱小ヘリ会社=
ジュエルボックス・ナビゲイター社(JBN)
空に関係ある仕事とはいえ、実際の仕事は地べた9割・空1割という状況で、空1割もそう伊吹が搭乗できるものでもない。
仕事にやりがいが見いだせず悶々としたまま、信じられないような泥仕事を続ける伊吹でしたが・・・・。

若い女性の、空への憧れと実際の仕事の格差への葛藤、遣り甲斐探し、使える社員になっていくまでの過程を描いた、空系お仕事小説。
その伊吹を迎える側は、民間ヘリ会社ながら費用持ち出しで何の儲けにもならない人命救助に熱心な社長=
神領総一郎30歳と、ヘリパイロットの犬山巧23歳という2人。
伊吹の、弾けているキャラクターが実に楽しいのですが、総一郎・巧と合せた3人の取り合わせがまた実に良い。

伊吹のJBN入社、ヘリ会社事業の厳しさ、災害救助活動へ命懸けの勝手な参加、シルバーウイング航空の妨害、総一郎の変節、大規模災害の発生と、エンターテイメントとしての面白さもたっぷりです。
ふと気づくと、これって
アーサー・ヘイリーの小説に似たストーリィ展開ではあるまいか(真似した訳ではないでしょうけど)。
そうであれば、面白くない筈がない!

青春、お仕事、エンターテイメント、あらゆる要素を取り込んだ、面白さ一級品のお仕事小説。是非、読み逃しなく!

          

4.

「時砂の王」 ★☆


時砂の王画像

2007年10月
ハルキ文庫刊
(600円+税)



2014/12/20



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西暦26世紀の未来から 西暦248年邪馬台国・卑弥呼の時代へと時間を遡行するSFストーリィ。

太陽系全体に存在領域を広めた人類は、謎の増殖型戦闘機体群により地球は既に壊滅させられ、残る人類は存続の窮地に追い込まれていた。
そして人類と機体群の戦いは、時間を遡って過去へと向かい、歴史上の現実へと戦いの場を広げていた。
西暦 248年の邪馬台国へ伝達と支援のため送り込まれた人型人工知性体=メッセンジャーは「
O(オーヴィル)」。
使いの王”と名付けられた彼は、卑弥呼と手を携えて戦闘機体(猿猴)と激しい闘いを繰り広げますが、人類の形勢は挽回できるのか・・・・。

時間を遡っての闘い、そこで歴史が変わればそれ以降の状況も次々と変わって行くというストーリィ構成は気宇壮大ですが、一方かなり複雑だよなぁという思いも。
さらに私の好みからすると、卑弥呼も先頭に立
って猿猴との闘いを繰り広げるというストーリィはどうもピンと来ない、というのが正直なところ。

ただ、小川一水さんの今後を期待させるに十分な作品です。

   

5.

●「フリーランチの時代」● ★☆


フリーランチの時代画像

2008年07月
ハヤカワ文庫

(660円+税)



2008/09/15



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SF小説というと、学生時代はともかく、最近では星新一、梶尾真治作品くらいしか読んでいないので折角読んでももうひとつピンと来ない、というのが本音。
新聞の書評で斬新な発想のSF小説と好評だったところから読んだ一冊ですが、そんな訳でもう一つストーリィの中に入り込めていないという感じです。
それでも「フリーランチの時代」「Slowlife in Starship」「千歳の坂も」は面白かった。

「フリーランチの時代」は、火星に到着した日本の探検隊員・三奈らがエイリアンに身体を乗っ取られてしまう話。ところがアメリカ映画のような乗っ取られ方ではなく、細胞より数十倍も小さいナノマシンで身体の構造を入れ換えるという方法ですから、感覚ベースでは今までの自分と全く変わらない。
たとえエイリアンに身体を乗っ取られようが、宇宙全体の中で共存共栄が進むのであればそれも結構なのではないかと思わされてしまうところが愉快。

「Slowlife in Starship」は、人と接するのが嫌で宇宙船のパイロットをしている十軒原という若い男性が主人公。操縦席の隣席を占領されないよう個人向け汎用ロボット=ミヨを購入して横に座らせているという次第。さてその結果は・・・。そのオチには思わずニヤリ。

「千歳の坂も」は、不老不死になった時代の悲喜劇を大ざっぱにコミカルに描いた一篇。人生千歳は冗談にしろ、高齢化が進む現代社会を思えば冗談では済ませられない要素もあり。
※なお、こうしたストーリィを読むたびにハックスリー「すばらしい新世界」を思い出して比べてみずにはいられません。

フリーランチの時代/Live me Me./Slowlife in Starship/千歳の坂も/アルワラの潮の音

   

6.

●「煙突の上にハイヒール」● ★★


煙突の上にハイヒール画像

2009年08月
光文社刊
(1500円+税)

2012年06月
光文社文庫化



2010/03/29



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SF短編集ではあるけれど、ストーリィの肝心な部分は現代ものと変わらず。むしろSF部分が加わったことによって、楽しさ五割増し、という印象。

・表題作「煙突の上にハイヒール」は、結婚詐欺男の騙されたと判ってショックを受けたOLが、喪失感の勢いで個人用ヘリコプター(Mew) を買ってしまう、というストーリィ。
ヘリコプターと言っても背負い式のプロペラ装置。身軽に気軽に空の上を散歩、という代物。さて主人公の織香、Mew によって何か幸せを手に入れることができたのか。
SFというより、ファンタジーというに相応しい一篇。

・「カムキャット・アドベンチャー」は、猫と女の子の話。
ちとそそられるところはあるものの、一応は若者たちと女の子の健全なお仲間ストーリィ。
この冒頭2篇が楽しくて、私好み。

・「イブのオープン・カフェ」。年の暮れ、寒い屋外のカフェ・テラスで向かい合うことになった、若い女性と一体の介護用ロボット。まさに一期一会の人間とロボットの語らい、という舞台設定が洒脱。

・「おれたちのピュグマリオン」ピグマリオンは永遠のテーマかなァ。竹本健治「キララ、探偵す。に似たメイド型アンドロメイドが登場。しかし、根本にあるのはやはり人間関係、という展開に妙あり。

・「白鳥熱の朝に」は、パンデミックを題材にしたストーリィ。
絵空事と済ませられない部分に、目をそらせられません。

煙突の上にハイヒール/カムキャット・アドベンチャー/イブのオープン・カフェ/おれたちのピュグマリオン/白鳥熱の朝(あした)に

     

7.

●「トネイロ会の非殺人事件」● ★★


トネイロ会の非殺人事件画像

2012年04月
光文社刊
(1400円+税)

2014年12月
光文社文庫化



2012/05/16



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「非殺人事件」とはどういう意味か?とまず戸惑うのですが、ストーリィ設定に妙有りという3篇を収録した一冊。

・「星風よ、淀みに吹け」
将来の月面基地建設を視野に入れた閉鎖環境長期滞在実験施設、男女計6人が8ヶ月を過ごして来たその実験施設内で起きた殺人事件。
密室事件ならぬ、密閉された場所の中で起きた事件というところに妙あり。
・「くばり神の紀」
主人公である女子高生=
石沢花螺は庶子。認知をしてもらっていない実父の死期が近いとその屋敷に呼ばれたところ、その実父が何と死の直前に彼女へ時価5億円近い不動産を与えると遺言します。何故?
その裏にあったのは、伊勢山市に言い伝えられる
“御配神”いう存在。
その正体はSF的なのですが、そんな御配神が広がれば人間も少しは幸せになるのだろうか、と考えてしまう処が楽しい。
・「トネイロ会の非殺人事件」
とあるペンションに集まった訳有りの男女10人。彼らを脅迫し続け、追い詰めた相手を共謀して殺そうとしたらしい。10人各々が手を下して初めて成る殺人。ところが唯一人、手を下さなかった人間がいるらしい。
その結果、“非犯人は誰か”という推理劇が展開されていきますが、その推理過程も十分読み応えあり。そして最後は、お決まりのようなドンデン返し。
推理小説の常識をひっくり返した逸品、
井上ひさし「四捨五入殺人事件には及びまないものの、このストーリィ設定はお見事。

ストーリィとしての面白さはともかくとして、3篇とも着想のユニークさに拍手したい。

星風よ、淀みに吹け/くばり神の紀/トネイロ会の非殺人事件

        

8.

「コロロギ岳から木星トロヤへ」 ★★☆


コロロギ岳から木星トロヤへ画像

2013年03月
ハヤカワ文庫
(600円+税)


2013/05/31


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21世紀と23世紀をつなぐ驚天動地のSFストーリィ。
スケールの壮大さといい、時間的な広がりといい、本ストーリィの類稀なる発想にはもう脱帽です。

2014年の北アルプス・コロロギ岳山頂の観測所、そこに突如出現した巨大な物体。それは何と、宇宙のビッグバン以来時の流れの中を泳いでいる存在であるといい“カイアク”と名乗ります。
そのカイアク、時の泉を泳ぐ間に楔にぶつかりシッポを挟まれてしまった、ついてはシッポを解放して頼んできます。
そのシッポの場所は、何と
2231年の木星前方トロヤ群の小惑星アキレスにある元戦艦内。その元戦艦内には少年2人が閉じ込められていて、彼ら2人も助けて欲しいというのがカイアクからの依頼事項。

2014年と2231年、両者の間でどう通信は行われるのか。そしてどうやって未来にいる2人を過去から救うのか。そこが本作品における強烈な面白さです。
場所的かつ時間的にも壮大なスケール、まるで夢物語みたいな展開に、思わず跳び上がって踊りたくなってしまうくらい。
様々なタイムトラベル・ストーリィの書き手である梶尾真治さんも、この発想には真っ青ではないでしょうか。

            

9.

「美森まんじゃしろのサオリさん ★☆


美森まんじゃしろのサオリさん

2015年06月
光文社刊
(1500円+税)



2015/07/14



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もはや限界集落寸前の美森町が舞台。
美森町には
美森卍社があり、“美森さま”は町の守り神。さらに美森さまには多数の“お使い”がいて、美森さまの手足となって様々に活躍するのだという。
死んだ祖母の家を管理しに来てそのまま居着き「何でも屋」を開業した
岩村猛志20歳は、地元民で現在女子大生の貫行詐織21歳から誘い込まれ、町立探偵<竿竹室士>を結成。美森町の住人の間で起きる不思議な事件を解決するために奮闘します。

幽玄的ファンタジー&ミステリ短篇集といった印象でしたが、現代より一歩先に進んだ未来社会に時代設定されているらしく、SF的な小道具がいろいろと登場する処はやはり小川一水さんならではのところ。
一見両立しないような要素が一つストーリィの中に溶け合っている処が本書の面白味です。

冒頭から4篇は、いずれも美森さまの
<お使い>の名前を題名として、それにまつわるストーリィ。
但しそれだけでは、それなりに楽しめる連作短篇集で終わりかねないところをステップアップさせて見せたのが最後の章。
詐織が抱えていた秘密を描くと共に、それまでの4篇とは異なり大きく広がる情景を描き出しています。
前4篇があるからこそこの章あり。そして主人公2人の前進章となっている故に、嬉しくかつ楽しい。

小川一水ファンならばこそ楽しめる短篇集と感じる次第です。


まんじゃしろのふしみさん/いおり童子とこむら返し/水陸さんのおひつ抜き/救母ヶ谷の武者烟/美森まんじゃしろの姫隠し

           

10.

「アリスマ王の愛した魔物 ★★


アリスマ王の愛した魔物

2017年12月
ハヤカワ文庫

(700円+税)



2018/01/25



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最新SF短篇集とのこと。

「ろーどそうるず」
現物のバイク
M3R3011と、その実走報告をモニターし遠隔サポートするRD16-VPTとの間で交わされる、AI同士のやりとりを綴った篇。人間のすぐ近くにある、見知らぬ世界を覗くような面白さあり。

「ゴールデンブレッド」
宇宙戦闘機のパイロットが不時着したのは辺鄙な惑星。最初こそその惑星住民の未開ぶりに不満を重ねていたパイロットですが、次第に・・・。現代世界にも通じるところが面白さ。

「アリスマ王の愛した魔物」
星雲賞を受賞したという表題作。
弱小王国のうえに、醜悪な風貌の第六王子である
アリスマが、数字と計算力によって他国を席巻していくストーリィ。でも、それはアリスマ王子にとって幸せだったのかどうか・・・。

「星のみなとのオペレーター」
小惑星イダの宇宙港管制室のオペレーター、
筒見すみれを主人公とした、愛嬌とスリルとロマンスを盛り込んだストーリィ。
本書中では、最もユーモアもあって楽しい篇。

「リグ・ライト−機械が愛する権利について」
本書中、私がもっとも惹き込まれた篇。
死んだ祖父から自律自動車
クローと、その自動車付属ロボット?であるアサカを相続したシキミが主人公。
シキミ、アサカとのやりとりを重ねるうち、アサカは感情を持っているのか?と思うようになるのですが・・・。
最後に待ち受けていたのは、意外な事実と意外な展開。
最近、AIはどこまで人間に近づくのか、人間と対等な存在になりうるのか、といったSF小説・映画を多く見かけるようになったと思うのですが、本篇もそのひとつ。
決して絵空事ではないと思えるようになったこの頃だからこそ、魅了されます。


ろーどそうるず/ゴールデンブレッド/アリスマ王の愛した魔物/星のみなとのオペレーター/リグ・ライト−機械が愛する権利について

    


  

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