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1.咲ク・ララ・ファミリア 2.恐ろしくきれいな爆弾 3.片をつける 4.鎌倉駅徒歩8分、空室あり 5.鎌倉駅徒歩8分、また明日 |
1. | |
「咲ク・ララ・ファミリア」 ★★ | |
2020年04月
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22歳の時に母親が三女の家庭教師と駆け落ち決行。就職したばかりの生保会社を退職し、それ以来15年間にわたって父親と2人の妹のために家事を引き受けて頑張ってきたと自賛する次女の柊子が、まず第1章での主人公。 張本人の父親は背後に控え、森戸家に早速引っ越してきた薫と森戸家四姉妹が組んず解れつ相互にバトルを繰り広げる、新たな家族の物語。 しかし、これだけお互い身勝手に本音を曝け出し合い、いがみ合いが出来るのなら、こんな家族に加わるのも気楽ではないかと思う次第。そんなことが出来るのも家族だから、という一言は至極ご尤もと嬉しくさえ感じられます。 |
「恐ろしくきれいな爆弾」 ★★ | |
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当選3回ながら「輝け!女性活躍担当大臣」として初入閣を果たした福永乙子、46歳。 そもそも“女性活躍担当”などという名称が女性差別、男目線の社会をひっくり返す、とシュプレヒコールを上げ世間の注目を集めます。 ところがその乙子、その隠された経歴はというと、実はとんでもないものだった。 有力政治家の隠し子、新興宗教の教祖、VIP専門のコールガール、元総理の養女となるものの実は愛人、等々。 自分を見下げてやまない有力政治家たちを、乙子はあらゆる手立てを使い、脅し、罠に嵌めて失脚させ、その反面において政治の世界でのし上がっていく。 確かに乙子は冷酷な悪女でしょう、その正体が暴かれれば自分こそ抹殺されかねない、許されるざる存在かもしれません。 しかし、その相手は・・・というと、これまた褒められるような政治家ではない。 だからこそ、脅迫、罠を駆使しようと、どこか痛快に感じてしまうのです。 まさに、政治版ピカレスク(悪漢)小説と言う処でしょう。 国民である読者にとって福永乙子をどう評価するかは、乙子がどういう政治を行うか、それ次第によるのではないでしょうか。 「恐ろしくきれいな爆弾」とは、そのまま福永乙子のこと。 本作の面白さは、その爆弾ぶりが遺憾なく発揮されるところにあります。 読み手の好み次第かもしれませんが、女性読者にとってはきっと胸がすくストーリィだと思います。お薦め。 ※初の女性総理誕生・・・どこかで読んだことがあるなと思ったら、原田マハ「総理の夫」でした。同様に女性政治家を描いていると言っても、趣きはだいぶ異なります。 |
「片をつける」 ★★☆ | |
2023年01月
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いいなぁ、この作品。居心地の良さを心から感じます。 大きなストーリィではありません。40歳間近の女性主人公と、隣の部屋に住む老女という、互いに孤独な女性同士の交流を描いた作品。 好みの問題かもしれませんが、いいんですよねぇ。 恵まれない生い立ち、可愛がってくれた祖母も、自分を邪魔扱いしろくに構ってもくれなかった母も既に死去、もうすぐ40歳になる主人公=阿紗は孤独に暮らす女性。 その阿紗の暮らしに変化をもたらしたのは、隣室に住む口の悪い老女である八重。 ひょんなことから阿紗は、ゴミ屋敷ならぬゴミ部屋と化した八重の部屋の片づけを手伝うことになります、というか殆ど阿紗の主導、阿紗の奮闘による片づけ。 その片づけ作業の中で、2人の間に自然な交流が生まれ、お互いに自分の人生を見直す契機となっていく。 2人の距離感が絶妙に良いのです。 そこには義務感とか責任とか、やってあげるというような押し付けの気持ちはありません。 勝手に頼みごとをし、気になったから手伝ってあげる、綺麗になればなったで自分も気持ち良い、という他人同士、かつ対等な関係。 2人の出会いは、ありのままの自分で良いのだと思える、お互いにとって幸せなものだったと信じます。 ※なお、ヨハネと名づけられた○○○○の存在がユニーク。 |
「鎌倉駅徒歩8分、空室あり」 ★★ | |
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尾内香良(おうちから)・45歳が父親から引き継ぎ、自宅で営んでいる“おうちカフェ”。 カフェといっても客は僅か。3年前に勤め先を退職して以来、広い自宅と庭で静かに暮らしてきた香良でしたが、そこに飛び込んできたのが、大学時代からの友人=林三樹子。 これまで何度も家出しては尾内家にやって来た三樹子ですが、今度こそ離婚してきたと、端から尾内家に居座るつもり。 その三樹子、どうせ部屋が何部屋も空いているのだからシェアハウスをしようと提案し、一方的に共同経営者を自称します。 本作はそこから始まる、それぞれにトラウマを抱えて来た4人の女性たちによるシェアハウス、始まりの物語です。 いやあ、とても居心地が良いのです、本作。ゆっくり豊かに寛いでいられるというか。好きでだなァ、こうした雰囲気のストーリィは。 ・柴犬の「つん」連れで入居してきた藤村里子・52歳は、早速に三樹子と大喧嘩。 ・モデル並みの美女である道永あゆみ・37歳には、美女とは思えぬ問題のあることが明らかになります。 ・息子に家を奪われた加藤千恵子・73歳は、失意のまま入居。 ・そして大家である香良は・・・。 それぞれが抱える問題をお互いに受け入れ、手を繋ぎ合ってこれから一緒に暮らしていく。そうして展開が実に気持ち良い。 私好みだからですが、お薦めです。 ※なお、本作を読んで思い出したのが次の3作。趣向に違いはありますが、こちらもお薦めです。 ・帚木蓬生「千日紅の恋人」。こちらは38歳の女性が大家業。 ・はらだみずき「やがて訪れる春のために」。庭でカフェ。 ・畑野智美「若葉荘の暮らし」。こちらもシェアハウス話。 1.おうちカフェ−香良/2.お墨つき−三樹子/3.カツかカレーか?−里子/4.ラブアップル−あゆみ/5.飛花落花−千恵子/最終章.集真藍パーティー |
「鎌倉駅徒歩8分、また明日」 ★★ | |
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「鎌倉駅徒歩8分、空室あり」の続編。 前作からちょうど1年後となる<おうちカフェ>住人たちのストーリーのようです。 住んでいる女性たちがお互いに寄り添い、励まし合って暮らしているという雰囲気は前作と変わらず、その雰囲気が何とも快いのです。 本作で新たに住人となるのは、隣人の<グラディスさん>、その娘である倉林美佐緒、45才、独身。 パティシエ修業だとフランスに3年間留学していたのに、いつのまにか中退、お金が尽きて帰国したことに父親が激怒、「尼寺へ行け」と言われ、母親の頼みで入居、という次第。 本作では各住人たちが、様々な人物と出会い、関わり合うことでちょっと世界を広げていく、という展開もまた素敵です。 前作に引き続き、本作もお薦め。 ・香良は、インスタのフォロワーと。 ・三樹子は、千恵子のハーブ教室の先生である和泉田ゆきと。 ・里子は、ちいさな古書店の韓国人店主イ・ムヒョクと。 ・千恵子もまた、和泉田ゆきとその息子=碧と。 ・あゆみは、新たな恋と。 なお、美佐緒が今回メンバーに加わったことで、各章の最後は、彼女の作る美味しいパスタを皆で賞味する、という楽しみが加わっています。 そのレシピが、巻末に付け加えられています。 1.おうちカフェ まだまだ空き室あり−香良/2.雨の日と月曜日は−美佐緒/3.左様なら−三樹子/4.月が本当にきれいですね−里子/5.ターン ターン ターン−千恵子/6.答えは風の中に−あゆみ/最終章.腐草為蛍(くされたるくさほたるとなる)−香良 ※おうちカフェ−パスタレシピ |