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2.神様のカルテ2 3.神様のカルテ3 4.神様のカルテ0 7.始まりの木 8.レッドゾーン 9.スピノザの診察室 10.君を守ろうとする猫の話 |
1. | |
「神様のカルテ」 ★☆ 小学館文庫小説賞 |
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2011年06月
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余りに持ち上げられていると、かえって胡散臭く思ってしまい、読むのは止めておこうかと思ってしまうのが、少々へそ曲がりな私の性分。 舞台は信州・松本平にある民間の一病院、本庄病院。 地域医療の最前線における苛酷な状況、睡眠不足で疲れ切った顔の医師に点滴される側の方が不安ではないか、と主人公は自嘲して止まない。 そうした戯画的な部分に重きを置かず、現代医療の実態、そして医療とはどうあるべかを考えてみるところに、本書を読む意味はあるのではないかと思います。 満天の星/門出の桜/月下の雪 |
「神様のカルテ2」 ★☆ |
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2013年01月
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「神様のカルテ」の続編。 過酷な勤務を強いられる医療現場を舞台にしている本作で今回問われるのは、勤務医とはいえ、医師である前に人間であるという主張が許されるのか、ということ。 医師とはいえ、医師である前に人間であるのは当然のこと、と言ってしまうのは簡単なことですが、それを許さない実態があるのは事実でしょう。しかし、改善の余地が全くないのかと言えば、全くの門外漢ながら工夫すべきことはいろいろあるのではないかと思います。 主人公の変人ぶり故に、今回も楽しみながら読める作品です。 紅梅記/桜の咲く町で/花桃の季節/花水木 |
3. | |
「神様のカルテ3」 ★★ |
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2014年02月
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人気シリーズ「神様のカルテ」第3弾。 そんな本庄病院に一石を投じたのは、古狐先生の代わりに新しく内科に加わった12年目の医師=小幡奈美の存在。大狸=板垣先生の教え子であるという点では栗原と一緒と言えるが、日夜最新医療知識の習得を怠らず、論文発表にも積極的な点は栗原が瞠目せざるを得ないところ。 上記のとおり、新任の小幡女医の存在が強烈なスパイスとなって、ストーリィに緊迫感と躍動感を与えていて、従来にない読み応えを感じさせてくれます。 プロローグ/夏祭り/秋時雨/冬銀河/大晦日/宴/エピローグ |
4. | |
「神様のカルテ0」 ★★ |
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2017年11月
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人気シリーズ「神様のカルテ」第4弾。 「有明」は、信濃大学医学部の学生寮「有明寮」が舞台。優等生のタツこと進藤辰也を主人公に、同級生で漱石好きな変わり者の栗原一止、真っ黒に日焼けした巨漢の砂山次郎、テニス実力者の草木まどか、そして一年後輩の女子=如月千夏といった面々が登場します。医学部卒業を控えて各人の進路が問われる篇。 「彼岸過ぎまで」(漱石の小説名そのまま)は本庄病院の内科部長=板垣源蔵が主人公。経営立て直しのため招かれた新事務長=金山弁次と医師たちの軋轢を描いた篇。まだ本庄病院の外科部長の地位にあった乾、内科副部長の内藤鴨一も登場です。 「神様のカルテ」の主人公は栗原一止、本庄病院に研修医として勤め始めたばかりです。激務の中、初めて自分が担当した患者の容態に試練を味わいます。指導医である“大狸先生”こと板垣医師、救急部副師長の外村看護師、東西直美看護師も登場。栗原の下宿先は勿論“御嶽荘”です。 「冬山記」の主人公は片島榛名、山岳写真家である榛名の凄さをいみじくも実際に表した篇。 |
5. | |
「本を守ろうとする猫の話」 ★☆ |
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2022年09月
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幼くして両親が離婚、母親は若くして死去し、中学生の頃から古書店を営む祖父の元で暮らしてきた夏木林太郎。 その祖父が突然死去し、それまで全く知らなかった叔母が登場してその元に引き取られることが決まったものの、林太郎は祖父の遺した夏木書店で高校にも行かずぼぉーっとした状態のまま。 そんな林太郎の前に言葉を話すトラ猫が現れ、一緒に迷宮に行って閉じ込められている本を助けてほしいと頼んできます。 そこから幾つもの迷宮を訪ね、各迷宮の主の身勝手な考えを論破して苦境に置かれた本を助け出すという、林太郎のファンタジー冒険が始まります。 ただし、この林太郎、地味で冴えないごくフツーの高校生、いわゆる冒険の主人公にはまるで似つかわしくないキャラクター。それでも古書店で暮らしてきただけに本好きであることは間違いありません。そして林太郎が口にする反論も、本好きであれば当然に抱いている思いに過ぎません。 その意味では、本好きだからこそ楽しめるファンタジー。 同級生で学級委員長の柚木沙夜も林太郎のその冒険に加わり、ちょっぴり大人に向かう成長+友情物語に仕上がっています。 林太郎から見ればファンタジー冒険物語ですが、本が置かれた苦境とはそのまま現在の書店・出版業界の厳しい状況を端的に描き出した、鋭い風刺に他ならないことは一目瞭然です。 つまりは、リアルとファンタジーを融合させた冒険譚。 ※なお、林太郎が沙夜に勧め、面白さのあまり睡眠不足になったと沙夜が文句をつけた作品がオースティン「自負と偏見」。 その題名を見て嬉しかったのは、「高慢と偏見」という邦題が一般的なところ、「自負と偏見」とは私の好きな中野好夫訳を示すものであるからです。 序章.事の始まり/1.第一の迷宮「閉じ込める者」/2.第二の迷宮「切りきざむ者」/3.第三の迷宮「売りさばく者」/4.最後の迷宮/終章.事の終わり |
6. | |
「新章 神様のカルテ」 ★★ |
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2020年12月
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人気シリーズ「神様のカルテ」第5弾。 今回「新章」と名付けられたように、舞台は松本平にある本庄病院にから信濃大学病院に移ります。 といっても、主人公の栗原一止が日夜激務に追いまくられている状況はまるで変わらず。「引きの栗原」の異名はここ大学病院でも健在です。 ただし医師9年目、<消化器内科第三班>の実質リーダーだというのに身分は大学院生、それ故に月給は僅か18万円、そこから授業料5万円が引かれるというのですから、呆れるくらい悲惨なものです。あれ程の激務をこなしているというのに。 地域医療支援病院、大学病院の大きな違いは、大勢の、そしていろいろな医者がいる、ということ。 しかし、そのために規則、ルールが多く、結果的に医者への縛りが多くなっている。 本作においてその課題が浮かび上がるのは、すい臓癌が発見された 7歳の娘をもつ29歳の若い母親。その二木美桜の病状に対して栗原らはどう立ち向かうのか。 緊迫感が増す終盤は、まさに栗原一止の面目躍如。 医者はどう行動すべきか、患者とどう向き合うべきなのか。 患者のためになることが第一と、栗原は相変わらず猪突猛進。その所為で、何度も実権者である宇佐美准教授と対立します。 軋轢が多いほど、こうした医療ドラマは読み応えも膨らみます。 さらなる続編を期待したくなりました。 ※一止とハル(榛名)夫婦も、今は小春という2歳の女児の親。 栗原家のプリンセスが所々で愛らしさを振りまいてます。 プロローグ/1.緑光/2.青嵐/3.白雨/4.銀化粧/5.黄落/エピローグ |
7. | |
「始まりの木」 ★☆ |
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2023年08月
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夏川さん、“医療”から“民俗学”の世界へ。 主人公の藤崎千佳は東々大学の院生1年生。所属する研究室は、古屋神寺郎(かんじろう)准教授の民俗学研究室。 その古屋准教授が、学者としての実績は一流であるものの、極めて偏屈な人物。そのため信奉者も多いが、敵も多い、という困った人物。 何が原因なのか、左足に障碍あり。しかし、そんな障碍をものともせず、日本国中へフィールドワークに出掛けます。 その際の荷物運び役となるのが千佳。 「旅の準備をしたまえ」という古屋准教授の一言を受け、千佳は今日も一緒に旅立ちます・・・というストーリィ。 偏屈な准教授と、あっけらかんとした快活な女子学生というコンビのやりとりが楽しい。 古屋准教授が毎度口にする偏屈な言葉は、「神様のカルテ」の栗原一止に似ています。 旅立つというストーリィは、いつでも心楽しくなるものですが、本作についてはちょっと、そうでもないかな。 旅先での美しい風景も合間合間に描かれますが、いつも民俗学の視点があるからかもしれません。 さて、民俗学とは何か、必要な理由は何か・・・。 読者は主人公の千佳と一緒に、その問題について考えていくことになります。 それと対極にあるのが、西洋のような一神教的思考、そして現代日本の風潮。 だからこそ「民俗学の出番」という古屋准教授の言葉には、胸を突かれるものがあります。 本書は、民俗学の世界へ足を踏み出そうとする巻。「神様のカルテ」と同様、続巻があるのでしょうね、きっと。 1.寄り道/2.七色/3.始まりの木/4.同行二人/5.灯火 |
8. | |
「レッドゾーン」 ★★ |
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新型コロナ感染診療に立ち向かった医師たちの苦闘を描く連作風ストーリィ。 「臨床の砦」の続編とのことですが、同作を読んでいないので、私が新型コロナ感染を医師側から描いた作品を読むのは、本作が初めてです。 舞台は、長野県にある公立の信濃山病院。時期は令和2年2月から。 新型コロナがどういったウィルスか、どこまで感染が広がるのかも分からず、治療方法も解らないといった時期。 一部職員の反対はあっても、地域で初めてコロナ感染の疑いのある患者の受け入れを決断します。 それに伴い、3人の医師でチームを組織、ベテラン看護師と協力して診療に当たっていくのですが・・・・。 患者側からすると病院、医師なのだから診て欲しいというのは当然のことですが、コロナ診療が病院・医師・看護師にとってこれほど過酷なことだったとは。小説で読んだからこそ初めてリアルに感じることができたと言えます。 一方、信濃山病院に押し付けて他の病院はコロナ診療から逃げまくっている、信濃山病院の苦境を見て見ぬふりをする。 そこには“沈黙の壁”があるという指摘は、衝撃的でした。 新型コロナの感染ひろがりも第7波まで来て、ワクチン接種も4回まで実施した現状からみると、2年前の状況は隔世の感がありますが、医療現場の苦闘ぶりを読めたことは良かった、と思います。 とくに、「第3章 ロックダウン」が圧巻。 それにしても、<見て見ぬふり>というのは、どんな場合においても、どんなことにつけても、行うべきではないことと思い、身が引き締まる気がします。 プロローグ/1.レッドゾーン/2.パンデミック/3.ロックダウン/エピローグ |
9. | |
「スピノザの診察室」 ★★ |
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「神様のカルテ」後、その発展形と言うべき新たなシリーズの始動でしょうか。 主人公の雄町(おまち)哲郎は、京都の街中にある48病床を持つ地域病院<原田病院>に勤務する消化器内科医、38歳。 かつて洛都大学病院で医局長を勤め、難しい内視鏡手術を何度も成功させた凄腕医師という評判を得ていたが、三年前にシングルマザーだった妹が病気で死去、小四の甥=美山龍之介を引き取って育てるため、医局を退職して転職したという経緯。 それを怒った教授から大学病院への出入り禁止となったものの、雄町を高く評価する花垣辰雄准教授は足繁く原田病院に顔を出して雄町に意見を求めたりしている。今なお、大学病院には雄町を信頼する医療関係者がいる、という人物設定。 地域病院であるが故に、通院患者も入院患者も近くの高齢者が多く、最期を看取るという役割も多い。 そうした地域医療を背景に、医者による医療とは何か、を問うストーリィになっています。 原田病院に勤める常勤医は雄町を含めて4人。外科の鍋島治、中将亜矢、内科の秋鹿淳之介と、それぞれ個性的な医師。 それらの面々に、花垣から研修に派遣され、週1回原田病院に勤務することになった若い医師=南茉莉(まつり)も加わり、顔ぶれは賑やかで活気があります。 雄町たちがどのように患者と向き合うのか、そこが本作の読み処です。 新しいシリーズとなる筈。今後の巻がとても楽しみであり、同時に期待大です。 1.半夏生/2.五山/3.境界線/4.秋 |
10. | |
「君を守ろうとする猫の話」 ★☆ |
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「本を守ろうとする猫の話」に続く、猫と少女の冒険譚。 主人公は幸崎ナナミ、13歳、中二。母親が早くに死去し、会社員である父親との二人暮らし。 喘息の持病があるため、学校帰りには毎日のように図書館に通う本好き。 そのナナミ、図書館から本が次々と何冊も消えている、という事実に気づきます。 そして今日は、大好きな<ルバン全集>10冊が、全て無い。 持ち去ったのは、ナナミが見かけたあの不審な男か。 追いかけようとするナナミの前にいきなり現れ、止めたのは、言葉を話すトラ猫。 それからナナミは何度もトラと一緒に、トンネルを抜けて異世界へ。そこで世の中から本を消し去ろうとする灰色の男たちとの闘いを繰り広げることになります。 本をめぐるファンタジー冒険譚。 ただ、冒険は冒険として、私が楽しいのは、私も大好きだった本(小説)が何冊も登場すること。 「嵐が丘」「奇岩城」「ダルタニャン物語」「月とサスペンス」等々。 そして最後、絶体絶命の危機に陥ったナナミたちを救おうと現れれてくれたのは、私が本を大好きになるきっかけとなった物語に登場するヒーローたち。いやあ、嬉しいですねぇ。 前作に登場した夏木林太郎、沙夜も、今は夏木書店の店主となって登場。 また、ナナミが通う図書館の老司書・羽村が、最後にナナミに紹介にした本が、S・モーム「世界の十大小説」であるというところが、本好きには心憎く感じられます。 序.事の始まり/1.ともに歩む者/2.作られし者/3.増殖する者/4.問いかける者/終章.事の終わり |