夏川草介作品のページ


1978年大阪府生、信州大学医学部卒。長野県の病院にて地域医療に従事。「神様のカルテ」にて第10回小学館文庫小説賞を受賞し作家デビュー。


1.
神様のカルテ

2.神様のカルテ2

3.神様のカルテ3

4.神様のカルテ0

5.本を守ろうとする猫の話

6.新章 神様のカルテ

  


    

1.

「神様のカルテ」 ★☆     小学館文庫小説賞


神様のカルテ画像

2009年09月
小学館刊

(1200円+税)

2011年06月
小学館文庫化



2010/01/11



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余りに持ち上げられていると、かえって胡散臭く思ってしまい、読むのは止めておこうかと思ってしまうのが、少々へそ曲がりな私の性分。
そんなことで気にはなったものの、読むのは見送ろうと一旦決めた本書、手に取ったのはたまたまそこに借出しできる状態で本書があったから。
確かめる意味で一応読んでおこうか、と。

舞台は信州・松本平にある民間の一病院、本庄病院。
同じ松本平にある信濃大学医学部付属病院の病床数 600床には及ばないものの 400床と一般病院としては相当に大きい。
しかし、実態は大違い。慢性的な医師不足により、連続の徹夜で3日間睡眠を取れないまま、専門外の外科の治療をすることも日常茶飯事。
そんな苛酷な現場で日々診療に明け暮れる青年医師、栗原一止が主人公。本庄病院に勤務して5年目、新婚ちょうど1年。
この主人公が、かなり変わり者。漱石「草枕」が愛読書で、その影響を受けて口の聞き方がまるで漱石作品の登場人物のよう。その所為で変人として有名だが、患者や看護師からの医師としての信頼感は篤い、という人物。

地域医療の最前線における苛酷な状況、睡眠不足で疲れ切った顔の医師に点滴される側の方が不安ではないか、と主人公は自嘲して止まない。
そんな本庄病院の状況と対比されるのが、先進的な医療を担い、その一方で治療の及ばない患者を見捨てて恥じない大学の医局。
大学医局と一般病院のあり方も含め、最前線医療の実態をレポートのように伝える小説になっています。
その一方で、主人公である栗原医師、彼が新妻の
ハルさんと住む元旅館と言う古いアパート“御岳荘”の住人たち等々、登場人物のキャラクターはかなり仰々しく、戯画的。

そうした戯画的な部分に重きを置かず、現代医療の実態、そして医療とはどうあるべかを考えてみるところに、本書を読む意味はあるのではないかと思います。

満天の星/門出の桜/月下の雪

    

2.

「神様のカルテ2」 ★☆


神様のカルテ2画像

2010年10月
小学館刊

(1400円+税)

2013年01月
小学館文庫化



2010/12/24



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神様のカルテの続編。
信州にある「24時間 365日対応」の
本庄病院という舞台、変人の熱血医師=栗原一止(いちと)という主人公、その他の登場人物も前作どおりです。
ハルさんこと栗原の妻=山岳写真家の榛名、内科部長の大狸先生、副部長の古狐先生、若手ながら有能な主任看護師=東西直美、大学同期の外科医=砂山次郎等々。

過酷な勤務を強いられる医療現場を舞台にしている本作で今回問われるのは、勤務医とはいえ、医師である前に人間であるという主張が許されるのか、ということ。
その象徴として描かれるのが2人の医師。一人は、本庄病院に新しく赴任してきた内科医=
進藤辰也、栗原とは大学時代の親友。模範的な医師だったはずの進藤、どういう訳か残業を嫌い、しかも時間外に連絡もつかないことが多いという。おかげで進藤の評判は悪化。何があったのか。
もう一人は、病院に何日も泊まり込むというのが常態の
古狐先生が、病院内で倒れるという事態が・・・。

医師とはいえ、医師である前に人間であるのは当然のこと、と言ってしまうのは簡単なことですが、それを許さない実態があるのは事実でしょう。しかし、改善の余地が全くないのかと言えば、全くの門外漢ながら工夫すべきことはいろいろあるのではないかと思います。
本巻は、勤務医たちが心の内に抱える葛藤と、そんな激務に追われながらなお頑張れるのは何故か、を描くストーリィ。

主人公の変人ぶり故に、今回も楽しみながら読める作品です。

紅梅記/桜の咲く町で/花桃の季節/花水木

           

3.

「神様のカルテ3」 ★★


神様のカルテ3画像

2012年08月
小学館刊

(1500円+税)



2012/09/23



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人気シリーズ神様のカルテ第3弾。
相変わらず信州松本平にある地域医療の基点=
本庄病院にて過酷な医療現場で日夜奮闘している変人医師=栗原一止の姿がいつも通り、今回は5篇構成にて描かれます。
大狸先生、医大同期の同僚医師=進藤辰也砂山次郎、頼りになる看護師の外村師長東西直美らの面々も相変わらず。そして愛妻のハルこと写真家の榛名も相変わらずですが、ますます男側にとっては都合の良い良妻ぶりを発揮していて、ちと現実離れし過ぎの観あり。

そんな本庄病院に一石を投じたのは、古狐先生の代わりに新しく内科に加わった12年目の医師=小幡奈美の存在。大狸=板垣先生の教え子であるという点では栗原と一緒と言えるが、日夜最新医療知識の習得を怠らず、論文発表にも積極的な点は栗原が瞠目せざるを得ないところ。
その小幡から、最新の医療を習得していないということは最善の医療を患者に施していないこと、そんな厳しい世界にいながら亡くなる患者のそばにいることに自己満足を覚えている医者は偽善者に過ぎないと酷評された栗原、自分は今のままで良いのかとひどく動揺します。
本書は、主人公である青年医師の衝撃と試練を描いた巻。

上記のとおり、新任の小幡女医の存在が強烈なスパイスとなって、ストーリィに緊迫感と躍動感を与えていて、従来にない読み応えを感じさせてくれます。
なお、小幡女医の過激な意見が決して誤ってはいないという事実が本書の鍵になっていますので、念のため。

プロローグ/夏祭り/秋時雨/冬銀河/大晦日/宴/エピローグ

 

4.

「神様のカルテ0」 ★★


神様のカルテ

2015年03月
小学館刊

(1300円+税)

2017年11月
小学館文庫化



2015/04/12



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人気シリーズ神様のカルテ第4弾。
主要な登場人物各人の前日譚4篇。これまで明らかでなかった事情が判る等々、ファンにとっては楽しい一冊です。

「有明」は、信濃大学医学部の学生寮「有明寮」が舞台。優等生のタツこと進藤辰也を主人公に、同級生で漱石好きな変わり者の栗原一止、真っ黒に日焼けした巨漢の砂山次郎、テニス実力者の草木まどか、そして一年後輩の女子=如月千夏といった面々が登場します。医学部卒業を控えて各人の進路が問われる篇。

「彼岸過ぎまで」(漱石の小説名そのまま)は本庄病院の内科部長=板垣源蔵が主人公。経営立て直しのため招かれた新事務長=金山弁次と医師たちの軋轢を描いた篇。まだ本庄病院の外科部長の地位にあった、内科副部長の内藤鴨一も登場です。

「神様のカルテ」の主人公は栗原一止、本庄病院に研修医として勤め始めたばかりです。激務の中、初めて自分が担当した患者の容態に試練を味わいます。指導医である“大狸先生”こと板垣医師、救急部副師長の外村看護師、東西直美看護師も登場。栗原の下宿先は勿論“御嶽荘”です。

「冬山記」の主人公は片島榛名、山岳写真家である榛名の凄さをいみじくも実際に表した篇。
彼女の現在の下宿先はやはり御嶽荘、栗原一止とは出会ってまだ1年、結婚前のようです。


有明/彼岸過ぎまで/神様のカルテ/冬山記

        

5.

「本を守ろうとする猫の話 ★☆


本を守ろうとする猫の話

2017年02月
小学館刊

(1400円+税)



2017/03/13



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幼くして両親が離婚、母親は若くして死去し、中学生の頃から古書店を営む祖父の元で暮らしてきた夏木林太郎
その祖父が突然死去し、それまで全く知らなかった叔母が登場してその元に引き取られることが決まったものの、林太郎は祖父の遺した
夏木書店で高校にも行かずぼぉーっとした状態のまま。

そんな林太郎の前に言葉を話す
トラ猫が現れ、一緒に迷宮に行って閉じ込められている本を助けてほしいと頼んできます。
そこから幾つもの迷宮を訪ね、各迷宮の主の身勝手な考えを論破して苦境に置かれた本を助け出すという、林太郎のファンタジー冒険が始まります。
ただし、この林太郎、地味で冴えないごくフツーの高校生、いわゆる冒険の主人公にはまるで似つかわしくないキャラクター。それでも古書店で暮らしてきただけに本好きであることは間違いありません。そして林太郎が口にする反論も、本好きであれば当然に抱いている思いに過ぎません。
その意味では、本好きだからこそ楽しめるファンタジー。
同級生で学級委員長の
柚木沙夜も林太郎のその冒険に加わり、ちょっぴり大人に向かう成長+友情物語に仕上がっています。

林太郎から見ればファンタジー冒険物語ですが、本が置かれた苦境とはそのまま現在の書店・出版業界の厳しい状況を端的に描き出した、鋭い風刺に他ならないことは一目瞭然です。
つまりは、リアルとファンタジーを融合させた冒険譚。

※なお、林太郎が沙夜に勧め、面白さのあまり睡眠不足になったと沙夜が文句をつけた作品が
オースティン「自負と偏見
その題名を見て嬉しかったのは、「高慢と偏見」という邦題が一般的なところ、「自負と偏見」とは私の好きな中野好夫訳を示すものであるからです。


序章.事の始まり/1.第一の迷宮「閉じ込める者」/2.第二の迷宮「切りきざむ者」/3.第三の迷宮「売りさばく者」/4.最後の迷宮/終章.事の終わり

           

6.

「新章 神様のカルテ ★★


新章 神様のカルテ

2019年02月
小学館刊

(1800円+税)



2019/03/11



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人気シリーズ神様のカルテ第5弾。
今回「新章」と名付けられたように、舞台は松本平にある
本庄病院にから信濃大学病院に移ります。
といっても、主人公の
栗原一止が日夜激務に追いまくられている状況はまるで変わらず。「引きの栗原」の異名はここ大学病院でも健在です。
ただし医師9年目、<消化器内科第三班>の実質リーダーだというのに身分は大学院生、それ故に月給は僅か18万円、そこから授業料5万円が引かれるというのですから、呆れるくらい悲惨なものです。あれ程の激務をこなしているというのに。

地域医療支援病院、大学病院の大きな違いは、大勢の、そしていろいろな医者がいる、ということ。
しかし、そのために規則、ルールが多く、結果的に医者への縛りが多くなっている。
本作においてその課題が浮かび上がるのは、すい臓癌が発見された 7歳の娘をもつ29歳の若い母親。その
二木美桜の病状に対して栗原らはどう立ち向かうのか。

緊迫感が増す終盤は、まさに栗原一止の面目躍如。
医者はどう行動すべきか、患者とどう向き合うべきなのか。
患者のためになることが第一と、栗原は相変わらず猪突猛進。その所為で、何度も実権者である宇佐美准教授と対立します。

軋轢が多いほど、こうした医療ドラマは読み応えも膨らみます。
さらなる続編を期待したくなりました。

※一止と
ハル(榛名)夫婦も、今は小春という2歳の女児の親。
栗原家のプリンセスが所々で愛らしさを振りまいてます。

プロローグ/1.緑光/2.青嵐/3.白雨/4.銀化粧/5.黄落/エピローグ

    


  

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