名取佐和子作品のページ


1973年兵庫県神戸市生、明治大学卒。ゲーム会社「ナムコ」に就職、2001年に退社しフリー。10年「交番の夜」にて作家デビュー。15年「ペンギン鉄道なくしもの係」にてエキナカ書店大賞を受賞。


1.図書室のはこぶね 

2.文庫旅館で待つ本は 

3.銀河の図書室 

 


                   

1.
「図書室のはこぶね The Ark of Libray ★★☆


図書室のはこぶね

2022年03月
実業之日本社

(1600円+税)



2022/04/11



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県立野亜高校の図書室から始まる、ミステリ? いや高校青春ストーリィ。

主人公は3年生の
百瀬花音。女子バレー部のエースでしたが、右足首の剥離骨折等で引退試合にも出場できないまま引退、間もなく行われる体育祭にも参加できず、という状況。そのため、体育祭準備が忙しい友人から頼まれ、図書当番の代打を引き受けた、という次第。
その花音にいろいろ指導してくれるのが、同じ3年生で図書委員一筋の
俵朔太郎
そしてその日、花音は、10年前に貸し出されたまま返却されていなかった
ケストナー「飛ぶ教室の本を見つけます。
何故今頃になって本は戻されたのか。誰が、何の目的で返却しようとしたのか。
そこから始まる、本を巡るミステリと思いきや、それだけのストーリィではないのです、本作は。

体育祭の最後に行われる
“土曜のダンス(土ダン)”は、野亜高校創立当初から40年続く伝統行事であり、体育祭の名物で、全クラスで争う競技。
ストーリィはそれを巡る意見対立へと進んでいきます。

野亜高校・・・“ノアの方舟”ならぬ、図書室の“方舟”ということか。はて何の意味?となることでしょうけれど、そこが本作の肝となります。

訳あって逃げ込んできた1年生、体育祭実行委員からの圧力を避けるためやってきた2年生の生徒会長らを交え、ベテラン司書の
伊吹、教師、高校OBまで大勢を巻き込む、大きな膨らみをもつ青春ストーリィとして展開していきます。
あぁこの感じ、まさに私好みの高校青春ストーリィです。
本作が掲げたテーマは、決して高校だけに留まるものではなく、社会全体における問題でもある、という処が堪らなく良い。

登場人物の皆が皆、面白いのですが、とくにベテラン司書=伊吹の存在が喰わせものです。
実り多い高校青春ストーリィとして、是非お薦め!

※本好きとしては、本作に登場するオリジナル検索機<
本ソムリエ>に興味津々。是非使ってみたい!

月曜の本/火曜のパソコン/水曜の蔵書検索/木曜のハンバーガー/金曜のホワイトボード/土曜のダンス/日曜の図書室

                       

2.
「文庫旅館で待つ本は ★★


文庫旅館で待つ本は

2023年12月
筑摩書房

(1600円+税)



2024/01/13



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海辺の街にある、僅か4室だけの小さな旅館、<凧屋旅館>。
そこには「
海老澤文庫」と名付けられた、書棚に古い本がずらりと並ぶ部屋があり、宿泊客は自由に利用することができる。

その凧屋旅館を訪れる様々な客たちは、それぞれ何かしら心にちょっとした悩み等を抱えている。
そんな客に、
若女将の丹家円(まどか)は、海老澤文庫の中から一冊の本を差し出します。
果たしてその本は、宿泊客の悩みを解消するのか?

どう古い本かというと、戦前刊行の本ばかり。
見たこともないし、見ることもないし、そんな古い本を差し出されたら、読む気になれるかどうか(いつも新刊書ばかり読んでいるので)自信はありませんが、作品としてなら流石に5冊の内3冊は読んだことがあります。

宿泊客の悩みと、円が差し出した本のストーリィはどう関係するのか、どうして円にそれが分かるのか(本人曰く、同じ臭いがするという)、その辺りが面白いところ。
もちろん、小説好きだからこその面白さでしょう。

一冊目:客は子供の頃から仲が良いという、男性2人、女性1人という3人組。3人の関係は?
二冊目:腫瘍手術をしたばかりだという妻とその夫。何もかも一方的に決めつける夫に対する、妻の心中は?
三冊目:何かと問題行動を起こす幼い息子と、そのシングルマザー。息子に対する彼女の複雑な思いは・・・・。
四冊目:中学卒業=塾卒業の恒例の記念旅行。4人の少年を引率する塾長の息子は、4人の塾長に対する変化を感じている。

五冊目:四冊目までの不可思議な出来事の経緯が明らかにされる章ですが、その内容の凄まじさ、仰天するばかりです。

なお、本作には、若女将である円の家族=曾祖父や祖父母、伯母たちも登場し、宿泊客たちを描く連作ストーリィであると同時に円を軸とした長編家族ストーリィといった要素も持っています。
驚愕すべき最後の章を、どうぞお楽しみに。


一冊目(川端康成「むすめごころ」)/二冊目(横光利一「春は馬車に乗って」)/三冊目(志賀直哉「小僧の神様」)/四冊目(芥川龍之介「藪の中」)/五冊目(夏目漱石「こころ」)

         

3.
「銀河の図書室 Library on the Milky way ★★☆


銀河の図書室

2024年08月
小学館

(1700円+税)



2024/08/27



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題名にある「銀河」、特に気に留めることもなかったのですが、これは完全に私の感度不足。
宮澤賢治「銀河鉄道の夜」に関連するものと気づくべきでした。
そう、本作は宮澤賢治を愛する高校生たちの、青春&成長ストーリーに他なりません。

主人公である
チカこと高田千樫は、県立野亜高校の2年生で、同好会<イーハトー部>の正部員。
仮入部の
キョンへこと石舘恭平と二人、新入生に向けて部員募集活動をしていたところ、自ら入部を申し込んできた1年生がマスヤスこと増子耶寿子
ただし、そのイーハトー部の創部者で部長である3年生の
風見昴祐は、チカの願い虚しく2年生の秋から不登校を続けており、当面の活動はこの3人のみでという状況。

高校受験失敗がトラウマとなり、今も試験になると頭が真っ白になるという問題を抱えたチカはもちろんですが、読み進むにつれてキョンへ、マスヤスもまた打ち明けられない問題を抱えていることが分かってきます。
そしてまた、風見が不登校になった理由、問題は何なのか。
さらに、風見の同級生=
美濃部万琴と風見の関係は?

イーハトー部の三人が、宮澤賢治作品の中にある言葉を鍵に、考え、学び、成長していく姿がとても清々しく、気持ち良い。
また、宮沢賢治の作品、言葉について彼らへの導き役となっているベテラン学校司書の
伊吹、司書教諭で部顧問である車椅子ユーザーの郡司先生の存在も好ましい。
そして、最後の場面がとくに雰囲気があって、素敵です。

何と言っても感激したのは、本作が宮澤賢治への愛に溢れているということ。
私も宮沢賢治は好きですが、ここまで深く読み込んだことはなかったなぁ。ですから本作を読んで、宮澤賢治作品を再読したくなりました(といってすぐ再読できる訳ではありませんが)。

宮澤賢治を好きな方、関心を持っている方には是非お薦めしたい清新な青春譚。
宮澤作品を読む際に、恰好の導きとなるに違いありません。

※宮澤作品にはいろいろな版があること、一方、全集本は絶版になっていること等が語られます。
その絶版の筑摩書房「新修宮沢賢治全集」全17巻のうち4巻を私は所蔵しています。機会を見つけて再読したいです。

※宮澤賢治関連の既読本に次の2作あり。こちらもお薦め。
井上ひさし「イーハトーボの劇列車」(戯曲)、門井慶喜「銀河鉄道の父

1.図書ノ/教室ニ/オリマス/2.何をやっても間に合わない/3.無畏 無畏/4.ほんとうの幸い

      


   

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