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1.図書室のはこぶね 2.文庫旅館で待つ本は |
「図書室のはこぶね The Ark of Libray」 ★★☆ | |
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県立野亜高校の図書室から始まる、ミステリ? いや高校青春ストーリィ。 主人公は3年生の百瀬花音。女子バレー部のエースでしたが、右足首の剥離骨折等で引退試合にも出場できないまま引退、間もなく行われる体育祭にも参加できず、という状況。そのため、体育祭準備が忙しい友人から頼まれ、図書当番の代打を引き受けた、という次第。 その花音にいろいろ指導してくれるのが、同じ3年生で図書委員一筋の俵朔太郎。 そしてその日、花音は、10年前に貸し出されたまま返却されていなかったケストナー「飛ぶ教室」の本を見つけます。 何故今頃になって本は戻されたのか。誰が、何の目的で返却しようとしたのか。 そこから始まる、本を巡るミステリと思いきや、それだけのストーリィではないのです、本作は。 体育祭の最後に行われる“土曜のダンス(土ダン)”は、野亜高校創立当初から40年続く伝統行事であり、体育祭の名物で、全クラスで争う競技。 ストーリィはそれを巡る意見対立へと進んでいきます。 野亜高校・・・“ノアの方舟”ならぬ、図書室の“方舟”ということか。はて何の意味?となることでしょうけれど、そこが本作の肝となります。 訳あって逃げ込んできた1年生、体育祭実行委員からの圧力を避けるためやってきた2年生の生徒会長らを交え、ベテラン司書の伊吹、教師、高校OBまで大勢を巻き込む、大きな膨らみをもつ青春ストーリィとして展開していきます。 あぁこの感じ、まさに私好みの高校青春ストーリィです。 本作が掲げたテーマは、決して高校だけに留まるものではなく、社会全体における問題でもある、という処が堪らなく良い。 登場人物の皆が皆、面白いのですが、とくにベテラン司書=伊吹の存在が喰わせものです。 実り多い高校青春ストーリィとして、是非お薦め! ※本好きとしては、本作に登場するオリジナル検索機<本ソムリエ>に興味津々。是非使ってみたい! 月曜の本/火曜のパソコン/水曜の蔵書検索/木曜のハンバーガー/金曜のホワイトボード/土曜のダンス/日曜の図書室 |
「文庫旅館で待つ本は」 ★★ | |
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海辺の街にある、僅か4室だけの小さな旅館、<凧屋旅館>。 そこには「海老澤文庫」と名付けられた、書棚に古い本がずらりと並ぶ部屋があり、宿泊客は自由に利用することができる。 その凧屋旅館を訪れる様々な客たちは、それぞれ何かしら心にちょっとした悩み等を抱えている。 そんな客に、若女将の丹家円(まどか)は、海老澤文庫の中から一冊の本を差し出します。 果たしてその本は、宿泊客の悩みを解消するのか? どう古い本かというと、戦前刊行の本ばかり。 見たこともないし、見ることもないし、そんな古い本を差し出されたら、読む気になれるかどうか(いつも新刊書ばかり読んでいるので)自信はありませんが、作品としてなら流石に5冊の内3冊は読んだことがあります。 宿泊客の悩みと、円が差し出した本のストーリィはどう関係するのか、どうして円にそれが分かるのか(本人曰く、同じ臭いがするという)、その辺りが面白いところ。 もちろん、小説好きだからこその面白さでしょう。 一冊目:客は子供の頃から仲が良いという、男性2人、女性1人という3人組。3人の関係は? 二冊目:腫瘍手術をしたばかりだという妻とその夫。何もかも一方的に決めつける夫に対する、妻の心中は? 三冊目:何かと問題行動を起こす幼い息子と、そのシングルマザー。息子に対する彼女の複雑な思いは・・・・。 四冊目:中学卒業=塾卒業の恒例の記念旅行。4人の少年を引率する塾長の息子は、4人の塾長に対する変化を感じている。 五冊目:四冊目までの不可思議な出来事の経緯が明らかにされる章ですが、その内容の凄まじさ、仰天するばかりです。 なお、本作には、若女将である円の家族=曾祖父や祖父母、伯母たちも登場し、宿泊客たちを描く連作ストーリィであると同時に円を軸とした長編家族ストーリィといった要素も持っています。 驚愕すべき最後の章を、どうぞお楽しみに。 一冊目(川端康成「むすめごころ」)/二冊目(横光利一「春は馬車に乗って」)/三冊目(志賀直哉「小僧の神様」)/四冊目(芥川龍之介「藪の中」)/五冊目(夏目漱石「こころ」) |