林 望著作のページ


1949年生、慶應義塾大学卒、同大学院博士課程修了。専攻は日本書誌学・近世国文学。84年ケンブリッジ・オックスフォード両大学訪問研究員、86年ケンブリッジ大学客員教授。愛称:リンボウ先生。


1.イギリスはおいしい

2.イギリスは愉快だ

3.ホルムヘッドの謎

 


 

1.

「イギリスはおいしい」● ★★★  第39回日本エッセイストクラブ賞受賞




1991年3月
平凡社刊

(1748円+税)

1995年9月
文春文庫化

 

1991/10/08

最初は何気なく読み始めたのですが、途中から俄然面白くなってきました。
一般的に、グルメの本からイギリスというのは全く無縁です。
ところが本書を読むと、イギリスにおいても、うまい、まずいは別として、それなりの食文化、特徴があることを知らされるのです。それは考え方によると、イギリスの食べ物はやはりそれほど美味しくはない、という説明にもなるのですが、何より従来知らされていなかった部分だけに、興味深く読める一冊です。

料理方法も材料も、イギリスの場合、決して賞賛されるようなものではない。しかし、イギリス人は食事を楽しむ、ということを良く判っている。
食事時の団欒、会話。旅の途中で会っただけの林さんを娘の結婚式に招待してくれ、式・披露宴の間もずっと気にかけてくれる。それだけにその食事は楽しい、即ち「おいしい」のである。つまりは、そんなご意見のようです。
7つの章は、各々別の話が展開されていて、全体的に庶民的なイギリスが語られています。恰好つけることもなく、美化することもなく、イギリスらしく見せかけることもなく、素顔で普段着のイギリスが手の届く所にある、そんな気持ちになります。

塩はふるふる野菜は茹でる/ワーズワースの林檎倉/魚よ、おまえもか/いもか、はたまたパンか/釣魚大全荘の昼下がり/いざ行け、パブへ/料理をする人たち

 

2.

「イギリスは愉快だ」● ★★




1991年11月
平凡社刊

(1748円+税)

1996年2月
文春文庫化

 

1991/12/09

読み始めに、あっ、これはおいしいと違うな、所詮二番煎じだな、と思いました。
しかし、前著のような当意即妙な奇抜さはないものの、林さんのイギリスに対する愛着がさらに滲み出ている一冊です。

本書の圧巻は、ルーシー・ボストン夫人のヘミングフォード・グレイのマナーハウス (荘園領主の館)における、8ヵ月余りにわたる下宿生活の一切。
このボストン夫人は、当時91歳、自分の家をモデルにした子供向け「グリーン・ノウ物語」により、世界的にも有名な女流作家だそうです。そんな下宿を得て、林さんは「イギリス中で一番幸せな日本人に違いない」と言われたそうですが、まさに本書を読んで いると同感です。
エヴァー・グリーンといわれる常に緑をたたえた大地、樹木を白く光らせるような月の光、フラッドと呼ばれる一時的に幻の湖をもたらすような現象、まさに素晴らしき生活を思わせるものばかり。日本人はこんな素晴らしさを知らず、一体何のためにあくせく働いているのかと、思わず問いたくなります。
最終章で林さんが自ら言うように、この本には、ルーシー・ボストン夫人という、如何にも素晴らしいイギリス人の典型である女性の、温かい心が充ち充ちています。それが、何よりもこのエッセイを価値あるものにしています。

 

3.

「ホルムヘッドの謎」● ★★




1992年5月
文芸春秋刊
(1262円+税)

1995年5月
文春文庫化


1993/01/21

林さんという人は本当に味のあるエッセイを書くなあ、と讃嘆の思いを禁じえな かった一冊。
本書は、林さんがイギリスの生活から気づいた様々な事柄について、比較検討しているエッセイです。読んでいくと、つくづくイギリスという国が好きにならざるを得ない気がします。

外国での生活をエッセイとして語った本は数多くあります。にも拘わらず、林さんの著書が輝いているように感じられるのは、どうした理由なのか。
その答えになるかどうかは判りませんが、林さんのイギリスを愛する理由が、単なる雰囲気、感情によるものではなく、実証的観察を行った上で検討をつぶさに行い、しかる後に正当な理由および根拠をもってイギリスを賛美している、そうしたところにあるのではないかと思います。

表題作の「ホルムヘッドの謎」は、田舎宿のホルムヘッドに辿り着くためには川の中を車で渡って行かなければならない、という不思議な体験を語った一篇。その他各国の公衆トイレを比較した便器公論とか、なかなか楽しめます。

 


 

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