群ようこ作品のページ


1954年東京生、日本大学芸術学部卒。6回の転職を経て本の雑誌社へ入社、84年「午前零時の玄米パン」で独立。本名:木原ひろみ、ペンネームの命名者は目黒考二氏。エッセイ、小説にて活躍。詳しくは「別人『群ようこ』ができるまで」を参照。


1.午前零時の玄米パン

2.別人「群ようこ」ができるまで

3.鳥頭対談(西原理恵子共著)

4.ヤマダ一家の辛抱

5.都立桃耳高校−神様お願い!篇−

6.都立桃耳高校−放課後ハードロック!篇−

7.ヒヨコの猫またぎ

8.かもめ食堂

9.れんげ荘

10.ぎっちょんちょん

  


   

1.

●「午前零時の玄米パン」● ★★


午前零時の玄米パン画像
1984年07月
本の雑誌社刊

2003年04月
角川文庫化

1998/11/28

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今更ではありますが、群さんの処女本です。図書館の新規購入本リストに載っていたのが、読むきっかけとなりました。
最初に「びんぼう草」を読んだときもびっくりしたのですが、改めて、群さんてこんなに迫力のある人だったんだなあ、と思います。
まる裸の群さんがいきなり銭湯から飛び出してきて、唖然としているうちに思いきり突き飛ばされた、というような、気持ちのよい爽快感があります。
普通人OL時代の群さんを読むことができるということでは、これにまさるエッセイ本はないのかもしれません。
この後自分が果たしてどうなるか、を考えないまま、手持ち材料を大盤振る舞いして書きまくっていた、という印象を受けます。
書く側に計算がなく、かつ自分のことだから遠慮がない、というだけに、ホント楽しめる貴重な一冊です。

※目が細くて丸顔そして体型太め、という群さんの嘆きを笑いながら読んでいたら、すぐ足元にまるで群さんそっくり以上のわが娘が座っていることに気付き、思わず愕然! ....

 

2.

●「別人『群ようこ』ができるまで」● ★★★

   

1985年12月
文芸春秋刊

1988年12月
文春文庫化

  

1991/07/06

“群ようこ”誕生までの秘密をすべて明かしてくれる本。群さんの本の中でも面白さ、極め付けの一冊です。
大学を出てから、広告代理店、出版社と転職するが、常にうまくいかず。その後、椎名誠“本の雑誌社”社員に応募したことがきっかけで、リアル・エッセイスト“群ようこ”が誕生するに至るまでの顛末一切。まさに何が幸いするか判らない、という実例を示すような話であります。
狭い部屋の中で、延々と5年にも及ぶ「本の雑誌」の注文を受ける仕事。最初は助っ人と学生もおらず、唯一人の電話番。あの群さんが5年半ももったというのですから、余程椎名さんの神通力があったのでしょう。新橋烏森口青春篇の女性版と言って良いかと思います。
それにしても、男性に縁なく、普通のOLに枠に収まらないという群さんが、月3万円の超安月給に甘んじ、5年半もの長きに耐えて、遂に天分を見出されて巣立っていくストーリィ。そして、それをあるがままに書き出していくエネルギーと根性は、並大抵の人のものではありません。やはり、群さんというのは凄い人だと、呆れるばかりです。

 

●「鳥頭対談」●(西原理恵子・共著) ★★

 
鳥頭対談画像

1991年01月
朝日新聞社刊

2001年11月
朝日文庫
(460円+税)

  

2002/01/27

朝日新聞社からの刊行時、とても興味を惹かれましたが、結局買うのを見送った本。
群さんと西原さん2人の、着物姿、宝塚風、着ぐるみと、コスプレ写真満載でしたから、アピール度も強烈でした。それ故、買うのを躊躇わされる部分もありまして、そのままとなっていました。
その本が文庫化されたとあっては、迷わず買ったのは当然のこと。コスプレ写真はモロクロになっていましたので、割と冷静に眺められましたし。(苦笑)
さて、対談の中身はというと、抱腹絶倒、唖然とすることばかり!
2人の母親に関する愚痴、男関係、出版業界と、暴露話が延々と続きます。もっとも、後半はちょっとパワーダウン気味。
直前に読んだヒヨコの猫またぎで、こんなに稼いでいるのに何故お金に汲々としているの?という謎がありましたが、本書により疑問氷解。
ウッソォー!!と言いたくなるような事情ですが、その辺りは本書をお読みください。
本書を読めば、小さな悩み事は吹き飛び、カラカラと笑ってしまうのは間違いなし。ストレス解消にお薦めです。

惜しみなく母は奪う/私は男切れの悪い女/旅の恥はかき捨て/出版界の魑魅魍魎/せつない少女のころ/二度と食うかっ、こんなもの/遊ぶ女、遊ばれる女/勉強が嫌で本読んで、仕事が嫌で本読んで/いま明かされる、「黒い対談集」秘話(群ようこ)/さあキャンプファイヤーを始めましょうか(西原理恵子)
 
西原理恵子(さいばら・りえこ)
1964年高知県生。武蔵野美術大学在学中に「ちくろ幼稚園」にて漫画家デビュー。「ぼくんち」にて第43回文春漫画賞受賞。

   

●「ヤマダ一家の辛抱」● 

ヤマダ一家の辛抱画像

1998年06月
幻冬舎刊

上下
(各1400円+税)

2001年04月
幻冬舎文庫
(上下)

1998/12/16

もうちょっと期待していたのだけれどなあ、というのが本音の感想です。
群さんは地でいくエッセイストであり、本来小説家ではない、という思いを改めて強くしました。
本書はヤマダ家4人のそれぞれの生活を描いた<家族小説>。
「待望の長編小説」という宣伝文句に反して、短篇を書き並べたような作品という印象です。根本的に、長編小説特有の一環した起伏というものがないのです。
また、「抱腹絶倒」という宣伝文句にも多いに異議があります。
物語の中心は、やはり父親・カズオ氏にあるのでしょうが、社長夫人に振り回されるあたり、単なるドタバタに過ぎないという感じです。似た作品に、明朗サラリーマン小説で一世風靡した源氏鶏太「新・三等重役」があります。同作品は、社長未亡人の善意の押し売りと、それに対する重役達の困惑というコミカルな可笑しさがありましたが、本書にそこまでの面白さはありません。
また、サラリーマンの哀歓というと山口瞳「江分利満氏の優雅な生活」が絶品ですが、本書にそのような深みはありません。

 

5.

●「都立桃耳高校−神様お願い!篇−」● ★☆


都立桃耳高校画像

2000年01月
新潮文庫刊

(438円+税)

  

2000/02/17

時は、三島由紀夫が自殺し、大根脚も蕪脚もミニスカートをはいたという1970年。「桃耳にはいって彼氏ができない女の子は、女をやめたほうがいい」と言われる“恋愛の桃耳”高校に入学した、タケヤマシゲミの高校一年生時代を描く青春小説です。群さんの自伝的作品と言えます。
井上一馬さんは別人“群ようこ”のできるまでと本書を比較して、「本人“群ようこ”のできるまで」と言うべき一冊であると解説していますが、まさにピッタリの評価です。主人公タケヤマシゲミには、群さんらしい個性、観察眼が感じられるものの、まだまだ穏やかで、そこはやはり高校生の視点です。
群さんと上記井上さん、そして私は同年代かつ同じ都立高校育ちです。ですから、ここに描かれる高校生時代は、私自身も共通に体験してきた時代です。
とは言うものの、だいぶ違うなあという印象があります。どうも、私と群さんとは対極的な高校生活を送っていたようです。深夜放送を聞いた挙句の睡眠不足で授業中居眠りもしたものの、あそこまでひどくはなかった(苦笑)。男子と女子という違いも、もしかするとあるのかもしれません。読みつつ、女子高校生はああだったのか、という思いもありました。
いずれにせよ、私自身にとっても懐かしい高校生風景であり、今後の続編が楽しみです。

 

6.

●「都立桃耳高校−放課後ハードロック!篇−」● ★☆


都立桃耳高校画像

2001年01月
新潮文庫刊

(476円+税)

   

2001/01/21

「神様お願い!篇」の続編、かつ完結篇。
タケヤマシゲミの高校2年、3年、そして日大芸術学部に滑り込み合格し、高校を卒業するまでを描いた青春小説。
ただ、“青春小説”というには、余りにぐだぐだし、“桃色遊戯”ばかり活気あるような気がしますが。
前作と異なり、「本人“群ようこ”のできるまで」という興味はあまりなし。代わって、私自身の都立高時代と対比つつ、当時を振り返る楽しさがありました。(群さんとは同学年の筈)
制服という制約がなく、服装が次第に自由になったのは同じ。でも、ハードロックよりフォークの方が人気でしたし、修学旅行は三陸・奥入瀬と、桃耳高校より良い処へ行きました。勉強も、もう少ししたと思います。
でも、でも、“恋愛の桃耳”の如く、たくさんのカップル誕生などなかったし、桃色遊戯など、とてもとても。もっと初心だったように思います。私だけでなく、他の皆も...多分。
私のクラスは美人系女子が多いので評判でしたけれど、彼女たち、あまり掃除はしませんでしたね。いい加減汚くなると、男子生徒がやっていた。そして、本書に登場するひもパンツのこととなると、うーん、判らない。
ともかく、今に至ると、高校時代を振り返るのは楽しいものがあります。
※群さんの大学時代...も読みたいですね。

   

7.

●「ヒヨコの猫またぎ」● ★☆


ヒヨコの猫またぎ画像

2001年11月
文芸春秋刊

(1190円+税)

   

2002/01/20

一時期、群さんの本を随分読んでいた為、その反動でここ暫く縁遠くなっていました。久しぶりに読んだ群さんのエッセイは、やはり楽しい。
群さんとは同学年になるのですが、その豪快ぶり故に姐御という印象が強く、いつもそんな気分で読んでいます。
帯には「群ようこ、人生最大のピンチ!  お金がない!」とありますが、本書エッセイの中心部分を的確に語っています。
つつましい生活の一方で相当にお金を稼いでいるようなのですが、何故かお金がない。預金通帳にある残高は、たった55万円だけ。それなのに、向こう1年間に払うべき金額は8千万円もあり、税務署から知らされた予定納税額が8百万円も減ったといって、大喜びしている。一体、群さんの財布事情はどうなっているのやら?
そんな話やら、ペット騒動、独身中年女性の悩み等々。
読み終えた後は、何故かこちらの気分が軽くなっている、という一冊です。

とくに注目すべきは、京都呉服ツアーの爆弾/人生最大のピンチ/私はイソノフネ平/続へっころ谷の不吉な風−号泣、また号泣の巻−/太った理由

  

8.

●「かもめ食堂 ruokala lokki」● ★★


かもめ食堂画像

2006年01月
幻冬舎刊

(1238円+税)

2008年08月
幻冬舎文庫化

 
2006/12/25

 

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群さんが映画のために書き下ろした原作とのこと。

その所為か、映画を先に観てしまった所為か、やはり本書は映画のための原作であって、映画の方がずっと面白かった、という気がします。
その理由はただひとつ、映画の方が本作品に登場する三人の日本女性のキャラクターがもっと楽しめる、ということに尽きます。
ヘルシンキに“かもめ食堂”という名の小さな食堂を開いた主人公は、38歳のハヤシサチエ。この主人公を演じたのが小林聡美さん。サチエ役、小林聡美さん以外にいないのではないかと思えるくらい、ぴったりのハマリ役。
たまたま指差したというだけの理由で日本からやってきたサエキミドリ役は、片桐はいりさん。両親の介護からやっと解放されてふとやってきたという50歳の女性、シンドウマサコ役がもたいまさこさん。このお二人も実に良いのです。

この原作に関しては、映画で判らなかった、サチエが何故ヘルシンキでかもめ食堂を始めることになったのか、その資金はどうやって工面したのか、ということが説明されること。
そしてまた、サチエが合気道の道場を経営していた父親から、子供の頃から合気道を仕込まれていたという、サチエの人となりがもう少しわかること。

いずれにせよ、映画と原作、その両方を楽しめたのは嬉しいこと。

※映画化 → 「かもめ食堂

    

9.

●「れんげ荘」● ★★


れんげ荘画像

2009年04月
角川春樹事務所

(1400円+税)

 

2009/08/01

 

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有名広告代理店に勤めていたキョウコ
営業担当の頃は毎晩のごとき顧客接待、希望して内勤に回ると今度は女子社員同士の陰口、おべんちゃらにうんざりし、ついに45歳の時、会社を退職して一人暮らしを決意。
自分勝手で口うるさい母親からいい加減離れたい、というのももうひとつの動機。
家賃3万円という条件で見つけたアパートは、古いボロアパート、しかもトイレ・シャワーも共同。
でもキョウコ、そこが気に入り、いそいそと引っ越す。
そのアパート“れんげ荘”の他の住人は、隣室のオシャレな老女=クマガイさん、暴力割烹で修行中の青年=サイトウくん、物置部屋住まいで自称:旅人、外国人男性大好きというコナツさん。
無職、貯金を取り崩し月10万円での生活という、穏やかで静かな生活が始まります。

でもいくら望んだからといって、することが何もない生活というのは、長年仕事に追いまくられてきた人間にとっては中々落ち着かないもの。
戸惑いながらも、そんな生活に徐々に慣れ親しんでいくキョウコの暮らし、読んでいて実に気持ちが安らぐ気がします。
猛烈に働いて良い暮らしをする、決してそれが絶対的に幸せな生活と言えないのは、キョウコの亡き父親の例があるから。
こんな選択肢もあるんだ、と思うだけで、気持ちが楽になる気がします。
まずは、本書でキョウコの暮らしぶりを楽しむところから。

考えてみれば、環境など割り切ればいいだけなのかも。
夏は蚊に悩まされ、冬はすきま風に震え上がるという生活も、昔は結構当たり前だったように思います。肝心なのは伸び伸びと自由な気分でいられるか、でしょう。
働くのが生き甲斐という人もいる筈。要は人それぞれ。

      

10.

●「ぎっちょんちょん」● ★☆

 
ぎっちょんちょん画像

2010年10月
新潮社刊

(1400円+税)

2013年05月
新潮文庫化

  
2010/12/12

   
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久しぶりに読んだ、と思う群ようこさんの作品。
バツイチ、子持ち、38歳の女性が心機一転、芸者を目指す、と決心するまでを描いた作品。
実在の女性をモデルにしたストーリィだそうです。

エリコ、ウェディングプランナーとしてすぐデキちゃった婚。最初こそ良い夫だったものの、次第に家にいる時間が少なくなり、どうも数多くの女の子たちと遊び暮らしているらしい。
離婚して、娘の
チカと2人暮らし。そこで偶々出会ったのが、小唄と三味線。惹かれる気持ち止み難く、師匠について本格的に練習を始めます。

特にこれといったドラマがあるストーリィではありませんが、バツイチ・子持ちと人生これで終わりという気分になりかけていた主人公が、自分の関心ごとに夢中になって新たな可能性を見出していくという展開は、気持ち良い。
ましてそれが、一般人の暮らしからは縁遠い観のある小唄、三味線というところが楽しい。
同世代の女性にとっては、元気を与えてくれるストーリィではないかと思う次第です。  

     


 

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