椎名誠作品のページ


1944年東京都生、東京写真大中退。流通雑誌編集長を経て「本の雑誌」編集人、作家、エッセイスト。映画監督、冒険等多才に活躍。「犬の系譜」にて吉川英治文学新人賞、「アアド・バード」にて日本SF大賞を受賞。


1.哀愁の町に霧が降るのだ

2.新橋烏森口青春篇

3.銀座のカラス

4.本の雑誌血風録

5.新宿熱風どかどか団

6.砂の海−楼蘭・タクラマカン砂漠探検記−

 


 

1.

「哀愁の町に霧が降るのだ」● ★★

 

1991年10月
新潮文庫刊
上下2冊

 

1991/11/08

とにかく面喰うような書き出しです。縦横無尽と言うか支離滅裂と言おうか。でも、スターン「トリストラム・シャンディ」ほどの奇々怪々さはないだけに、まあいつのまにか話に乗せられてしまうので、とくに不満もないという感じ。
でもそんな書きっぷりが、そのまま当時の奔放な共同生活の様を良く語っていたように思います。
共同生活者は、誠、木村、沢野、イサオら。場所は、江戸川区小岩の6畳一間のアパート。
本作品は余計な話もかなり入っています。しかしそれが効果的な役割を果たしていて、共同生活が終わって別れる時、主人公共々何故か名残惜しいような寂しい気持ちになります。
考えてみれば、その思いが本作に続く作品を読み続ける理由になっているのかもしれません。

 

2.

「新橋烏森口青春篇」● ★★

 

1991年5月
新潮文庫刊

 

1991/06/14

従業員20人足らずの業界新聞社に勤めていた時代のストーリィ。
「百貨店ニューズ社」。そこにいるのは、普通の会社のサラリーマンには見られないような、いずれも風変わりな仲間たち。
たわいのない話で、ぱっとしないなという気分で読み進みました。
でも、読後にはなんとなく作者の愛着が感じられるようで、ああこれが“青春”と世に言われる時期なのかなあ、と思ってしまいます。
放埓な共同生活と、サラリーマンとしての孤軍奮闘の時期との中間に位置する時期。
「どうでもいいや」から訣別し、地に足をつけて自分で歩み始めるという中に、前向きな希望が感じられます。
前後の作品と比較すると一番良くまとまっている作品。第一、短い。

 

3.

「銀座のカラス」● 


1991年10月
朝日新聞社刊

1994年12月
新潮文庫化
上下2冊


1991/11/03

「新橋烏森口青春篇」に比べると、長ったらしくてダラダラしているという印象。もっとも スルメみたいなもので、ダラダラ続くストーリィにも噛み締めるうちに味わいがにじみ出てくる、という雰囲気が あります。
主人公は松尾勇、孤軍奮闘で担当するのは「店舗経営月報」。
麻雀で負けてスッカラカンになったり、1ヵ月食うや食わずで過ごしたり、青春の絵日記そのままという感じです。
懐かしくも羨ましいというのが私の本心。それにしても、少々長すぎるけど。

 

4.

「本の雑誌血風録」● 

 

1997年6月
朝日新聞社刊

2000年8月
朝日文庫化

 2002年2月
新潮文庫化

 

1997/06/16

買おうか買う迷った挙げ句、群ようこ女史が登場するから、という理由で買いました。
椎名ファンからは怒られそうな動機なのですが、読めばなんとなく面白く、気がついてみれば、過去なんとなく読んできた
「哀愁の町に霧が降るのだ」「新橋烏森口青春篇」「銀座のカラス」に連なる続編的実録小説、というもの。
 
それにしても、本の好きな連中が集まり、書きたいことを書く雑誌を作る。寄稿者、編集者、営業担当、配本部隊と皆無報酬、群女史のみ世間相場の半額の給料、という状況。
面白いには面白い行動だったろうと、羨ましくなるような思いです。おまけに、初の給料取り、群女史を物書きとして世に送り出すに至るのだから、その経緯たるや興味津々。
群女史登場まで、まだかまだか、という思いで読み進みました。(ワレナガラ、ヤタラ群女史にこだわりすぎかな、と思うところ。(^_^;) よき時代かな、と納得したところで、まだまだ続編が出ても不思議ない様な終わりっぷりでした。

※なお、目黒考ニ「本の雑誌風雲録もあります。

 

5.

「新宿熱風どかどか団」● 



1998年10月
朝日新聞社刊
(1500円+税)

 2001年7月
朝日文庫化

2005年11月
新潮文庫化

1998/10/24

「血風録」で期待していた続編がコレ。
「本の雑誌」がなんとか軌道にのってきて、それに伴い椎名さんにもあちこちから原稿依頼やらが増えてくる。そんでもって、とうとう椎名さんも独立するのだ。
そんなことで、本書の内容は椎名さん周辺事情が中心となるのですが、目黒、沢野、木村の仲間もそれぞれの分野で独立した実績を上げているという雰囲気が濃厚に漂ってきます。

椎名さんのあちこちの連載が増え、野田知佑さん・愛犬ガクとも親密になり、とうとう哀愁の町に霧が降るのだ(上)も刊行となる。
また、配本部隊に人気絶大の群さんもとうとう原稿を書き始める。
ツルゲーネフではないけれど、まさに本格的活動の
「その前夜」を描いたのが本書であり、愛読者としては興味持たざるをえない段階です。全編完結まであと僅か!といったところでしょう。

※お詫び:読了後すぐ書いた所為か、言葉遣いに影響受けてしまって...

 

6.

砂の海−楼蘭・タクラマカン砂漠探検記−」● 

 

1998年3月
新潮社刊

2000年12月
新潮文庫
(438円+税)

 

2001/01/05

中国の西域、砂漠地帯にある2千年前の幻の王国・楼蘭ロプノールを訪ねる紀行です。
テレビドキュメンタリーで楼蘭へ行くという企画があり、日中の共同探検隊が計画される。それに加わらないかと、椎名さんは誘われたのだそうです。楼蘭へ外国人がはいるのは、何と54年ぶりなのだとか。それだけに一行の熱意が感じられますが、その一方でテレビカメラによる撮影が禁じられるという予想外のことがあったのだとか。なかなか思うようにはならないようです、中国という国は。
楼蘭への行程は、まさに砂漠の旅。中国という国の奥の広さを感じさせられます。島国日本から思うと、想像もできないような風景がそこにはあります。また、トイレひとつをとっても、日本では考えられないようなことが度々繰り返されるようです。
例によって、シーナ調で道中記が語られていますので、途中の困難より、可笑しさを感じることの方が多いです。
砂漠の旅をちょっと覗き見るには、手頃な一冊だと思います。

 


 

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