村上しいこ
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1969年三重県津市生、松坂市在住。中学卒業後会社勤め。結婚後から創作を始める。2003年「かめきちのおまかせ自由研究」にて作家デビュー、04年同作にて第37回日本児童文学者協会新人賞、06年「れいぞうこのなつやすみ」にて第17回ひろすけ童話賞、15年「うたうとは小さないのちひろいあげ」にて第53回野間児童文芸賞を受賞。


1.ダッシュ!

2.うたうとは小さないのちひろいあげ
−短歌小説三部作−

3.空はいまぼくらふたりを中心に−短歌小説三部作−

4.青春は燃えるゴミではありません
−短歌小説三部作−

5.こんとんじいちゃんの裏庭

6.死にたい、ですか

職員室の日曜日、ねこ探!

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1.
「ダッシュ! ★★


ダッシュ!画像

201年05月
講談社刊
(1400円+税)



2014/07/06



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南沢中学2年の三雲真歩は、引退する3年生の西野から思いがけず次期キャプテンに指名され、困惑するばかり。
リレーメンバー4人の中で記録は一番遅いし、他の3人のようにこれはという強みもない。それなのにキャプテンという役割りを果たすことができるのだろうか、と。
そして翌年4月、リレーの一走を走りたいとい天才的な新入生=
神崎美羽留が入部してきてますます真歩の位置は微妙。

中学の陸上部を舞台に、キャプテンとしての自身が持てないまま悩む真歩を主人公にした青春&成長&スポーツ物語。
陸上部、 400メートルリレーというスポーツ小説といった面はありますけど、本質的には中学生の成長ストーリィでしょう。

表紙裏に、「心の中にだって手のひらがあるんだよ。ちゃんとそこへバトンをパスしなきゃ、伝わるものも伝わらない」とあります。
思いを伝えるためにはきちんと言葉にしなくてはならない、でもその前にまず、伝える言葉をもつことの方が大事。
それは自分への自信有無というより、自分に明確な意思があるかどうか。それを試されるのがキャプテンという位置だったという次第。

本作品には、小学生の頃からリレーチームを組んできたという、
沙凪・みらい・葉月と真歩との友情物語という側面もあります。
でも単に仲が良いというだけではダメ、信頼し合ったうえで力を競い合うことも大事というメッセージも伝わってくる、爽快な作品です。自分に迷うところの多い方には特にお薦め。

               

2.

「うたうとは小さないのちひろいあげ ★★★   野間児童文芸賞


うたうとは小さないのちひろいあげ

2015年05月
講談社刊

(1500円+税)



2015/07/03



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高校一年の白石桃子、親友である橋爪綾美は不登校のまま。今朝も駅で綾美の姿を探すものの、その姿を見えず。
そんな桃子に話しかけてきたのは、見知らぬ2年生の
古畑清ら。その清らに強引に連れて行かれた先は「うた部」(短歌)。
3年生で現部長の
大野いとが立ち上げた同好会で、部員は3名のみ。そこで清らが何としてでも一年生部員を入部させねばと、桃子に狙いを付けたという次第。
綾美と桃子の間に一体何があったのか。高校で友達を作らないと綾美に約束してしまった桃子は、部活なら友達を作ることにはならないと、思いがけず居心地の良かったうた部への入部を決心します。

俳句”の次は“短歌”かと思ってしまったのですが、毎年松山市で行われる“俳句甲子園”に対して、“短歌甲子園”は毎年盛岡市で開催されているのだそうです。
さて、その短歌を“うたう”とは何のことか。本ストーリィを読む限り、自分の思いを鮮烈に言い表し、相手に届けようとすることかと感じます。
俳句に比較して短歌は、ずっと話し言葉に近い。その所為か、うた部の仲間たちが詠む短歌はかなり自由奔放ですし、仲間が詠んだ短歌に対する批評も遠慮なし。とはいえそのままだったら極めて印象薄いものに成りかねなかったところを、顧問の
難波江先生が施す解説と助言が一つ一つの歌に強さと輝きを加え、本ストーリィが短歌を題材にしたストーリィであることを思い出させてくれます。

うた部に入部し短歌と出会ってから桃子は、自分の思いを相手に届けようとすることの大切さを学びます。
綾美の所為ですっかり視野を狭くしていた桃子でしたが、うた部に入部してから桃子の世界は徐々に広がっていき、そしてそれはやがて綾美にも影響を与え・・・。

喜びと感動をもたらす高校生らしい友情ストーリィ。また、高校生たちが作る短歌鑑賞も楽しき哉。 大好きです。

                            

3.
「空はいまぼくらふたりを中心に ★★★


空はいまぼくらふたりを中心に

2016年08月
講談社刊

(1500円+税)



2016/09/14



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うたうとは小さないのちひろいあげの続編。
中田高校で同好会
“うた部”を創設した大野いとが卒業し、諏訪業平古畑清らの2人が3年生。白石桃子・橋爪綾美・須藤彩の2年生トリオの他に、新たに2女子1男子の1年生3人が入部。夏休みに盛岡で開催される“啄木短歌甲子園”出場を目指し、新たなうた部の一年が始まります。

前作ではイジメからひきこもりになった綾美と、そんな親友=綾美をどうしたら救えるのかと悩む桃子、という2人のストーリィが中心でしたが、本作では扱う内容、世界が広がったという印象です。
去年のクリスマスから付き合い始めた業平と清らですが、何かと思いが行き違ってばかり。何でこうなるのか・・・。
そしてトランスジェンダーに苦しみ、人と積極的に関われない同級生のこと。
そして思い定まらない、自分の将来のこと。
現在、将来、そして部活に恋愛と、高校3年生の日々は悩みや迷いも多く複雑です。

題名にある「ぼくらふたり」とは誰のことか。
特定することもできますが、人間関係はまず1対1から始まり、それから広い人間関係に広がっていく、そうとらえた方が相応しいのではないかと思います。
それぞれが迷いながらも、登場する一人一人の高校生が昨年より成長していること、彼らを描く本作品自体も成長していることが感じられて、胸が熱くなります。
是非お薦めしたい、高校青春小説の佳作です。

                     

4.

「青春は燃えるゴミではありません ★★★


青春は燃えるゴミではありません

2017年07月
講談社刊

(1500円+税)



2017/08/10



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“短歌甲子園をめざす高校生たちの青春小説・三部作”完結編。
桃子・綾美・彩の3人も今や3年生。3人の進路選択もそれなりに分かれて、道が分かれるまでの最後の1年となります。

そんな状況の中、うた部の部長となった桃子の身に、深刻な事態が生じます。
辛い、本当に辛い、こんなに辛いなんて・・・・。
それなのに、桃子はどうしたいの? 白石はそれでいいのか?と周囲は桃子を追い詰めるばかり。そして悩み事を打ち明けたい親友たちとは、その順調な様子に隔たりを覚えているというのに、さらに追い打ちをかけるような言葉が・・・・。

後になって振り返れば、ほんの小さな問題がたまたま積み重なったというだけのことかもしれません。
しかし、その渦中にある本人にとってはいずれも深刻な問題。まだ大人ではない、だから自分だけではどうにもならないことがあります。それを突きつけられるから、尚のこと辛い。
それは高校生という青春期だからこその悩み、苦しさなのでしょう。
その苦しみの果てに、ふとしたことをきっかけとして桃子の状況はころっと局面を変えてしまいます。
それもまた青春期だからこそのことと思います。
桃子たち3人が悩んだことは、いずれ高校生時代の小さな思い出になっていくのでしょうけれど、だからといってそれは決して小さな出来事ではありません。それらこそが彼女たちの青春そのものだった、と言うべきなのですから。

読み始める前は、本書題名に意味に当惑する思いでしたが、こうして読み終えた後はその題名がすとんと胸に収まります。

この短歌小説三部作の見事さは、第1作からの単なる延長ではなく、一作一作が独立して感動的な作品に仕上がっているところにあります。それは何と素晴らしいことか。
本作も勿論お薦めですが、改めてこの三部作を是非お薦め!

なお、本作でうた部は、宮崎県で開かれる
“牧水短歌甲子園”に出場します。3人対3人という対戦バトルも大きな楽しみです。

     

5.

「こんとんじいちゃんの裏庭 ★★


こんとんじいちゃんの裏庭

2017年07月
小学館刊

(1400円+税)



2017/07/30



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認知症になっていた祖父が交通事故に遭い、脳を損傷して意識混沌としたままの状態となります。それなのに祖父の自転車と衝突した相手側(損害保険会社)から、自動車の修理代として損害賠償の請求書が届きます。
何故? 重傷を負ったのにじいちゃんが悪いというのか? 
孫である中学3年生の
悠斗は、確認しようともせずに賠償請求を受け入れようとしている父親に納得がいかず、自分が調べる、と宣言します。
でも、中学生の悠斗が一人で調べようとしても、警察も損害保険会社の担当者もそんな悠斗を相手にしようとせず、悠斗は現実社会の理不尽さを感じるばかり。それでも次第に・・・・。

主人公の悠斗は決して模範的な少年ではありません。コンビニで店員が邪魔、2度も注意したのに動こうとしなかったからと相手を蹴とばすような少年です。その件でコンビニ店長と自宅にやってきた警官にも、自分は悪くない、と平然と言ってのけます。
悠斗にとって大事なことは、自分は悪くない、悪いのは相手という正否だけ。
しかし、交通事故を調べ始めた悠斗は、正否を主張するだけではどうにもならない、社会の理不尽さを知ることになります。そして、いろいろなものを抱えている大人の難しさも。

児童向けの作品でもありますが、大人からしても内容はかなりハイレベル、そしてシビアです。
それでも自分自身で体験することにより、そこから学び、些かの成長を遂げた少年を描く本書は、会心の作品と言って良いでしょう。凄い!の一言。
目線が常に中学生のレベルに置かれていることが、本書の貴重さと思います。

なお題名は、祖父がいろいろな木を育てていた裏庭で、悠斗が祖父(現実ではありませんが)と会い、語り合い、励ましや助言をもうらうところから。
大人も学ぶところの多い佳作です。お薦め。


1.じあまをしてはいけません/2.じいちゃんは死にません/3.哲学はわかりません/4.いてもらうわけにはいきません/5.じいちゃんは知りません/6.はむかってはいけません/7.納得はしていません/8.肥料を欠いてはいけません/9.嘘はつきません/10.幸せにはなれません/11.正義を振りかざしてはいけません/12.争ってはいけません/13.描きたくて

             

6.
「死にたい、ですか ★★☆


死にたい、ですか

2018年07月
小学館刊

(1500円+税)



2018/08/20



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4年前、高校生だった典洋はイジメを苦に首吊り自殺。
それ以来、残された家族はまるでバラバラ。
母親の
伊代は家族を顧みず、息子を自殺に追い込んだ同級生たちを糾弾しようと裁判を起こすことに夢中。一方、父親の高道は酒に逃げ、今やアルコール中毒、会社でも左遷の憂き目。
そんな状態にある家族を、何とかしたい、しなければいけないともがくような思いをしているのは、典洋の妹で今は高三になった
人見由愛(ゆあ)

その由愛と、伊代に頼まれて取材に出向いた新聞記者=
大同要の2人が主軸となってストーリィは進んでいきます。
大同もまた、実父に自殺されたトラウマから未だ脱せず、恋人との中にも支障を来している人物。

イジメを題材にした作品は今や数多くありますが、遺された家族の癒し難く、いつまでも続く苦しみをリアルに描いた傑作。

由愛、かつて典洋と親しかった翔、そして要。さらに由愛の両親と較べていくと、若いからこそ未来、この先への夢を捨てることなく、何とかしなければと、強く前へ踏み出す勇気が持てるのかもしれないと感じました。

それと対照的に、同級生を自殺に追い込みながら何の呵責も感じず平然としている相手。どこか人間として大切なものが欠落しているのではないか。
でもそれは何故かというと、その先にある未来を見、夢を持つことができないからなのか、とも思います。
そんな社会を誰が創り出したのか。社会全体の問題として捉えていかなくてはならないことだと、改めて感じる次第です。

      

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