森谷明子
(もりやあきこ)作品のページ


1961年神奈川県生。2003年紫式部を探偵役にした王朝ミステリ「千年の黙・異本源氏物語」にて第13回鮎川哲也賞を受賞し作家デビュー。


1.れんげ野原のまんなかで

2.白の祝宴−逸文紫式部日記−


3.春や春

4.南風吹く

 


           

1.

●「れんげ野原のまんなかで」● 


ねんげ野原のまんなかで画像

2005年02月
東京創元社刊

(1500円+税)

2011年09月
創元推理文庫化


2005/04/08


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秋庭市のはずれ、ススキばかり生い茂る野原のど真ん中にある秋庭市立図書館。そこが本ストーリィの舞台です。
場所が場所だけに訪れる人も僅か。新米図書館員である主人公・今居文子はやきもきしますが、そんな図書館なのに、いやだからというべきか、不思議なことが幾つも起こります。
小学生たちが閉館後の図書館に居残ろうとしたり、書架の本が言葉遊びのように並び替えられていたり、名を騙った借出しが行われていたり、昔に遡る謎解きがあったりと様々。
秋庭市立図書館には、文子のほかに男性司書の能勢、女性司書の日野という手強い先輩もいます。本ストーリィでもっぱら謎解き役となるのは、この能勢。文子は読み手と同じ立場の案内役というところでしょうか。
図書館を舞台にした日常ミステリ、というところが本好きには楽しいところ。ただし、謎と謎解きそのものについては、もうひとつインパクト不足という印象です。
それよりも、図書館自体まだ新しく、本もきちんと揃っており、その上あまり利用されていないため本が綺麗で、いつでも借出せるというこの秋庭市立図書館、いいですねー、一度行ってみたいです。
土地の寄贈者であった秋庭氏が野原にれんげをたくさん植えたことから、この図書館、春にはれんげ野原の真ん中になったという。それもまた楽しい。

霜降−花薄、光る。/冬至−銀杏黄葉/立春−雛支度/二月尽−名残の雪/清明−れんげ、咲く。

      

2.

●「白の祝宴−逸文紫式部日記−」● 


白の祝宴画像

2011年03月
東京創元社刊
(1800円+税)

2015年07月
創元推理文庫化



2011/04/21



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「源氏物語」の作者である紫式部が遺したもうひとつの読み物=「紫式部日記」をベースにし、しかもその紫式部を探偵役に据えた、平安王朝ものミステリ。
その意味では、森谷さんが鮎川哲也賞を受賞した「千年の黙・異本源氏物語」の延長線上にある作品と言えるでしょう。
 
「源氏物語」執筆に集中するため女房を辞して家に籠っていた
紫式部こと香子は、出産を間近に控えていた中宮・彰子から特別に召し出されます。
仕える女房たちが各々御産日記に自分の名前を残そうと大騒ぎしている。ついてはそれら女房たちが記したものをまとめて御産日記として完成して欲しい、というのが中宮からの依頼ごと。
やむなく引き受けた香子でしたが、中宮が御産のため滞在している土御門邸に賊が忍び込む、賊が死体となって発見される、さらに火事騒ぎと、穏やかならぬ出来事が次々と中宮の身辺で起こります。
それらの謎を、観察眼鋭い作家=紫式部こと香子が、ひとり解き明かす、というストーリィ。

珍しい舞台設定で展開されるミステリだけに、全体の構図を頭に入れるまで、現代ものミステリに比べると一苦労します。また、何が問題なのか、どこに事件があるのか、もうひとつピンの来ない嫌いあり。
むしろ、ミステリというより、紫式部が「源氏物語」を執筆した状況を描き出すと共に、名も知られることのない女房たちの世界を描き、そんな王朝の女性たちの間で起きた事件を描く、というところに主眼を置いた作品のように感じます。

「蜻蛉日記」作者の孫娘、「和泉式部日記」の作者で恋多き女である和泉式部「枕草子」の作者で亡き定子中宮に仕えた清少納言も登場し、中々賑やかです。
それら女性の中で一番注目したのは、
中宮彰子。かなりしたたかな女性というキャラクターで、意外であっただけに面白いです。

       

3.

「春や春 ★★☆


春や春

2015年05月
光文社刊

(1600円+税)

2017年05月
光文社文庫化



2015/06/19



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私立藤ヶ丘女子高校2年生の須崎茜は、父親の影響を受けて俳句好き。ところが国語教師から俳句は文学に非ずと断定されたことから発奮、意気投合した図書委員のトーコこと加藤東子と共に俳句同好会を立ち上げ、部員募集に校内を駆け回ります。
目標は、毎年愛媛県松山市で開催される
“俳句甲子園”出場のために必要な5人。
そして2人の元には個性的な面々が集まってきます。書道好きで字に鋭い
北条真名、音楽好きで音に敏感な三田村理香、批評力を備えた桐生夏樹という一年生3人。そして、文学少女の2年生=井野瑞穂
リーダーの茜とマネージャー役に徹するトーコを中心にした俳句同好会6人は、強引に口説き落として顧問になってもらった英語教師=
新野光太郎の指導を受けつつ、俳句とは? 俳句甲子園に出場するために必要なことは?と、学びと工夫を凝らしながら俳句甲子園を目指すという、爽快な青春&部活ストーリィ。

実は本書の紹介文を見てすぐ思い出したのは、荻上直子監督の映画
恋は五・七・五!。無理矢理集められた落ちこぼれの高校生たちが俳句甲子園を目指すという高校生ストーリィで、本書内容とかなり被るところがあります。でも爽快で楽しいストーリィは何度出会っても嬉しいもの。

本作品の魅力は、偶然に出会ってひとつ仲間となった6人が、お互いの長所を認め合いながら絆を深めていく姿にあります。それこそ高校生の成長ストーリィと言えるもの。
さらに本作品ならではの魅力は、6人以外の高校生たちも含め、彼らが作った(という想定の)俳句一つ一つをじっくり味わえることです。その何と楽しいことか!

高校青春ストーリィとしては頁数の多い 340頁、そのうえ登場する俳句をその都度じっくり味わえば、まさに読み応えたっぷりです。
爽快な高校青春・部活ストーリィ&俳句の楽しさ盛り沢山。お薦めです!

1.いくたびも−須崎茜/2.てふてふが一匹−北条真名/3.藻の花や−三田村理香/4.夏痩せて−井野瑞穂/5.閑さや−富士真砂子/6.まつすぐな道−佐々木澗(けん)/7.素晴らしき夕焼よ−桐生夏樹/8.十五万石の城下哉−新野光太郎/9.春爛漫の−加藤東子(はるこ)/10.春や春−須崎茜

                    

4.

「南風(みなみ)吹く ★★


南風吹く

2017年07月
光文社刊

(1600円+税)



2017/08/17



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「春や春」に続く、俳句甲子園出場を目指す高校生たちの青春ストーリィ第2弾。
今回の舞台は、瀬戸内海に浮かぶ
五木島
その五木島にある、
愛媛県立越智高等学校五木分校に通う高校生たちが主役です。しかし、過疎化の波はこの五木島も例外ではなく、再来年には五木分校の廃校が決定済。

怪我をして球技部を引退した3年生の
小市(おち)航太が主人公。
ひょんなことから航太は、俳句甲子園に出場したいと奮闘している
河野日向子のメンバー集めに協力することになります。必要な人数は5人。
2人の連携により、幼馴染の
村上恵一、2年生で短歌好きの来島京(みやこ)、神職の家系で情報通の斎和彦を取り込み、ようやくメンバーが揃います。そしていよいよ、俳句甲子園出場を目指して、俳句作り、大会でのディベートに向けた練習といった本格的な活動を始まるのですが・・・・。

俳句ストーリィの一方で、過疎化が進む島の厳しい現実も語られます。それは進学時期を迎えた3人の進路にも関わりますし、5人それぞれが抱えた問題も語られていきます(ちなみに航太の家は和菓子屋、恵一の家は漁師、日向子の家はミカン農家)

そうしたストーリィ要素があるものの、今一つインパクトに欠けるなぁという印象。
しかし最後、俳句を通じて自分自身を見つめ、また人と繋がり合うことによって、彼らの今後への道が広がったと感じられるところは、やはり気持ち良い。

なお、「春や春」での登場人物がちょっと顔を覗かせるところも楽し限りです。どうぞお楽しみに。


1.赤信号みんなで渡ればこわくない/2.「母」は「舟」に似ている/3.言葉だけの故郷/4.おれのポジション/5.でもほんたうに好きだった/6.しあわせな試行錯誤や/エピローグ

  


   

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