水沢秋生作品のページ


1974年兵庫県神戸市生、国際基督教大学卒。出版社勤務等を経てフリーライター。2012年恩田陸選考による第7回新潮エンターテインメント大賞を受賞した「ゴールデンラッキービートルの伝説」にて作家デビュー。


1.ゴールデンラッキービートルの伝説

2.
プラットホームの彼女

3.
わたしたちの、小さな家

  


     

1.

「ゴールデンラッキービートルの伝説」 ★★ 新潮エンターテイメント大賞


ゴールデンラッキービートルの伝説画像

2012年01月
新潮社刊

(1500円+税)



2012/02/05



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小学校最終学年の3組に集まった生徒たち。
彼らの今現在と6年3組当時が、一人一人交互に語られていきます。
今も小学校当時の性格そのままだったり、その頃の予想とは全く違った大人になっていたりと、そこは様々。
そうとは知らないまま、付き合っている相手が小学校当時の同級生と繋がりがあったというエピソードが本書中幾つかの部分に散りばめられていますが、それを紐解いてみるのは作者から読者に提供されたおまけの楽しみでしょう。

幾つもの物語の中にあってその主となるのは、男子2人+女子1人によるひと夏の友情と冒険の物語。
その対象となるのが本書題名となっている
“ゴールデンラッキービートル”、廃材置き場に置き捨てられた古いフォルクスワーゲンです。
彼ら3人の冒険物語は、小学校の頃親しんで読んだ
M・トウェイン「トム・ソーヤーの冒険」のように懐かしい。
また、何人ものクラスメイトの現在過去を見ていると、つい自分の小学校時代を振り返りたくなります。
高校、中学、それ以前の小学校時代となると何と遠いことか。正直に言って、自分を取り繕う知恵もなかった自分の地そのままだった時代、思い出したくない同級生や、思い出したくない記憶もあったりします。
そんな中で、いつかまたきっと会おうと再会を約した相手があったというのはどんなに幸せなことかと思います。

過去は失われたものではなく、今も奥底で生き続けているという作者のメッセージが嬉しい。
小学校時代への尼酸っぱいノスタルジーを引き起こしてくれるところに本作品の魅力あり。

1.ウサギを殺したのは誰?/2.魔女とモデルガン/3.ジャンクショップのキセキ/4.虹の環/終章

          

2.

「プラットホームの彼女 ★★   


プラットホームの彼女

2015年01月
光文社

(1500円+税)

2017年06月
光文社文庫



2021/11/28



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悩みや苦しい思いを抱えながら駅のホームに佇む人たち。
その彼らに寄り添うように現れる、夏の白いセーラー服姿の女子高生。
その彼女の言葉に後押しされて、各人の各人の人生が変わっていく。
一体彼女は何者なのか。ファンタジー要素ある連作ストーリィ。

「始発電車の彼女」:親友と行き違いしたまま転校してしまって良いのか。悩む男子高校2年生・・・。
「ヌー」:28歳になる加藤。あの日、同級生のヌー(仇名)の言葉に踏み出せなかった自分を振り返る。
「お母さんのシチュー」:愛しい一人娘の死から未だ立ち直れずにいる母親・・・。
「黄金時代」:高校受験に悩む中三女子・・・。
「ほおずき」:通り魔に刺殺された女子高生と僅かの間付き合っていた主人公の口から、かつて彼女がどんな女子高生だったかが語られます・・・。
「最終電車の彼女」:「ほおずき」と繋がる形のミステリ。
幽霊の彼女が今ここに、夏の時期このホームに現れる。その理由を解き明かすストーリィ。
※ふと、
北村薫「ターンを思い出します。

夏のセーラー服姿で駅のホームに現れる彼女、少しも幽霊らしくなく、誰に対しても親切で優しいキャラクター。
彼女のキャラクター故に、爽やかな、そして忘れ難い思い出を添わせる青春譚です。

始発電車の彼女/ヌー/お母さんのシチュー/黄金時代/ほおずき/最終電車の彼女

    

3.
「わたしたちの、小さな家 ★★


わたしたちの、小さな家

2015年12月
光文社

(1600円+税)


2016/01/25


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大学生の片倉希は、翻訳家の祖母と古い一軒家でずっと2人暮らし。
両親は希が幼い頃に事故で死んだと聞かされているが、どういう訳か自宅には2人の写真すら残っておらず、希は両親のことを全く知らないままに生きてきた。
それでも優しく思いやりのある祖母、大切な友人、そして付き合い始めた恋人に囲まれ、それなりに落ち着いた生活を希は送っています。

そんなごく普通の日常にどんな謎があるというのでしょうか。しかし、希は時折り家の中に、何か得体のしれないものの存在を感じることがあった。
そしてついに、祖母が突然倒れた時から、その謎がフタを開けます。それは希の両親の死にも繋がる謎だった・・・。

少々不穏な雰囲気があるといった程度のごく平凡な日常光景から始まるストーリィでしたが、クライマックス場面での切れ味鋭いスリル感は、もう酔いしれる程に圧巻!
久方ぶりに味わったこの感覚は快感と言えるくらいです。
そして全てが決着した後の平穏な静けさ、直前の場面と対照的だからこそ胸に残ります。
この快感は、お薦め!

 


  

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