松井今朝子作品のページ


1953年京都生。早稲田大学大学院演劇学修士課程修了後、松竹株式会社演劇制作部に入り、歌舞伎の企画制作に携わる。退社後、歌舞伎上演台本の作成、評論、演出等を手がけた後に作家デビュー。98年「仲蔵狂乱」にて第8回時代小説大賞、2007年「吉原手引草」にて 第137回直木賞を受賞。


1.
東洲しゃらくさし

2.銀座開化事件帖(文庫改題:銀座開化おもかげ草紙)

3.吉原手引草

4.果ての花火−銀座開化おもかげ草紙−

5.そろそろ旅に

6.星と輝き花と咲き

7.老いの入舞い−麹町常楽庵月並の記−

8.縁は異なもの−麹町常楽庵月並の記−

9.料理通異聞

10.江戸の夢びらき

  


     

1.

●「東洲しゃらくさし」● ★★




1997年01月
PHP研究所


2001年08月
PHP文庫

2011年12月
幻冬舎文庫



1997/04/20

てっきり東洲斉写楽中心のストーリィだと思ったのですが、思い違い。でも、それなら何故「しゃらくさし」なのか? と戸惑いました。
確かに写楽は登場するものの、登場人物の一人に過ぎず、主人公はあくまで並木屋五兵衛という大阪で名をなした狂言作者です。

五兵衛は江戸の瀬川菊之丞に誘われて江戸へ下るにあたり、目に留めていた道具方の彦三を先に下らせます。ところが、蔦屋重三郎が彦三の才能を見出し、写楽の名で売り出したところ、その役者絵が大ヒット。それが写楽の謎解きになっています。
しかし、本書の主題は写楽にあるのではなく、芝居についての、上方、江戸の違いです。それが五兵衛らの見聞を通じて明らかにされていきます。五兵衛も最初の狂言に失敗するものの、次作で好評を博し成功します。「東洲しゃらくさし」とは“江戸メ、しゃらくさい”との意味であったかと、漸くにして思い当たりました。
芝居興行の仕組み、しきたりの違いの他に、江戸の筋立ての理に合わない点等の批判もありますが、一方で格式にとらわれず才あれば成功できるという江戸の勢いが評価されています。
五兵衛引退時には、既に蔦屋は病死し、彦三は行方知れず。
その一方で彦三の面倒を見ていた二八は戯作者として成功し、十返舎一九。蔦屋の陰気な手代は曲亭馬琴。蔦屋から役者絵を出していたのは葛飾北斉。五兵衛の後に立作者と成功した俵蔵が鶴屋南北
江戸文化興隆直前の江戸の様子をいみじくも描き出した作品であり、楽しめました。

  

2.

●「銀座開化事件帖」● 
 
(文庫改題:銀座開化おもかげ草紙)


銀座開化事件帖画像

2005年02月
新潮社

(1500円+税)

2007年10月
新潮文庫



200
7/08/31



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明治維新からまだ数年、煉瓦造りの建物が立ち並んだばかりの銀座が舞台。 
銀座といっても煉瓦造りの建物は不便ゆえに、店舗も住んでいる人間もまだ僅かという、現在からはとても想像できない状況にあります。 
そんな銀座に住み込むことになった元旗本の次男坊・久保田宗八郎を主人公に、銀座に店を開いた元十万石藩主の妾腹の子(戸田三郎四郎)と元南町奉行所与力(原胤昭)、元薩摩藩士の巡査(市来節蔵)、元奥医師の娘で西洋的な現代娘(鵜殿綾)らを加えて、当時の目まぐるしい世相を描いた時代小説。
若い戸田や原、綾らが進取の精神を見せる一方、元品川女郎で宗八郎と割り無い仲の比呂は旧時代を引きずりつつも順応して逞しく生きている。登場人物はなかなか賑やかです。その中にあって主人公の宗八郎こそが、最もフンギリが悪いようです。

明治時代といっても、無理をして西洋の真似をしている当時の有り様が興味深い。店舗は煉瓦造りでも、一歩店に入れば暖簾がかかり、前垂れをした小僧が控えているというから可笑しい。また裃姿で能の翁面を被ったという日本初のサンタクロース、子供たちは怖がって後ずさりしてしまうという様は、さもありなんと思うばかりです。 
是非はともかく変革途上ということでやむを得ない仕儀だったのかもしれませんが、そこに滑稽さと愚かしさを感じてしまうのは私だけでしょうか。 
しかし笑ってばかりいられないのは、時代および社会の変貌によって悲哀を味わう人々が多くいるから。勝者の驕り、敗者への労りを欠いた結果は、現代の戦争状況にも共通するものではないかと思います。 

物珍しさとこの時代への興味、変貌の渦中にいる人々の熱気と悲哀は感じるものの、面白さという面ではやや物足りず。
皆が惹かれるという宗八郎の人物像に実感が欠ける所為もありますが、物語はまだ始まったばかり、と感じられるのもその理由のひとつ。

明治の耶蘇祭典/井戸の幸福/姫も逢ひます/雨中の物語り/父娘草

   

3.

●「吉原手引草(よしわらてびきぐさ)」● ★★       直木賞


吉原手引草画像

2007年03月
幻冬舎
(1600円+税)

2009年04月
幻冬舎文庫



2007/05/09



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舞台は江戸の吉原。
どういう人物か明らかにされませんが、吉原で名を高めた花魁・舞鶴屋の葛城のことを、葛城と関わりのある人物を訪ね歩いて聞き回っている。その巧みな問いかけに各々が自分の知る限りで葛城のことを語り、それによって葛城という花魁が描き出されていくといった趣向の作品です。

こうした構成の作品、本書が何も初めてではなく、私が思い出すところでは有吉佐和子「悪女について」があります。同作品は、主人公が語る人間によって善人とも悪女とも描かれるところに面白さがあった作品ですが、本作品における面白味はミステリ風味にあります。
何を目的に葛城のことを訊ね回っているのか、葛城に関わる騒ぎとは一体何だったのか、そして葛城は今どうしているのか、という3点。
ストーリィの中心はもちろん葛城にあるのですが、葛城について語られる中で吉原という特殊な町のしきたりが案内され、さらに女郎以外で吉原に住まう者たちの人間模様が描かれるといった巧妙な仕掛けが、本作品の秀逸なところです。
吉原という廓世界の中だけで成り立っているストーリィながら、そこに描かれる世界はとても広いように感じられるところも本作品の魅力です。それはそのまま、人間の欲と見栄で成り立っている吉原という世界のもつ魅力なのかもしれません。

最後に至ってあぁそうだったのかと謎が明らかにされますが、本書の魅力はそんなところにあるのではなく、何といっても葛城という見事な花魁像にあることは間違いありません。
本人が直接姿を現すことはなく全て第三者から語られる姿に過ぎませんが、何と惚れ惚れする花魁っぷりでしょうか。そして何と見事なその出処進退ぶりでしょうか。
読んでいるだけでも惚れ込んでしまいたくなる、花魁・葛城を描いた読み甲斐ある一作。

   

4.

●「果ての花火−銀座開化おもかげ草紙−」● 


果ての花火画像

2007年08月
新潮社

(1500円+税)

2010年08月
新潮文庫



200
7/09/22



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銀座開化事件帖に続くシリーズ、第2弾。
士族・久保田宗八郎を主人公に、明治初期の世相を描いた連作短篇集です。

前巻の最後で宗八郎は、彰義隊の隊士を無残に殺し、そのうえ妻ならびに義父を殺害、さらに宗八郎の遠縁にあたる老人まで馬車で轢き殺した明治政府の高官・石谷蕃隆の命を狙いましたが、まだ果たせず。
そうした状況の中、相も変わらず明治初期の混乱した世相が語られます。
石油採掘会社の資本増強という名目で金を騙しとろうとする山師が登場したり、徴兵から逃げたいと思う庶民、武家時の主従関係を捨て切れなかった芸妓の悲劇が描かれます。そんなドラマは明治社会がまだ時代の変革という混乱の最中にあることを語っているといえるでしょう。

新時代に懐疑的な宗八郎、保守的に過ぎるなぁと思うこともあれば、朝鮮への挑発的な軍事行動は黒船の真似に過ぎない等、感じるまま口にした言葉が意外と真実を衝いている点を注目したいところ。
新しい時代だと儲けている人間がいる一方で庶民は貧しいままに放り置かれている、という批判は、なにやら現代中国を指す言葉のようにも感じられます。
そうした明治初期の世相に興味は惹かれるものの、ストーリィ自体の面白さという点では今ひとつ。

水とあぶら/血の税ぎ/狸穴の簪/醜い筆/果ての花火/直びの神

 

5.

●「そろそろ旅に」● ★★


そろそろ旅に画像

2008年03月
講談社
(1800円+税)

2011年03月
講談社文庫



2008/04/12



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「東海道中膝栗毛」の作者である十返舎一九の若き日から、戯作者としての道を歩み出した頃までを描いた時代長篇。
一九の辿った長い道のりを切々と描いていく長篇小説ですので、読みでたっぷりです。

元々駿府の武家・長男に生まれた身で、名は重田与七郎
しかし、題名にあるとおり「旅」への思い捨て難く、駿府に赴任していた頃可愛がられた小田切土佐守の後を追うように、江戸、大阪、そして再び江戸という旅を経る中で武士を捨て、最後は人気戯作者として名前を高めたというのが、十返舎一九の生涯。
武家に生まれたにも拘らず、性格は明るくして滑稽味あり、人に優しく人に好かれ、頼まれたら嫌とは言えない性格。
一方で、そんな性格だからこそ、ひとつ処に腰を落ち着けることができず、行き詰ると何もかも捨てて旅に出たくなるという、困った性情の持ち主。

本ストーリィの中において、表向き飄々として人に好かれる与七郎の陰で、与七郎の性格の弱さ故に傷つけられていく女たちの姿がとても痛ましく感じます。
大阪の富裕な商人の娘であるお絹、江戸の質屋の跡取り娘である八重。この2人の女性の姿は
、私にとって与七郎以上に鮮烈で、忘れ難いものがあります。
何故そんなにも旅に思いを馳せるのか、十返舎一九=重田与七郎という人物は果たして善意の人物なのか、それとも人を傷つけるだけの悪人なのか。
本書後半に至ると、その思い止みません。そしてそれを解き明かす重要な鍵となるのが、幼少の頃から与七郎に付き従っている太吉という小者の存在。
最後は、思いも寄らないミステリアスな展開に目を瞠らせられます。それこそ松井今朝子さんらしい味わいでしょう。

※本物語の余禄と言ったら失礼かもしれませんが、江戸に至ってから蔦屋重三郎、山東京伝、滝沢馬琴、式亭三馬という層々たる戯作者等が顔を揃える部分は、それだけで見応えがあります。

 

6.

●「星と輝き花と咲き」● ★★


星と輝き花と咲き画像

2010年07月
講談社
(1500円+税)

2013年12月
講談社文庫


2010/08/11


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明治の時代、世間の人気を一身に集めた娘義太夫=竹本綾之助こと藤田園の全盛の様子を描いた半生記。

女芸人の半生記として読むだけなら、いくら面白くてもそう印象に残るものではありませんが、本作品、現代のアイドルと見比べてみるからこそ面白い。
まず姪の園を養女に貰いうけてシングルマザーとなった養母のお勝、自分も三味線を弾きますが、現代のステージママに譬えるとそっくり嵌ります。
園自身は、さしづめ天才歌手。浄瑠璃をうなるその声と調子に魅了され、次々と応援者が増えていく。
ふとしたきっかけで東京に出た母娘、娘義太夫の素地があったこの地で素人ながらいつの間にか注目を集め、勝手にマネジメント役を名乗り出た近久こと近藤久次郎の手配で、素人ながら演芸場の舞台に立つ。そしてその後はトントントン。
人気沸騰して、当時の学生らが「ドウスル連」を組織して騒ぎを大きくするなど、現在のファン騒動に似ています。
さらに唐突に結婚&引退を表明しての大騒ぎ、そして母親となった後のカムバックといい、綾之助が先駆者だったのかと思うばかり。

天才少女の成功物語というより、明治という時代を背景にしながらの、元祖アイドル物語としての魅力に富んだ一冊。

      

7.
「老いの入舞い−麹町常楽庵月並の記−」 ★☆


老いの入舞い

2014年06月
文芸春秋
(1500円+税)



2016/06/18



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北町奉行所の新米・定町廻り同心=間宮仁八郎と、元大奥で女中を務めていた常楽庵の庵主=志乃というコンビによる、軽快な時代ものミステリ短篇集。

著者の松井さん、アガサ・クリスティーの生み出した名探偵の一人=
ミス・マープルを江戸に登場させたらどうなるだろう、と思ったのが本シリーズ誕生の経緯だそうです。
たしかに自分では動かない安楽椅子型の探偵としては格好の人物造形だと思いますが、元大奥女中という設定が洒落ています。
そして題名の
「入舞い」とは、舞い手が退場する寸前にもう一度舞台の真ん中に引き返して華やかに舞って見せることを言うとのこと。それゆえ年寄りが最後に花を咲かせる姿ということで「老いの入舞い」ということのようですが、志乃、年齢不詳の上にまだまだ世俗心が沢山持ち合わせているようで中々艶やかなところが魅力です。

とはいえ、常楽庵の庵主、油断していると何をしでかすかわからない女子だというのが北町奉行である
小田切土佐守の弁。そのため仁八郎、心ならずも常楽庵に通うという風であるのに対し、志乃の方は仁八郎が親しかった誰かに似ているらしく、その短気ぶりも含めて楽しく感じているらしい、という設定が本書探偵コンビの妙です。

志乃、若い娘たちの躾けを頼まれて応じているらしく、常楽庵には若い娘たちの姿も絶えません。事件がその娘たちと多少なりとも関わっていることから、仁八郎が志乃の元へ足を運ばざるを得ないという仕掛け。
なお、思いも寄らなかった
「老いの入舞い」での大立ち回りは、読者サービスという気がします。

※本書では、数多い登場人物の一人にしか過ぎませんが、志乃の元に通う町娘の一人=
但馬屋のおきしがちょっと面白い存在。今後も引き続き登場するのかどうか、気になる処です。

巳待ちの春/怪火の始末/母親気質/老いの入舞い

       

8.
「縁は異なもの−麹町常楽庵月並の記−」 ★☆


縁は異なもの

2016年06月
文芸春秋
(1600円+税)

2019年06月
文春文庫


2016/07/02


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北町奉行所の新米・定町廻り同心=間宮仁八郎と、元大奥勤めの常楽庵・庵主=志乃という組み合わせによる、軽快な時代ものミステリ“麹町常楽庵月並の記”シリーズ第2弾。

今回も様々な事件が発生しますが、常楽庵に行儀見習いに通う娘たちが何らかの関係を持つということで志乃が相談に乗り、一方では町方の事件として仁八郎が探索に関わるというストーリィ仕立て。
志乃が事件解決の中心人物なので必然的ながら、まぁよくもこう志乃の周りで事件が起きるものやら。
その中で、薬種問屋・但馬屋の娘である
おきし、彼女もまた常連というべき登場人物になった観があります。

最初の3篇はそれなりのストーリィ、そして最後の一篇が読み手をもまた驚愕させるインパクトある一篇という構成は前巻どおりですが、これがあるから次巻も読んでみようという気にさせられるのですから、その辺りは松井さん、中々巧妙です。

表題作であり最後を飾る
「縁は異なもの」では、志乃の経歴と北町奉行である小田切直年との因縁が明らかになりますので見逃せません。
また、仁八郎の縁談の行方が気になるところで、次巻もきっと読むことでしょう。


宝の持ち腐れ/心の仇/塗り替えた器/縁は異なもの

               

9.

「料理通異聞 ★★


料理通異聞

2016年09月
幻冬舎

(1600円+税)

2019年12月
幻冬舎文庫



2017/02/09



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江戸時代の創業から三百年に亘って続く名料亭「八百善」の創業時の物語。
主人公はもちろん、実質創業者である4代目
栗山善四郎

精進料理で好評を得ている料理屋
「福田屋」の息子として育った善四郎、様々な人との出会いと見聞を得て、料理の道を究め福田屋の名をさらに高めていこうと奮闘していくストーリィ。
最後は、上様の御成りまで受け、日本一の料理屋という評判を手中にするまでに至りますが、そうした道を辿るきっかけとなったのは、偶然知り合った
大田直次郎(後の南畝)から、料理で天下を取れとけしかけられたこと。

さぞ面白かろうと読む前には思っていたのですが、実際に読んでみるとそれ程でもなし。
私が勝手に予想していたのと実際の趣向に乖離があったためのようです。
一流料亭を築き上げるまでの奮闘が描かれているのだろうと思っていたのですが、そうした奮闘部分は本作において割愛されていて、4つの時期における善四郎と店の状況、南畝や
酒井抱一、谷文晁等々歴史に名を残した有名な文人たちの交流を主体にその時代を描いた時代長編、という傾向が強い。

八百善という名料亭が誕生するまでの経緯、有名な文人たちとの交流があってこそ善四郎ならびに八百善の発展もあったという、ひとつの時代を描いたところは十分読み応えあり。

※同様に江戸から現在まで残る名店を描いた
河治和香「どぜう屋助七とは趣向の異なるところがあり、両作品を読み比べてみると面白いかもしれません。

出会いは甘露にして/うどんげの再会はからし/迷える浮木は酸い仲となり/別離に涙して帰根の苦みを知る

                    

10.
「江戸の夢びらき ★★


江戸の夢びらき

2020年04月
文芸春秋

(1900円+税)

2022年11月
文春文庫



2020/05/11



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荒事>を歌舞伎芝居の中に持ち込んだ初代・市川團十郎の足跡を描く時代小説。

市川團十郎が江戸歌舞伎を代表する大名跡であること、その始まりが江戸期であることは、言われるまでもなく知っていることですが、それ以上のことは知らないとあって、本作にはかなり興味を惹かれるところ。
元禄(綱吉)時代の役者、荒事というその芸から、時代を切り開いた先駆者としてのワクワクするような物語を期待していたのですが、そうはならず。・・・何故なのでしょうか。

大きな理由は、主な主人公を團十郎ではなく、その女房となった浪人者の娘=
恵以に設定してことが大きいと思います(なお、部分的には團十郎や息子である九蔵の、第一人称による語りもあり)。
それにより、團十郎の独創性、傑出ぶりを、それによる苦労、心配が絶えないという女房の視点から描くことになってるからでしょう。

私として読み応えを感じたのは、ストーリィの多くを占める團十郎の部分より、團十郎の死後にその名を継いだ息子の
九蔵(二代目團十郎)の苦労と、先代の妻であり二代目の母であるという恵以が抱えた複雑な思いを描いた部分です。
先代が偉大なうえに、若年にしてその後を継がされた子供の苦悩というのは万人共通のものがあると思いますが、人気役者という立場だからこそこれは辛い。
なお、その二代目團十郎、後に絶大な人気を博して市川團十郎家の基礎を築いた役者であると同時に、荒事をひとつの芸として、また
隈取の技法や様式を完成させた人物だそうです。
他人事であり、小説中の人物のことでありながら、そうだったのかと知れるとホッとする思いです。

なお、「夢びらき」という題名、夢を描けると同時に大きな災害といった悪夢も多くあった時代に、悪夢を見事に晴らして復活する芸能人、という意味が込められているそうです。


風縁の輩(やから)/寵児の果て/仕組まれた縁/夢の扉/字義の弁/今日の水 江戸の風/身替りの子/天譴の証/僭上者/不審の輪/魘夢(えんむ)/巣立ち/奇禍/江戸の夢びらき

    


 

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