河治和香
(かわじ・わか)作品のページ


東京都葛飾区柴又生、日本大学芸術学部映画学科卒。CBSソニーを経て日本映画監督協会に務める傍ら、江戸風俗研究家の三谷一馬氏に師事して江戸風俗を学ぶ。2003年「秋の金魚」にて第2回小学館文庫小説賞、「がいなもん 松浦武四郎一代」にて第3回北海道ゆかりの本大賞、第25回中山義秀文学賞、第13回船橋聖一文学賞を受賞。


1.どぜう屋助七 

2.旅行屋さん 

 


           

1.

「どぜう屋助七 ★★☆


どぜう屋助七画像

2013年12月
実業之日本社
(1600円+税)

2017年04月
実業之日本社
文庫



2014/03/15



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江戸時代から 200余年続くという浅草の「駒形どぜう」、その実在の店をモデルにした歴史時代小説。

嘉永7(1854)年、黒船来航で騒がしい江戸は浅草、駒形の“どぜう屋”を16歳の世慣れぬ娘=伊代が訪ねてきたところから本物語は幕を開けます。
と言うとあたかも伊代が主人公のように思えますが、そうではありません。
どぜう屋三代目
“助七”こと元七、その妹で駒形小町と異名をとるヒナ、先代助七の隠居=平蔵に女中頭のおハツ等々、どぜう屋を舞台にした江戸下町群像劇、と言うべきストーリィです。
それぞれ江戸下町のやんちゃ気分を備えた個性的な浅草住民らが次々と登場し、ただ呆然とするばかりの伊代も加えて、その面白さ、楽しさは留まるところを知りません。
その一方で、黒船騒ぎ、大地震に大火事を経て、幕末の索漠とした雰囲気が描かれると思えば、遂には彰義隊の上野戦争と、江戸幕末の嘉永年間から明治元年にかけて江戸庶民の目からみた世相が色濃く映し出されます。

本書の魅力は、江戸下町における飲食店商売のワイガヤ感がどの頁からも溢れていることでしょう。
作者の語り口は洒脱でテンポ良く、楽しさこの上なし。最後の最後まで全く飽きさせない面白さです。
本書を読めば今もある浅草「駒形どぜう」の暖簾をつい潜ってみたくなる、そう言って間違いではないでしょう。
ところで私、その店を一度潜ったことがあったかなかったか、どうもはっきりとしません。(苦笑)

                       

2.
「旅行屋さん−日本初の旅行会社・日本旅行と南新助− ★★


旅行屋さん

2025年11月
実業之日本社

(1900円+税)



2025/11/30



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日本旅行と言えば、大手旅行会社のひとつ、という程度の認識しかありませんでしたが、日本において団体旅行を始めて取扱ったのが日本旅行の前身である<日本旅行会>であり、しかもそれは伊勢神宮への参詣旅行だったとは!

本作は、
草津駅設置のため土地を提供した父親=南信太郎が駅前茶店ならびに駅での弁当立売りを始めたところから、その息子である南新助が知り合いから頼まれ伊勢神宮への参詣旅を世話、それが団体旅行への開始へと繋がっていき、現在の旅行事業へと拡がっていく歴史的経緯を描いたフィクション。

新助が「旅行屋さん」と親しみをもって呼ばれ、先頭に立って奮闘していた時代、その変遷は、とにかく面白い!のひと言に尽きます。
新助に儲けようという思惑がなく、実家の商売が順調であるお返し、還元サービスというつもりだった、という処が気持ち良い。
それにしても旅行参加者が 100人とか 900人といった規模にはもう絶句するほかありませんし、知って驚くことばかり。

ひょんなことから再会し、女の世話人として新助の旅行事業において貴重な助っ人となる娘、
茶良(ちゃら)の存在が楽しい。
また、途中ではアジア太平洋戦争による苦節も描かれ、本物語がまさに明治〜大正〜昭和にわたる歴史的事実だったのだと感じさせらえます。

旅行好きの方には、是非お薦め。


1.ホームに銀蛇の放列!/2.ゲオルギオスの聖剣/3.人に翼の汽車の恩/4.いざ、神都へ・・・・!/5.遠くとも一度は詣れ善光寺/6.尼公上人が尊い!/7.実録・奥羽関東廻遊旅行/8.余話として/9.旅で男を磨くのだ/10.甲板でスキヤキ大会!/11.時局をわきまえろッ!/12.焦土を汽車は走る/13.もはや<旅行屋さん>ではない/14.夢の世界一周!/15.道は、どこまでも続く

            


   

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