町田そのこ作品のページ


1980年福岡県生・在住。2016年「カメルーンの青い魚」にて第15回「女による女のためのR-18文学賞」大賞を受賞、17年同作を含む「夜空に泳ぐチョコレートグラミー」にて作家デビュー。


1.夜空に泳ぐチョコレートグラミー

2.ぎょらん


3.うつくしが丘の不幸の家

4.52ヘルツのクジラたち

 


                   

1.

「夜空に泳ぐチョコレートグラミー ★★★


夜空に泳ぐチョコレートグラミー

2017年08月
新潮社刊

(1500円+税)



2017/09/20



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「R-18文学賞」大賞を受賞した篇を含む、連作5篇。
デビュー作ということで特に期待してはいなかったのですが、冒頭2篇で驚かされました。まさに興奮する程の素晴らしさ。

「カメルーンの青い魚」
出だしは、団子を食べたら差し歯である前歯2本が突き刺さってとれてしまったと、
サチコと啓太が笑い合う場面から。主人公のサチコ、少々知的障害?と思ってしまったのですが、そんなことは決してなく、恋人りゅうちゃんとの再会から、これ以上ないくらい強い愛情をもった女性なのだと分かり、圧倒されました。
「夜空に泳ぐチョコレートグラミー」
前篇に登場した啓太が今度は主人公となり、
啓太晴子の物語。
地味で弱々しかった晴子が急に強くなった理由・・・なんて切ないことか。
頑張って生きていってと、晴子の背中に向かって心から呼びかけたい気持ちになります。

「波間に浮かぶイエロー」:男から女に変わる途中という芙美さんが経営する軽食屋に身を寄せた店員の沙世と、居候となったの3人を描く篇。救われたい時、居場所を提供してもらえることがどんなに有難いことか、と感じます。
「溺れるスイミー」:ひとつ処に閉じ込められる怖さと、どこかへ逃げ出したいという本能。唯子はどちらを選ぶのか。
「海になる」:流産を繰返して子供が望めなくなった桜子。その直後から夫はDVを繰り返すようになる・・・。
その結末は思いも寄らぬもので、ただもうヤラレタ!の一言。

どの篇の登場人物もそれぞれに事情を抱えていて、決して順調とは言えない。それでも皆、懸命に泳いでいる(生きている)、その姿の何と素晴らしいことか。
各篇の登場人物がそれぞれ何らかの形で繋がっていることが、さらに感動を深めてくれています。
この素晴らしさをすっかり堪能しました。 是非、お薦め!

※なお、私の好きな作品を連想させる処があったのも嬉しい。
「チョコレートグラミー」は、
白河三兎「私を知らないでを。
「波間に浮かぶイエロー」は、
古内一絵「マカン・マランを。

カメルーンの青い魚/夜空に泳ぐチョコレートグラミー/波間に浮かぶイエロー/溺れるスイミー/海になる

                      

2.
「ぎょらん ★★★


ぎょらん

2018年10月
新潮社刊

(1650円+税)



2018/12/16



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人は死すとき、最期の願いを赤い珠にして残す。そしてそれを口に含んで噛み潰すと、死者の思いを知ることができるという。それが“ぎょらん”。
本作は、そのぎょらんをキーワードにした連作ストーリィ。

最初の篇
「ぎょらん」に登場するのは、恋人が昨日バイク事故で死んだというOLの華子と、大学時代に親友が自殺、それ以来ヒキコモリとなった30歳の兄の朱鷺の2人。
その朱鷺が漫画で知ったというぎょらんを、2人が事故現場へ見つけに行くという出だし。

ファンタジーあるいはホラーと思える題材設定ですが、華子は恋人と言いつつ、実際はセフレとしてただ弄ばれていただけ。
冴えない2人から、それ程感銘を受ける作品ではないという第一印象でしたが、そこからが凄い。
章を追うごとに、切実な想い、衝撃的な過去、感動がどんどんヒートアップ、もう揉みくちゃにされたような気がする程、圧巻。どのストーリィも、何て濃い、そして何て深いことか。
死者ともう一度繋がろうとすることは、こんな深い想いを味わうことだったのかと、圧倒され尽くした思いです。


個々のストーリィにおける感動だけではありません。
最初、妹から「クソニート」と貶されていた朱鷺が、各章で顔を出し、徐々に立ち直っていく姿が描かれているところも、長編要素として胸を打たれます。
さらに、個々でも読み応えたっぷりだった各章ストーリィが最後に至ってひとつ輪に繋がり、朱鷺が10年以上も苦しんできた真相が明らかになるという展開も、思いがけないミステリ要素というべきところ。
そこに至ると、これまでのストーリィが大きく目の前で膨れ上がっていくような気がして圧巻、もうお見事としか言いようがありません。

夜空に泳ぐチョコレートグラミーに引き続き、お薦め!

ぎょらん/夜明けのはて/冬越しのさくら/糸を渡す/あおい落葉/珠の向こう側

               

3.
「うつくしが丘の不幸の家 ★★☆


うつくしが丘の不幸の家

2019年11月
東京創元社

(1600円+税)



2020/01/06



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単にかつての新興分譲住宅地を舞台にした連作ストーリィ、と思っていたのですが、町田そのこさん、そんなありきたりな設定で済ます作家ではありませんでした。
本作は、同じ家に代替わりで住んだ5つの家族の姿を、あたかも繫いでいくかの如くに描いた連作ストーリィ。それも・・・。

本当に町田さんは上手い! 失礼な言い方になるかもしれませんが、癪に障るくらいに上手い!

どの家族ドラマも、実があって、懸命に幸せを求めているという風で、とても濃いのです。
そしてまた、登場人物それぞれの姿が実に鮮明です。
エピローグの一幕、確かに各篇で伏線が張られていたことに気づかされますが、この締めくくり方が実にお見事。

それにしても各篇に登場する男たちといったら、クズのような男たちばかりで、呆れると同時に我が身を振り返って反省させられることしきりです。
なお、隣人の荒木信子という老女の存在が、実に良い効果を上げています。幸せを実感するのに、良い隣人の存在が欠かせないものなのでしょうか。

ちなみに、
「おわりの家」は、新たに理容店を開業する夫婦が主人公。
「ままごとの家」は、社宅から戸建住宅に引っ越したところ、かえって家族がバラバラになってしまった家族の話。
「さなぎの家」は、それぞれ男に失敗した高校の同級生2人が、先輩の持ち家で共同生活を送る話。
「夢喰いの家」は、妊活に苦しむ夫婦の挫折と再生。
「しあわせの家」は、バツイチで子持ちのとんでもない男と結婚した女性が主人公。

1.おわりの家/2.ままごとの家/3.さなぎの家/4.夢喰いの家/5.しあわせの家/エピローグ

               

4.
「52ヘルツのクジラたち ★★★


52ヘルツのクジラたち

2020年04月
中央公論新社

(1600円+税)



2020/04/26



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大分県の小さな海辺の村、亡祖母が暮らしていた古い一軒家に主人公の三島貴瑚(きこ)が引っ越してきたところから本ストーリィは始まります。
和やかな雰囲気に今回は割と平凡なストーリィかと思ったのですが、ヤラレマシタ。町田作品には底知れぬ深さがあります。

さて題名。普通のクジラは周波数10~39ヘルツで歌うのですが、52ヘルツで歌うクジラは、仲間と周波数が合わず、世界で一番孤独なのだと言う。
本作は、悲惨な状況に置かれ、誰かに自分の声が届いて欲しいと願い続ける、孤独な魂の持ち主たちを描く物語。

この村で
貴瑚は「ムシ」と呼ばれ、家族から虐待を受けている一人の少年と出会います。
そして貴瑚は、何とかこの少年が発している声にならない声を受け留め、守ってやりたいと思う。何故なら貴瑚本人も、そうした過去を持ち、貴湖の悲鳴を聞き取った人たちに救われたことがあるから。

貴瑚の過去、また貴瑚
「52」と呼ぶことにした少年の状況は、悲惨極まりない。ことに虐待よりも育児放棄の酷さに、目を覆いたくなる程です。
その分、貴瑚「キナコ」と親しく呼び、その声を聞き取り、キナコを家族の元から救い出してくれたアンさん、美晴らの姿に胸熱くなります。
しかし、それ以上に衝撃的だったのは、声にならない声を上げていたのはキナコや少年だけではなかった、という事実。
そしてそれを補うのは、キナコを囲む人の繋がりです。

声にならない声をきちんと聞き取るには、どれだけの覚悟が必要なのでしょうか。
本作は、貴瑚と少年を中心にしたストーリィですが、苦しんでいるのは決して2人だけではない、と感じさせられます。
その意味で本作は、遥かな広がりを持った作品です。お薦め。


1.最果ての街に雨/2.夜空に溶ける声/3.ドアの向こうの世界/4.再会と懺悔/5.償えない過ち/6.届かぬ声の行方/7.最果てでの出会い/8.52ヘルツのクジラたち

    


   

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