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11.夜明けのはざま 12.わたしの知る花 13.ドヴォルザークに染まるころ 14.コンビニ兄弟4 |
【作家歴】、夜空に泳ぐチョコレートグラミー、ぎょらん、うつくしが丘の不幸の家、52ヘルツのクジラたち、コンビニ兄弟、星を掬う、コンビニ兄弟2、宙ごはん、あなたはここにいなくとも、コンビニ兄弟3 |
「夜明けのはざま」 ★★☆ | |
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地方都市の町にある、家族葬専門の葬儀会社<芥子実庵>。 本作は、その葬儀会社で行われる葬儀に関わる人たちの、これぞ“正念場”、という場面での選択と覚悟を描いた連作ストーリィと言えます。 ・「見送る背中」:芥子実庵に勤める佐久間真奈は、突然連絡を受けた親友の心中死に動揺を抑えきれず。否応なく真奈は、葬祭ディレクターとしての覚悟を問われることになります。 ・「私が愛したかった男」:花屋で花祭壇作りを専門に任されている牟田千和子、元夫の恋人の葬儀に関して元夫からの指名と聞いて困惑。元夫と揉めた過去が蘇り・・・。 ・「芥子の実」:芥子実庵に入社したばかりの須田、遺族の中に中学時自分に酷いイジメをしていた同級生を見出して席を外そうとしますが、またしても身勝手な言葉を投げつけられ・・・。 ・「あなたのための椅子」:子育て中の専業主婦=良子、中学時から大事な仲間だった一人が事故死した知らせを受け葬儀に参加したいと思いますが、夫は男友達の葬儀なんてと許そうとせず。 それがきっかけとなって、これまでの自分の選択は間違いだったのではないかという悔いがこみ上がり・・・。 ・「一握の砂」:真奈、恋人の純也からついに、結婚するにあたって葬儀会社の仕事だけは辞めてと選択を突き付けられます。それに対して真奈は、どう決断するのか。 自分にとって大事な選択を、何かと天秤にして決めてしまったら、後で後悔することになりはしないか。 出版社の紹介文に「自分の情けなさに、歯噛みしたことのない人間なんて、いない。」とありますが、そんなことは生きているうえで何度だってあった筈。 だからこそ、ここぞという時の判断は、自分の本心を誤魔化さず、大事にしなければならないのだと思います。 そんな作者のメッセージを感じる連作ストーリィ。お薦めです。 ※葬儀会社を舞台にしたシリーズ作品に、長月天音「ほどなく、お別れです」があります。興味がありましたら、是非どうぞ。 1.見送る背中/2.私が愛したかった男/3.芥子の実/4.あなたのための椅子/5.一握の砂 |
「わたしの知る花」 ★★☆ | |
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高校生の安珠が公園で声を掛けたのは、4ヵ月前からこの町に姿を見せるようになり、皆から“絵描きじじい”と言われている老人。 昔この町に住んでいたが、いろいろな風評のある人物らしい。 理容室を営んでいる祖母の悦子、それは葛城平(へい)だと。 別の日、幼馴染で仲の良かった奏人から拒絶されて泣いていた安珠を慰めてくれたのは、その平。 しかし、安珠がその平の住むアパートを訪ねると、平は4日前に死去したという。その部屋には、手作りのひまわりブローチと、少女の冒険物語を綴った大量のノート、そして一枚の写真が遺されていた。 葛城平とはどんな人生を送った人物だったのか。安珠はいろいろな人に聞いて回り、それを調べ始めます。 葛城平、美男でやさしく、男っぽくはない男性だったという。 その平が送った人生は、何と悲しく、切なく、そして寂しいものだったのか。 そしてそれは、平が人にやさしすぎたから、やさし過ぎたからかえって自分が深く傷ついてしまった、と言えます。 絵を描き続け、物語を綴り続けた平の暮らしぶりは、まるで祈りを捧げ続けた人生のように思えます。 平が目の前から姿を消しても、彼のことを想い続けた人物たちがいたことは、平にとっては救い、幸せだったことでしょう。 そして平との出会いが、安珠、奏人の成長にも繋がっている処が嬉しい。 忘れ難い、一人の老人の人生回想ストーリー、町田さんの秀逸さに、胸熱くなるばかりです。 是非、お薦め。 1.ひまわりを花束にして/2.クロッカスの女/3.不器用なクレマチス/4.木槿(むくげ)は甘い/5.ひまわりを、君に/エピローグ |
「ドヴォルザークに染まるころ」 ★★★ | |
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北九州、福岡県の小さな町=かなた町。 そこでは今日、町立柳垣小学校が年度末で廃校となるため、イベントが行われる。 ただの学校イベントに過ぎなかったはずなのに、婦人会や老人会まで加わり、町の一大イベント化。 そうした一日、この町で暮らす、日々何かと闘っている児童の母親たちを描いた群像劇。 地方の小さな町、年寄り世代の考え方は旧弊、妻として、母親としての在り様を勝手に決めつけ、さも当然とばかりに押し付けてくる。 その圧迫感、閉塞感は、私にも感じられる、というものです。 上手い! 町田さんの上手さに唸らされます。 ちいさな町、廃校イベントの一日が舞台というだけなのに、濃くて深い、女性たちの耐え、闘う姿が見事に描き出されています。 各章の主人公となる女性たちのドラマももちろん読み応えありますが、大きな存在となっているのは、町の外部からやってきた二人の女性。 一人は、かつてこの町で3年間教師を勤めていた高齢女性。そしてもう一人は、かつてこの町に住んでいたトモダチに頼まれ今日の様子を撮影しにきた若い女性。 外部女性だからこそ、この町の問題点が分かる、その視点と見解が瑞々しく鮮やかです。 とくに前者、息子の妻へかける言葉は、まるで宝石箱の中にある言葉のように輝きを放っていて素晴らしい。 本作もまた、傑作。是非お薦めです。 ・「ドヴォルザークの檻より」:類(36歳)。夫、両親、義父母から勝手ばかり押し付けられているが、いつも拒めないまま。 ・「いつかのあの子」:千紗(37歳)。同棲相手は実娘の結婚式へ出席。置き去りにされた寂しさから、サチと共に故郷に。 ・「クロコンドルの集落で」:佳代子(44歳)。ずっとセックスレス、そのくせ夫は風俗通い。その辛さを義母に訴える。 ・「サンクチュアリの終わりの日」:麦(小六)。父親、ウツ病で無職。4年ぶりの母親、一緒に千葉へとさも決定的のように。 ・「わたしたちの祭り」:三好(36歳)。離婚しシングルマザー。闘う気持ちを捨てずにいる。そんな時に出会った若い女から、思いも寄らなかった事実を聞く・・・。 1.ドヴォルザークの檻より/2.いつかのあの子/3.クロコンドルの集落で/4.サンクチュアリの終わりの日/5.わたしたちの祭り |
「コンビニ兄弟4-テンダネス門司港こがね村店-」 ★★ Mojiko Tenderness Brothers |
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登場人物たちに会うのが嬉しい、シリーズ第4弾。 「乾杯のリスタート」 実父母の過干渉に夫がついに耐えられなくなり離婚、一人で門司港に引っ越してきた日浦百合、34歳が主人公。 コンビニのテンダネス門司港に足を踏み入れた途端、あれよあれよという間に常連客たちの輪に引きずり込まれ・・・。 「ヒーローになりたかった男」前編~後編 子どもの頃に大好きだった特撮アクションにおけるようなヒーローになりたいと願い続けてきた秋吉舞人(まいと)が主人公。現在はリハビリ施設で作業療法士、24歳。 その舞人、高校時代の友人である高木恋斗(れんと)から、コンビニ<テンダネス>のオリジナルキャラクター“アル・パカッションくん”の着ぐるみを着てダンスするバイトをやらないか、と誘われます。 そのキャラクター、人気アイドルである采原或るのアイデア。 高木、今はテンダネス店員のバイトをしているのだが、なり手がみつからなくて、“推し”の兄が困っているのだという。 そこから始まり、実際に舞人がヒーロー的な活躍を見せるストーリーが前編。 そして、「舞人は真のヒーローだった」と語る高木の、その言葉の意味が二人の高校時代に遡って語られます。 シリーズ中の話ではありますが、この秋吉舞人と高木恋斗との、青春&友情物語が抜群に良い、二人の純粋ぶりもあって、胸を打つ物語になっています。 正月早々、気持ち良い物語を読めたことは、嬉しいことです。 プロローグ/1.乾杯のリスタート/2.前編:ヒーローになりたかった男/3.後編:ぼくたちの友情と、ヒーロー/エピローグ |