窪 美澄
(くぼみすみ)作品のページ No.2



11.やめるときも、すこやかなるときも

12.じっと手を見る

13.トリニティ

【作家歴】、ふがいない僕は空を見た、晴天の迷いクジラ、クラウドクラスターを愛する方法、アニバーサリー、雨のなまえ、よるのふくらみ、水やりはいつも深夜だけど、さよならニルヴァーナ、アカガミ、すみなれたからだで

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11.

「やめるときも、すこやかなるときも ★★


やめるときも、すこやかなるときも

2017年03月
集英社刊

(1600円+税)



2017/04/18



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窪美澄作品というと、ちょっとショッキングだったりする作品が多いという印象なのですが、本ストーリィは冒頭こそ驚かされるものの、それ以降はむしろ地味と言っていいくらいの、30代男女2人のゆっくりとした恋愛もの。

須藤壱晴は大学の建築学科を卒業したものの、家具作家に弟子入りして今はその工房を引き継いで家具職人。毎年12月になると数日間声が出なくなるという症状(記念日反応)を繰り返しているのだが、原因は過去のトラウマにあるらしい。また、そのトラウマの所為で女癖が悪いという行動にも繋がっているらしい。
もう一人の主人公は、壱晴がパンフ作りを依頼した制作会社の営業担当社員である
本橋桜子。これまで一度も恋愛が実ったことがなく、男性から見た女性として欠けている処があるのではないかという自虐意識に囚われている。

この2人における恋愛の運びは、最近の恋愛小説の流れと対極にあると言って良いのではないかと思います。
桜子にとっては恋愛=結婚ですし、始まりの段階ではっきり気持ちを決めてしまっています。それなのに恋を急ごうとせず、むしろゆっくり進めていきたいと願う。
32歳という落ち着いて良い年齢である筈なのに、冒頭の行動には驚かされますし、早く何とかしたいという気持ちをいつも抱いているにもかかわらずゆっくり進めていきたいという。
一途で矛盾だらけの行動がこの桜子の魅力であり、可愛らしさであり、愛しさであると思います。
恋に積極的である桜子に対して、壱晴の方は守勢の側にあると言って良いでしょう。

世知辛い現代の風潮の中に会って、2人の何ともゆっくりした、じれったいくらいの歩みがむしろ好ましく愛おしい。
ホッとし、ジンワリさせられる恋愛ストーリィ、私好みです。

              

12.
「じっと手を見る ★★


じっと手を見る

2018年04月
幻冬舎刊

(1400円+税)



2018/04/30



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富士山を臨む田舎町、そこで介護士として働く日奈海斗が、本連作ストーリィの主要な登場人物。
介護士の専門学校で同級生、そこからなるべくしてなったような恋人関係。でも、日奈から申し出て別れたが、今も海斗は日奈にあれこれお節介を働いてくる。
そして、日奈が卒業した専門学校の入学案内作りに東京からやってきた編集プロダクションの
宮澤と、日奈は関係を持つようになり・・・。
一方、海斗もまた、後輩で年上のバツイチ女性=
畑中と関係を持つようになる・・・。

3〜4年という年月の中で、
日奈、海斗、畑中、日奈、宮澤、海斗、日奈と、各章で主人公を変えていく連作ストーリィ。
彼らの関係は、愛情や人生観等で結びつくのではなく、皆セックスでの結びつきに他なりません。
何故そうなのかというと、狭い社会、仕事も限定されてしまう環境の中で、閉じ込められているという思いが強いからなのでしょうか。

宮澤という年上の男と知り合ったことで日奈は外の世界を知り、また海斗も畑中という女性との出会いによってこの町に留まらない道を知ることになります。
そうした経験を経て、日奈と海斗が再会した時、2人の間にはどんな関係が生まれるのでしょうか。

出版社のサイトを見ると「恋愛小説」と紹介されていますが、一般的な恋愛小説と同列に見ることはできないと思います。
縛り付けられるような恋愛関係の是非、不本意な恋愛関係を経て辿り着いた場所。本当の恋愛関係に進めるかどうか、2人はようやくそのスタートラインに着いた、ということだとおもいます。

窪美澄さんらしい、性的に、そしてかなり捻った観のある恋愛小説です。

そのなかにある、みずうみ/森のゼラチン/水曜の夜のサバラン/暗れ惑う虹彩/柘榴のメルクマール/じっと手を見る/よるべのみず

                

13.
「トリニティ Trinity ★★☆


トリニティ

2019年03月
新潮社

(1700円+税)



2019/05/17



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このところ女性の生涯を語る作品を多く読んでいるような気がして、迷ったものの本作は見送ろうと一旦思ったのですが、評判が高そうなので思い直して読んだ次第です。

1960年代、当時人気を博していた男性雑誌
「潮汐ライズ」の編集部で3人の女性が出会います。
といっても3人の境遇、状況は対照的。
一人目の
藤田妙子は、恵まれない境遇に育ったものの、潮汐ライズ編集長の立見に見いだされ、イラストレーター=早川朔として彗星のようにデビューして一世を風靡する。
二人目の
佐竹登紀子は祖母・母と三代に亘り物書き。ライターとして潮汐ライズを中心に活躍し、後にはエッセイストとしても人気を博します。
そして三人目の
宮野鈴子潮汐出版の正社員で、潮汐ライズ編集部の事務員。要はお茶くみ等の雑用要員。見合いで結婚を決め、退職した以降は専業主婦。

早川朔と佐竹登紀子はあの時代に先駆者と言える立場であったのに対し、宮野鈴子は保守的な生き方を選んだと、それぞれ時代を象徴する女性像と言えます。
保守的な生き方は社会に容認される一方、先駆者は常に社会の逆風を受けるもの。

ストーリィは鈴子が早川朔死去の連絡を受け、孫娘の
奈帆を連れて赴いた葬祭場で、登紀子と再会したところから始まります。
結婚し、息子を持ちながら寂しく死んだ妙子、今は零落した登紀子。その登紀子から奈帆が3人の物語を聞き取るという形でストーリィは進みます。

今、満たされた生活を送っていると言えるのは鈴子一人。
でも、結末がそうだからといって、妙子と登紀子の人生は失敗、不運な人生だったとは言えない筈です。
自分らしく、精一杯、全力であの時代を駆け抜けた、生き抜いたと言えるのでしょうから。
不運だったとすれば、時代の先駆けであったからこそ、男性中心の時代に男性と伍して活躍をするために、大きな犠牲を払うことを強いられた、ということでしょう。
あの時代の妙子と登紀子、そして今を生きる鈴子と奈帆というそれぞれの姿が圧巻。力作と言って良い長編です。お薦め。

 

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