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21.探花−隠蔽捜査9− 22.審議官−隠蔽捜査9.5− 23.署長シンドローム 24.一夜−隠蔽捜査10− 25.署長サスピション |
【作家歴】、隠蔽捜査、果断、疑心、同期、初陣、転迷、確証、欠落、宰領、自覚 |
精鋭、プロフェッション、真贋、去就、継続捜査ゼミ、変幻、棲月、エムエス継続捜査ゼミ2、清明、宗棍 |
21. | |
「探 花−隠蔽捜査9−」 ★★ |
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2024年09月
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大森警察署の所長から神奈川県警の刑事部長へ。 本作は、竜崎伸也が神奈川県警の刑事部長として腕を揮う、その最初の巻。 竜崎の着任早々、横須賀署管内で殺人事件が発生。目撃者の証言によると、その場から逃走したのは白人らしい。 神奈川県警で竜崎の部下となったのは、阿久津重人参事官、板橋武捜査一課長。お互いに相手のことをまだよく知らず、少なくとも竜崎は手探り状態のようです。 それでも事件に白人が絡んでいるとすると、米軍基地と関わらざるを得ない。その対応のため竜崎は、横須賀署内に設置された捜査本部に出向きます。 そこからの展開が竜崎らしいところで、これまでの刑事部長とはまるで異なる行動をして周囲を驚かせます。 とはいっても大森署長であった時のように遠慮なく指示をすることはできず、捜査の陣頭指揮を執る板橋課長に任せる、口は出さないと明言し、遠慮しつつというのがスタート時点での姿勢。 それでも、徐々に竜崎らしさが出てくる処が楽しいのですが、まだまだ部下に気遣いつつという感じです。 一方、竜崎と入庁同期で、入庁試験トップ合格だったという八島圭介が福岡県警から異動し、神奈川県警の警務部長に着任。 伊丹曰く、奴には黒い噂があるから用心しろ、とのこと。 出世争いにばかり拘る典型的なタイプがこの八島、「俺は、ただの官僚じゃない、警察官僚だ」と断言する竜崎とは、考え方を大きく異にする相手のようです。 今回の事件そのものは大して複雑なものではなく、新たに刑事部長となった竜崎と、新たな刑事部長を迎える部下たちとが、折り合っていくための第一歩を描いた巻、と言って良いでしょう。 今後の巻が楽しみです。 ※竜崎の上司となる佐藤県警本部長が良識人であり、フランクな人柄らしい処、竜崎にとっては有難いことですね。 |
22. | |
「審議官−隠蔽捜査9.5−」 ★★ |
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シリーズのスピンオフ、9篇。 本シリーズ、長編は長編で読み応えがあるのですが、短編(スピンオフ)は短編でまた別の趣向から楽しめます。作者である今野敏さんの切れ味がすっきりと見事だからでしょう。 竜崎が神奈川県警に転出した後の大森署、ぽっかり穴が開いたような気持ちがしていたところで起きたのは、緊急手配事件、それも続けて2件も。新署長着任前の署長空席の一日、さあ残された大森署員たちはどう行動するのか? 各篇の主人公、それぞれが難問に直面し、悩みに悩みます。 そこで迷った末に竜崎に相談すると、問題点と共にできること、できないことがすっきり整理され、どう行動すべきかが自ずと明確になる、という展開。 なんだ大したことではなかったと、皆が皆、晴れ晴れした顔になるところが痛快。 こうなるから、職務に真面目に向かい合っている警察官たちの間で竜崎ファンが増える訳だ、というもの。 どの篇も、すっきりとした味わいが魅力です。 ・「空席」:大森署警務課長=斎藤治 緊急手配事件を巡り、野間崎管理官が大森署にゴリ押し。 ・「内助」:竜崎の妻=冴子 TVニュースの事件に既視感。美紀の助けを借りて推理。 ・「荷物」:竜崎の息子=邦彦 ポーランド人女性から預かったのは白い粉末・・・。 ・「選択」:竜崎の娘=美紀 痴漢騒ぎに関係、新橋署刑事と会社の上司から不当な扱い。 ・「専門官」:神奈川県警捜査一課長=板橋武 ベテラン刑事の矢坂が竜崎に突進するのを止められず・・・。 ・「参事官」:神奈川県警刑事総務課長=池辺渉 本部長から竜崎へ、仲の悪い参事官2人をどうにかしろ、と。 ・「審議官」:神奈川県警刑事部長=竜崎伸也 警察庁刑事局担当審議官が竜崎の捜査指揮にイチャモン? ・「非違」:大森署副署長=貝沼悦郎 野間口管理官が藍本署長会いたさに戸高の職務違反を口実化。 ・「信号」:再び竜崎 酒席での議論の後始末が竜崎に回されて・・・。 ※なお、大森署、美貌の新署長=藍本百合子のキャラクターも面白そうです。 空席/内助/荷物/選択/専門官/参事官/審議官/非違/信号 |
23. | |
「署長シンドローム」 ★★ |
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2025年03月
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竜崎が神奈川県警刑事部長に転出した後の大森署が舞台。 竜崎の後任署長として赴任してきた女性キャリア=藍本小百合警視正は、誰もが驚く美貌の持ち主。貝沼副署長曰く、強烈な武器と。 しかし、そのおかげで弓削方面部長、野間崎管理官らがこれといった用もないのに足?く大森署にやってくる、困ったものだと頭を痛める貝沼副署長が、本作の語り手。 そんな大森署に安西組織犯罪対策部長がやって来て、羽田沖の海上で銃器と麻薬の違法取引が行われるらしい、ついては大森署に前線本部を設置すると言い渡します。 藍本署長赴任してから初めてとなる本部設置事件、さて藍本署長はどう大森署を率いて事件に向き合うのか。 その藍本署長、竜崎のやり方とは全く対照的。 経験がないから判らない、そんな自分がいても役に立たないと、前線本部常駐を貝沼副署長に押し付けます。 一方、竜崎とはとかく対立しがちだった煩い幹部連は、藍本署長の美貌とそのほんわかした口調に呑まれてしまい、何とも大人しい。 しかし、それだけなら、警察ものとしての読み応えは今一つ。 終盤になってようやく藍本署長が、安西部長や嫌味な担当課長、さらには厚労省の麻取まで、彼らを手玉に取るように仕切り始めるところが愉快。 さらに、事件に恐るべき爆発物まで登場し、動揺して慌てふためく彼らに比べ、何と藍本署長の平然としていることか。 藍本小百合署長ものもきっと、新たな大森署ものとしてシリーズ化されるのでしょう。 本作はその皮切りとして、藍本署長のお目見え版というところではないか。 今後の藍本署長独特の活躍ぶりを期待したいところです。 |
24. | |
「一夜−隠蔽捜査10−」 ★★ |
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本シリーズも、毎回楽しみにしています。 今回は、有名作家の誘拐事件が発生、その捜査過程で竜崎は、親しい間柄だという作家仲間から意見を聞くことに。 さて、事件はどういう展開を見せるのか。 ちょうど文学賞を受賞したばかりの有名小説家である北上輝記が誘拐された? 北上輝記のファンだという佐藤本部長の要望に応じ、竜崎は自ら事件の所轄である小田原署へ。 するとその捜査本部に、親しい仲である北上が誘拐されたのではないか? 自分なら捜査に協力できると、やはり有名小説家だという梅林賢が押しかけてきます。 捜査が中々進展しない状況下、竜崎は個人的に梅林の意見を参考にしながら事件解決を目指します。 今回は小田原での事件。さすがに警視庁の伊丹は関係ないのだろうなと思っていたのですが、途中から顔を出してきました。 竜崎と伊丹のやりとりは、本シリーズに欠かせない漫才のようなものなのでしょう。それがなかったら物足りないだろうことも、事実です。 神奈川県警の佐藤本部長は北上輝記(純文学系)のファンだといい、伊丹刑事部長は梅林賢(エンターテインメント系)の大ファンだと言い興奮。それに対し、竜崎ただ一人、北上も梅林も知らなかったと平然としている辺り、竜崎らしいとも言えますし、竜崎ならではの欠けた処ともいうことが出来て愉快。 本ストーリィ自体は、あまり緊迫感が感じられず、中間辺りで真相が見えてしまったので、本シリーズとしてはちょっと物足りなさもありますが、その分小田原署内での組織内人間模様が描かれているようで、そうした面白さあり。 次作も楽しみです。 |
25. | |
「署長サスピション」 ★☆ |
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「署長シンドローム」に続く、シリーズ第2弾。 新潮社版“隠蔽捜査”と同じ大森署が舞台ですが、同シリーズが緊迫した事件捜査もの、これぞ警察サスペンスという感じであったのに対し、本シリーズは女性署長=藍本小百合のほんわかした雰囲気とその美貌故のコミカルな展開が特徴。 なにしろ、本作でも藍本署長に会うや否や、仏様扱いする検事や気絶してしまうベテラン刑事が登場するのですから。 語り手は副署長の貝沼。 藍本署長の顔を一目見ようと足繁くやってくる幹部警察官が増える一方で、貝沼としては煩わしいばかり。 そして本作では、勤務時間中に署長が戸高刑事と平和島競艇へ出掛け、戸高が万舟券を当てて20百万円稼いできた、その金が署長室の金庫内に納められていると知らされ、どんな処罰が下されることかと頭を抱えてしまいます。 さらに最近管内を騒がしている<怪盗フェイク>が、大森署の署長室にある“お宝”を頂戴する、とSNS上に犯行予告。 さて、大森署はどうなる? いろいろと頭を悩ませる貝沼に、悲観的ね、という藍本署長はすこぶる楽観的。その二人のコンビぶりが楽しめます。 コミカルという点では前作以上、警察事件ものという点ではやや物足りず、というのが本作の感想。 本シリーズも、まだまだ続くのでしょう。今野敏さん、さぞ楽しんで本作を書いているように感じられます。 |
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