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11.精鋭 12.プロフェッション(文庫改題:ST プロフェッション 警視庁科学特捜班) 13.真贋 14.去就−隠蔽捜査6− 15.継続捜査ゼミ 16.変幻−"同期"シリーズNo.3− 17.棲月−隠蔽捜査7− 18.エムエス 継続捜査ゼミ2 19.清明−隠蔽捜査8− 20.宗棍 |
【作家歴】、隠蔽捜査、果断、疑心、同期、初陣、転迷、確証、欠落、宰領、自覚 |
探花、審議官、署長シンドローム、一夜、署長サスピション |
11. | |
「精 鋭」 ★★ |
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2018年02月
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警察官となって交番勤務から始まり、一歩一歩階段を登ってSAT(特殊急襲部隊)隊員となるまでの主人公=柿田亮(りょう)の道のりを描いた長編小説。 主人公が最初からエリート部隊と言われるSATを目指していた訳ではありません。初めて配属された所轄署勤務で様々な係を実体験して戸惑いや悩みを抱えつつも今すべきことに全力投球する中で、目の前に提示されたチャンスを前向きに受け入れるうちに結果的にSATに辿り着いたという風。 大学時代ラグビー部だったという主人公のモットーは“ワン・フォー・オール、オール・フォー・ワン”、そして余り考え込むことなくいつも何とかなるという前向きな姿勢が、次々と主人公の前に扉を開けていくという展開は小気味よく、少々痛快でもあります。 これまでの警察小説とはちっと異なる、新米警察官の成長ストーリィ。 |
12. | |
「プロフェッション
Profession」 ★☆ (文庫改題:ST プロフェッション 警視庁科学特捜班) |
2017年09月
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読むのは初めてなのですが、本作品は“ST警視庁科学特捜班(Scientific Taskforce)”というシリーズ中の一冊とのこと。 架空上の組織で、各分野で異能と言って良いほどの特殊な能力をもったメンバー(警察官ではない)を集めた犯罪捜査組織。第1作の刊行は1998年、既にかなりのシリーズ作品が刊行されているようです。 東京農林大学で土壌研究室に所属する准教授・助手・院生の3人が相次いで誘拐され、翌日には解放されるという連続事件が発生。何故か3人のいずれとも犯人から「呪いをかけた」と告げられていた。そして実際、その呪いの所為であるかのように3人とも頭痛を訴え病院に緊急搬送されるという事態に。 キャリア警部の百合根と捜査一課の叩き上げ警部補である菊川が脇をサポートしつつ、法医学者の赤城、プロファイリング担当の青山、人間嘘発見器と称される黒崎と翠等を中心にSTが事件解明に挑みます。 異能集団であるSTの捜査手法という面白さはありますが、ストーリィとしては事件が発生して解決するという単純な展開に留まるシリーズのように感じます。 他の作品も読んでみれば、いろいろな事件解明パターンが楽しめるというシリーズかもしれませんが、本作品だけ読んだ限りでは面白さ今一つ。 |
13. | |
「真 贋」 ★★ |
2019年06月
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“盗犯”を担当する警視庁捜査三課、そのベテラン刑事である萩尾警部補と若手女性刑事の武田秋穂巡査部長というコンビが主役とした、「確証」に続く第2弾。 今回は、美術館からデパートの「中国陶磁器の歴史展」に貸しだされた国宝級の“曜変天目”をめぐる事件、その攻防ストーリィ。 殺人事件といった捜査一課ものの凶悪犯罪ではなく、プロの盗人たちを相手にする職人芸の犯罪世界ですから、スリリングさに欠け、地味な印象になるのはやむを得ないところ。 ストーリィは、目黒署管内で盗難事件が発生、現場近くにいた盗みの常習犯“ダケ松”こと松井栄太郎が逮捕されるところから始まります。見ただけで金の隠し場所をすぐ見破るという目利きであることが異名の理由。 萩尾、ダケ松は誰かを庇っているだけ、そしてその相手は“弟子”ではないかと推測します。折しもデパートで行われる陶磁器展。 ダケ松の弟子は実在するのか、実在するとしてどのような人物なのか、展示会を標的にどんな犯罪が企まれているのか、というのが本作の興味どころ。 しかし、一歩離れたところから俯瞰すると、事件とは別に、2組の師弟関係が見えてきます。ダケ松と正体不明な弟子との関係は、そのまま萩尾と武田秋穂という弟子であり同僚である刑事コンビにも共通します。 ダケ松師弟コンビと萩尾&武田の師弟コンビの対決とは単純にならない処は惜しく思われる処ですが、長年の経験から事件の裏を見抜こうとする萩尾と、萩尾にはない直感から鋭くポイントを突いてくる秋穂の存在感が本作では十分楽しめます。 ※なお、私においてはTVドラマが先行したため、萩尾=高橋克実、武田秋穂=榮倉奈々というイメージがどうしても拭えないのですが、その方が本作をリアルに楽しめる感じです。 |
14. | |
「去 就−隠蔽捜査6−」 ★★ |
2018年12月
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“隠蔽捜査”シリーズ第8弾。 今回は最近の実情を取り入れたのか、ストーカー事件が題材。 警察庁からの指示に基づき大森署内にストーカー対策チームを組成しようとしていた折も折、大森署管内でストーカー事件に端を発した殺人事件が発生します。 かねてストーカー被害の相談をしていた24歳の女性が、交際中の男性に付き添ってもらいストーカー男との話し合いに赴いたところ、付き添い男性がナイフで刺殺され、さらに女性もスト男に連れ去られ行方不明という事件。 さらに、男がその父親所有の猟銃を持ち出しているらしいとの情報が飛び込んできます。 大森署に指揮本部が設置され、伊丹刑事部長が本部長、竜崎署長が副本部長に就き、警視庁・大森署一体となった緊急対応および捜査が始まります。 しかし、所轄刑事の戸高をはじめとして、この事件には不可解なことが多いという声があちこちから出てきて・・・。 これまで竜崎が担当してきた事件としては、それ程のものではないなァという印象。 その分、竜崎が配下となった警視庁の管理官や前線の係長らに全幅の信頼を置き、余計な口を挟まないという姿勢が目立ちます。 これは実務を負う担当者にとっては実に有り難いこと。格好づけのため、やたら素人の差し出口をして来る上司ほど迷惑な存在はありませんから。 一方、前作で登場した新任の弓削方面本部長、自分の権力を誇示し功績を積み上げようとするタイプの人物なのか、最後は竜崎との決定的な対立に至ります。 竜崎ファンにとって実は、事件よりこの対決の方が面白いかもしれません。 竜崎の合理性は警察上層部に理解されるものなのかどうか、スリル味も加わって興味津々です。どうぞお楽しみに。 ※本書で初登場の大森署少年係巡査=根岸紅美が、小粒ですがキラリと光る活躍を見せています。今後が楽しみです。 |
15. | |
「継続捜査ゼミ」 ★☆ |
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2018年10月
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読む順番が逆になってしまいましたが、元警察官の大学教授とそのゼミ生となった女子大生5人が探偵役という、ユニークな設定によるミステリのシリーズ第一作。 三宿女子大学の教授となった小早川が設けたのは<刑事政策演習ゼミ>。その内容はというと、実際に起きた未解決の刑事事件を謎解きしてみよう、というもの。 そのゼミに参加してきた女子大生は、瀬戸麻由美、安達蘭子、戸田蓮、加藤梓、西野楓という、それぞれに個性的な5人。 そこに、小早川が資料提供を依頼した地元目黒警察署の刑事総務係、28歳独身の安斎幸助巡査部長が、オブザーバーと称してやたらゼミに参加してきます。 早速小早川が取り上げた事件は、15年前に起きた戸建て住宅での老夫婦殺害事件。当時の捜査陣は空き巣犯による居直り強盗と断定したものの、目撃情報もなくそのまま未解決という状況。 当時の捜査情報や、関係者への質問をできないかと警視庁捜査一課特命捜査係の保科孝係長、丸山警部補に協力を求めたところ、犯罪捜査に経験の浅い丸山から、レジェンドたる小早川の協力を是非乞いたいと逆に頼まれてしまうという次第。 上記事件の謎解きの他、三宿女子大学内で起きた小さな事件2つの解決も描かれる、というストーリィ構成。 5人とも優秀な女子大生といっても所詮は素人。小早川に指導されながら事件解決に挑戦します。 彼女たちを素人といってもそれは読者も同じこと。提示された当時の状況を元に推理するという点では、読者も彼女たちも全く同じ立場です。 その意味では本作、学生たちならびに読者へ仕掛けられた、未解決事件の謎解きゲーム、という趣向と言えます。 登場人物間のやりとりも楽しく、それなりに楽しめます。 |
16. | |
「変 幻」 ★☆ |
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2019年10月
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“同期”シリーズ・完結編。 前作で警視庁捜査一課特殊犯捜査係に異動してきた同期の大石陽子巡査部長が、しばらく会えなくなると告げた後、その言葉通りに音信不通となってしまう。 それと時期を同じくして起きた殺人事件。 主人公である捜査一課刑事の宇田川は、先輩刑事である植松と地元警察署の刑事2人と共に事件捜査に加わりますが、その捜査の線上、防犯カメラの画像の中に大石の姿を見出します。 何故そこに大石の姿があるのか? 宇田川に一抹の不安が。 大石は何かの潜入捜査を行っていたのか。そして、果たして大石は無事なのか。 そこにもう一人の同期で、表向き警察を懲戒免職になった蘇我から宇田川に連絡があります。大石を助け出すのに協力してくれ、と。 大石の身を案じつつ、宇田川は殺人事件の捜索に邁進していくというストーリィ。 様々な思惑をもって動く捜査関係者それぞれの絡み合いが面白く感じられた一方、事件捜査と同期の女性刑事救出という二兎を追ったために迫真性という点ではやや中途半端に終始した、という印象です。 また、本作で完結というのも余り得心がいかず・・・。 |
17. | |
「棲 月−隠蔽捜査7−」 ★★ |
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2020年08月
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“隠蔽捜査”シリーズ第9弾。 冒頭、私鉄と銀行のシステムに障害が発生するという事態が発生します。単なるシステム障害なのか、それともサイバー犯罪か。万が一を考え、管轄区域内か域外かなどは無視して竜崎、すぐさま捜査員をそれぞれに向かわせます。 すると早速文句をつけてきたのが、弓削方面本部長、警視庁の前園生安部長という面々。それに対して竜崎、少しも動じず、彼らの文句を一蹴。 竜崎らしさを冒頭から発揮していて、やはりこのシリーズは面白い!と唸らされます。 さらに、大森署管内で18歳の札付き少年が殺される(リンチ殺人?)という事件が発生。大森署内に捜査本部が設置されます。 久しぶりに大森署を主舞台にしたオーソドックスな展開という印象で、本シリーズ本来の面白さを堪能できる、という風です。 前巻で初登場した少年係の根岸紅美が、クセ者捜査官の戸高刑事とコンビを組んで活躍するという展開も嬉しい。 そして、本巻でいよいよ竜崎の異動が現実化してきます。したがって大森署での事件はこれが最後なのか。 その所為か、野間崎管理官等々、これまでの登場人物が勢ぞろいして登場しているという観があります。 思う存分陣頭指揮を振るった大森署勤務への感慨、新しい職場での活躍への意欲。それらは竜崎本人だけでなく、ファンも共有する思いだと思います。大森署時代を惜しみつつ、次巻以降の新たな場所での竜崎伸也の活躍が楽しみです。 ※なお、本巻では竜崎の妻である冴子の、思い切った言葉が痛快で、印象に強く残ります。 |
18. | |
「エムエス 継続捜査ゼミ2」 ★☆ |
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2021年10月
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元警察官の大学教授とそのゼミ生となった女子大生5人が探偵役という、ユニークな設定のミステリ第2弾。 今野敏さん、作品数が多くてとても読み切れず。本書も見送っていたのですが、たまたま借出せる状況にあったのでつい手を伸ばしたという次第。 シリーズ第1作の「継続捜査ゼミ」も未読ですので、この際こちらも読もうと思っている処です。 主人公の小早川一郎は、警察学校の校長も務めたことがある元警察官。幼馴染の三宿女子大学の学長である原田郁子から誘われ、大学教授に転じたという次第。 その小早川が担当するゼミは<刑事政策演習ゼミ>、未解決事件の謎解きをゼミ生たちと行うことから、別名「継続捜査ゼミ」。 前代未聞の探偵たちですが、原型はホームズとベーカー街少年隊ではないか、と思う次第。 第2弾である本書のテーマは“冤罪事件”。 大学内で襲われた3年生である高樹晶の傷害事件。目黒警察署の強行犯係長・大滝がその犯人として目を付け、強引に自白を迫るその相手は、何と小早川。 何故か小早川が犯人と決めつけてしまった大滝から身を護るためには、犯人を見つけるしかないと、小早川と5人のゼミ生たちが動き出します。 事件自体は大したものではありませんが、5人の女子大生たちがそれぞれ持ち味を発揮して、それなりに楽しめます。 ただし、それよりも見所は、一方的な思い込みで小早川を犯人と決め込み、脅迫的に自白させようとする大滝、つまりは公権力を振りかざす警察の恐ろしさ。 素人だったら太刀打ちなど出来よう筈がない、冤罪事件を生む土壌でもある、というメッセージを感じます。 |
19. | |
「清 明−隠蔽捜査8−」 ★★ |
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2022年06月
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“隠蔽捜査”シリーズ第10弾。 本巻冒頭で竜崎伸也は、神奈川県警刑事本部長に着任。 新たな舞台での、新たなストーリィの始まりです。 とはいうものの、着任早々、町田という東京都と神奈川県が入り組んだ地域で殺人事件が発生。 さっそく警視庁と神奈川県の合同捜査本部が町田署に設置され、竜崎、またもや警視庁の伊丹刑事部長から引きずり込まれ、実質捜査の陣頭指揮を執ることになります。 被害者は中国からの密入国者か? 横浜らしい展開です。 興味どころは、事件やその真相ではなく、神奈川県警本部内にはびこるお役所体質、警視庁と県警という目に見えない壁・対抗意識、<刑事>と<公安>の対立、等々。 それらの壁を、大森署着任時以上に、正論を堂々と主張して突き破っていく竜崎新部長の姿が痛快。 何もかもがんじがらめといった感のある神奈川県警本部のお役所体質に、最初こそどうなるかと思ったのですが、やはり警察官は捜査の現場にいた方が生き生きとしてくるようです。 なお、本巻では竜崎の妻である冴子が、自動車教習所で衝突事故を起こし、竜崎がまたもや壁に直面するきっかけとなります。 冴子の堂々とした論もあって、この部分も興味惹かれるところです。 とにかく新しい勤務地で心機一転、佐藤実県警本部長の期待に応えて県警刑事部をどう変貌させていくか、今後の続刊が楽しみです。 |
20. | |
「宗 棍」 ★★ |
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2024年04月
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琉球王国時代〜明治の時代に生き、琉球空手の礎を築いた実在の武術家=松村宗棍の生涯を描いた長編。 親国(中国)から伝わる<手>の達人=照屋筑登之親雲上に見出され、その弟子となって修業を始める。 一方で<手>の遣い手で美人のチルーと立ち会い、勝利したことからそのチルーを妻に迎える。 また、御主加那志(琉球国王)面前の試合で強敵に次々と勝利したことから王から新設の“御側守役”に取り立てられ・・・。 武術、鍛錬、成長・・・そして琉球王国という舞台に、<手>という武術。 面白さと興味に加え、試合での臨場感等々、ワクワクする面白さがあります。 本ストーリィに、活劇ドラマのようなエンターテインメント性はありません。史実に添いながら淡々と、宗棍が一歩一歩成長していく姿を描いています。 宗棍、そして照屋筑登之親雲上という2人の師弟像も魅力があるのですが、負けず劣らず魅力的なのは妻となったチルー。思わぬ達人ぶりを見せる場面には、魅了されずにはいられません。 世界がグローバル化することにより、一つの国、その文化、そしてその調和の取れていた世界が壊れてしまうのかもしれない、その淋しさを感じるストーリィでもあります。 だからこそ、<空手>という琉球生まれの武術を将来の世に伝わるものとして作り上げたこと、その功績を素晴らしいと感じる次第です。 |
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