川瀬七緒
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1970年福島県生、文化服装学院服装科・デザイン専攻科卒。服飾デザイン会社に就職し子供服のデザイナーに。その傍ら2007年から小説の創作活動に入り、11年「よろずのことに気をつけよ」にて第57回江戸川乱歩賞を受賞し作家デビュー。


1.147ヘルツの警鐘-法医昆虫学捜査官No.1-(文庫改題:法医昆虫学捜査官)

2.シンクロニシティ-法医昆虫学捜査官No.2-

3.桃ノ木坂互助会

4.水底の棘-法医昆虫学捜査官No.3-

5.メビウスの守護者-法医昆虫学捜査官No.4-

6.潮騒のアニマ-法医昆虫学捜査官No.5-

7.フォークロアの鍵

8.テーラー伊三郎

9.紅のアンデッド-法医昆虫学捜査官No.6-

 


           

1.

「147ヘルツの警鐘-法医昆虫学捜査官- ★★
 (文庫改題:法医昆虫学捜査官)


147ヘルツの警鐘画像

2012年07月
講談社刊
(1600円+税)

2014年08月
講談社文庫化



2013/06/24



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警察ミステリの中に新たなジャンル=法医昆虫学を持ち込んだ、その意欲を評価したい“法医昆虫学捜査官”シリーズ第一弾。

読む順序が逆になりましたが、結果的にそれは余り気にならず。
むしろ第2作を先に読んでいる故に本書の趣向をより楽しめたかもしれません。
シリーズ第一作、法医昆虫学を警察捜査の舞台に上げるための導入部分が長い故に、主役
の赤堀涼子が登場するまでじれったい程時間がかかります。

事件はアパートの火事から始まります。その現場で発見された焼死体は一体のみ。一人暮らしの女性32歳。しかし、その遺体解剖の現場から驚きの声が上がります。食道から胃までが何故かきれいに消失しているうえに、腸の下から発見されたのは何と球状になった蛆虫の群れ。殺人事件という推測は立ったものの、余りにも異常な遺体の状況に、犯行日時も犯行時の様子もまるで見当つかずという困難に捜査陣は直面します。
進まない捜査状況の中で試みられたのが法医昆虫学の導入。そこで初めて本書主人公である警視庁捜査一課の
岩楯警部補の前に、法医昆虫学者の赤堀涼子准教授36歳が登場します。

第2作に比較すると、法医昆虫学も赤堀涼子も、未だ十分にこなれていないという印象を受けます。それは筆者の川瀬さんだけでなく、読者についても言えることでしょう。
それでも、鑑識も科捜研も辿れない真相を、生きている様々な虫の力を借りて解き明かしていく法医昆虫学という捜査手法は斬新で、面白さたっぷりです。

本シリーズ、巻を重ねていくに連れて面白さも募っていく、そんな予感がします。今後の続刊に期待大です。

                     

2.
シンクロニシティ-法医昆虫学捜査官- ★★


シンクロニシティ画像

2013年04月
講談社刊
(1500円+税)

2015年08月
講談社文庫化



2013/06/20



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“法医昆虫学”とは珍しき哉、本書で初めてその名前を知りました。まるでフィクションのように感じたのですが、実際にある科学捜査分野の一つなのだそうです。
米国ではかなり進んでいるが、各国の環境事情により異なるところがあるのでそう簡単に共通化できるものではなく、日本ではまだ発展途上段階とのこと。

天才肌でスマートな物理学者という小説上の探偵は既に有名ですが、それと対照的な、素っ頓狂で悪戯っ娘のような面影ある法医昆虫学者=赤堀涼子が本シリーズにおける風変わり探偵像。
ただし作品上の主人公は、そんな赤堀に一目置いている警視庁捜査一課の刑事=岩楯祐也警部補。その岩楯が本書では、所轄署の若い刑事を相棒にして赤堀と共に凄惨な殺人事件の解決に走り回るというストーリィ。

とある貸トランクルームで発見された女性の死体。時間が経過していて腐乱状況はひどく、何かしらの糸口どころか、身元の把握さえできない状況。
そこに請われて登場した赤堀が颯爽と、法医昆虫学ならではの視点から事件の解明を次々に進めていきます(ただし、あまり気持ちの良い捜査方法ではありませんが)。

赤堀涼子のキャラクターも面白いのですが、本作品に対する興味は、法医昆虫学とは何ができるのか、どこまで事件を解明できるのか、に尽きます。
本書を読み終えた時には、本シリーズ第1作も読んでみたくなっていました。

         

3.
桃ノ木坂互助会 ★☆


桃の木坂互助会画像

2014年02月
徳間書店刊
(1600円+税)

2016年01月
徳間文庫化


2014/04/19


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先に読んだ法医昆虫学捜査官シリーズとは趣向を変え、本書はタウンものストーリィ。
ミステリ? いやコメディタッチのサスペンスか?
何やら、
有川浩「三匹のおっさん」+仕掛人という気がしないでもありません。

新しく桃ノ木坂町に越してきたヨソ者の中には、町の平穏、公序良俗を乱す者もいる。町を守るためには、あらゆる手を打ってそいつらを町から追い出す他ない、というのが桃ノ木坂互助会のメンバーから密かにかつ特別に選抜された特務隊の役割り。というのが、彼らを率いる熊谷光太郎=元海自曹長の弁。
その光太郎が今回危ない人物として目を付けたのは、
武藤遼という、見た目は品行方正な青年。しかし、その武藤は光太郎たちの予想を遥かに越えた凶暴性を見せ、互助会メンバーの老人たちを震え慄かせます。しかも、自分たち以外にも武藤を狙っている存在があることに気付き・・・・。

2つの流れが並行して進み、やがて交錯してストーリィは複雑化し・・・という展開。
桃ノ坂互助会というユニークな存在を創造しながらも、武藤遼、
三矢沙月と、それに拮抗する存在を登場させたために読み処が分散してしまい、折角の素材の良さを十分に生かし切れず、盛り上がり切れず、という勿体なさを感じます。
なお、最後に予想もしなかった真相が明らかにされますが、エピローグではなぁ、とこれまた勿体ない印象を拭えず。

     

4.
水底(みなぞこ)の棘-法医昆虫学捜査官- ★★


水底の棘画像

2014年07月
講談社刊
(1500円+税)

2016年08月
講談社文庫化



2014/08/10



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法医昆虫学者の赤堀涼子准教授警視庁捜査一課の岩楯祐也警部補がコンビを組んで殺人事件の解明に挑む“法医昆虫学捜査官”シリーズ第3弾。
犯罪現場における蛆虫等の昆虫生態を通じて事件の真相を究明するという斬新な捜査方法と、主人公である岩楯警部補を受け皿にしての赤堀涼子のユニークなキャラが爆発する本シリーズ、私は大好きで、実は読む前からワクワクしていました。

今回、殺人死体の発見者はその赤堀涼子。昆虫コンサルタントを名乗る後輩=
辻岡大吉を手伝っての蚊の駆除作業中、偶然にも荒川の中州で死体を発見したという次第。
司法解剖医は絞殺後に川に捨てられたものと解剖所見を提出しますが、涼子はその所見に疑問を抱きます。
一方では法医昆虫学を駆使しての涼子の側の真相究明、一方では岩楯警部補と涼子に敬服する所轄刑事の
鰐川宗吾がコンビとなって刑事らしい洞察力と手間を以て捜査を進めていく、という2つの流れから成る捜査ストーリィ。

プライドの高い司法解剖医に対して、あっけらかんと微細な事実も疎かにせず真相究明に邁進していく赤堀涼子という対比も面白いのですが、昆虫学を駆使するとここまで解る、というのが前2作から変わらぬ面白さです。
ミステリ好きでありながら本シリーズを未読の方、是非第1作から読んでみることをお薦めします。全く別の世界が見えますよ。

1.夏からの知らせ/2.刺青が招いた街/3.シングルマザーの決意表明/4.水底の毛虫たち/5.O型の幸運

   

5.
メビウスの守護者-法医昆虫学捜査官- ★★


メビウスの守護者

2015年10月
講談社刊

(1500円+税)

2017年12月
講談社文庫化


2015/11/15


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法医昆虫学者の赤堀涼子准教授と警視庁捜査一課の岩楯祐也警部補がコンビを組んで殺人事件の解明に挑む“法医昆虫学捜査官”シリーズ第4弾。

多摩の山中でバラバラ死体の一部が発見され、捜査本部が立ち上がります。岩楯は今回、地元警察署の
牛久巡査長とコンビを組みます。
捜査本部でベテラン解剖医の
神宮が、死亡推定日は10日前後と発表。これに対して赤堀が、屍肉食種虫の状況から死亡日は20日以上前であると異を唱えます。
しかし、警視庁捜査一課のキャリア管理官=
伏見香菜子は以前から赤堀を敵視しており、神宮と共に赤堀の論を一蹴、捜査は神宮の推論を前提に進められていきます。

残念ながら本作品、中盤で概ね犯人が誰かは推測が付きます。
それでも本シリーズの面白さは、赤堀がどんな論拠に立って捜査を進めていくか、にこそあります。その手法が類を見ないものだけに捜査過程こそが読み処で、その意味では捜査本部の多くの捜査官を尻目に、岩楯らの協力を得てたった一人の推論で事件を解決に導いていく赤堀の力量、キャラクターの面白さはこの第4作でも少しも変わりません。
本シリーズ、まだまだ楽しみです。

1.水気の多い村/2.芳香の巫女/3.雨降る音は真実の声/4.オニヤンマの復讐/5.メビウスの曲面

        

6.

「潮騒のアニマ-法医昆虫学捜査官- ★★


潮騒のアニマ

2016年10月
講談社刊

(1500円+税)

2019年02月
講談社文庫化


2016/11/20


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“法医昆虫学捜査官”シリーズ第5弾。

毎回趣向を凝らす本シリーズ、今回の舞台は伊豆諸島、新島に近い
神ノ出島
その島で、29歳の女性の遺体が何とミイラ化した状態で発見されます。ただし、遺体には首吊り自殺したらしい痕。
警察本部は自殺という方向で結論づけようとしますが、捜査に現地へ赴かされたのが
岩楯裕也警部補。その岩楯を現地で出迎えたのは、新島南警察署勤務の兵藤晃平巡査部長
その2人が捜査を始めた後、翌日になって事件解決の主役である
赤堀涼子が駆け付けてくるという滑り出し。そして、赤堀が調べ始めるや否や昆虫学的にいろいろ不自然な事実が浮かび上がってきて、本ミステリの幕が開く、という次第。

これまでの巻に比べると、おぉ!とか驚愕の事実、といった要素は少ないですけれど、新しい昆虫が登場して事件の謎を解く鍵になっていたり、病的なまでに潔癖症の兵藤と岩楯の、赤堀との絡みが相変わらず楽しめます。

ファンにとっては相変わらず興味いっぱいのミステリです。


1.風の鳴る島/2.あの世とこの世がつながる場所/3.外来種からの警告/4.ゴシップと神話/5.赤いハートマーク

          

7.

「フォークロアの鍵 ★☆


フォークロアの鍵

2017年05月
講談社刊

(1500円+税)



2017/06/08



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痴呆老人たちが暮らすグループホームが、本ミステリの舞台。謎解きにどう老人たちが関わるのか。
ミステリと老人介護問題のコラボという点が、本書の読み処。と

主人公は、民俗文化学博物館で学生研究員、口頭伝承の民俗学を専攻している
羽野千夏
老人たちから昔語りを聞き出せないものかと、グループホーム「
風の里」に通うようになります。
そこに住むのは厄介な老人たちばかり。中でも最高齢の92歳、「くノ一」と仇名される
青村ルリ子は、何故か夜遅くになると施設を抜け出そうとする。それは一体何故か。
そのルリ子からぽろっと転がり出た
「おろんくち」とは、一体どんな意味をもった言葉なのか。
千夏がネットでその言葉を投げかけたところ、不登校の高校生=
立原大地が、昔に祖母からその言葉を聞いたことがある、と応じてきます。
やがて千夏と大地、大地の祖父母が住んでいた場所を訪ねるのですが・・・。

痴呆症や妄想癖、問題児の老人ばかりを抱えた「風の里」。いつも疲れ果てた表情の介護福祉士の気持ちもこりゃ判る、というのが前半。
ところが後半になるや、ホームズもののに登場した“ベーカー街遊撃隊”ならぬ、千夏を囲む“グループホーム老人遊撃隊”というばかりの活躍ぶりが愉快、かつ〇〇〇。

もっとも、老女が口にした言葉の謎解きにどんな意味があるのかなぁと感じていましたが、まさかこんな結末が待ち構えていようとは! さすがに驚きました。
※なお「フォークロア」とは、古く伝わる風習・伝承、それを対象とする学問のことだそうです。


1.むかしむかし、あるところに/2.「おろんくち」の意味を知りませんか?/3.手続き記憶/4.まだ息がある/5.赤ん坊の泣き声と木/6.伝えたい、伝わらない

                

8.

「テーラー伊三郎 ★★☆


テーラー伊三郎

2017年12月
角川書店刊

(1500円+税)



2018/01/09



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ミステリ作家だった筈の川瀬さんが、こんなに痛快なエンターテインメント作品を書くとは! まさに拍手喝采です。

主人公の高校生=
津田海色(あくあまりん)は、母親が本名のままで歴史官能漫画を描いていること、風変わりな名前であることから、自分の人生に対して極めてマイナス思考。
ところがある日、通学途中のシャッター商店街で、正統派英国紳士服仕立て屋
“テーラー伊三郎”のウィンドウで信じられないものを目にします。
それは18世紀頃の女性下着=コルセット。女子高生たちがいやらしいと騒然としている中、海色はつい
「これって“コール・バルネ”ですよね」と店主に問い掛けてしまいます。
そこから海色と、頑固で偏屈ものの仕立て屋老人=
鈴村伊三郎がタッグを組んでの、革命を起こすんだ!物語が始まります。

2人が始めた革命“エヴェレット・ジャポニスム”は、2人だけに留まりません。かつての同級生で今は超独創的“スチームバンク”女子の
三木明日香が仲間に加わり、さらに伊三郎の亡き妻と懇意だった商店街の老婆たちも3人を応援するといった具合で、ストーリィは爆発的にどんどん盛り上がっていきます。

口うるさく頑迷な奴らの目など気にせず、やりたいことをやりたいようにやる、ということのどんなに面白く、夢中になれることか。
それは若者だけでなく、老人にとっても同じこと。
服飾の造形と歴史に興味を持つ海色、独創的世界観の持ち主である明日香、職人芸から高度のパソコンテクニックをものにしている曲者老人たち、という老若男女のコラボによる本作は、単なる商店街活性化物語を軽々と超える、ワクワクするような興奮と楽しさに満ちています。

固められた殻を打ち破ることの何と楽しき哉。お薦め!


1.無頼派コルセティエ/2.東北弁のスチームパンク/3.ジャポニスムと平行世界/4.幻想時計台/5.レジスタンスの行方

                        

9.
「紅のアンデッド法医昆虫学捜査官 ★★


紅のアンデッド

2018年04月
講談社刊

(1500円+税)



2018/05/15



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“法医昆虫学捜査官”シリーズ第6弾。

私の大好きなシリーズではあるものの、法医昆虫学という特異な分野をモチーフにしたシリーズ故に当初のもの珍しさが薄れた後のマンネリ化が懸念されていましたが、それを補おうとしたのでしょうか、本作第6弾では
<捜査分析支援センター>なるものが登場。
心理学(プロファイラー)、法医昆虫学、技術開発をひとつにまとめた新組織ということですが、要は体のいい捜査現場外し。

今回の事件、都内で老夫婦が暮らす古民家で殺人事件?が発生。しかし、死体はなく、現場に残されていたのは大量の血痕と3本の左手小指のみ。
捜査本部が設けられたものの、捜査は全く進展せず、プロファイラーの
広澤春美、法医昆虫学の赤堀涼子が捜査本部に提出する意見書はまるで相手にされずという風。

事件はまるで進展せず、赤堀涼子の活躍も不発とあって、まるで消化不良の気分です。
そのうえ、中盤では赤堀涼子の、思いがけないブラックな打ち明け話まで披露されますし。
しかし、終盤に入り、ある凶悪な虫の繁殖がきっかけとなって事態が一気に動き出すと、ストーリィは俄然面白くなってきます。

いやー、何でも極端に偏向するのは、ホント怖いですよねー。
ともかくも、終盤の面白さのおかげで次作への期待を繫いでもらった、というところです。
虫嫌いの方はともかくとして、お薦めのシリーズです。


1.法医昆虫学者とプロファイラー/2.似通った二つの家/3.不純な動機/4.三人の研究者/5.救済とエゴイズム

     


   

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