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1.よろずのことに気をつけよ 2.147ヘルツの警鐘-法医昆虫学捜査官No.1-(文庫改題:法医昆虫学捜査官) 3.シンクロニシティ-法医昆虫学捜査官No.2- 4.桃ノ木坂互助会 5.水底の棘-法医昆虫学捜査官No.3- 6.メビウスの守護者-法医昆虫学捜査官No.4- 7.潮騒のアニマ-法医昆虫学捜査官No.5- 8.フォークロアの鍵 9.テーラー伊三郎(文庫改題:革命テーラー) 10.紅のアンデッド-法医昆虫学捜査官No.6- |
スワロウテイルの消失点、賞金稼ぎスリーサム!、二重拘束のアリア、ヴィンテージガール、うらんぼんの夜、クローゼットファイル、四日間家族、詐欺師と詐欺師 |
「よろずのことに気をつけよ」 ★★ 江戸川乱歩賞 | |
2013年08月
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ずっと気になっていた川瀬さんのデビュー作。 コロナ感染対応による自宅待機が好機とようやく読めました。 ボロ屋に住み呪術を専門に研究している文化人類学者=仲澤大輔・35歳の元を18歳の大学生=砂倉真由が訪ねてきます。 祖父が残虐な殺された方をした、しかも床下には呪術符が埋められていたという。 50~60年もの長きに亘る、強烈な怨念。そんな深い憎悪を何故祖父は背負うことになったのか。その謎を解き明かしたいというのが、真由が仲澤に頼ってきた理由。 そこから、仲澤と真由2人による文献、郷土史、呪術の歴史を掘り起こすような調査活動が始まります。 歴史風俗、伝習、念仏・呪術といった深い闇に包まれた森の中へと、2人が素手で分け入っていくような畏怖、緊迫感がそこにはあります。 とくに祈りから呪術への変化に関わる部分は興味深い。 普通ミステリというと、理由はどうあれ犯罪を行った側への批難が多少なりとも含まれているものですが、本作ではそれが薄い。 それだけの怨念を受けるだけのことが祖父にはあっただろうと最初から真由は認めていますし、中澤と真由の探索活動も一体何があったのか、どんな呪術なのか知りたい、という気持ちからによるものですので。 クライマックスとなる終盤の対決場面、そして結末もお見事。 読了した後の余韻は、私としては気持ちの良いものです。 1.三つの血判/2.師走の月に降る雪/3.土佐と陸奥を結ぶもの/4.よろずのことに気をつけよ |
2. | |
「147ヘルツの警鐘-法医昆虫学捜査官-」 ★★ |
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2014年08月
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警察ミステリの中に新たなジャンル=法医昆虫学を持ち込んだ、その意欲を評価したい“法医昆虫学捜査官”シリーズ第一弾。 読む順序が逆になりましたが、結果的にそれは余り気にならず。 事件はアパートの火事から始まります。その現場で発見された焼死体は一体のみ。一人暮らしの女性32歳。しかし、その遺体解剖の現場から驚きの声が上がります。食道から胃までが何故かきれいに消失しているうえに、腸の下から発見されたのは何と球状になった蛆虫の群れ。殺人事件という推測は立ったものの、余りにも異常な遺体の状況に、犯行日時も犯行時の様子もまるで見当つかずという困難に捜査陣は直面します。 第2作に比較すると、法医昆虫学も赤堀涼子も、未だ十分にこなれていないという印象を受けます。それは筆者の川瀬さんだけでなく、読者についても言えることでしょう。 本シリーズ、巻を重ねていくに連れて面白さも募っていく、そんな予感がします。今後の続刊に期待大です。 |
3. | |
「シンクロニシティ-法医昆虫学捜査官-」 ★★ | |
2015年08月
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“法医昆虫学”とは珍しき哉、本書で初めてその名前を知りました。まるでフィクションのように感じたのですが、実際にある科学捜査分野の一つなのだそうです。 天才肌でスマートな物理学者という小説上の探偵は既に有名ですが、それと対照的な、素っ頓狂で悪戯っ娘のような面影ある法医昆虫学者=赤堀涼子が本シリーズにおける風変わり探偵像。 とある貸トランクルームで発見された女性の死体。時間が経過していて腐乱状況はひどく、何かしらの糸口どころか、身元の把握さえできない状況。 赤堀涼子のキャラクターも面白いのですが、本作品に対する興味は、法医昆虫学とは何ができるのか、どこまで事件を解明できるのか、に尽きます。 |
4. | |
「桃ノ木坂互助会」 ★☆ | |
2016年01月
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先に読んだ“法医昆虫学捜査官”シリーズとは趣向を変え、本書はタウンものストーリィ。 新しく桃ノ木坂町に越してきたヨソ者の中には、町の平穏、公序良俗を乱す者もいる。町を守るためには、あらゆる手を打ってそいつらを町から追い出す他ない、というのが桃ノ木坂互助会のメンバーから密かにかつ特別に選抜された特務隊の役割り。というのが、彼らを率いる熊谷光太郎=元海自曹長の弁。 2つの流れが並行して進み、やがて交錯してストーリィは複雑化し・・・という展開。 |
5. | |
「水底(みなぞこ)の棘-法医昆虫学捜査官-」 ★★ | |
2016年08月
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法医昆虫学者の赤堀涼子准教授と警視庁捜査一課の岩楯祐也警部補がコンビを組んで殺人事件の解明に挑む“法医昆虫学捜査官”シリーズ第3弾。 プライドの高い司法解剖医に対して、あっけらかんと微細な事実も疎かにせず真相究明に邁進していく赤堀涼子という対比も面白いのですが、昆虫学を駆使するとここまで解る、というのが前2作から変わらぬ面白さです。 |
「メビウスの守護者-法医昆虫学捜査官-」 ★★ | |
2017年12月
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法医昆虫学者の赤堀涼子准教授と警視庁捜査一課の岩楯祐也警部補がコンビを組んで殺人事件の解明に挑む“法医昆虫学捜査官”シリーズ第4弾。 多摩の山中でバラバラ死体の一部が発見され、捜査本部が立ち上がります。岩楯は今回、地元警察署の牛久巡査長とコンビを組みます。 捜査本部でベテラン解剖医の神宮が、死亡推定日は10日前後と発表。これに対して赤堀が、屍肉食種虫の状況から死亡日は20日以上前であると異を唱えます。 しかし、警視庁捜査一課のキャリア管理官=伏見香菜子は以前から赤堀を敵視しており、神宮と共に赤堀の論を一蹴、捜査は神宮の推論を前提に進められていきます。 残念ながら本作品、中盤で概ね犯人が誰かは推測が付きます。 それでも本シリーズの面白さは、赤堀がどんな論拠に立って捜査を進めていくか、にこそあります。その手法が類を見ないものだけに捜査過程こそが読み処で、その意味では捜査本部の多くの捜査官を尻目に、岩楯らの協力を得てたった一人の推論で事件を解決に導いていく赤堀の力量、キャラクターの面白さはこの第4作でも少しも変わりません。 本シリーズ、まだまだ楽しみです。 1.水気の多い村/2.芳香の巫女/3.雨降る音は真実の声/4.オニヤンマの復讐/5.メビウスの曲面 |
「潮騒のアニマ-法医昆虫学捜査官-」 ★★ |
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2019年02月
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“法医昆虫学捜査官”シリーズ第5弾。 毎回趣向を凝らす本シリーズ、今回の舞台は伊豆諸島、新島に近い神ノ出島。 その島で、29歳の女性の遺体が何とミイラ化した状態で発見されます。ただし、遺体には首吊り自殺したらしい痕。 警察本部は自殺という方向で結論づけようとしますが、捜査に現地へ赴かされたのが岩楯裕也警部補。その岩楯を現地で出迎えたのは、新島南警察署勤務の兵藤晃平巡査部長。 その2人が捜査を始めた後、翌日になって事件解決の主役である赤堀涼子が駆け付けてくるという滑り出し。そして、赤堀が調べ始めるや否や昆虫学的にいろいろ不自然な事実が浮かび上がってきて、本ミステリの幕が開く、という次第。 これまでの巻に比べると、おぉ!とか驚愕の事実、といった要素は少ないですけれど、新しい昆虫が登場して事件の謎を解く鍵になっていたり、病的なまでに潔癖症の兵藤と岩楯の、赤堀との絡みが相変わらず楽しめます。 ファンにとっては相変わらず興味いっぱいのミステリです。 1.風の鳴る島/2.あの世とこの世がつながる場所/3.外来種からの警告/4.ゴシップと神話/5.赤いハートマーク |
「フォークロアの鍵」 ★☆ |
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2019年10月
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痴呆老人たちが暮らすグループホームが、本ミステリの舞台。謎解きにどう老人たちが関わるのか。 ミステリと老人介護問題のコラボという点が、本書の読み処。と 主人公は、民俗文化学博物館で学生研究員、口頭伝承の民俗学を専攻している羽野千夏。 老人たちから昔語りを聞き出せないものかと、グループホーム「風の里」に通うようになります。 そこに住むのは厄介な老人たちばかり。中でも最高齢の92歳、「くノ一」と仇名される青村ルリ子は、何故か夜遅くになると施設を抜け出そうとする。それは一体何故か。 そのルリ子からぽろっと転がり出た「おろんくち」とは、一体どんな意味をもった言葉なのか。 千夏がネットでその言葉を投げかけたところ、不登校の高校生=立原大地が、昔に祖母からその言葉を聞いたことがある、と応じてきます。 やがて千夏と大地、大地の祖父母が住んでいた場所を訪ねるのですが・・・。 痴呆症や妄想癖、問題児の老人ばかりを抱えた「風の里」。いつも疲れ果てた表情の介護福祉士の気持ちもこりゃ判る、というのが前半。 ところが後半になるや、ホームズもののに登場した“ベーカー街遊撃隊”ならぬ、千夏を囲む“グループホーム老人遊撃隊”というばかりの活躍ぶりが愉快、かつ〇〇〇。 もっとも、老女が口にした言葉の謎解きにどんな意味があるのかなぁと感じていましたが、まさかこんな結末が待ち構えていようとは! さすがに驚きました。 ※なお「フォークロア」とは、古く伝わる風習・伝承、それを対象とする学問のことだそうです。 1.むかしむかし、あるところに/2.「おろんくち」の意味を知りませんか?/3.手続き記憶/4.まだ息がある/5.赤ん坊の泣き声と木/6.伝えたい、伝わらない |
「テーラー伊三郎」 ★★☆ |
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2020年10月
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ミステリ作家だった筈の川瀬さんが、こんなに痛快なエンターテインメント作品を書くとは! まさに拍手喝采です。 主人公の高校生=津田海色(あくあまりん)は、母親が本名のままで歴史官能漫画を描いていること、風変わりな名前であることから、自分の人生に対して極めてマイナス思考。 ところがある日、通学途中のシャッター商店街で、正統派英国紳士服仕立て屋“テーラー伊三郎”のウィンドウで信じられないものを目にします。 それは18世紀頃の女性下着=コルセット。女子高生たちがいやらしいと騒然としている中、海色はつい「これって“コール・バルネ”ですよね」と店主に問い掛けてしまいます。 そこから海色と、頑固で偏屈ものの仕立て屋老人=鈴村伊三郎がタッグを組んでの、革命を起こすんだ!物語が始まります。 2人が始めた革命“エヴェレット・ジャポニスム”は、2人だけに留まりません。かつての同級生で今は超独創的“スチームバンク”女子の三木明日香が仲間に加わり、さらに伊三郎の亡き妻と懇意だった商店街の老婆たちも3人を応援するといった具合で、ストーリィは爆発的にどんどん盛り上がっていきます。 口うるさく頑迷な奴らの目など気にせず、やりたいことをやりたいようにやる、ということのどんなに面白く、夢中になれることか。 それは若者だけでなく、老人にとっても同じこと。 服飾の造形と歴史に興味を持つ海色、独創的世界観の持ち主である明日香、職人芸から高度のパソコンテクニックをものにしている曲者老人たち、という老若男女のコラボによる本作は、単なる商店街活性化物語を軽々と超える、ワクワクするような興奮と楽しさに満ちています。 固められた殻を打ち破ることの何と楽しき哉。お薦め! 1.無頼派コルセティエ/2.東北弁のスチームパンク/3.ジャポニスムと平行世界/4.幻想時計台/5.レジスタンスの行方 |
「紅のアンデッド-法医昆虫学捜査官-」 ★★ | |
2020年08月
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“法医昆虫学捜査官”シリーズ第6弾。 私の大好きなシリーズではあるものの、法医昆虫学という特異な分野をモチーフにしたシリーズ故に当初のもの珍しさが薄れた後のマンネリ化が懸念されていましたが、それを補おうとしたのでしょうか、本作第6弾では<捜査分析支援センター>なるものが登場。 心理学(プロファイラー)、法医昆虫学、技術開発をひとつにまとめた新組織ということですが、要は体のいい捜査現場外し。 今回の事件、都内で老夫婦が暮らす古民家で殺人事件?が発生。しかし、死体はなく、現場に残されていたのは大量の血痕と3本の左手小指のみ。 捜査本部が設けられたものの、捜査は全く進展せず、プロファイラーの広澤春美、法医昆虫学の赤堀涼子が捜査本部に提出する意見書はまるで相手にされずという風。 事件はまるで進展せず、赤堀涼子の活躍も不発とあって、まるで消化不良の気分です。 そのうえ、中盤では赤堀涼子の、思いがけないブラックな打ち明け話まで披露されますし。 しかし、終盤に入り、ある凶悪な虫の繁殖がきっかけとなって事態が一気に動き出すと、ストーリィは俄然面白くなってきます。 いやー、何でも極端に偏向するのは、ホント怖いですよねー。 ともかくも、終盤の面白さのおかげで次作への期待を繫いでもらった、というところです。 虫嫌いの方はともかくとして、お薦めのシリーズです。 1.法医昆虫学者とプロファイラー/2.似通った二つの家/3.不純な動機/4.三人の研究者/5.救済とエゴイズム |