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11.恋愛検定 12.週末は家族 13.頼むから、ほっといてくれ 14.手の中の天秤 15.我慢ならない女 16.エデンの果ての家 17.僕とおじさんの朝ごはん 18.ワクチンX 19.総選挙ホテル 20.諦めない女 |
【作家歴】、ボーイズ・ビー、県庁の星、Lady,GO、Run!Run!Run!、明日この手を放しても、女たちの内戦、平等ゲーム、WE LOVE ジジイ、嫌な女、ハタラクオトメ |
僕は金になる、オーディションから逃げられない、たそがれダンサーズ、結婚させる家、終活の準備はお済みですか?、残された人が編む物語、息をつめて、この会社後継者不在につき、地獄の底でみたものは |
●「恋愛検定」● ★★ |
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2014年06月
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洒落っ気に富んでいる作品であるところが、まず嬉しい。 主人公たちの前に突然「恋愛の神様」が登場し、まず質問を投げかけます。その回答レベルに応じて○級の受検が言い渡される。受検期間は半年〜1年。受検自体は秘密となりますが、合格すると合格証が交付されて公開することもでき、それ相応のコミュニケーション力・セルフプレゼンテーション力ありと見做されて就職・昇進にも役立つ、という。 さて、恋愛検定で問われるものは何かというと、“恋愛力”。恋愛が成就するかどうかとは別問題、というところが難しい。 実際、恋多き女と自称する女性の受検レベルは一番低い四級だったり、理論は達者だが実践力がない、と注意される上級受検者もいるのですから。 四級からマイスターまで、受検者は6人、6つの恋愛譚が繰り広げられます。どの篇も人それぞれの恋愛観、微妙な恋愛心理が語られていて洒脱、楽しい恋愛小話集になっています。そして最後に、精神科医による専門的な解説付き。 全ての恋愛がうまくいくということはなく、成功(合格)もあれば、失敗(不合格)もあり。そこがスパイスの効いているところです。 ラブストーリィの楽しさを味わえるのは勿論ですが、現代の恋愛世相を見事に描き出していると言えます。恋愛の神様自ら、現代社会においては恋愛力がめっきり衰えている、と嘆くくらいですから。 本書によると、私などはマイナス評価ばかりだったと思います。でもまぁ、もう実践の機会はないでしょうし。(苦笑) 楽しめる恋愛もの連作短篇集であると同時に、判り易い貴重な恋愛手引書。これから恋愛をという方は、是非本書を読んで、まず一歩踏み出してみてください。 辻恵理子−四級受検/堀田慎吾−三級受検/香川沙代−二級受検/大野尚−準一級受検/森本瑠衣−一級受検/沢田ゆかりマイスター受検/ 解説「恋愛検定の傾向と対策」−ゆうきゆう(精神科医) |
●「週末は家族」● ★★☆ |
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小劇団を主宰している本田大輔、資金稼ぎに依頼を受けて妻役とか内縁の夫役を演じるとかいった、特殊な人材派遣を営んでいます。 その大輔が目を付けたのは、児童養護施設の“週末里親制度”。それを利用すれば派遣する子役を調達できると。 そんな大輔の目に適ったのが、児童養護施設で行われた劇で子役としての天才的な才能をみせつけた少女=ひなた、10歳。 しかし、他人を前で堂々とその孫、娘といった演技をこなしてしまうひなたを見て、大輔の妻=瑞穂はひなたを怖いと思う。 週末里親制度を題材に疑似家族となる3人の姿を描いた、一種の家族小説かと思ったのですが、本作品はそんな月並みで終わるストーリィではありません。 とにかく凄い! 途中から圧倒されるばかり。 何と言っても10歳のヒロイン=ひなたのキャラクターが抜群! 中盤に至って鮮明になるのは、ひなたが闘う少女である、ということです。 どんな親であろうと子供は親と一緒にいるのが幸せ、という世間の思い込みをひなたは軽く一蹴、そればかりか激しく拒絶するのです。 一方、未だに劇団という夢にしがみついている大輔、恋愛感情や性的欲求をもてないということにコンプレックスを抱いている瑞穂。2人ともマイナーなキャラクターとしか思えませんが、そんな2人がひなたという強烈なキャラクターと絡み合うことによって、3人共に溌剌として来るのです。 親子という関係でなくても、親子という関係を作らなくても、人は結びつきお互いに励まし合うことができる。本書はそんなメッセージを力強く伝えてくる作品です。 どんなに我々は世間の勝手な思い込みに囚われているか、思い込みから脱すればどれだけ自由になれることか。 ひなたは無論のこと、大輔、瑞穂、彼ら3人のチームぶりが実にお見事! 是非お薦めしたい傑作です。 |
13. | |
●「頼むから、ほっといてくれ」● ★★☆ |
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2015年12月
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スポーツを題材にした小説は結構読んでいる方かなと思っていますが、本書が題材にしたのはトランポリン。 トランポリン競技に関わった選手、コーチら多くの人たち各々について、その様々な人生ドラマを描いたシリアスな作品となっています。 多くのスポーツ小説は主人公たちが一番輝いている時を描いている訳ですが、本書は違います。 耀く前の遥か以前=トランポリンを始めた頃から、無心に練習していた頃、そして国際大会の舞台に上がりメダルを期待される状況、そして競技を辞めた後と。 選手の性格から演技ぶりも様々。さらに、競技の辞め方一つをとっても同じではありません。一度辞めてから再度挑戦したりと、色々。メダルの重圧も大きいと思いますが、それ以上に彼らたちにのし掛かるのは、競技を辞めた後の人生でしょう。 何人もの選手、コーチ、審判者の間で自在に主人公を変えながら、年を追っていくというストーリィ展開。 天才肌の野田遼、不器用な安井順也、自己満足を追う石丸卓志、お調子者の細川洋充、そそっかしい松重慎司、鬼コーチの道を選んだ青山諭等々。 勿論、トランポリンという競技についても楽しめます。 読み処の多い、“スポーツ&人生”小説です。 |
14. | |
「手の中の天秤」 ★★ |
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2016年09月
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裁判で執行猶予判決が出た時に被害者あるいは遺族が要望すれば、加害者の状況を半年毎に報告を受け、2年後に刑務所に入所させるかどうか決定権を持てるという“執行猶予被害者・遺族預かり制度”。 もちろん架空の法制度ですが、日本のみというその制度が開始されてから8年後に新卒でその係官となった井川敬治が主人公。 ただしリアルタイムではなく、その30年後大学の教壇に立つ井川が、係官として担当した事件等々を具体的事例としてあげながら法学部の学生たちに制度の実情を語る、という舞台設定によるストーリィ。 近未来的な"刑事事件"ストーリィと思えますが、主眼は事件後の加害者あるいは被害者遺族の心情を描くところにあるようです。その意味で、事件後の2年間加害者・被害者遺族と半年毎計4回に亘って向き合うというこの制度の係官は格好のものでしょう。 ただ、単にそれだけを追ってしまっては単なるドキュメンタリータッチの物語で終わってしまいかねません。そのため、元映研部員で映画的のような理想的展開をと意欲を燃やす井川に、ちゃらんぽらんだからか「ちゃらん」という仇名をもつベテラン係官をコンビとして配したところが巧妙です。 「加害者」「被害者」と一口にいっても人の思いは夫々、要望して決定権を持った理由も様々と言わざるを得ませんが、其処にスポットライトを当てているところに深い読み処があります。 ※なお、講義の回数を追う毎に毎年聴講する学生数が減る筈なのに何故か今年度は逆に増えて井川が面喰う等々、エピソード部分も楽しめます。 |
15. | |
「我慢ならない女」 ★★ |
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2016年06月 2014/04/09 |
文芸誌の賞を取ったものの、先行き判らず貧乏な生活の中でもがき続けながら小説を書き続けるひろ江、そのひろ江を支えることに生きがいにする姪の明子。 2人の二人三脚のような関係を描くとともに、まさに“業”と言うべき作家の歩みを描いた長編小説。 もちろん作家全てがひろ江のようである訳もなく、あくまで一つの姿に過ぎないと言えますが、やっとこさ浮かび上がったと思ったら、徐々に見放され、そして再び復活するひろ江の軌跡は真に読み応えあります。 ただそのひろ江だけを描くのであったら、本作品は平板な印象に留まったでしょう。 ひろ江にとっても担当編集者にとってもいつしかなくてはならないサポート役となった明子が、本書ではひろ江と並び立って存在感を示しているのが得難い魅力です。 作家の業、作家本人にとっては苦しいことばかりで、むしろ哀しいことなのかもしれませんが、第三者という立場から読む分には興味津々。小説好きにってはなおのこと引きずり込まれて目を離せず、という力作です。お薦め。 |
16. | |
「エデンの果ての家 House of the Eden's End」 ★★ |
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2017年08月
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殺害され山林で遺体として発見された母親。 その通夜の直前、突然乗りこんできた警察が弟を犯人として逮捕します。冤罪だと怒る父親、呆然とする兄。信じ難い事態に、残された家族はどう事態に対応するのか、というストーリィ。 真実はどうなのか、裁判の行方はどうなるのか、裁判を傍聴する家族は弟を信じ切れるのか。さらに元恋人殺害の容疑で弟が再逮捕されるという事態に至る等々、事件〜法廷を通じたミステリという興味もありますが、本質的には家族を描いた物語。 「エデンの果ての家」という題名が旧約聖書のカイン・アベル兄弟を暗示していることは言うまでもありません。 殺人事件の当事者となったこの葉山家に、実は問題があった。 両親は親の望みどおりに育った弟=秀弘を溺愛してきた一方、兄である和弘は両親から出来損ないと見捨てられてきたという思いをずっと抱いてきた。この葉山和弘が本書の主人公。 一流商社勤めで自分はいつも正しいという思い込みとプライドの高い父親は、息子のことは自分が一番分かっていると、端から冤罪と決め付けます。 しかし、父親は母親のことも弟のことも全く分かっていない、主人公は両親が知らない弟の一面を知っており、さらなる殺人事件の方は弟が関与していたのではないかという疑いを強めます。 父親と主人公の確執が強まり、葉山家は内情バラバラだった実態を露わにしていきます。 果たして父と主人公は家族としての繋がりを取り戻すことができるのか、再び弟を受け入れることができるのか。そして裁判の結果は・・・。 家族物語でありながら、息詰まるような緊張感がストーリィを覆い尽くします。 家族とは何なのか、どういうものなのか。そしてどうすれば家族は繋がることができるのか、という家族の課題を究極の状況で突き詰めたストーリィと言えるでしょう。 思わず自分の家族を振り返らずにはいられません。 他人事とはとても思えず、重たい思いを抱えこんだ気持になります。でも、目をそむけずに事実を直視することが、本当の家族であるためには必要なことなのだ、というメッセージを受け取った思いがします。 まさに迫真の家族ストーリィ。 |
17. | |
「僕とおじさんの朝ごはん」 ★★ |
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2017年10月
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主人公の水島健一は44歳のバツイチ男、ケータリング業者。しかし商売について何の思い入れもなく、提供する料理も出来合いのものを買ってきて適当に体裁と整えれば十分と、無気力かつ面倒くさがり屋。 健一がそんな風になったのはそれなりの事情があるのですが、バツイチともなれば叱咤してくれる家族もおらず、唯一彼のことを気にかけてくれた秋川先輩は、やっと開店した飲食店に失敗して音信不通のまま。 そんな健一に変化が訪れたのは、事故で重傷を負った女性の健気な姿勢、そして腰痛のため通っているリハビリ施設で出会った車椅子の少年=大谷英樹13歳との出会いから。 誰かに美味しいものを食べさせてあげたいという気持ちが、人を変えていく。また、食べ物を美味しいと思うことは即ち、生きる喜びを味わうということに繋がりますし。 美味しい料理を題材にした作品は小川糸「食堂かたつむり」等々幾つもありますが、料理店やカフェではなくケータリングというところに独特の味わいがあります。まして本作品は、健一という料理人、ケータリングという仕事の再生ストーリィですし。 大谷英樹という少年を主役とするドラマ部分も重みがあります。映画「わたしの中のあなた」をちょっと思い出したかな。 またもう一人、父親の健一に似た性格で元妻の厚子を嘆かせている高校生の息子=村上司に関わる部分も見逃せません。 美味しい料理を作ること、味わうことの素晴らしさを3人が見い出し、それぞれの一歩を踏み出す本ストーリィの読後感は、とても爽やかです。お薦め。 |
「ワクチンX」 ★☆ | |
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近未来的なストーリィ。 性格を改善することのできる性格補強ワクチンが発明されてから20年。 そのワクチンを事業化するため加藤翔子が設立した“ブリッジ”は急成長を遂げ、今では一流会社の仲間入り。 しかし、その効力時限である20年を目前に、ワクチンの主原材料であるRXが突然に次々死滅するという事態が発生します。 至急原因を究明するよう研究室に命じたものの、原因は明らかにならず、翔子は窮地に立たされます。 新規販売をストップしたのはともかくとして、事業化初期にモニターとして参加した10名の効力時限が目の前に迫ります。しかもモニターの第1号は翔子自身。 決断力を欠き後になって後悔することの多かった翔子が入れたワクチンの組み合わせは、<決断力4+活力3+心の強さ3>。 ワクチンの効力が薄れ以前の弱気な性格が頭を持ち上げる中、副社長だった夫は翔子を見捨てて逃げ去り、翔子は孤独。 難局に翔子はどう立ち向かうのか。そしてワクチンの効力切れを迎える人々の運命は・・・・。 そんなワクチンがあったら良いだろうなぁと思う一方、それって自分自身なのだろうか、とも思います。 そして本ストーリィにおいて、ワクチンによって現在の状況を改善でき満足と思っていたモニターたちも、果たして本当にそれが良かったことなのかと我が身を振り返り始めます。 登場人物がどういう結論を出し、本ストーリィがどういう結果を迎えるか、そして読み手である我々はそれをどう受け留めることになるのかは本書を読んでのお楽しみですが、人の幸せとは何だろうかと、つくづく感じさせられる作品になっています。 プロローグ/1.黒い扉/2.螺旋階段/3.鏡の中/エピローグ |
「総選挙ホテル Welcome to FIDEL HOTEL」 ★★☆ | |
2019年11月
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悪くないけれど、とくに良くもないという独立系の中堅ホテル=フィデルホテルが本作の舞台。 投資ファンドから社長を託されたのは、大学で28年間社会心理学を研究してきた学者の元山靖彦。 その元山に一番近く接するのが、フィデルホテル生え抜きの支配人である永山伸夫。 フィデルホテルの現状をつぶさに観察してきた永山、ホテルを再建するには常識的な手段では到底無理、この際思い切った方策を取るしかないと言い出したのは、ホテルスタッフ全員による総選挙。 各自がつきたい仕事に立候補すると同時に、どの仕事に誰を付けたいかについて投票する、というもの。 その結果はというと、失職したもの、部門を異動することによって落胆する者、戸惑う者等々様々。 永山は皆の士気を心配するのですが、元山は次々と新手のアイデアを実行に移します。要は実験? 予想したより遥かに面白い長編ストーリィ。 自分の希望と他人が適任と思う仕事のズレが明らかになるのは面白いですし、「ホテルの仕事で一番大事なことは」を皆が自分で考えるようになる展開は、仕事について何が大切なのかを改めて考えさせてくれる気がします。 群像小説(黒田雅哉、中西基晴、小室萌、後藤史子)としても“お仕事小説”としても、傑作と言って良いのではないでしょうか。ストーリィの面白さと合わせ、お薦め。 ※ホテルを舞台にした傑作のひとつにアーサー・ヘイリー「ホテル」がありますが、同書がリーダー、上からの改革を描いていたのに対し、本作はボトムアップを描いている点で対照的。 |
「諦めない女」 ★★ |
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2020年10月
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「嫌な女」「我慢ならない女」に続く、もがく女たちの物語、第3弾とのこと。 小学校に上がったばかりの娘=沙恵は、母親の京子とスーパーに寄った際、京子が店の入り口で待たせておいた僅かの間に姿を消し、以後何年もの間、消息が知れないままとなります。 フリーライターの飯塚桃子は、かつかつの生活から何とか脱却しようと、この注目を浴びた事件について本にまとめ、一気に名前を高めようとします。 その飯塚桃子が、この事件に多少なりとも絡んだ多くの人々に、一人一人インタビューするという設定で描かれるストーリィ。 失踪事件から何年経っても些かの手掛かりさえも得られず。父親の慎吾や親族はもう諦め、次の段階へ進もうとしますが、母親の京子だけは沙恵の情報を求めるビラを配り続け、沙恵は生きている、いつかきっと帰ってくると、諦めずにいる。 当然ながら京子は頑迷と思われ孤立することになります。 ところが、〇年が経った時・・・・・。 ストーリィは3章構成。 第1章は、沙恵の失踪事件と、母親の京子、その他の人々の事件のその後が描かれます。 第2章は、まるで信じ難い、サスペンスのような、沙恵拉致の真相が描かれます。 そして第3章は、沙恵拉致の事情が判明した後の、現在に近い物語。 諦めなかったという中に心の強さを感じて称賛する一方、諦めなかったということだけで全てが許される訳ではない、ということの難しさを感じます。 「諦めない」という気持ちから解放され、それをバトンタッチするかのような結末は、お見事。 |
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