梶よう子
作品のページ No.1


東京都
生。フリーライターの傍ら小説執筆。2005年「い草の花」にて第12回九州さが大衆文学賞大賞を受賞。08年「一朝の夢」にて第15回松本清張賞を受賞(受賞を機に筆名・作品名を蘇芳よう子「槿花、一朝の夢」から変更)し同作にて単行本デビュー。2023年「広重ぶるう」にて第27回新田次郎文学賞を受賞。


1.一朝の夢−朝顔同心No.1−

2.いろあわせ−摺師安次郎人情暦No.1−

3.
迷子石


4.柿のへた−御薬園同心 水上草介No.1−

5.夢の花、咲く−朝顔同心No.2−

6.ふくろう

7.お伊勢ものがたり

8.宝の山(文庫改題:商い同心 千客万来事件帖)

9.立身いたしたく候

10.ことり屋おけい探鳥双紙

桃のひこばえ、ご破算で願いましては、連鶴、ヨイ豊、葵の月、五弁の秋花、北斎まんだら、花しぐれ、墨の香、父子ゆえ

 → 梶よう子作品のページ No.2


赤い風、はしからはしまで、お茶壺道中、とむらい屋颯太、菊花の仇討ち、三年長屋、漣のゆくえ、本日も晴天なり、噂を売る男、吾妻おもかげ

 → 梶よう子作品のページ No.3


広重ぶるう、空を駆ける、我鉄路を拓かん、焼け野の雉、こぼれ桜、江戸の空水面の風、雨露、商い同心−人情そろばん御用帖−、紺碧の海

 → 梶よう子作品のページ No.4

 


   

1.

●「一朝(いっちょう)の夢」● ★★       松本清張賞


一朝の夢画像

2008年06月
文芸春秋刊

(1524円+税)

2011年10月
文春文庫化



2008/08/02



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主人公である北町奉行所の同心・中根興三郎は、およそ奉行所役人とは対極にある人物。
長兄の急死により跡を継いだものの、剣の才もなく、嫁の来てもなく、奉行所員の名簿管理という閑職をずっと務めている。
その興三郎の生き甲斐は朝顔作り。いつかは黄色い朝顔を咲かせてみたいという夢を抱いて、こつこつと日々を過ごしている。

そんな平凡で平穏な日々を愛している興三郎ですが、時代は彼をそのままにしてはくれない。
ちょうど外国との条約締結、尊皇攘夷に時代が揺れ、やがて安政の大獄へと繋がって行く時期。否応なく、興三郎もその波乱の渦の中に巻き込まれていきます。

武士としては落第という烙印を押されそうな興三郎ですが、そんな彼の姿を愛して集ってくる人物もいます。
幼馴染で苦境にあった処を興三郎に救われた里恵・小太郎の母子然り、興三郎の朝顔を愛する心に共感する「宗観」と名乗る大身の武家らしい人物、三好貫一郎という闊達な浪人者。
しかし、そんな彼らのささやかな願いを蹂躙するように時代は動いて行く、というストーリィ。

本作品に登場する人物はおよそ3パターンに分けられると思います。
平凡な日々・ささやかな喜びを大切にしている人物、平穏な日々を愛しつつも課せられた役割を果たすため身を犠牲にする人物、自分の欲だけを満たそうと考えて生きている人物。
さて、現代社会に置き換えて自分はどのパターンを生きようとしているのか考えてみるのも一興。
実力主義、若手抜擢、年功序列排除という言葉がお題目のように唱えられている現代サラリーマン社会ですが、自分を損なうことなく地道に生きていけたらと思っている人が大半なのではないだろうか、と思うのです。

冒頭、頼りなくてパッとしないと思われた興三郎が、実は芯のある人物と感じられていく過程に、本書の味わいがあります。
また、朝顔の咲く庭に興三郎を中心に据え、宗観、三好貫一郎と3人が佇む姿がとても鮮やか。

※なお、吉村昭「桜田門外ノ変を読んでいた所為か、宗観、三好貫一郎という人物像をすんなり受け留めることができました。

                   

2.
「いろあわせ−摺師安次郎人情暦− ★★


いろあわせ

2010年08月
角川春樹事務所

2013年06月
ハルキ文庫

(724円+税)



2020/4/29



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本作の続編となる父子ゆえを、そうと知らず読んでしまって以来、気になっていた作品。
そりゃそうですよね、前作でどういう風なストーリィが描かれていたのか、当然気になりますから。
なお、本作を読んでから言えることですが、本作を読まなくても「父子ゆえ」はそれなりに楽しめるものでした。

江戸の長屋ものという点ではよくある設定。ただし、主人公の
安次郎が元武家で、今はその腕前を評価されている摺師であるという点が特徴。
なお、元武家となれば喧嘩事が起きた時には颯爽と相手を叩きのめしそうなものですが、早くに町人身分に転身したことから、腕の方は期待できないようです。

一方、様々な人の心模様、気持ちのすれ違い等、色を様々に重ね合わせて摺るという職人であることから、それを示して相手を諭す、そこが安次郎の味のあるところ。
そうしたことで本作題名、「いろあわせ」というようです。
なお、弟弟子分の摺師である
直助が、いろいろと騒動を聞き込んでくると同時に情報屋の役割も果たしていて、安次郎と好いコンビになっています。そこが面白処。

各篇の題名は、摺の技術名称から。
「かけあわせ」:安次郎の過去。過去の自分と重ね合わせ、貧乏御家人の息子=吉川林太郎のことが見過ごせず・・・。
「ぼかしずり」:有英堂の企画“艶姿江都娘八剣士”を巡る騒動に安次郎が巻き込まれます。
「まききら」:集金した金を持って行方知れずになっていた小原屋の長男=専太郎が妻子を連れて戻ってきた。店の後継者となる筈だった弟の芳吉は当然面白くない筈。そこから・・・。
「からずり」:馴染みの居酒屋店主である利久に、何か不安そうな気配。安次郎と直助が利久を心配し・・・。
「あてなぼかし」安次郎がいつも世話になっている老女のおたきが病い。おたきのために安次郎が動き出します。
なお、本篇にて安次郎の幼馴染である
大橋友恵が登場します。

1.かけあわせ/2.ぼかしずり/3.まききら/4.からずり/5.あてなぼかし

        

3.

●「迷子石」● ★★


迷子石画像

2010年12月
講談社刊

(1600円+税)

2013年12月
講談社文庫化



2011/01/14



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主人公は、富山藩前田家十万石の江戸藩邸で、見習い医師という立場にある保坂孝之助、26歳。
見習いとはいえ、代々医師という家柄で本人も漢方・蘭方の両医術を学んだというのに、全く患者が来ず。
その代わりにやってくるのは、藩邸に住む子供たちと、富山の薬売りである
惣吉ぐらい。
その孝之助、本草学をきっかけに草花に興味を持ち、絵を描くのが好きになったもの。そこを惣吉に見込まれ、薬を売る際の
“おまけ絵”の版画絵を時々頼まれることになったという次第。
実は孝之助、子供時代のある日の事件以来、医師としての自分の自信が持てなくなったというトラウマを抱えている。医師じゃなくておまけ絵師ではないか、と陰口を叩かれるのも、そんな事情から。

江戸藩邸で放っておかれているような状況である上に、本人もまた人と交らず、外出も殆どせずという孝之助。藩内で江戸派と国許派の対立が深刻になっていることも、まるで知らなかったと、呑気なもの。
しかし、そんな孝之助もいつの間にかお家騒動に巻き込まれていた、というストーリィ。

お家騒動は時代小説の定番とも言うべきストーリイネタですが、本書の面白さは、お家騒動にも全く気付くことなく、のほほんと日々を過ごしているかの如き主人公=孝之助のキャラクターにあります。
筋の通った脱力系、時代小説においては珍しいキャラクターと言って良いでしょう。
その孝之助を自ら予想もしなかった行動に追い立てるのが、国許から江戸に出てきた幼馴染の2人、そして藩を去り今は江戸市井の長屋でつつましく暮す
藤森絹代とその母親。
また、惣吉と孝之助のやり取りも、中々の味わいがあります。

人としてどう生きるべきか。迷いながらも自分の気持ちに素直である孝之助、共感のもてる主人公像です。
お家騒動ストーリィでありながら、本質的にはビルドゥングス・ロマン。時代小説にあっての新鮮さが魅力です。

          

4.

●「柿のへた−御薬園同心 水上草介−」● ★★


柿のへた画像

2011年09月
集英社刊

(1600円+税)

2013年09月
集英社文庫化



2011/09/30



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主人公の水上草介は、小石川御薬園(おやくえん)で働く園丁たちの管理・監督をする御薬園同心の役目を20歳の時に継ぎ、それから2年という青年同心。
のんきに植物を眺めているのが好きというのんびりした性格で、どうも人より反応が一拍遅い。おまけにひょろ長く頼りない体躯もあって園丁たちからも軽んじられ、「
水草さまぁ」と呼ばれているが、まるで意に介さない風。
そんな水上草介を主人公、小石川御薬園を舞台に、種々の草木を題材にして描いた、時代もの連作短篇集。

刀が振り回されるようなこともなく、ただ御薬園の中で穏やかに日々が過ぎていくのを愛おしむような、時代小説にしては珍しい展開ですが、その穏やかさがとても気持ち良い。
そんな御薬園、草介でも、起きるべき揉め事は起きるもので、それらの難事を草介が植物の知識を活かしては収めていく、というのが本書ストーリィ。
この草介、
一朝の夢の興三郎、迷子石の孝之助の延長線上にあるキャラクターと言えますが、本書は上記2作に比較してはるかに青春の匂いが強い。
となれば必要となるのがヒロインの存在ですが、本書でのヒロインは、御薬園の西側半分の管理を幕府から命じられている
芥川家の息女である千歳、17歳。見目麗しい娘ですが、若衆髷を結い袴姿で剣術道場に通うお転婆、というキャラクター。
この千歳と草介のやりとりの妙が、本作品の楽しさのひとつ。

穏やかで地味、こんな生き方があってもいいじゃないかと思わせて雰囲気が本作品にはあります。
軽やかで、心地好い肌触り、私好みの時代小説です

安息香/柿のへた/何首烏/二輪草/あじさい/ドクダミ/蓮子/金銀花/ばれいしょ

            

5.

●「夢の花、咲く」● ★★


夢の花、咲く画像

2011年12月
文芸春秋刊

(1500円+税)

2014年06月
文春文庫化



2012/01/11



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松本清張賞を受賞した一朝の夢の姉妹編。
何故続編ではなく姉妹編かというと、主人公は同じ
中根興三郎ですが、前作の5年前に遡るストーリィであるため。

冒頭、植木職人らしい男が斬死体となって発見されます。果たして事件は、変種朝顔と関わりがあるのか。
興三郎と親しい定町廻り同心の
岡崎六郎太が事件の探索を行っている最中、江戸を襲う大地震。被災者がお救い小屋に収容される一方、建設特需に乗じて大儲けする材木商。さらに付け火。
幕府はといえば、将軍継嗣問題、黒船来日というこれまた大地震に揺さぶられて足元定かならずという状況。
何やら 03.11後の日本を見るようです。


時代小説、事件、主人公が町奉行所の役人となれば、ヒーロー的な活躍を期待するところですが、本書主人公の中根興三郎はそんなヒーロー像からかけ離れた人物。
奉行所といっても探索方ではなく名簿係、剣の腕に覚えなく、決断力・行動力にも恵まれていない。朝顔栽培が唯一の生きがい、というオタク系武士です。
しかし、そんなキャラクターだからこそ町人たちからも遠慮ない口を叩かれ、親しまれているという風。
 
本作品において悪役は明らかです。でも凡々たる興三郎にはどうすることもできない。
目の前にある問題が判っていても微力な自分にはどうすることもできない、というのは現実においてよくあることです。だからこそ、不器用故に居たたまれない思いをしている興三郎に親近感を覚えるところ多々あり。
とはいえ、そんな興三郎でも何か人の役に立つことがあるのではないか、自分にもできることがあるのではないか、と真摯に務めているところに興三郎という人物の魅力があります。
 
時代物小説の主人公としては珍しいキャラクター。そこに楽しめるところあり、という作品です。

            

6.

●「ふくろう」● ★☆


ふくろう画像

2012年06月
講談社刊

(1500円+税)

2015年11月
講談社文庫化



2012/07/06



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西の丸番士として出仕が決まった伴鍋次郎
妻の
八千代も懐妊中とあって順風満帆という感じなのですが、何故か両親はふと顔を曇らせる。そしてある日、鍋次郎が外出中に出会った老武士は、鍋次郎の顔を見た途端に顔を引き攣らせ、悪かった、勘弁してくれと謝罪を繰り返す。
何か自分には、自分の知らない秘密があるのではないか。そしてそれは何故秘されているのかと、鍋次郎は疑惑に捉われます。そこから鍋次郎の実父に関わる秘密が明らかにされていくというストーリィ。

ネタバレになるかもしれませんが、本作品の面白さを損なうことはないと思うので、あえて書きます。
時代小説に現代社会の問題を持ち込むことはしばしばありますが、本書の場合はこれ以上ないというくらい現代的な内容。つまり、職場におけるイジメ、です。
イジメは現代にあっても酷いものですが、本ストーリィは殊の外酷い。いったい何のためかというと、暇つぶし故の戯れだというのですから、イジメられる側は堪ったものではありません。
そこから何が起きたのか。そして、自分が本来何者であるかを知った鍋次郎は、その後の行動をどう選択するのか。

面白いことは面白く読めるのですが、内容としてはありきたり、という印象を受けます。
その一方、サイドストーリィ部分で梶さんの冴えを見れるところに楽しみがあります。
とくに八千代の両親である、剣術道場師範の
高萩惣吾と女医であるの若かりし時のやり取り、そして鍋次郎と八千代とのやりとり、という辺り。

         

7.

「お伊勢ものがたり−親子三代道中記− ★★


お伊勢ものがたり画像

2013年09月
集英社刊

(1600円+税)

2016年06月
集英社文庫化


2013/10/16


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これからは好きに生きたいと言い出したのが、寡婦の隠居となった滝口まつ。縁談が進んでいる孫娘の雪乃は祖母から声を掛けられ、折角のチャンスと行く気満々。留める立場だった筈が、京に赴任中である夫宛ての密書をその同僚から託され同行することになったのが、娘の吉成香矢
そんな訳で母・娘・孫娘という3代揃ってのお伊勢参りと心躍らせて旅立ったものの、案内役となったのは頼りない御師手代見習いの
久松。さて3人の旅はどうなるやら。

ロードノベルというのは結構あって、どれもそれなりに楽しめるものですが、本書はその江戸時代版。
時代物ロードノベルの古典といえば勿論
「東海道中膝栗毛」。最近ではロードノベルに家族物語を加えた梓澤要「枝豆そら豆が佳作。
本書でも女三人、道中においていろいろな出来事、揉め事に関わりますが、思いもよらぬことがあってこそ旅は楽しい、ということのようです。
それに加えて母・娘・孫という女三代の取り合わせが本作品の妙。母娘というのは親子であると同時に姉妹みたいなところも備えているから、ということのようです。

旅は楽しく、道中でいろいろな事があればもっと楽しいという、時代版ロードノベル。主人公たちと一緒に旅している気分に浸れるのも読者にとっての楽しさです

宮川の渡し/江戸/高輪大木戸/藤沢宿へ/箱根宿へ/三島宿へ/島田宿へ/赤坂宿へ/桑名宿へ/四日市宿へ/白子宿へ/古市へ/二見浦へ/宮川の渡し

             

8.

「宝の山−商い同心お調べ帖− ★★
 (文庫改題:商い同心 千客万来事件帖)


宝の山画像

2013年12月
実業之日本社

(1600円+税)

2016年01月
実業之日本社文庫



2014/01/04



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柿のへたでの御薬園同心も珍しかったのですが、本書に登場するのは“商い同心”、正式名称は諸色調掛方同心とのこと。
事件の犯人を捕らえるのが役目の定町廻りや隠密同心たちとは異なり、市中の物の値段を見張り、高すぎる場合は店に指導するといったことがその役目。
 
主人公の
澤本神人(じんにん)は、定町廻りを経て隠密廻りの役目を勤めていたところ、新任北町奉行の「顔が濃すぎる(目立ち過ぎる)」というひと言で諸色調掛方へ担当替えになった次第。
その澤本神人が諸色調掛方同心として出会った数々の問題、事件を解決するという時代もの連作短篇集。

凶悪事件を追う定町廻り同心らと違い、諸色調掛方同心は事件とは殆ど無縁。そして町人たちの暮しを守るのが役目故に、目線が町人たちに近い、いわば町人の味方というのが本書のミソです。
といっても諸色調掛方に関わる犯罪事件が決して無いではなく、神人とその子分で大食い、でも雑学知識豊富な
庄太がコンビを組んで事件解決に取り組みます。

神人と庄太以外に、神人の亡き妹の忘れ形見である姪=
多代、その他に様々な登場人物たちが舞台を賑わし、結構賑やかです。
当初こそ印象度の弱い時代小説と感じていたのですが、読み進んで諸色調掛方同心の味わいが判ってくると、予想外に楽しめました。
姪の多代を見守って7年、ずっとひとり身という神人にささやかな彩りが与えられるところも見逃せない妙味です。
※シリーズ化して欲しいところですねぇ。


雪花菜/犬走り/宝の山/鶴と亀/幾世餅/富士見酒/煙に巻く

              

9.

「立身いたしたく候 ★★


立身いたしたく候画像

2014年02月
講談社刊

(1600円+税)

2018年02月
講談社文庫化



2014/03/17



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瀬戸物屋の五男坊、ちょっとは面白いかもと無益の貧乏御家人=野依(のえ)孫右衛門に請われるまま、養子となった駿平が本書の主人公。
実際に養子に収まると、武家稼業、思いも寄らぬ苦労多しと気付きますが、どこか能天気で素直なところのある駿平、幼馴染の御家人三男坊=
智次郎に振り回されつつ、お役につくため奮闘します。
そんな駿平が、自身苦労し、また他の武士たちの苦労も見聞きするという連作風作品。言わば“
時代版シューカツ”とのこと。

まぁ次々と色々な時代小説を思いつくものだと、小説家の発想力の豊かさには感心することしきり。時代小説とはそもそも、過去の時代・社会の有り様を描き出すタイプもある一方で、現代社会との共通点を見い出し投影して描くというタイプもありますが、本書はまさしく後者のタイプでしょう。

全篇を通じて主軸となる登場人物は、主人公の駿平に、幼馴染で何かと騒々しい智次郎、駿平に義妹でありいずれは妻になる筈の
もよ、という顔ぶれ。
各篇では、駿平とはまた違った成り行きで苦労する若者らの姿が連作風に描かれます。
現代的感覚で読める処が本書の面白さ。人にアピールできるものが何かしらないと、ただ足を運び日参するだけのシューカツとなり、苦労だけを積み重ねるといった結果になるようです。
笑えたのは、ちょっと上司に叱られただけで鬱病欠勤し、上司が全て悪いと喚き散らず若侍の篇。まぁ江戸時代だって、そんなことは決して無かった、とは言えないようなぁと思う次第です。

駿平と智次郎というコンビが楽しく、10歳という年齢にもかかわらず早くも駿平を尻に敷いている観のあるもよの存在が、さらに楽しさを盛り上げています。


小普請組/同朋衆/徒組/御膳所御台所/長崎奉行/勘定吟味役/奥右筆/旗奉行・槍奉行

               

10.

「ことり屋おけい探鳥双紙 ★☆


ことり屋おけい探鳥双紙画像

2014年06月
朝日新聞出版

(1700円+税)

2016年10月
朝日文庫化


2014/06/28


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5年前に祝言を挙げた亭主の羽吉は、3年前に知り合いの旗本から頼まれた鳥を探しに旅立ったまま消息知れず。
その羽吉が開いた
飼鳥屋“ことり屋”を、きっといつか亭主が戻って来るに違いないと女手一つで守っているおけいが主人公。
そんな小さなことり屋でも、鳥絡みで事件に関わることがある、という連作ストーリィ。

亭主の帰りを待ち続けるおけいの物語+江戸市井の事件、という二面性をもった連作小説。
さしづめ、おけいが事件のアンテナ役、そのおけいの元に始終やって来る人気戯作者の
曲亭馬琴が安楽椅子探偵、北町奉行所の定町廻り同心=永瀬八重蔵が探索の実行役という役回り。

本書表題を目にした時、ことり屋稼業がストーリィになるのだろうかと思ったものでしたが、事件ものとしてちゃんと連作ストーリィになっていました。
事件ものは事件ものとしてそれなりに楽しめましたが、読者として気になるのはやはり、おけいの亭主=羽吉はどうなったのか、無事帰って来ることなどあるのだろうか、ということ。

羽吉を止めなかった後悔と、一人待ち続ける寂しさを胸の内に抱えながらことり屋を守るおけいの姿が印象的。
その面で斬新的な、女性主人公による連作もの時代小説です。


かごのとり/まよいどり/魂迎えの鳥/闇夜の白烏/椋鳥の親子/五位の光/うそぶき

     

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