梓澤 要作品のページ


1953年静岡県生、明治大学文学部史学地理学科卒。本名:永田道子。93年「喜娘」にて歴史文学賞を受賞して作家デビュー。主要な作品は「百枚の定家」「阿修羅」「夏草ヶ原」等。

 
1.
枝豆そら豆

2.女にこそあれ次郎法師

3.恋戦恋勝

 


  

1.

●「枝豆そら豆」● ★★☆

 


2003年1・2月
講談社刊

上下
(各1900円+税)

 

2003/05/17

読んで面白く、かつ楽しい時代小説。
山手樹一郎「桃太郎侍的なストーリィの主役に“家族”を置き、東海道を下る旅の楽しさの中に、家族の在り様を描いたストーリィと言って良いでしょう。

前半は、大店の一人娘・おそのとその小間使いであるお菜津が、共に旗本の三男坊・達川真之介を恋したことから、仲の良かった2人がついに袂を分かつ事になる青春+恋愛ストーリィ。
そして後半、今や真之介は貧乏小藩・秋津藩主、お菜津はその側室・お夏の方となっていますが、真之介のいる国許でお家騒動が起きた気配。そんな折、奈津はおそのに再会しますが、実家が没落したおそのは、今や大勢の子供を抱えた一膳飯屋の寡婦。
その運命の違いも凄いですが、その2人が20年もの時間を超えてお互いを理解しあい、協力して若君を助けながら秋津藩へ向かうというお家騒動ストーリィ。
何と言っても楽しいのは道中記。奈津の兄弟、おその一家の他、一行全員が協力しあって苦難を共にするストーリィが楽しい。
そのうえ、癇症でひ弱だった若君が、道中おそのの子供らに囲まれて見事な成長を遂げるところが素晴らしい。
本作品の楽しさは、とても語り尽くせるものではありません。
明朗時代小説ファンなら、本書を読み逃したら大きな損!

  

2.

●「女(おなご)にこそあれ次郎法師」● ★★

 


2006年01月
新人物往来社

(2400円+税)

 

2006/06/29

戦国時代に舞台を置いた小説は当然のごとくにして武将たる男性を主人公にしたものが多いのですが、珍しく女性の立場から描いた歴史小説。
ただし、女性といっても女らしい生き方を送った人とはちょっと違う。領主の一人娘として生まれながら早くに出家し、出家したにもかかわらず否応なく家名の存続、領地支配と支配される側の苦衷を味わってきた女性。後に徳川四天王の一人に数えられた井伊直政の養母でもあり、先代の井伊家当主でもあったその女性の名を、井伊次郎法師直虎という。

は井伊谷の領主・井伊直盛の一人娘。井伊は小国故に今川氏による属国扱いを受け入れてきた。その今川氏から謀反を疑われ、一族の武将を殺されたうえにその息子であった祐の許婚者も領外へ逃亡させられます。更に今川氏より、主家を裏切って通じた家老の息子を婿取りせよと命じられる。
そこからが本書の主人公、祐の真骨頂なのです。
女なればこそ敵の息子を娶らされ、その子供を生まされる。自分の身体が家も自分をも裏切る。そんな女である自分の身体がおぞましい、憎いと訴え、祐は自ら決断し、出家してしまう。
父親と大叔父である僧・南渓が押し問答の末に妥協の産物として付けられた名前が、井伊家の惣領名である「次郎」と「法師」を組み合わせた「次郎法師」。
その祐(祐圓尼)の人生をさらに大きく狂わせることになったのが桶狭間の合戦。生き延びてその後勢力を急拡大した徳川家康と対照的に、直盛を亡くした井伊家は困難な道を辿ります。直盛の後を継いだ元許婚者の直親も討たれ、苦衷の策として祐が井伊家当主(=領主)の座につき次郎法師直虎を名乗ります。

支配する側の苦労と支配される側の苦衷、領地を失う衝撃。女で出家した身であるからこそ生き延び得た一方で、子を持てなかった痛みをもつ。そうした祐という主人公像には惹きつけられて止まない魅力があります。
数奇な人生という月並みな言葉が浮かびますが、そんな暗い雰囲気はありません。むしろ辛苦を越えて井伊家を守り通し、俯瞰的に世の中を見る目を持つに至った祐に、清々しささえ感じるのです。
祐と直政の関係だけでなく、祐と父・直盛および母、直政と実母の関係、祐と交わりのあった瀬名(家康の正室・築山御前)信康の親子関係も濃く描かれていて、戦国ドラマと思って読んでいたら実は家族ドラマでもあった、という驚きもあり。
見事な筆の冴えと称賛したいところですが、そんな理由付けは必要なく、読んでいて楽しい作品なのです。
歴史小説に興味を惹かれている女性の方には是非お薦め。

 

3.

●「恋戦恋勝」● 

 


2006年08月
光文社刊

(1600円+税)

 

2006/09/23

題名からしてユーモア溢れる時代小説版恋愛作品集と思っていたのですが、どうも外れたらしい。
「南総里見八犬伝」の作者・滝沢馬琴の息子・宗伯に嫁入ったを皮切りにした、恋と無縁に生きられない女たちを描いた連作短篇集。
表題作の「恋戦恋勝」で主人公となるほか、馬琴と路は他の作品にも狂言回しのごとく登場します。

私にとっては、本書の主題である“恋愛話”より、滝沢馬琴その人の方が懐かしい。森田誠吾「曲亭馬琴遺稿以来となる再会です。
滝沢家に嫁入った路は、夫、姑、舅とずっとギクシャクした関係が続く。夫は病弱で癇癪持ちのうえに、姑は意地悪、舅は気難しい。路自身にも意固地なところがあった。
その状況が改善するのは、夫、姑が相次いで死去した後に馬琴が失明し、「八犬伝」結末部分の口述筆記を路が手伝うようになってから。小煩い2人がいなくなって初めて舅・嫁の間に生じた連帯感がなんとなく微笑ましい。

各篇のストーリィは、情欲にかられた醜悪な関係からユーモラスなものまで様々。
ひとつひとつのストーリィについて是非を言うのではなく、こんな男女関係もあるのだと素直に受け止めておけば良いものでしょう。
6篇の中では、藤沢周平作品のようなユーモア+温かみのある「一陽来復」が気に入りました。

恋戦恋勝/恋は隠しほぞ/ゆすらうめの家/一陽来復/火の壁/色なき風

 


   

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