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11.凪の海−横浜ネイバーズNo.3− 12.暗い引力 13.人生賭博−横浜ネイバーズNo.4− 14.われは熊楠 15.科捜研の砦 16.ディテクティブ・ハイ−横浜ネイバーズNo.5− 17.舞台には誰もいない 18.夜更けより静かな場所 19.いつも駅からだった 20.汽水域 |
【作家歴】、文身、プリズン・ドクター、この夜が明ければ、生者のポエトリー、最後の鑑定人、付き添うひと、完全なる白銀、横浜ネイバーズ、飛べない雛、楽園の犬 |
11. | |
「凪の海−横浜ネイバーズ3−」 ★★ |
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“横浜ネイバーズ”シリーズ第3弾。 今回は、ロンやマツたちの元高校同級生であり、今は仲間と言える凪こと山県あずさ、その凪がずっと抱えてきた心の闇が明らかにされる「凪の海」を含む巻。 相変わらず素人ながら、ロンが仲間の協力や、新しい人脈による助言を得ながらトラブル解決に奮闘する面白さは、これまでの2巻と全く変わりありません。 ・「ゴット・イズ・バック」:ゲーム大会で八百長? 涼花から、賭博を壊滅させてほしいとの依頼。 カレシが高校生ながら<チップ>の異名で活躍するプロゲーマーで、八百長に加担させられそうになっているのだと。 ・「推しの代行者」:転売屋の石森、富沢昂輝から教えてもらったと、勝手かつ一方的な依頼。夜、自分を襲ってきた犯人を捕まえてほしいと。 ・「盗人のルール」:競馬にはまって多額の借金を抱え込み、闇バイトに応募した吉川。指示されて押し入った一人暮らしの老人の部屋には、坊主頭の大柄な男がいて・・・。 ・「凪の海」:メジャーデビューを控えた凪たちのバンド<グッド・ネイバーズ>。そのライブ後の楽屋に押し入り、凪に向かって「この人は私の夫を殺したんです」と言いながらナイフを振りかざしてきた女性が。いったい凪の過去に何が? 1.ゴッド・イズ・バック/2.推しの代行者/3.盗人のルール/4.凪の海 |
12. | |
「暗い引力」 ★★ |
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嘘、欺きを題材にした短篇集。 一口に嘘といっても、やむを得ない場合もありますし、善意のものもありますけど、悪意からの嘘、人を欺くことによって何かを手に入れようとするのは許されることではありませんし、結局は因果応報となるのではないでしょうか。 さて本短篇集、6篇の顛末は? ・「海の子」:妻の死後、遺された夫は自分がついていた嘘を、養子の海太から突きつけられます。さて、それはどんな嘘だったのか。 ・「僕はエスパーじゃない」:これは嘘、というものでしょうか。妻である側が勝手に決め込み、また急に思い直した、というだけのことではないのでしょうか。 しかし、こんな夫はねぇ、気が付けば慌ててしまうのも無理ないかも。ユニークで妙に面白い篇。 ・「捏造カンパニー」:高校時代の仲間3人、いずれも会社に虐げられたという被害者意識。その仕返しと始めたのは、架空会社の立ち上げ。しかし、思わぬ人物が・・・。 ・「極楽」:借金逃れのために認知症の老女というフリをしただけのつもりだったが、・・・。 ・「蟻の牙」:無記録の長時間労働、検査不正、あちこちの会社であった問題を、当事者たちの書簡、社内議事録、メール、通話記録等で暴きだした篇。 大勢の人間が、様々なツールでやり取りする構成だけに、実にリアルで面白い。本作中、一番の推し。 ・「堕ちる」:やっと市立美術館の正規職員という座を得た主人公、彼女が欺こうとしているのは・・・・。 海の子/僕はエスパーじゃない/捏造カンパニー/極楽/蟻の牙/堕ちる |
13. | |
「人生賭博−横浜ネイバーズ4−」 ★★ |
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“横浜ネイバーズ”シリーズ第4弾。 今回は、マツ、ヒナが事件に大きく関わります。 ロンは強く思い込んでしまったマツ、また逆上してしまったマツを抑えられるのか。 そして、ヒナに目を付けた犯罪者から、ヒナを守ることができるのか。 ロンにおいても、本巻は正念場です。 ・「名前のない恋人」:マツがマッチングアプリで知り合った年上女性に夢中になってしまう。ロンから見れば詐欺の疑い濃厚なのだが、マツはロンの注意を聞こうとせず・・・。 ・「人生賭博」:ロンの恩人であるカンさん(上林寛之)が競馬詐欺にひっかかり自殺未遂。逆上して暴走するマツをロンは止められるのか。犯人を捕まえるためヒナも協力。 ・「ブルーボーイの憂鬱」:前巻「推しの代行者」で知り合ったピロ吉先生からの依頼。自分が勤務する受験予備校の通うギフテッド、小五の久間蒼太には友だちがいない。ついてはロンに、友だちになってやってほしい、と。 ・「排除する者」:大月弁護士が顧問を務める会社が、ディープフェイク画像による詐欺に遭い1億7千万円を奪われたと、ロンに協力依頼。さっそくロンは、蒼太に協力を依頼。 一方、横浜国大理工学部に入学したヒナは、独自のディープラーニングツールを開発しようとするインカレサークルに入会。そこで、ヒナの美しさに目をつけ我が物にしようとする者が・・・。 ヒナのロンに対する想いを皆が気づいているのですが、相変わらずロンだけは気付いておらず、どこかネジが一本外れている、という象徴的なこと。それでも、ようやく一歩前進? ファンとしては、ようやくかぁと溜息をつきたくなる処。 1.名前のない恋人/2.人生賭博/3.ブルーボーイの憂鬱/4.排除する者(エリミネーター) |
14. | |
「われは熊楠」 ★★ |
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“知の巨人”と評される博物学者、生物学者(特に粘菌研究)、民俗学者=南方熊楠(みなかた・くまぐす)(1867〜1941年)の生涯を描きだした長編。 南方熊楠、もちろん名前は知っていますし、何かの研究者というイメージは持っていたものの、詳しくは知らないままでした。 そこで本書、ようやく南方熊楠について具体的に知ることができたと、岩井さんにお礼を言いたい気持ちです。 それにしても、熊楠という人物は凄い。 「この世のすべてを知り尽くしたい」という無尽蔵の探求心とエネルギー、そして生涯を在野の一研究者として過ごしたのですから。 しかし、それは熊楠一人の力によって為せたものではないことも、当然のこと。 父親が興した酒造会社を継ぎ、次兄・熊楠に限りない支援を続けた弟=常熊の存在、妻となった松枝、数々の知己たちの協力なくしては、出来ようはずがなかったことも事実です。 それだけ、何処か人を惹きつけてやまない純真性、魅力があったからではないでしょうか。 昭和天皇への御進講も行い、輝かしい功績を残した熊楠ですが、幸せな生涯だったかと言えば、とてもそうとは言えないでしょう。 いずれにせよ、その生涯はまさに小説のごとく波乱万丈、と言うに相応しいもの、と感じます。 1.緑樹/2.星火/3.幽谷/4.閑夜/5.風雪/最終章.紫花 |
15. | |
「科捜研の砦」 ★★ |
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「最後の鑑定人」に登場した土門誠が再登場。 同作と同様、土門と関わった人物が各章の主人公となって、科学の力をもって事件解決に奮闘する土門誠という鑑定人の姿を浮かび上がらせる、という連作構成。 その意味で続巻と言えますが、時間は遡って、土門はまだ30歳、警視庁の科捜研(科学捜査研究所)に在籍していた頃の話。 主要登場人物は他に、土門が尊敬する上司であり“鑑識の神様”と呼ばれる加賀正之副所長(警視)、科警研(科学警察研究所)所属の鑑定人=尾藤宏香という二人。 当時、加賀と土門の2人は“科捜研の砦”と言われる存在。 ・「罪の花」:山中で発見されたバラバラの白骨遺体。 鑑定の仕事に不満を感じていた尾藤宏香は、依頼を受けた事件の関りで初めて土門誠、加賀副署長に出会います。 ・「路側帯の亡霊」:大学生3人が飲酒運転で事故を起こし、一人が死んだ事件。交通捜査課の刑事=三浦耕太郎は単なる自動車事故として片付けようとしたのですが、土門が異を唱え・・・。 ・「見えない毒」:東洋工業大学理学部の講師=菅野真衣は、正体不明の粉末を分析するため分析機器を借用しに来た土門誠と出会い、科学に対する彼の真摯で労を惜しまない態度に胸を打たれます。 ・「神は殺さない」:本書において、圧巻というべき章。 火事による一酸化中毒死という所見に強く異議を唱えたのが、土門。しかし、その土門は事件捜査から外され、死因特定のための鑑定が科警研の尾藤の元に持ち込まれます。 いつにない冷静さを欠く<夫>土門の様子に不審を覚えながら鑑定を進める尾藤でしたが、最終的に夫婦で力を合わせ難解な事件に立ち向かうことになります。 事件の謎&真相に加え、土門誠という人物像を描かれる処に本作の面白さがあるのですが、前作に登場した人物たちが本作でその若い頃の姿を見せているところも楽しいところ。 尾藤宏香が筆頭ですが、三浦刑事は前作「死人に訊け」に、菅野講師は前作「愚者の炎」に登場しています。 なお、本作を読んだ後に、もう一度「最後の鑑定人」を読んでみることをお薦めします。きっと更に楽しめることと思います。 私は図書館で借りて、ざっと読み直してみました。 罪の花/路側帯の亡霊/見えない毒/神は殺さない |
16. | |
「ディテクティブ・ハイ−横浜ネイバーズ5−」 ★★ |
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“横浜ネイバーズ”シリーズ第5弾。 ロンこと小柳龍一、本巻で小ピンチと大ピンチに。 前者はちょっと愉快、後者は本当にハラハラ、スリリング。 一方、フリーター仲間だったマツこと趙松雄も、いよいよ実家<洋洋飯店>を継ぐ覚悟を決め、料理修業に。 幼馴染みで先が定まらないのはロンだけになりますが、カンさんの個人破産手続を担ってくれた清田大助という弁護士が新たに登場。果たしてロンの先行きに果たして影響を与えるのか? ・「きみはアイドル」:涼花からの依頼。友人がイクメン地下アイドルのグループに嵌り、パパ活をやり出したらしい。そんなメンチカを辞めさせてほしい、と。 ※振り返ってみると、涼花からの依頼ってムチャクチャ過大なものが多いような・・・・。 第1巻に登場した伊能優理香が、ロンを助手にして颯爽とした姿を見せます。さすがは元人気アイドル、格好いい。 ・「柔らかな闇」:清田大助弁護士が登場。頼りないように見せかけていて、実はかなりの策士かも。 ・「抜け穴と落とし穴」:ロンが偶然に出会った大学生の太田、大麻グミは合法だと、ロンに対して平然と説明。太田とロンの言い争いぶりが、そして結末が面白い。 ・「ディクティブ・ハイ」:欽ちゃんこと石清水欽太刑事が恩人と慕う交番警官=須藤が、トクリュウによる犯罪グループに殺された。異動間近の欽ちゃん、何としてでも自らの手で犯人を挙げたいとロンに協力依頼。しかし、かなり危険な行動。 そして二人、犯人グループに捕えられてしまい・・・・。 1.きみはアイドル/2.柔らかな闇/3.抜け穴と落とし穴/4.ディテクティブ・ハイ |
17. | |
「舞台には誰もいない No one on stage」 ★★☆ |
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ゲネプロ(本番直前の通し稽古)の最中、舞台の主演女優だった遠野茉莉子が奈落に転落し、死去してしまう。 その死の真相は何だったのか。そして、遠野茉莉子という女優の“生”はどのようなものだったのか。 その真実を描き出す連作風、同時にミステリ要素を含んだストーリー。 序幕、女優の事故死によって公演中止となったその劇場に、演出家の名倉敏史によって俳優たち舞台関係者が集められます。彼らに対して名倉が告げたのは「遠野茉莉子を殺したのは、僕です」という一言。 そして「第一幕」から「第四幕」まで、遠野茉莉子を主人公として、彼女が歩んできたこれまでの経過が描かれます。 その一方、「幕間」では序幕で集められた俳優たちが一人一人、遠野茉莉子が事故死した理由を各自の推測として語る、という構成。 何より特筆すべきは、本名は語られず、「遠野茉莉子」という芸名をもってしか語られない女優の、まるで狂気としか思えないような演技への打ち込みぶり。 同時にそれを描き出す岩井さんの筆遣いが凄い、ただただ圧倒されるばかりです。 こうした狂気とも言える圧倒感、どこかの作品でも味わった気がするのですが、思い出せず。 一方、思い出すのはオスカー・ワイルドの名作「ドリアン・グレイの肖像」。扮することに囚われてしまった人間の悲劇という点で、共通するものがあるように感じます。 さて、女優の死の真相は如何。それは最後、女優自らの言葉で明らかにされます。どうぞお楽しみに。 序幕/第一幕/幕間/第二幕/幕間/第三幕/幕間/第四幕/終幕 |
18. | |
「夜更けより静かな場所」 ★★ |
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題名の「夜更けより静かな場所」とは何処のことでしょうか。 どうも、本作に登場する古書店<深海>のことらしい。 その古書店で深夜に開催される読書会、その読書会が参加したメンバーひとりひとりの今を変えていくストーリー。 都内の大学文学部三年生の遠藤吉乃、父親に言われ、余り馴染みのない父方の伯父=遠藤茂が営む古書店<深海>を訪ねることになります。 そこで伯父から勧められたのが、海外ミステリ「真昼の子」。帰宅して読み始めた処、これがとんでもなく面白かった。 同作について色々話したそうな姪の様子から、伯父の茂が常連客等に声を掛けて催してくれたのが、深夜の読書会(閉店後の午前0時から開始)。 その後も、メンバーから挙がった本を課題図書に、深夜の読書会は続けられていきます。 同じ本を読んでも、一人一人、感じたこと、思ったことはいろいろ異なります。そうした捉え方もあるのかと知ることは、視野を広げることにも通じます。 そしてそのことが、メンバー一人一人の、今を変えていくことに繋がっていく。 この辺り、本好きにとっては嬉しいこと。 そして最後の章に至って浮かび上がってくるのが、“選択”ということ。 自分のこれまでも今も(良きにしろ悪しきにしろ)、なりゆきによる結果ではなく、全て自分が選択してきた積み重ねの結果としてあるもの。 だからこそ私たちは、一つ一つの選択を大切に行っていく必要があると心から思います。 そうしたメッセージを伝えてくれる作品です。お薦め。 真昼の子/いちばんやさしいけもの/隠花/雪、解けず/トランスルーセント/夜更けより静かな場所 |
19. | |
「いつも駅からだった」 ★★ |
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京王電鉄沿線の5つの駅から始まる、参加型ミステリー短篇集。 謎解き&街歩き、という趣向です。 各篇ストーリーのパターンは共通です。 主人公、ある相手を探しているのですが、見つからない。 その相手からは、謎めいたメールあるいは手紙、画像等が送られてきており、それは居場所を示すものらしい。 しかし、その謎解きが難しい。 ここで読者は、主人公と共にその謎解きに挑戦することができます。(但し、そのまま読み進んでしまうことも可) 主人公たち、いずれも謎解きができず困惑しますが、そうした時に「何か困りごとですが」等、声を掛けてくれるのが黒ぶち眼鏡をかけた30代らしい駅員。 謎を見せると、その駅員はあっさり解読、行先を示してくれる、という具合です。 いずれにせよ、その駅の周辺を歩き回るのが常の展開、これらの街をご存知だったり、この際そこへ行ってみようかと思う方たちにとっては、さぞ面白いストーリーだろうと思います。 なお、その街を知らなくても(私のように)十分に楽しめる内容ですので、心配は無用です。 本書をきっかけに読書も楽しいと感じてくれる方が増えたら、岩井さん同様、私も嬉しい限りです。 ・「下北沢編」:ギタリストの俊介、バンド仲間の琢磨探し。 ・「高尾山口編」:登山中に姿を消した息子の龍也探し。 ・「調布編」:大学生の麻由、祖母の景子探し。 ・「府中編」:誕生日プレゼント? 晴香、妹の美羽探し。 ・「聖蹟桜ヶ丘編」:アパレル店員の弥生、夫の幸太郎探し。 読者のみなさんへ/下北沢編/高尾山口編/調布編/府中編/聖蹟桜ヶ丘編/あとがき |
20. | |
「汽水域」 ★★☆ |
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東京の亀戸で、複数の犠牲者を出した無差別殺傷事件が発生。 その場で逮捕された犯人の深瀬礼司(35歳)は、「死刑になりたかった」と供述。 現実に何度か繰り返された、リアルな事件。その卑劣さ、非道さは極まりなく、そうした事件を題材にした作品と聞くだけで、目を背けたくなります。 しかし、岩井圭也さんの作品であればこそ、という思いから読んだのですが、その判断は正解。 単なる事件ものストーリーには留まらない、奥深い作品でした。 何故犯人はそうした凶行事件を起こしたのかという謎解き要素もありますが、それ以上にジャーナリズムとは何か、どうあるべきなのかを考えさせるものになっていました。 また、被害者、加害者に関わりある人の思い、そして事件の取材側、それぞれの思いが緻密に描かれます。 主人公はフリーの事件ものライターである安田賢太郎(36歳)。 一度は結婚して息子を持ったものの、夫としてまた父親として失格の烙印を押され離婚、息子の海斗( 7歳)とは定期的に面会しているが、どう愛情を示していいのか判らないという、いささか問題のあるキャラクター。 付き合いの長い週刊誌デスクの三品文雄から頼まれ、上記事件の取材を始めますが、あくまで中立の立場を堅持する安田の書いた記事は、犯人を庇っているのかと遺族やSNSからの批判、攻撃を受けてしまい・・・。 フリーライターの立場は厳しい。依頼がなければ取材費用さえ賄えないし、記事を載せてもらえなければ何にもならない、そして社会から攻撃されても守ってくれる後ろ盾はいません。 そうした中で、深瀬礼司という同世代の犯人が凶行に至った軌跡を突き詰めていく。そしてそれは、安田自身の過去と決して無縁ではなかった・・・。 ジャーナリズムとは何か、何のために在るのか、そしてどうあるべきなのか。 無責任で誹謗・中傷の多いSNSとの比較においてこそ、ジャーナリズムの重要性が身に染みて感じられます。 終盤、深瀬と安田との対峙が圧巻場面。 流石は、岩井圭也さんの作品です。 お薦め! |