いとうみく作品のページ


神奈川県川崎市生。「糸子の体重計」にて日本児童文学者協会新人賞、「空へ」にて日本児童文芸家協会賞を受賞。


1.糸子の体重計

2.空へ

3.チキン!

4.ひいな

5.トリガー

6.羊の告解

7.大渋滞

 


                  

1.

「糸子の体重計 ★★☆       日本児童文学者協会新人賞


糸子の体重計

2012年04月
童心社刊

(1400円+税)



2017/03/12



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小学5年、同じクラスの5人を連作形式に描いた児童向けストーリィ。

食べることが大好きな
細川糸子、デリカシーはないけれどいつも前向き、元気者。しかし、そんな糸子がいくら言い争いの末とはいえ、ダイエットの勝負をすることになるとは・・・。
クラスで女王様的存在の
町田良子、ガサツな糸子を毛嫌いしているのですが、それでも糸子は無遠慮に近づいてくる・・・。
大柄であることがコンプレックスの
高峯理子、従姉のおかげで一躍人気者になりますが、逆に問題を抱えてしまい・・・。
町田良子の一番の友だちになることで居場所を確保したい
坂巻まみ。でも、まとわりつかれる良子の方は・・・?。
糸子と給食のお代わりを競い合うのが常の
滝島径介、でもその裏には切実な事情があり・・・。

5人の小学5年生たちが、一人一人、生き生きと描かれているのが魅力。
良いところ、悪いところ、嫌いと感じるところ、羨ましいなぁと感じるところ、そりゃいろいろありますよ。
それでも何だかんだといって関わり合い、良い影響を及ぼし合っている小学生たちの姿が素晴らしい。
もちろん、多少のことを気にせず、ブルドーザー並みに相手を押しまくって進む細川糸子の無遠慮な突進力あっての面白さであることは間違いありませんが。

こんな小学生たちがクラスの中心にいたら、放っておいてもクラスはうまく回っていくんじゃないかな。


ダイエット−細川糸子−/スタート−町田良子−/ガール−高峯理子−/フレンド−坂巻まみ−/スマイル−滝島径介−

              

2.

「空へ ★★       日本児童文芸家協会賞


空へ

2014年09月
小峰書店刊

(1500円+税)



2017/04/01



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3か月前、父親がくも膜下出血で倒れ、脳梗塞も併発して急死。
遺された家族は、主人公である小学6年生の
陽介と、まだ幼稚園児の妹=陽菜、そして母親。急に3人家族となり、社宅から引っ越してアパート暮らしに。

さぞシンドイことだろうと思います。母親はまず働くことで背一杯だし、幼い妹の面倒を見るのは必然的に陽介の役目。
耐えなくちゃいけないことも、我慢しなくてはいけないことも多くなる。
小学校に入学し学童クラブに入った陽菜を迎えに行くため、中学生になっても入りたかったサッカー部を我慢して活動の緩い美術部へ。

妹の陽菜から何につけても「おにいちゃん」と頼りにされる様子は愛おしいし、諦めざるを得ないことがある代わりに教えられ、成長に繋がることもあります。
そんな陽介の、父親の死から1年間を描くストーリィ。

そうしたシンドさの中にあっても、他人を気遣う気持ちを失うことがなかったのは、陽介が成長したことの証し、と言って良いのではないでしょうか。
最後、陽介の生き生きとした姿を目にすることができるのは、とても嬉しいこと。

胸が熱くなる、瑞々しい少年の成長ストーリィ。お薦めです。


おかゆ/水きり/くちば色/いつか/兄弟/神輿

                     

3.

「チキン! ★★


チキン!

2016年11月
文研出版刊

(1300円+税)



2017/07/03



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小学校・中〜高学年向けの児童小説。
主人公である小学生の
日色(ひいろ)拓、保育園時のトラウマの所為でトラブルを常に避けようとするのが習性に。
そんな拓の逃げ腰姿勢を、転校生の
真中凛から「チキン」だと言われてしまう。

転校生の真中凛は、拓と対照的。その言は確かに正論ではあるものの、所構わず、相手構わずで主張するために年中トラブルを巻き起こす。そしてそのトラブルに巻き込まれるのはいつも拓、という次第。
その凛、拓の将棋友達である隣家に住む
麻子おばあさんの家に引っ越してきた孫娘だったとは! 拓は必然的に凛と関わらざるを得なくなります。
さて、凛の巻き起こしたトラブルの結果は・・・・。

トラブルを避けるために相手の顔色を窺い、何かと事なかれ主義で臨むより、もっと良い方法があるのではないか、というメッセージを感じる作品。
子供たちの中だからこそストレートに口に出せることですが、実は大人社会でも同様である、と思います。

言葉とはそもそも、自分の思いを相手に伝えるための道具なのですから。
スカッとして、かつ考えさせられるストーリィ。
いとうみく作品、好いですよねー。

     

4.

「ひいな ★★★


ひいな

2017年01月
小学館刊

(1400円+税)



2017/02/12



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そもそもは女児を守るために生まれた風習という雛人形。
本作は、昔“人形の町”と呼ばれていた桃花町にやってきた女児と、彼女を守ろうとする女雛との物語。
クリスマスが典型的な洋風ファンタジーであるなら、雛祭りこそ和風ファンタジーでしょう。そう思うと、後者の数が少ないのは残念なように感じます。

乗降客も少ない田舎の駅舎。そこに飾られている雛人形たち。このままじゃいけないと、ぐうたら風な女雛の
濃姫にハッパをかけたのが官女のタヨ
折しもその駅に降り立ったのが小4の
由良。シングルマザーの母親が勤めていた出版社が倒産。ようやく得た仕事は2週間の海外ルポとあって、ずっと仲違いしていた両親の元に由良を預けることにしたという次第。

これ以上ないという程ついていない女の子、という由良と契りを交わした濃姫の苦労が可笑しく、由良と濃姫のコンビは読んでいて楽しい限り。
しかし、一方的に濃姫が由良のために尽くすのではなく、結果的に両者共存、お互いがお互いの支えになっていると知れるところが素敵かつ嬉しい。

雛祭りを題材にしたファンタジー名作に
なかがわちひろ「かりんちゃんと十五人のおひなさまがありますが、同作が和むストーリィであったのに対し、本作では濃姫や由良の、アクションまたは対決ストーリィという要素を備えているところが面白さ。
お薦めです!
(スミマセン、ずっと娘の雛人形、仕舞ったままです。)


駅舎の女雛−濃姫/人の子−由良/女(め)の子遊び−濃姫/桃花(とうか)町−由良/春一番−濃姫/契り−由良/災厄−濃姫/母の人形−由良/昔の記憶−濃姫/祖父と母−由良/決意−濃姫/橘神社−由良/あやまち−濃姫/幻影−由良/掟−濃姫/ひな壇−由良/いとしきもの−濃姫/はじまり、そして−由良

                   

5.
「トリガー ★★☆


トリガー

2018年12月
ポプラ社刊

(1400円+税)



2019/02/02



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親友の亜沙見が家出した。音羽(とわ)に何も告げずに。
彼女に何があったのか。
実は音羽、母親の再婚によりできた16歳上の義姉が死んで以来、亜沙見の様子がおかしいこと、何か悩みを抱えているらしいことに気づいていた。しかし、亜沙見が発するSOSをわざと気づかないふりをしていた。
音羽が今も忘れられないのは、小学生の時親しい友人だった依里子を見捨ててしまったこと。
そんなことは繰り返したくない、もう逃げたくない、音羽は亜沙見のため、自分のために駆け出します。

思春期にある少女が抱え込んでしまった苦悩、親友に寄り添いたいと心に決めた少女たちの友情を描いた児童向けストーリィ。

作中でも語られるのは、同年代の少女が建物の屋上から飛び降りて自殺したという最近の出来事。
ちょっとしたことが引き金(トリガー)になって、少女たちは自分の命を捨てかねない。
どうしたら亜沙見を救うことが出来るのか、音羽の思いはそれに尽きます。

亜沙見が抱えた問題、苦しみはかなり衝撃的でドラマチック。
しかし、問題の程度を別にして、この年代の少女たちが危うさを秘めていることは事実なのでしょう。
そうした時、彼女たちにどう対していけばいいのか。

限りなく少女たちの心理に寄り添おうとするストーリィ。
作者であるいとうみくさんの訴えに、深く胸を揺さぶられた思いです。お薦め。

                  

6.
「羊の告解 ★★☆


羊の告解

2019年03月
静山社刊

(1300円+税)



2019/04/03



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世の中に理不尽なこと、理不尽な扱いを受けるということは、如何せん幾度もあると思います。
しかし、究極の理不尽なことって、加害者家族になってしまう、ということではないでしょうか。

本書の主人公である中3生の
涼平の身に突然降って湧いた出来事というのが、それ。
ある日、家を訪ねて来た警察に父親が連行されたと思ったら、そのまま逮捕、そして父親が人を殺した、と言われる。
そのまま父親に会うこともできないまま、自宅から祖父母の家に引っ越し、名字を変えて学校も転校、友人とも会えなくなり、そして両親は離婚。
逃げ出すなんて嫌だ、何故父親と絶縁しなくてはならないのか、と思っても、涼平に何ができる訳でもなく押し流されるのみ。
そして何より恐ろしいことは、父親に性格が似ている自分は、激昂に駆られた時父親と同じことをしてしまうのではないか、という不安。
自分では何の解決もできない問題を抱えこまされて苦しむ涼平の胸の内は決して他人事とは思えません。

シンプルなストーリィです。シンプルだからこそ、深く胸を打つストーリィになり得ていると言えます。
涼平に必要なことは何だったのか。どうすれば母・弟と涼平の3人は新たな道へ足を踏み出すことができるのか。

加害者の家族だから過酷な目に遭っても当然と、安易に思ってしまう恐さを改めて気づかされた思いです。お薦め。

                   

7.
「大渋滞 ★★


大渋滞

2019年04月
PHP研究所

(1400円+税)



2019/05/14



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小学校高学年向けの一冊。

主人公の
は小学生。母親の妹である麻美ちゃんの結婚式に参列するため、両親、幼い弟の大地という4人で、パパの運転する車で名古屋へ向かいます。
しかし、度重なる事故で東名高速は大渋滞。ただでさえ喧嘩の多い両親は、車の中でもしきりと言い合いばかり。
実は麦の両親、離婚の予定。これが最後の家族旅行となるはずだったのに・・・。

まあ、大渋滞の車の中、ゴタゴタばかり。よくもまあ、これだけトラブルがあるものだとコミカル。
そのうえさらに、麦のパパときたら・・・。

最後、我慢できなくなった麦の本心が炸裂・・・。
ちょっとしたことでも一旦こじれてしまえば、その修復は難しいもの。
それが望ましい方向に進むのも、ドタバタあってのことではありますが、それにしてもなぁ・・・。

とは言っても、全ては終わりよければすべてよし。
よかったね、麦ちゃん。
そこに至るのにどんな展開があったのかは、本書を読んでのお楽しみです。

    


   

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