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1.糸子の体重計 2.空へ 3.車夫 4.車夫2−幸せのかっぱ− 5.チキン! 6.ひいな 7.車夫3−雨晴れ− 8.トリガー 9.羊の告解 10.天使のにもつ |
大渋滞、朔と新、あしたの幸福、バンピー、夜空にひらく、真実の口 |
「糸子の体重計」 ★★☆ 日本児童文学者協会新人賞 |
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小学5年、同じクラスの5人を連作形式に描いた児童向けストーリィ。 食べることが大好きな細川糸子、デリカシーはないけれどいつも前向き、元気者。しかし、そんな糸子がいくら言い争いの末とはいえ、ダイエットの勝負をすることになるとは・・・。 クラスで女王様的存在の町田良子、ガサツな糸子を毛嫌いしているのですが、それでも糸子は無遠慮に近づいてくる・・・。 大柄であることがコンプレックスの高峯理子、従姉のおかげで一躍人気者になりますが、逆に問題を抱えてしまい・・・。 町田良子の一番の友だちになることで居場所を確保したい坂巻まみ。でも、まとわりつかれる良子の方は・・・?。 糸子と給食のお代わりを競い合うのが常の滝島径介、でもその裏には切実な事情があり・・・。 5人の小学5年生たちが、一人一人、生き生きと描かれているのが魅力。 良いところ、悪いところ、嫌いと感じるところ、羨ましいなぁと感じるところ、そりゃいろいろありますよ。 それでも何だかんだといって関わり合い、良い影響を及ぼし合っている小学生たちの姿が素晴らしい。 もちろん、多少のことを気にせず、ブルドーザー並みに相手を押しまくって進む細川糸子の無遠慮な突進力あっての面白さであることは間違いありませんが。 こんな小学生たちがクラスの中心にいたら、放っておいてもクラスはうまく回っていくんじゃないかな。 ダイエット−細川糸子−/スタート−町田良子−/ガール−高峯理子−/フレンド−坂巻まみ−/スマイル−滝島径介− |
「空へ」 ★★☆ 日本児童文芸家協会賞 |
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3か月前、父親がくも膜下出血で倒れ、脳梗塞も併発して急死。 遺された家族は、主人公である小学6年生の陽介と、まだ幼稚園児の妹=陽菜、そして母親。急に3人家族となり、社宅から引っ越してアパート暮らしに。 さぞシンドイことだろうと思います。母親はまず働くことで背一杯だし、幼い妹の面倒を見るのは必然的に陽介の役目。 耐えなくちゃいけないことも、我慢しなくてはいけないことも多くなる。 小学校に入学し学童クラブに入った陽菜を迎えに行くため、中学生になっても入りたかったサッカー部を我慢して活動の緩い美術部へ。 妹の陽菜から何につけても「おにいちゃん」と頼りにされる様子は愛おしいし、諦めざるを得ないことがある代わりに教えられ、成長に繋がることもあります。 そんな陽介の、父親の死から1年間を描くストーリィ。 そうしたシンドさの中にあっても、他人を気遣う気持ちを失うことがなかったのは、陽介が成長したことの証し、と言って良いのではないでしょうか。 最後、陽介の生き生きとした姿を目にすることができるのは、とても嬉しいこと。 胸が熱くなる、瑞々しい少年の成長ストーリィ。お薦めです。 おかゆ/水きり/くちば色/いつか/兄弟/神輿 |
「車 夫 shafu」 ★★★ | |
2019年11月
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陸上部を退部し、高校を中退した吉瀬走(きつせ・そう)が飛び込んだのは、車夫の世界。 主人公=走の健やかな成長を描く、連作ストーリィ。 吉瀬走、父親が事業に失敗し、借金を残して失踪。アパートに引っ越して母親は働き始めますが、まもなく走を置いてこれもまた失踪。 一人置き捨てられた走は高校を中退しますが、金がなくなり追い詰められます。 そこに現れたのが、陸上部で5年先輩の前平俊平。その前平から走は、「車夫やらないか」と誘われます。ただし条件があり、走ることが好きなこと、そして顔のいいこと、と。 そして走は、浅草の<力車屋>で車夫という仕事、ただの民家の一部屋ながら寮という住まいを得て、新たなスタートを踏み出します。 連作形式で、各篇の主人公はそれぞれですが、いずれの篇にも走が登場し、走の成長している姿が見受けられる、という構成。 各篇のちょっとした人間ドラマにも良い味がありますし、それらと吉瀬走という少年の自立ストーリィが見事に融合していて、爽快な気分が味わえます。 冒頭、いきなり走の話から始めるのではなく、悠木乃亜という少女を主人公にして人力車に乗る爽快さをまず紹介してくれる、というところが嬉しい。この冒頭篇がなかったら、本作の印象もかなり違ったのではないかと思います。 吉瀬走の車夫姿、キリっとしていていかにも格好良い。 そして、力車屋の仲間たち、親方である神谷力、美人でしゃきしゃきした女将の琳子、前平ほか山上さん、ヒデさんらと走との、人同士の繋がりも気持ち好いものがあります。 現在3巻まで刊行。続巻を読むのが楽しみです。 また、文春文庫化も読書層が広がる筈で、嬉しいことです。 ※人力車、乗ってみたくなること、請け合いです。 尾行にはむきません−悠木乃亜/力車屋−吉瀬走/日暮荘の住人−前平俊平/もう一回−増岡大樹/信じるものは−豆木勝之助/たいせつなもの−神谷琳子/帰るところ−吉瀬走 |
「車夫2 shafu2 −幸せのかっぱ−」 ★★ | |
2020年05月
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「車夫」、第2弾。 第一作を読んだ時ほどの感動はありませんが、このシリーズ、大好きです。 読む前からワクワク、読み始めてからもそれは変らず、そして読み終えたときは(切ない部分もあるとはいえ)楽しい思いでいっぱいです。 各篇の主人公を変えながら、その背後で吉瀬走という少年の一歩一歩成長していく姿を描く構成は、第一作と変わらず。 ・「つなぐもの」:高校陸上部で走をライバル視していた部仲間の遠間直也が主人公。黙って仲間たちの前から姿を消した走に対し、裏切られたという思いが今も消えず。 ・「ストーカーはお断りします」:走に女性ストーカー? 彼女の抱えた想いは? そして走は彼女にどう向かい合うのか。 ・「幸せのかっぱ」:大企業を退職して力車屋で働いている先輩車夫=山上洋司が主人公。今も残る娘への想い・・・。 ・「願いごと」:余命半年と妻から告げられた成見信忠。動揺したのは、自分の傍らから妻がいなくなるということ・・・。 ・「やっかいな人」:第一作冒頭篇に登場した悠木乃亜が高校生になって再登場。冒頭篇から繋がるストーリィ。 ※なお、彼女には是非準レギュラーになって欲しい処です。 ・「ハッピーバースデー」:走の前から黙って消えた母親=文香の消息を告げる村上泉という人物からの手紙が、突然力車屋に届きます。それを見て走は・・・。 つなぐもの−遠間直也/ストーカーはお断りします−吉瀬走/幸せのかっぱ−山上洋司/願いごと−成見信忠/やっかいな人−悠木乃亜/ハッピーバースデー−吉瀬走 |
「チキン!」 ★★ |
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小学校・中〜高学年向けの児童小説。 主人公である小学生の日色(ひいろ)拓、保育園時のトラウマの所為でトラブルを常に避けようとするのが習性に。 そんな拓の逃げ腰姿勢を、転校生の真中凛から「チキン」だと言われてしまう。 転校生の真中凛は、拓と対照的。その言は確かに正論ではあるものの、所構わず、相手構わずで主張するために年中トラブルを巻き起こす。そしてそのトラブルに巻き込まれるのはいつも拓、という次第。 その凛、拓の将棋友達である隣家に住む麻子おばあさんの家に引っ越してきた孫娘だったとは! 拓は必然的に凛と関わらざるを得なくなります。 さて、凛の巻き起こしたトラブルの結果は・・・・。 トラブルを避けるために相手の顔色を窺い、何かと事なかれ主義で臨むより、もっと良い方法があるのではないか、というメッセージを感じる作品。 子供たちの中だからこそストレートに口に出せることですが、実は大人社会でも同様である、と思います。 言葉とはそもそも、自分の思いを相手に伝えるための道具なのですから。 スカッとして、かつ考えさせられるストーリィ。 いとうみく作品、好いですよねー。 |
「ひいな」 ★★★ |
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そもそもは女児を守るために生まれた風習という雛人形。 本作は、昔“人形の町”と呼ばれていた桃花町にやってきた女児と、彼女を守ろうとする女雛との物語。 クリスマスが典型的な洋風ファンタジーであるなら、雛祭りこそ和風ファンタジーでしょう。そう思うと、後者の数が少ないのは残念なように感じます。 乗降客も少ない田舎の駅舎。そこに飾られている雛人形たち。このままじゃいけないと、ぐうたら風な女雛の濃姫にハッパをかけたのが官女のタヨ。 折しもその駅に降り立ったのが小4の由良。シングルマザーの母親が勤めていた出版社が倒産。ようやく得た仕事は2週間の海外ルポとあって、ずっと仲違いしていた両親の元に由良を預けることにしたという次第。 これ以上ないという程ついていない女の子、という由良と契りを交わした濃姫の苦労が可笑しく、由良と濃姫のコンビは読んでいて楽しい限り。 しかし、一方的に濃姫が由良のために尽くすのではなく、結果的に両者共存、お互いがお互いの支えになっていると知れるところが素敵かつ嬉しい。 雛祭りを題材にしたファンタジー名作になかがわちひろ「かりんちゃんと十五人のおひなさま」がありますが、同作が和むストーリィであったのに対し、本作では濃姫や由良の、アクションまたは対決ストーリィという要素を備えているところが面白さ。 お薦めです! (スミマセン、ずっと娘の雛人形、仕舞ったままです。) 駅舎の女雛−濃姫/人の子−由良/女(め)の子遊び−濃姫/桃花(とうか)町−由良/春一番−濃姫/契り−由良/災厄−濃姫/母の人形−由良/昔の記憶−濃姫/祖父と母−由良/決意−濃姫/橘神社−由良/あやまち−濃姫/幻影−由良/掟−濃姫/ひな壇−由良/いとしきもの−濃姫/はじまり、そして−由良 |
「車夫3 shafu3 −雨晴れ−」 ★★☆ | |
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シリーズ第3巻まで、ゆっくり読んでいこうと思っていたのですが、第2巻を読み終えた時点で我慢できなくなり、即図書館から借出して読了。 母親からも置き捨てられ、高校を中退して車夫の世界に飛び込んだ少年=吉瀬走の健やかな成長と、走と関わりある人々の日常ドラマを組み合わせて描く構成はこれまで通り。 ただ、本巻では、それぞれ悩み事を抱える各章の主人公たちが、まっすぐ前を向いて進もうとする走の姿、その言葉にちょっと影響を受けて自分たちも前に進もうとするという傾向が顕著。 それはそのまま、19歳となった走の成長を感じさせてくれるもので、嬉しいところです。 そしてまた、最終章「ランナー」では、走がさらに次の段階へ進もうとしている処が窺え、今後の展開が待ち焦がれられます。 ・「雨晴れ」:中学新聞部の圭人、桃沢夕花が企画した車夫取材のアシスタントに指名され、共に力車屋へ。夕花が走に取材しようとした目的は・・・。 ・「力車屋のお姫さま」:走と、飴細工職人の見習い、まだ半年という浅見伊奈との出会い。 ・「許されざる者」:吉瀬家崩壊の原因を作った人物=服部誠。良心の呵責から走の前に姿を現します。 ・「憂い」:ヒデさんの4歳年上妻の美咲が主人公。結婚までの経緯と、今美咲が抱える憂いは・・・。 ・「大事なことは」:伯父と久しぶりに会った前平が、今、そして今後について思う胸の内は・・・。 ・「ランナー」:毎朝のジョグ中に出会った野田、走に声を掛けてきて、ブラインドランナーの伴走者にならないか、と。一方、山上も走を気にかけていて、ある言葉を・・・。 雨晴れ(あまばれ)−小野寺圭人/力車屋のお姫さま−吉瀬走/許されざる者−服部誠/憂い−羽柴美咲/大事なことは−前平俊平/ランナー−吉瀬走 |
「トリガー」 ★★☆ | |
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親友の亜沙見が家出した。音羽(とわ)に何も告げずに。 彼女に何があったのか。 実は音羽、母親の再婚によりできた16歳上の義姉が死んで以来、亜沙見の様子がおかしいこと、何か悩みを抱えているらしいことに気づいていた。しかし、亜沙見が発するSOSをわざと気づかないふりをしていた。 音羽が今も忘れられないのは、小学生の時親しい友人だった依里子を見捨ててしまったこと。 そんなことは繰り返したくない、もう逃げたくない、音羽は亜沙見のため、自分のために駆け出します。 思春期にある少女が抱え込んでしまった苦悩、親友に寄り添いたいと心に決めた少女たちの友情を描いた児童向けストーリィ。 作中でも語られるのは、同年代の少女が建物の屋上から飛び降りて自殺したという最近の出来事。 ちょっとしたことが引き金(トリガー)になって、少女たちは自分の命を捨てかねない。 どうしたら亜沙見を救うことが出来るのか、音羽の思いはそれに尽きます。 亜沙見が抱えた問題、苦しみはかなり衝撃的でドラマチック。 しかし、問題の程度を別にして、この年代の少女たちが危うさを秘めていることは事実なのでしょう。 そうした時、彼女たちにどう対していけばいいのか。 限りなく少女たちの心理に寄り添おうとするストーリィ。 作者であるいとうみくさんの訴えに、深く胸を揺さぶられた思いです。お薦め。 |
「羊の告解」 ★★☆ | |
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世の中に理不尽なこと、理不尽な扱いを受けるということは、如何せん幾度もあると思います。 しかし、究極の理不尽なことって、加害者家族になってしまう、ということではないでしょうか。 本書の主人公である中3生の涼平の身に突然降って湧いた出来事というのが、それ。 ある日、家を訪ねて来た警察に父親が連行されたと思ったら、そのまま逮捕、そして父親が人を殺した、と言われる。 そのまま父親に会うこともできないまま、自宅から祖父母の家に引っ越し、名字を変えて学校も転校、友人とも会えなくなり、そして両親は離婚。 逃げ出すなんて嫌だ、何故父親と絶縁しなくてはならないのか、と思っても、涼平に何ができる訳でもなく押し流されるのみ。 そして何より恐ろしいことは、父親に性格が似ている自分は、激昂に駆られた時父親と同じことをしてしまうのではないか、という不安。 自分では何の解決もできない問題を抱えこまされて苦しむ涼平の胸の内は決して他人事とは思えません。 シンプルなストーリィです。シンプルだからこそ、深く胸を打つストーリィになり得ていると言えます。 涼平に必要なことは何だったのか。どうすれば母・弟と涼平の3人は新たな道へ足を踏み出すことができるのか。 加害者の家族だから過酷な目に遭っても当然と、安易に思ってしまう恐さを改めて気づかされた思いです。お薦め。 |
「天使のにもつ」 ★★☆ | |
2025年03月
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中学二年生の職業体験、能天気な性格の斗羽風汰は、子どもとあそんでいればいいってこと? 親戚のおばさんから考えていることは五歳児並みと言われたことがあるしと、安易な気持ちで保育園を選択。 しかし、実際に<エンジェル保育園>での子どもの相手は、そんな安易な考えで済むものではなく・・・。5日間の体験記。 この風汰、言葉遣いがまるでなってなし、と呆れるくらいなのですが、そんなぞんざいなところが保育園児たちから好かれたのか大人気。 そんな風汰でも、日々子どもたちと接していると、子どもたちのパワー、まるで予想できないその行動を経験し、子どもたちの相手をすることの大変さを身に染みて判っていきます。 また、その中に一人、他とはちょっと違う男の子のことが気になり・・・・。 その一方、捨てられていた子犬を拾ってしまったことから、世話する者の責任も感じさせられ・・・。 風汰の礼儀知らずぶりには苦笑してしまうばかりですが、その分風汰が呟く言葉は、率直で正直なものであるが故に愉快です。 同時に子どもと向かい合うことの大変さ、また子どもたちにどう対応するかについては一人一人異なるということを、改めて考えさせられます。 今回風汰が保育園での職業体験、子犬の世話を通じて学んだことは、何も風汰たち中学生だけに留まらず、大人にとっても共通すること。 我が身を振り返れば、子育てで反省したいこと、沢山あります。 大人にもお薦めしたい児童小説です。 事前打ち合わせ/職場体験 初日 /体験 二日目/体験 三日目/体験 四日目/月曜 最終日 |