いとうみく作品のページ No.2



11.朔と新

12.あしたの幸福

13.バンピー 

14.夜空にひらく
 

【作家歴】、糸子の体重計、空へ、車夫、車夫2、チキン!、ひいな、車夫3、トリガー、羊の告解、大渋滞

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11.
「朔と新(さくとあき) ★★☆         野間児童文芸賞


朔と新

2020年02月
講談社

(1500円+税)



2020/03/07



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兄弟で乗った高速長距離バスの事故のため、兄の朔(さく)は失明し、将来への希望を失う。
一方、軽傷で済んだ弟の
新(あき)は、あんたの所為だと母親から責められ、自分にとって大事なもの=陸上競技を手放す。

失明し自ら望んで盲学校に寄宿していた朔が1年ぶりに自宅に帰って来ます。母親の
加子は朔を心配し過保護状態、そして新とはことごとくぎくしゃく。
恋人の
から、選手としてその将来性を期待されていた新が陸上を辞めたと聞いた朔は、<ブラインドマラソン>に挑戦したいと言い出し、その伴走者に新を指名します。
それぞれ人には言えない想いを抱えこんだ滝本兄弟が、ブラインドランナー、伴走者として新たな視界を広げていく物語。

失明という運命に見舞われた絶望感、お前の所為だと責められた絶望感、兄弟2人が味わったやりきれない思いは、どちらが大きいとか比べることは到底できないものでしょう。
どんなに絶望感が大きくても、人生は待ってくれない。そうであれば、少しでも前に足を踏み出すしかない。
本作でそのきっかけとなるのが、近過ぎても遠過ぎてもダメというブラインドマラソン、その練習です。

2人の葛藤は、まさに大学生〜高校生年代の青春ドラマ、そのものです。
母親の加子と対照的に、特別扱いはしないけれど必要なサポートは当然のこととしてするといった姿勢の、兄弟を取り巻く人物たちの姿が爽やかです。
中でも、朔については進学して大学生となった恋人の
上城梓、新については何を言われてもめげない性格の同級生で陸上部の藤崎希美という、組み合わせが中々に魅力的。

ブラインドマラソンを素材にした清新な青春成長ストーリィ。いとうみく作品、やはり良いなぁ。
※なお、ゲスト出演でしょう、伴走者の一人として
吉瀬走が姿を見せます。そこのところも嬉しい。

           

12.
「あしたの幸福(絵:松倉香子) ★★★       河合隼雄物語賞


あしたの幸福

2021年02月
理論社

(1400円+税)



2021/03/11



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中2の雨音(あまね)は父親と二人暮らし。でも来月には父親、恋人の帆波と結婚予定。
それなのに、その父親が交通事故で突然に死去。
父親を失ったというのに、そのうえ家も学校も失いたくない、このまま自宅に住み続けたいと主張した雨音に、伯母が取った対応策は・・・。
数日後、雨音の元に国吉という女性から
「お困りでしたら、わたしと住みますか?」という電話が掛かってきます。
伯母曰く、
国吉京香はまだ赤ん坊の頃に父親と離婚した、雨音が会ったことのない母親とのこと。
9年前に死んだ祖母が
「あの人は欠陥人間なんだ」と言っていたことを雨音は思い出します。
それならそれでいい、その人を利用するだけだと雨音は覚悟を決め、それから2人の同居生活が始まります。

たしかにその国吉さんはちょっと変。人づき合いが、予想外の出来事が苦手なのだという。
実の母子だというのに「国吉さん」「雨音さん」と他人行儀。
TVドラマ「義母と娘のブルース」で綾瀬はるかが演じた義母の口ぶりを思い出します。

もう中学生、いや未だ中学生。でも中学生だって苦労を抱えますし、どうすれば幸せになれるのか、と考えます。
それは、父親を失った雨音だけでなく、心を病んだ母親を介護する同級生の
廉太郎も同様。

雨音と国吉さんの同居生活に、思わぬ同居人が飛び込んでくるところが面白い。
幸せって与えられるものではなく、自分で判断し、選び取るものなのだと感じさせられます。
その中で、その人の言葉は信じられるって思えることは、とても大切なことだと思います。

さて一年後、雨音の生活はどんな状況になっているのやら。それを考えるととても楽しい気分になってきます。
いとうみく作品、ホント好きだなぁ。


同居/隠し事/守りたいもの/背伸び/母と暮らす

                    

13.
「バンピー BUMPY ★★


バンピー

2022年10月
静山社

(1250円+税)



2022/11/07



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母は3年前に他界。そうしたら今度は、父親が5ヶ月前に家を出てそのまま行方知れず。
それでも毎月生活費は振り込んでくるので、致し方なく、高二の兄=
高比良成が3人の妹(環:小五、巴:小四、奏:小一)の面倒を見ながら暮らしている。

ある日、妹がスーパーで万引きしたという電話が入り、慌ててすっ飛んで行くと、そこには見も知らぬ女子がいた。
しかし、その女子=
、成の父親と一緒の写真を見せ、間違いなく兄妹だと主張し、帰るところがないとそのまま高比良家へ。

事情を聞いた独身の
叔母=小春が、そのまま放っておくわけにはいかないと、同居。
兄妹4人に加え、自称妹(高一)+叔母+叔母の飼い猫=キスケという、奇妙な共同生活が始まります。
ところが早速に小春が階段から落ちて足指を骨折、開店したばかりの美容室を休むわけにはいかないと、蛍にアシスタントを依頼するのですが・・・。
蛍に振り回される成の苦労、困惑が面白い。

とはいえ、親の身勝手で振り回される子どもたちは、本当に堪らないと言うべきでしょう。
それでもたった一人ではなく、お互いに寄り添うことができる仲間がいれば救いはあるように感じられます。

突然に高比良家兄妹の間に飛び込んできた蛍の事情は何なのか。
意外や意外続きで、ミステリの謎解きのような面白さあり。

みんなで皆で頑張ればきっと大丈夫。
読了後は、成や蛍たち皆にエールを贈りたい気持ちで一杯です。


1.おまえはだれだ!/2.ふつうの高校生/3.消えたのはオレのせい?/4.しばられなくていい/5.大切なことは

                     

14.
「夜空にひらく ★★


夜空にひらく

2023年08月
アリス館

(1600円+税)



2023/09/07



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バイト先のコンビニで、大学生バイト相手に暴力事件を起こして逮捕された鳴海円人・17歳は、審判の前、試験観察処分に付されます。
その期間中の補導委託先を引き受けたのは、郊外で煙火店(花火製造)を営む
深見静一
その深見煙火店で暮らし、手伝い働きをする中で、深見や深見の母=
まち子、やはり住み込みで働く双子の花火師=らと関わる内に、孤独だった円人の心に変化が生まれていく・・・。

6歳の時から、辛辣な祖母と二人だけの暮らし。高校卒業と共に自立することを目指して真面目にバイト働きしていた円人に対して、何故あこぎな真似をする人間がいるのか。
それは、深見煙火店でも変わりはない。
円人を温かく迎え入れてくれる人もいれば、全く反対に、暴力的な人間と決めつけ排斥しようとする人間もいます。

変われるか変われないか、それは円人自身の問題かもしれませんが、円人を受け入れ支えようとしてくれる人がいるかどうか、と緊密に繋がっていることでしょう。
深見煙火店内での対立も、所詮は現実社会の縮図なのかもしれません。
人の更生を手助けできる社会であって欲しいと思います。

円人と、彼を囲む人たちの温かさ、そして円人の成長と救いを描いたストーリィ、いとうみくさんの作品はいつも希望を信じさせてくれます。そこが嬉しい。

   

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