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21.崖の上で踊る(文庫改題:風神館の殺人) 22.不老虫 23.Rのつく月には気をつけよう−賢者のグラス 24.殺し屋、続けてます。−殺し屋 No.2− 25.君が護りたい人は−碓氷優佳の推理 No.6− 26.新しい世界で−座間味くんの推理 No.4− 27.高島太一を殺したい五人 28.あなたには、殺せません 29.女と男、そして殺し屋−殺し屋 No.3− |
【作家歴】、月の扉、扉は閉ざされたまま、まっすぐ進め、心臓と左手、Rのつく月には気をつけよう、温かな手、君の望む死に方、ブック・ジャングル、彼女が追ってくる、玩具店の英雄 |
フライ・バイ・ワイヤ、届け物はまだ手の中に、わたしたちが少女と呼ばれていた頃、相互確証破壊、凪の司祭、罪びとよやすらかに眠れ パレードの明暗、殺し屋やってます、鎮憎師、賛美せよと成功は言った |
21. | |
「崖の上で踊る Dancing on a cliff」 ★☆ (文庫改題:風神館の殺人) |
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2022年05月
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新興ベンチャー企業<フウジンブレード>が販売した家庭内用効率風速発電機が及ぼした偏頭痛等の障害により、将来の夢を閉ざされる、大切な恋人・家族を喪う等々の不幸を味わった被害者たちが本ストーリィの主役。 このまま許しておく訳にはいかない、企業幹部3人に対して復讐を集まったのが10人の男女。 まずは会社の保養所に呼び寄せて開発部長だった男を殺害し、明後日の最終実行日に向けて準備を整えますが、あろうことか仲間の一人が殺害されてしまう。 疑心暗鬼に駆られた残る9人の内から、またしても犠牲者が。 犯人は、残された仲間の内の誰かなのか、そしてその狙いは何なのか・・・。 警察に通報する訳にいかないギリギリの状況、緊縮した時間の中で、連続して起きる犯行とそれに対する推理が、残された仲間うち内で繰り広げられます。 そもそも復讐なんて崖の上で踊っているようなもの。いつ足を踏み外して転落するかもしれない。でも止めない、踊り切るまで、というのが本書表題の意味らしい。 一つのミステリであることに相違ありませんが、犯行方法より、誰が? どんな狙いで? というのが興味どころ。 その答えは最後に明らかになりますが、思わず絶句。 流石は「凪の司祭」のような作品を書いた石持さんらしい、容赦ないえぐさだと、仰け反るような思いです。 でも・・・私は好きだな。 何しろこれから復讐計画を実行しようというストーリィなのですから。 序章.崖の上で踊る/1.作戦開始/2.フウジンブレード/3.キーパーソンの死/4.犯行の目的/5.連続殺人/6.証拠探し/7.対立/8.真の顔/9.裏切り者/10.敵と味方/終章.崖の上で踊る |
22. | |
「不老虫 Eternal Youth Worm」 ★☆ |
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2022年10月
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農林水産省で防疫部署に所属する酒井恭平は、上司から突然“サトゥルヌス・リーチ”という未知の寄生虫が日本に入ってくるかもしれないと聞かされます。 ついては、米国からその専門家である人物が招聘されたので、その案内役兼通訳を務めるよう命じられます。 翌日成田空港に出迎えに行った恭平の前に現れたその専門家=ジャカランダ・マクアダムスとは、何と若いアジア系美人、しかも学者ではなくスタンフォード大学の学生だという。 フィッシングキャット「ビオ」を連れたジャカランダは、専門家というより<ハンター>だという。 一方、女性の子宮に寄生するというそのサトゥルヌス・リーチを日本に持ち込もうとしているのは、磯子商事営業部第十三営業課の前川課長と部下の葉山哲久と、城東製薬東京研究所の研究員である中里貴志。 サトゥルヌス・リーチ=不老虫は、その体内に「不老石」という脳を活性化する物質を作り、それは認知症の治療に役立つ、というのが中里の目的。 認知症治療、その事業化のためなら未知の寄生虫を日本に持ち込む危険を考えない商社マンと製薬会社の研究者。それに対し、日本で繁殖させたらとんでもないことになると、絶対阻止に懸命となるジャカランダと恭平の二人。 その両者がせめぎ合う、時間を争う闘いを描く長編ストーリィ。 感染症とか寄生虫の怖さは、新型コロナで嫌という程思い知らされましたから、この寄生虫の不気味さは本当に怖い。 本作では、ジャカランダという若い美女のキャラクターが飛び抜けています。また、最後の一文、何と受け留めればいいのか? 序章/1.木曜日/2.金曜日/3.土曜日/4.日曜日/5.月曜日/終章 |
23. | |
「Rのつく月には気をつけよう 賢者のグラス」 ★★ |
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酒と食事と語らいの中での連作日常ミステリ。 2007年刊行「Rのつく月にはきをつけよう」の続編。 大学時代からの飲み仲間だった長江高明、熊井渚、湯浅夏美という3人。 前作の最後で高明と渚、夏美と冬木健太の結婚が決まったのですが、本作はそれから〇年後。 結婚後、米国の大学に職を得ていた長江が一家で帰国したことから、飲み会が復活。 今度はそれぞれの子供たちも連れたうえで、お互いの家で代わる代わるに飲み会という次第。 なお、長江家の娘は咲、小2。冬木家の息子は大、小4。親たちが飲み語らう傍らで、子供もたちもお互いに仲良くなります。 会話の中でふと誰かが身近で起きた出来事を思い出して語ると、最後にさらっと長江が、思わぬ一言を洩らす。 すると渚が、気に入らない時に使う呼び名で「揚子江、どういうこと?」と投げかけ、それを受けて長江が真相を語り出す、というパターン。語り手は前作どおり夏美です。 読み手も4人の語らいに入り込んだような楽しさ。そして、軽く楽しめる日常ミステリ。 こんな連作もの、時に楽しみたいですよね。 なお、前作「Rのつく月にはきをつけよう」は、私が初めて読んだ石持浅海作品。その意味で、感慨深いものがあります。 最後の篇は、意表を突かれて驚かされますが、でもそれが楽しく、幸せな気分にしてくれる点で、これもまた前作通り。 ふたつ目の山/一日ずれる/いったん別れて、またくっつく/いつの間にかできている/適度という言葉の意味を知らない/タコが入っていないたこ焼き/一石二鳥 |
24. | |
「殺し屋、続けてます。」 ★★ |
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2021年11月
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請け負った殺人仕事の過程で気になった日常的な謎を殺し屋が解き明かす、という趣向の連作短編もの「殺し屋、やってます。」に続くシリーズ第2弾。 殺害相手に関する謎、依頼人に関する謎、いくら殺し屋とはいえ気になるものは気になる、だから調べ、推理もします。 その結果、殺人依頼が非道、あるいは不当ということも明らかになりますが、それでも主人公である殺し屋=富澤充がそれを理由に仕事を断ったり、取り止めたりすることはない。 何故ってそれは、殺人請負というビジネスなのですから。 各殺人依頼はそんな事情かァ、でも殺しやっちゃうの? と毎度思わせられるのですが、そんなブラックさが石持さんならではの独特な面白さ。 ですから、本作を楽しめるかどうかは、読み手の好み次第と思うのです。あくまでフィクションですから、私としては好きですけど。 なお、本作では、富澤充の女性版とでも言うべき、通信販売事業を営む娘持ち中年女性の殺し屋=鴻池知栄が登場します。 富澤と鴻池が本作から以降、どう絡んでいくのか楽しみです。 ・「まちぼうけ」:標的は美人の女子大生。彼女は何故、3日間にわたり駅前で3時間の立ち続けていたのか。 ・「わがままな依頼人」:殺害場所指定というオプション、断ると今度は殺害方法指定というオプション。依頼人は何故オプションに固執するのか。 ・「双子は入れ替わる」:富澤充の恋人であるマンガ家=岩井雪奈がファミレスで目にした謎。何故? ・「銀の指輪」:鴻池知栄が請け負った殺人の背景は? ・「死者を殺せ」:次々と殺害相手が指定される。いったい依頼人の目的は? ・「猪狩り」:殺人依頼者の側を描く篇。 ・「靴と手袋」:標的の女性2人、何故ビルに入る前に、パンプスからサンダルに履き替え、または手袋を嵌めるのか。 まちぼうけ/わがままな依頼人/双子は入れ替わる/銀の指輪/死者を殺せ/猪狩り/靴と手袋 |
25. | |
「君が護りたい人は THE PERSON TO PROTECT」 ★★ |
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2024年08月
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“碓氷優佳の推理”シリーズ第6弾。 本シリーズ、一応ミステリの範疇には入るものの、正統推理でも倒叙推理でもない、独特の面白さあり。 第6弾を読み逃していたことを文庫化を機に気づき、さっそく読んだ次第です。 ストーリーの舞台は、かねてからのトレッキングサークル仲間によるキャンプ。 成富歩夏は中学生の時に登山事故で両親を亡くし、天涯孤独となる。仲間たちが歩夏のことを心配し、歩夏の未成年後見人となったのが、市役所勤めの奥津悠斗。 そして今や24歳となった歩夏と、20歳も年上の興津との結婚が決まります。 かねてより歩夏に好意を寄せていた三原一輝(26歳)は、歩夏を義務的な結婚から救おうと、奥津殺害を決心します。 ついては三原、興津とは大学以来の友人である弁護士の芳野友晴に見届け役を依頼。 その芳野が、本作の主人公であり、語り手となります。 さて、三原による興津殺害計画は成功するのか。 そのキャンプの参加者は、三原、芳野、歩夏、興津、事務局役の別府、そして医師の武田小春(前作にも登場)と、その高校以来の友人である碓氷優佳。 三原が事故に見せかけた殺害計画は、ことごとく碓氷優佳の行動によって妨げられてしまう。 その、<三原の殺害計画>対<優佳の妨害>という展開が、本作の面白さ。 碓氷優佳が意図したものは何だったのか・・・碓氷優佳、他のどんな作品にも登場しない、独特の探偵像。 私の好みです。 序章君が護りたい人は/1.アンクル会/2.トリカブト/3.崖/4.ペグ/5.対話/終章.君が護りたい人は |
26. | |
「新しい世界で−座間味くんの推理−」 ★★ |
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2024年06月
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“座間味くん”シリーズ5作目にして、“座間味くんの推理”としては「パレードの明暗」に続く第4弾。 この“推理”シリーズ、大好きです。 3人の飲み会におけるミステリですが、対象となる出来事は既に起きてしまったことですし、語られたその出来事の真相はこうだったのではないかと座間味くんが指摘し、それに他の2人は唖然とするというパターンですから、単純にミステリだけを楽しめます。 さて大迫警視長と座間味くんの飲み会に加わる、今回の3人目(本巻主人公)は、何と第1作「月の扉」でまだ赤ん坊だった玉城聖子。その聖子が20歳となった誕生日祝いに誘われたのがきっかけとなります。 各篇でその聖子が成長していく姿を知ることができるのも、嬉しいこと。 ・「新しい世界で」:浮気されて離婚した横谷玲奈、すんなり離婚したその理由は・・・。 ・「救出」:酒を飲んでは妻と娘に暴力を振るっていた父親から逃れるため、聖子は沖縄の中高一貫校に進学し寮生活を送った。母親を置き去りにしたことに罪悪感を抱いていたが、聖子の努力は母親を救ったのだと座間味くんは言う。その理由は・・・。 ・「雨中の守り神」:息子の起業を応援した父親の目論見は実ったのか・・・。 ・「猫と小鳥」:野良猫が縁となって結婚した中年男女。その女性が不幸にならないことを祈るという座間味くん 言葉の理由は・・・。 ・「場違いな客」:スーツ姿でキャンプしていたという女性の事情は・・・。 ・「安住の地」:母校の教師となって頑張る女性教師に危うさを感じた座間味くんの懸念は・・・。 ・「お揃いのカップ」:まんまとしてやられました、作者に。 まぁ読者に対する引っ掛けなのですが、終わりよければすべてよし、喜べればすべてよし、というところでしょう。 最後の最後まで、楽しめます。(笑) 新しい世界で/救出/雨中の守り神/猫と小鳥/場違いな客/安住の地/お揃いのカップ |
27. | |
「高島太一を殺したい五人」 ★★ |
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舞台設定と、その後の展開に妙あり。 私が石持作品を好きなのは、この辺りの魅力あります。 さて題名、いったいどんなストーリィなのか。 五人の人間が殺したいと思っているというのですから、高島太一という人物、相当な極悪人か? ・・・と思う処なのですが、これが大違い。 高島太一は、評判の良い学習塾の講師で、塾長の跡取り息子。 本人も極めて真面目で、好意をもたれている人物なのです。 その太一が何故、五人の人物から殺すしかないと思われたのか。 その五人とは、高島学習塾で太一と同僚だった講師たち。 中森直哉、須之内すみれ、川瀬奏音、松木真桜、檜垣兵吾という面々。中でも須之内すみれは太一と互いに想い合う仲。 それなのに、それぞれの理由から高島太一を許せない、殺すしかないと決意した五人は、サマースクールの前日一人で研修所に滞在している筈の高島太一の元へ向かいます。 ところが、何故かその高島太一が、意識不明で倒れていた。 意図せずその場に集まってしまった五人、そのまま放置するか、とどめを刺すかで意見が分かれ・・・・・。 五人が、決着のつかないままあれこれ議論と推理を重ねていく、という展開が私好みです。 最後はようやく無事に決着がついて万々歳・・・と言って良いのでしょうか、果たして。 序章.高島太一の登場/1.高島太一の発見/2.高島太一の扱い/3.高島太一の背景/4.高島太一の始末/終章.高島太一の退場 |
28. | |
「あなたには、殺せません You Can't Kill」 ★★ |
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殺人計画を実行するかどうか。 最後の処で迷う主人公たちの相談に応じるNPO法人は、「犯罪者予備軍たちの駆け込み寺」と呼ばれている。 今日もまた、そんな相談者がまた一人、相談にやってくる。 対する相談員は、道義論ではなく、損得の観点からビジネスライクに相談に応じます。 でも結局、人を実際に殺すことは難しい、実行すれば犯人として逮捕されてしまうと、実行しない方が良いという結論に。 石持作品が好きなのは、こうした着想、設定の面白さ故です。 各篇の前半は、<倒叙推理+探偵譚>といったストーリィ。 しかし、それだけでは終わらないのが、石持作品の面白さ、楽しさです。 殺人なんて大それた犯罪を実行しようかと迷った時点で、そのことで頭の中は一杯、現実論を説かれても中々そう簡単に切り替えがきくものではない、というもの。ついつい、こうすれば大丈夫なのかと思ってしまう。そしてその結果は・・・・。 ・「五線紙上の殺意」:まだ出だし。読者は油断するべからず。 ・「夫の罪と妻の罪」:因果応報か? ・「ねじれの位置の殺人」:何とまぁお気の毒・・・。 ・「かなり具体的な提案」:このオチが痛快。 ・「完璧な計画」:結果オーライとは言い難い・・・。 五線紙上の殺意/夫の罪と妻の罪/ねじれの位置の殺人/かなり具体的な提案/完璧な計画 |
29. | |
「女と男、そして殺し屋」 ★★ |
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「殺し屋、続けてます。」に続く“殺し屋”シリーズ第3弾。 依頼を受けた殺人は、ビジネスとして淡々と実施するが、その背景については殺人と関係なく考察する、という趣向の連作ミステリ。 本巻でも引き続き、経営コンサルタントという正業をもつ殺し屋である富澤充と、前巻から登場した通信販売業を営む娘持ちの殺し屋である鴻池知栄が、交互に登場します。 それぞれ依頼仕事の事情について語り合う相手は、前者が連絡役の友人=塚原俊介と恋人の岩井雪奈。 後者が相談相手の本多元といういつもの顔ぶれ。 ・「遠くで殺して」:殺しは富澤。依頼のオプションはある地域以外の場所でと。標的は訳ありらしい姉妹の姉の方。 ・「ペアルック」:殺しは鴻池。標的は大道芸の活動をしている会社員。その彼が夜の公園で一緒に練習している友人と、まるでそっくりの服装。殺しと何か関係が? ・「父の形見」:珍しい一篇。富澤は経営コンサルタントとして冒頭に登場するのみ。無農薬有機野菜の販売店を亡父から継承した主人公が、亡父と共に仕事をしていた高森が殺害された真相に気づいてしまう。 ・「二人の標的」:殺しは鴻池。標的はセクシー系ユーチューバーの女性二人、そのどっちかという依頼。いった何故? 上記4篇は割とあっさりとした印象だったのですが、最後の篇がとりわけ面白い。 ・「女と男、そして殺し屋」:富澤と鴻池、殺し屋二人がともに登場しますが、何とも複雑怪奇。 鴻池の標的は老婦人。しかし、外出はいつも夫が一緒。その夫、何か警戒しているのか。 富澤の標的は両親を交通事故で亡くした高三男子。登下校はいつも隣に住む幼馴染みの女子と一緒。さらに帰宅後も彼女と一緒に自分の家で受験勉強。彼女、何か警戒しているのか。 鴻池への条件は 2月12日までに実行して欲しい、というもの。 一方、富澤への条件は 2月13日以降早めに、というもの。 頭がこんがらがりそうですが、富澤、鴻池、それぞれが別々に推理する処がすこぶる面白い。本シリーズ中の逸品です。 遠くで殺して/ペアルック/父の形見/二人の標的/女と男、そして殺し屋 |
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