石田衣良
(いしだ・いら)作品のページ No.2

  

11.LAST

12.電子の星−池袋ウエストゲートパーク4−

13.1ポンドの悲しみ

14.約束

15.反自殺クラブ−池袋ウエストゲートパーク5−

16.東京DOLL

17.てのひらの迷路

18.ぼくとひかりと園庭で

19.眠れぬ真珠

20.灰色のピーターパン−池袋ウエストゲートパーク6−

 

【作家歴】、池袋ウエストゲートパーク、うつくしい子ども、エンジェル、少年計数機、赤・黒、娼年、波のうえの魔術師、スローグッドバイ、骨音、4TEEN

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6TEEN

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11.

●「LAST」● 

 

 

2003年09月
講談社刊

(1600円+税)

2005年08月
講談社文庫化

 
2003/11/30

「LAST」という言葉は、言うまでもなく「最後」という意味ですが、それは同時に「始まり」を示すことも多い。
だからこそ、本書にはいろいろな“最後”が描かれていることを期待したのですけれど、そんな甘いものではありません。
「ダーク&ビターに書きました」「震えてください」というのが添えられた石田さんの言葉ですが、読んだ印象はそれ以上です。

もう後がない、崖っぷちまで追い込まれた人間を描く7篇。
各篇の主人公たちは皆、サラ金や違法な街金融でもはやどうしようもない額の借金を抱え込んだ人々。そして、家族に別れを告げた人間も多い。
借金と、家族との別離。それこそ現代人が追い込まれた最後の姿でしょう。したがって、本書ストーリィには、救いを感じることが出来ません。
石田さんが描こうとしたのは、そんな現代の暗闇なのでしょう。
平凡な家庭の主婦を主人公にした「LAST JOB」にはまだ「始まり」もありましたが、それ以外の6篇はひたすら暗い。
読み終えた後、気分が落ち込むのをどうしようもありませんでした。本書を読むには、予め覚悟をしておいた方が良さそうです。

LAST RIDE/LAST JOB/LAST CALL/LAST HOME/LAST DRAW/LAST SHOOT/LAST BATTLE

           

12.

●「電子の星−池袋ウエストゲートパークW−」● 

  

  

2003年11月
文芸春秋刊

(1524円+税)

2005年09月
文春文庫化

 

2003/12/23

池袋ウェストゲートパークの第4作目。
さすがに4冊目となると、すっかりマンネリ化しているという印象を拭えません。
第一、主人公であるマコトの人物像が丸くなっているし、すっかり善い人になりきってしまっています。第1作に見られたようなシャープさ、スリリングさは、もう殆ど影を潜めています。それは、マコトに並んで重要な脇役であるキング・タカシサルにしてもご同様。
とは言うものの、マンネリ化故に安心して楽しめる、という面もあります。

「東口ラーメンライン」は、元Gボーイズツインタワーこと双生児の開いたラーメン店を応援し、悪質な妨害を撃退する話。
「ワルツ・フォー・ベビー」は、上野ギャングの息子を殺されたジャズタクシーの運転手のため、事件の真相を探る話。
「黒いフードの夜」は、違法デリヘルで売春する14歳のビルマ少年を助ける話。いやはや、マコトはすっかり人助け専業になってしまったようです。
本書中、IWGPらしいと思うのは、最後の「電子の星」。人体損壊ショーを売り物にするSMクラブと、マコト、Gボーイズ、サルらが対決する話。この一篇がなかったら、もっと気の抜けた4冊目になっていたことでしょう。

東口ラーメンライン/ワルツ・フォー・ベビー/黒いフードの夜/電子の星

               

13.

●「1ポンドの悲しみ」● ★★

  

  

2004年03月
集英社刊

(1500円+税)

2007年05月
集英社文庫化

 

2004/03/31

30歳代の男女を主人公としたラブ・ストーリィ、10篇。
うち2篇は既婚女性を主人公としていますが、残る8篇はみな独身。恋愛をもうひとつ成就しきれない、あいまいな立場の主人公たちです。
とはいっても、それなりに恋愛過程は望ましい方向で展開していく。ただし、現代の恋愛風潮からすると、出来過ぎ、プラトニック過ぎるラブ・ストーリィかもしれません。でも、いいじゃないですか、そんな恋愛物語が存在することを読むことも、信じることも。ちょうど14TEENで4人の中学生を信じたように。
高校生の頃からラブ・ロマンスが好きだった本好き人間にとっては、気持ち良く、快いラブ・ストーリィばかり。
季節はちょうど何か始まるという予感にふさわしい春。どうせ読むのなら、季節も含めて旬の内に読みたい一冊です。

10篇の登場人物たちは、いずれも余計な衒いなく、ストレートに自分の本心を打ち明けてきます。そこが本短篇集の魅力。
その中でも、「誰かのウェディング」に登場する由紀のひたむきさが特に印象的。胸の奥まで深く残ります。
そして、それ以上に忘れたくない一篇が「スローガール」
また、「本屋でデート」は、どんな本を読むかで相手との相性を見極めようとする千晶が主人公。小品ながら、本好き人間としては無視できない一篇です。
なお、表題作の「1ポンド」は、ヴェニスの商人から。

ふたりの名前/誰かのウエディング/十一月のつぼみ/声を探しに/昔のボーイフレンド/スローガール/1ポンドの悲しみ/デートは本屋で/秋の終わりの二週間/スターティング・オーバー

      

14.

●「約 束」● ★☆

   

   

2004年07月
角川書店刊

(1400円+税)

2007年06月
角川文庫化

  

2004/08/31

大切なものを失った苦悩から立ち直っていく人たちの姿を描いた7つのストーリィ。

繊細な優しさという点では石田衣良さんらしい短篇集ですが、同時にまた奇麗事過ぎるという印象も受けます。スローグッドバイ等の短篇集と比べると、本書はインパクトという面では弱いと感じます。
冒頭の「約束」「天国のベル」は、いずれも主人公が小学生。小学生だからこそ悲しみ、苦しみも純粋で深く、切なくなってきます。そうした子供の心の内を鮮明に描き出す辺りは、流石と言って良いでしょう。
とくに「約束」は、精神異常者による小学生殺傷事件が題材。生き残った小学生の苦しみは、大人が推し量れない程大きなものとして描かれています。
衝撃度という点では「約束」が髄一の作品ですが、私の好みとしては「天国のベル」。
誰が主人公ということでなく、登場する2つの家族、大人も子供も含めて、思いがけない出来事から漸く癒されるという展開に、心和ませられます。ちょっとファンタジー的な味わいがあるのも惹かれる理由。
各篇とも爽やかな味わいですが、現実感がちょっと乏しい。

約束/青いエグジット/天国のベル/冬のライダー/夕日へ続く道/ひとり桜/ハートストーン

      

15.

●「反自殺クラブ−池袋ウエストゲートパークX−」● 

  

  

2005年03月
文芸春秋刊

(1524円+税)

2007年09月
文春文庫化

  

2005/04/16

池袋ウェストゲートパークの第5作目。

4冊目の電子の星でマンネリ化を感じていましたが、本書ではさらにそれが進んだという印象。
このシリーズの面白さは、先鋭的な感覚、新しく登場する人物のキャラクターの魅力、現代社会が生み出した不気味な片鱗、ストーリィ展開のテンポの良さ にあると思うのですが、そのかなりの部分がパワーダウンしてきたと感じるのです。

それでも読み始めると、テンポの良さから楽しめます。
とくに冒頭の「スカウトマンズ・ブルース」では、女性に好かれる素質をもって生まれたかのような天才的な風俗嬢スカウト、21歳のタイチが新鮮。風俗スカウト事務所でレイプされたウェイトレス・しのぶを救うため、マコトが底力を発揮するような展開は、IWGPならではの痛快な面白さがあります。
その一方、美人の中国娘・コモモ(紅小桃)を助け、大手玩具メーカーと対決する「死に至る玩具」は、ストーリィそのものが余りに安易過ぎると感じられます。
また、本書の目玉となる「反自殺クラブ」は、集団自殺をプロデュースする男とそれを妨害しようとする自殺遺児3人の対決を描いたストーリィですが、もうひとつ納得を欠くことと、真相がすぐ透けて見えてしまうところがもの足りず。
とはいうものの、毎度お馴染みのIWGP世界、安心して気楽に読めたのも事実です。

スカウトマンズ・ブルース/伝説の星/死に至る玩具/反自殺クラブ

 

16.

●「東京DOLL」● 

  

  

2005年07月
講談社刊

(1600円+税)

2007年08月
講談社文庫化

 

2005/08/15

「女神都市」という大ヒットゲームを生み出したゲーム・クリエイターのMGは、コンビニ店員のヨリに出会って次のゲームへのイメージが膨れ上がってくるのを感じます。
MGはその場で彼女をモデルとしてスカウトし、その時からMGとその人形(DOLL)となったヨリのストーリィが始まります。
帯には「長篇恋愛小説」とありますが、率直に言ってゲームという仮想世界と現実世界が入り交じったようなラブ・ストーリィ。[マスター・オブ・ゲーム]を略して呼ばれる主人公の名前も、自らMGの“DOLL”と唱えるヨリも、仮想現実の登場人物であるかのようなのです。
それに対して、裕香、ヨシトシという2人の元々の恋人は現実的な存在。夜の東京湾岸でのモデル撮影に始まり、夜=幻想の中で飛翔しようとするMGとヨリの2人に、現実的な存在である彼らがついていけなくなるのは当然のことでしょう。

ゲーム・クリエイターの世界を舞台にしたMGとヨリの恋愛、そこにMGが仲間たちと作った制作会社に触手を伸ばす大手ゲームとの確執が加わったストーリィ。
ゲーム・クリエイターという舞台設定が目新しいところですが、ストーリィそのものは率直にいって特段新しいものではない。思わぬところから飛び出してきた妖精のような若い娘に恋してしまうというストーリィは、決して目新しいものではないのです。
ただし、そうしたストーリィは総じて悲劇的結果に終わることが多いのですが、本書はのほほんとした結末に終わり、切なさを感じるところも余りない。その点は新しさというより、題材と結末における微妙なブレと私には感じられます。
そしてまた、本ストーリィの片隅に虚無感が居着いているのを感じるのです。この物語はいったい何を生み出しているのか?ということ。
一見斬新ではあるけれど、結末のブレ、一抹の虚しさにひかかりを感じざるを得ない作品です。

 

17.

●「てのひらの迷路」● ★☆

  

  

2005年11月
講談社刊

(1500円+税)

2007年12月
講談社文庫化

  

2005/12/27

2年間にわたって雑誌連載されたショート・ショート24篇。
書き始めるにあたって石田さんの念頭にあったのは、川端康成「掌の小説」だったそうです。
24篇の内容は、実体験に基づくものから小説、ファンタジー、エッセイ風と多様。気ままに好きなように書けるという石田さんの楽しい思いが伝わってくるようです。
それは読み手の側にしても同じ。難しく考えることなく、気楽に読んでいられます。
本書の良さは、そんな気軽に味わえる楽しさにあります。

その中、母親入院のときの実体験、同棲していた恋人から告げられた別れ、思いついたその日の会社退職、小説家として成功した後の忙しさ、土地購入という決断、等々。石田さんの軌跡を少し辿れるところがあることもファンとしては注目したいところ。
本書の最後を飾る「さよなら さよなら さよなら」は、本書を総まとめした観のあるエッセイ。
実は、本書を一区切りにして石田衣良作品とはちょっと距離を置こうと思っていたのです。石田さんの「さよなら」はもちろん2年間の読者に対してのものでしょうけれど、私の石田作品に対する気持ちにもちょうどあてはまってしまいました。
そのこともあって、気持ち良く本書を読み終わりました。

ナンバーズ/旅する本/完璧な砂時計/無職の空/銀紙の星/ひとりぼっちの世界/ウエイトレスの天才/0.03mm/書棚と旅する男/タクシー/終わりのない散歩/片脚/左手/レイン、レイン、レイン/ジェラシー/オリンピックの人/LOST IN 渋谷/地の精/イン・ザ・カラオケボックス/I氏の生活と意見/コンプレックス/短篇小説のレシピ/最期と、最期のひとつまえの嘘/さよなら さよなら さよなら

 

18.

●「ぼくとひかりと園庭で」● 画:長野順子 

  

  

2005年11月
徳間書店刊

(952円+税)

2010年10月
徳間文庫化

2005/12/17

大人の読者だけでなく、子供たちにも向けたファンタジックなストーリィというのが石田さんの意図するところとのことですが、やっぱりこれは大人向けのファンタジーと思う。

「人を好きになる恋の不思議と避けられない世界の残酷さを、きちんと同じ量だけふくんだ作品にしたかった」との由。
舞台は幼稚園。新村あさひは、気難しい男の子・須賀みずきから唯一人慕われている。そこに転入してきた可愛い女の子が徳永ひかり
男の子2人に女の子1人という組み合わせは、幼い時は3人で仲良く過しても、長じて恋が芽生える頃になれば行き詰る。
お泊り保育の夜にあさひとひかりは園庭のファンタジーな世界に入り込み、恋の試練を与えられたのはまさにそのこと。
恋は、当の2人だけが幸せなら良いのか?
「わたしたちがしあわせになるだけじゃ十分じゃないんです」という言葉は、健全な2人のあるべき回答でしょう。

でもこの物語、大人の一方的な思い込みによる健康な少年・少女像に基づくファンタジーという気がします。
それ故に、感動は覚えません。

 

19.

●「眠れぬ真珠」● ★★       島清恋愛文学賞

  

  

2006年04月
新潮社刊

(1600円+税)

2008年12月
新潮文庫化

  

2006/12/26

 

amazon.co.jp

島清恋愛文学賞を受賞した作品です。
男性作家である石田さんが、更年期障害が出てくるという年代に達した女性版画家の性と恋愛心を描いた点が評価されてのことらしい。
主人公は、逗子に住む女性版画家の内田咲世子、45歳。
結婚もせず20年余りを版画家として歩んできたが、最近では更年期障害に悩まされるようになってきた。そのくせ性への欲求はむしろ高まっていて、セックスフレンドともいうべき中年男性との付き合いが長年続いている、という主人公像。
そんな咲世子が、行きつけのカフェでウェイターをしている17歳年下の徳永素樹に惹きつけられていく。
映画やCFで才能を評価されている徳永が、咲世子のことを撮りたいと申し出てきたことから2人の関係が始まり、それが必然的なことであったかのごとく2人は強く結ばれていきます。

島清恋愛文学賞受賞という紹介文に惹かれて読み出したのですが、実は読み始める時点で恋愛小説を読みたいという気分が消えていた。そのうえ、冒頭からまずセックスありきという展開が続き、率直にいってうんざりした気分。
決してセックスだけの作品ではなく、更年期障害を迎えた女性の恋愛という設定故に必然的にそうした展開になっているだけなのですが、あまりに性欲が突出するかのような観があったため疎ましいと感じた次第。
しかし、その恋愛が2人に新境地を開いたと判る後半になると、それまでの猥雑な印象がきれいに昇華して、いつのまにか美しい恋愛ストーリィに一変してしまった気がします。

この2人の恋愛関係と対照的に、2人の若い女性が絡む恋愛関係も描かれますが、若いだけで大人の女性としての魅力が未成熟な分、咲世子と徳永の恋愛関係に比べ美しさにおいて遥かに劣る、と感じます。
17歳も年齢差のある恋愛がいつまでも続く筈はないのでしょうけれど、それでも最後のシーンはとても美しく、気持ちが好い。
一人暮らしでも、何年に一度かこんな恋愛にめぐり合えるなら、そんな人生もいいかなと、他人事だから思えます。

※なお、女性の方がはるか年上という恋愛小説の傑作は、サヴァン「ぼくの美しい人だから。純粋な恋愛小説という点では、是非お薦めしたい作品です。

 

20.

●「灰色のピーターパン−池袋ウエストゲートパーク6−」● 

  

  

2006年06月
文芸春秋刊

(1524円+税)

2008年10月
文春文庫化

  
2006/07/21

  
amazon.co.jp

池袋ウェストゲートパークの第6作目。

マンネリ化を通り越して、完全にパワーダウンしたという印象を受けます。もっと具体的に言うなら、このシリーズの魅力の原点であった先鋭さがまるで消え失せたということ。
その一方、池袋という街の今の姿をスケッチ的に描き出すという持ち味のひとつが、これまでより鮮明に浮かび上がってきている気がします。しかしそれは、作品のパワーダウンの反映ということでもあります。
作者自身もそれは判っていることではないかと思う。でも止められなくなっている、という面があるのかもしれない。
何故なら、池袋という街を描く本シリーズにおいて主人公のマコトは狂言回し的な存在に過ぎず、マコト自身の成長を描くというスタンスは基本的にないからです。したがって、終わるとすれば突然中断されるという方法しかないように思う。

表題作の「灰色のピーターパン」とは、盗撮画像をネットに流して稼いでいる私立小学生のこと。
本シリーズらしいマコトの幅広い人脈を集結した対決ものは、最後の「池袋フェニックス計画」のみ。


灰色のピーターパン/野獣とリユニオン/駅前無認可ガーデン/池袋フェニックス計画

 

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