井上ひさし作品のページ No.2



11.ある八重子物語

12.マンザナ、わが町

13.父と暮せば

14.井上ひさしと141人の仲間たちの作文教室

15.東京セブンローズ

16.わが友フロイス

17.わが人生の時刻表

18.四千万歩の男・忠敬の生き方

19.紙屋町さくらホテル

20.日本語は七通りの虹の色


【作家歴】、しみじみ日本・乃木大将、イーハトーボの劇列車、 吾輩は漱石である、頭痛肩こり樋口一葉、四捨五入殺人事件、泣き虫なまいき石川啄木、十二人の手紙、人間合格、四千万歩の男、シャンハイムーン

→ 井上ひさし作品のページ No.1


夢の裂け目、あてになる国のつくり方、太鼓たたいて笛ふいて、話し言葉の日本語、兄おとうと、夢の泪、イソップ株式会社、円生と志ん生、箱根強羅ホテル、夢の痂

→ 井上ひさし作品のページ No.3


ロマンス、ムサシ、組曲虐殺
、一週間、東慶寺花だより、グロウブ号の冒険、黄金の騎士団、一分ノ一、言語小説集、馬喰八十八伝

 → 井上ひさし作品のページ No.4


     

11.

●「ある八重子物語」● ★★★


ある八重子物語画像

1992年03月
集英社刊

1995年09月
集英社文庫化

1992/08/08

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女優・水谷八重子さんの評伝劇かと思ったのですが、そうではなく、八重子ファンである古橋健一郎を主人公とした戯曲。

とはいっても、新派劇好きの古橋医院の人達、とくに古橋院長と柳橋芸者ゆきゑの弟である京大生・一夫とのやり取りで、女優としての水谷八重子さんが充分に語られています。
この作品から最も強く感じたことは、柔らかさと温かさ。
評伝劇の場合、その宿命かもしれませんが、コミカルに創作されていてもギスギスしたような印象が残ります。本作品にはそれが殆ど見られません。
登場人物の殆どが好人物で、愛情豊かな人達。第一幕で月乃の夜逃げを手助けしようとする古橋医院の3人の姿が、それを物語っています。

初めと終わりに登場する恋愛物語の部分は、穏やかでつつましく、好ましいものです。二人を見守る周囲の人々の眼も温かい。
読んでいて快さを感じる作品です。最後の場面、柳橋芸者・花代「あたし、やっぱり、柳橋が好きだわ」というセリフに余韻が残ります。

    

12.

●「マンザナ、わが町」● ★☆


マンザナ、わが町画像

1993年09月
集英社刊

(922円+税)

 

2009/07/25

 

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時は1942年03月下旬、場所は米国カリフォルニア州オーウェン郡マンザナ。
真珠湾攻撃の後、日系米人たちが強制転住させられた収容所のひとつ、マンザナ強制収容所を舞台にした戯曲。
棄民たちの戦場を読んだのを契機に、再読しました。

「ひろびろとひろがる平原に、わたしたちの町マンザナが拓かれようとしています。マンザナ・・・」「日本人の血を引くすべての人びとのまほろば」「マンザナ、マンザナ、マンザナ!」
そんな唱和から始まる、マンザナを舞台にした劇「マンザナ、わが町」の上演が収容所長から命じられる。
役者として演じるのは、日本語新聞の主筆、農婦上がりの女流浪曲師、女優、歌手、手品師助手という経歴を持つ選ばれた女性たち5人。彼女たちが芝居の練習をするという過程で、浮かび上がる、日系人たちの複雑な心情、そして最後に結実する人種差別と闘う決意を謳い上げたストーリィ。

浪曲師を除いては何れも若い女性ということで、志願して戦場に向かった若者たちのことは一切触れられていません。
しかし、本作品で描かれているのは、「棄民たちの戦場」と同様に、米国という国家が犯した謂れなき人種差別という事実、それを越えて全ての人種差別に対する反対表明に他なりません。

事実の重さ故か、井上ひさし戯曲に共通する軽妙な可笑しさ、捻った面白さは、比較的薄い印象の作品。
なお、このマンザナ、大平原の只中、本当に何もない処です。

       

13.

●「父と暮せば」● ★★★


父と暮せば画像

1998年05月
新潮社刊
(1100円+税)

2001年01月
新潮文庫化

1998/05/25

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原爆の罹災地・広島の悲劇を改めて問いかける二人芝居。実際に舞台に登場するのは、主人公・美津江と父の竹造だけ。

原爆で多くの人が死にながら自分が生き延びたことに対して、美津江は自責の気持ちを捨てきれない。彼女の前に現れた恋に対しても、彼女は自らその気持ちをふさごうとする。そんな美津江をかばい、竹造は彼女を励ます。そういうストーリィ。

広島弁を駆使した二人の会話には、作者ならではのおかしさがあり愉しい。けれども、悲劇をベースにしているだけに、他作品に比べるとそれは抑え気味。
そのうち訝しさを感じる部分があるのですが、それがこの戯曲の鍵となっているのでその紹介は控えます。(^^;)
美津江の「うちゃあ生きとんのが申し訳のうてならん」という心からの叫びは、聞くに痛ましい。
本作品は短く軽妙な芝居に仕上がっている分、井伏鱒二「黒い雨」あたりに比べると読み易いのですが、その中味をじっと考えるととても深いものを秘めていることを感じます。
井上戯曲の良さが充分に味わえる、是非読んで頂きたい作品です。

※ 映画化 → 「父と暮せば

      

14.

●「井上ひさしと141人の仲間たちの作文教室」●(井上ひさしほか文学の蔵編) ★★


井上ひさしと141人の仲間たちの作文教室画像

1998年06月
本の森刊

2002年01月
新潮文庫
(514円+税)

 

2002/01/23

岩手県一関市で開催された、主催:文学の蔵(設立委員長:三好京三)、校長:井上ひさしという、3日間の作文教室。
そこに集まった多くの生徒さんたちへの井上さんの講義、最終課題として提出された生徒さん達の作文、それらに対する井上さんの添削が収録された一冊。

井上さんが、造詣深い日本語について書かれた本は、過去何冊も読んでいますが、本書はまた違った魅力を持っています。それは、文章をどう書いていくか、という具体的方法論が判り易く説明されているからです。

文章を判り易く書くというのは、実はかなり苦労すること。
私自身手探りしながらそれをやっていますが、井上さんの説明を読むと、眼からウロコという部分が沢山あります。また、作文への添削が掲載されていますので、具体的な例としてとても判り易い。

まあ、説明が判り易いということが、文章がうまく書けるようになった、ということに結びつかない点が、何とも辛いところですが(苦笑)
 
なお、掲載されている生徒さんたちの作文はどれも見事なもの。びっくりしました。

文章をどう書いたらいいのだろう、と思っている方には、是非お薦めしたい一冊です。文庫本ですから、お手軽。

  

15.

●「東京セブンローズ」● ★★★

 
東京セブンローズ画像

1999年03月
文芸春秋刊
(2381円+税)

2002年04月
文春文庫化
(上下)

   

1999/04/11

 

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戦況が行き詰まってきた昭和20年から終戦直後まで、東京根津の、団扇屋だった平凡な一市民・山中信介を主人公にした作品。
主人公が綴った日記という形をとっているため、終戦前後の日常生活における哀しさ、その一方で大本営の指示に踊らされる滑稽さが、しみじみと感じられます。
こうした生活感のある戦争譚は、もうなかなか書かれることはないのでしょう。この本を読んで、今更のように戦後は遥か遠くになったと感じられます。

井上作品にしてはしみじみとした味わいがあります。それだけに、井上さんの内に秘めた意気込みが感じられるようです。ここまでが前半。
後半は、占領軍日本語簡略化担当官ホール少佐のローマ字化政策と、それに抵抗する主人公との駆け引きがストーリィの主筋になります。
日本語とはどんな言語か、そしてどうあるべきか。言うまでもなく、長年にわたる井上さんの重要テーマです。ストーリィを離れ、各人の論述だけ辿っても読み甲斐があります。
そして、何時の間にかミステリのような雰囲気があるぞと気づくうちに物語は一気に山場を迎え、そして大団円に至ります。それにしてもこの主人公、何度留置場に入れられれば気が済むことやら。

さて「東京セブンローズ」とはどんな意味をもつ題名なのか。そこに井上さんらしい仕掛けが詰まっています。多様な面白さにやっと気づいた時、久しぶりに充実した読後感を手に入れました。
プロの作家の手による小説らしい小説、そんな満足感のある一冊です。

     

16.

●「わが友フロイス」● ★★


わが友フロイス画像

1999年12月
ネスコ/文芸春秋刊

   

2000/01/12

戦国時代に布教のため来日したイエスズ会の宣教師ルイス・フロイスの一生を綴った作品です。フロイスは、長大な日本史を書き残した人物でもあります。
これまでなら評伝劇となるべき内容だと思うのですが、今回は書簡集の形式により書き上げられています。ただし、そうであっても、ごく薄い一冊の中で主人公の人物像、その一生を見事に描き出しているところは、評伝劇と変わらず井上さんの見事なところです。
生国ポルトガルの頃、在インド時代、そして来日、マカオ勤務を経て再度日本へ赴任と、わずかな数の書簡によりフロイスの一生がはっきりと浮かび上がってきます。同時に、フロイスの内面における変化が語られています。青年期の布教に対する情熱があるかと思えば、日本にて布教が行き詰まってくると傲慢と言えるような考えを示す。一方、マカオ時代の書簡からは、日本への愛着が窺えるようです。
また、フロイスによる日本人、日本の武士に対する観察があり、信長、秀吉、キリシタン大名・大友宗麟への人物評もあります。とくに信長の人物評はかなり興味深いものです。
書簡という形だけに、フロイスの心境の変遷、悩み・焦りが直接的に伝わってきて、当時の宣教師たちの思いが生々しく感じられる、といった作品です。

         

17.

●「わが人生の時刻表−自選ユーモアエッセイ1−」● ★★


わが人生の時刻表画像

2000年10月
集英社文庫刊
(495円+税)

 

2000/12/30

本書の内容は、井上さんの浅草ストリップ劇場時代から、劇作家業当初の頃のこと、戯曲作品への思い入れ等と広範囲に及び、井上ひさしファンとしては充分に楽しめる一冊です。
その中でもとくに印象的だったのは「わたしにとっての戯作」。どもり+ズーズー弁と、人に応対することが苦痛だった井上さんがふと出会ったのが「黄表紙百種」。江戸戯作の可笑しさに圧倒され、それまでの窮屈な思いから一気に解放され、気楽になることができたそうです。その辺りに井上戯作のルーツがあるように感じました。
それと、井上さん自身の面白さを改めて感じたのが「わが人生の時刻表」「NHKに下宿したはなし」。前者は、井上さんが若い頃に自分の今後の人生計画を三度書き上げたという話なのですが、最後がいつも若尾文子さんと結婚するという結果であることに、つい笑ってしまいます。説明によると、若尾さんは井上さんの高校に近い女子高校に通っていて、その姿に憧れを抱いていたのだそうです。
「NHKに下宿したこと」は、井上さんが急遽一時的に下宿を出ざる得なくなったことから、致し方なく勝手にNHK社内で1ヵ月間暮らしたという話。ところが住んでみると、食堂あり、風呂あり、ベッドあり。さらには娯楽となるラジオ、演芸、演奏を聞くのも勝手次第。さらには打ち合わせ時間に遅れない、熱心だという好評まで得てしまったとか。まるで井上戯曲を見るかのような話です。
とにかく楽しめる一冊。出典原本は下記のとおりです。

「ブラウン監獄の四季」1977年講談社刊/「パロディ志願」1979年中央公論社刊/「風景はなみだにゆすれ」1979年中央公論社刊/「さまざまな自画像」1979年中央公論社刊/「聖母の道化師」1981年中央公論社刊/「悪党と幽霊」1989年中央公論社刊/「遅れたものが勝ちになる」1989年中央公論社刊/「ニホン語日記」1993年文芸春秋刊/「死ぬのがこわくなる薬」1993年中央公論社刊/「文学強盗の最後の仕事」1994年中央公論社刊/「餓鬼大将の論理」1994年中央公論社刊

       

18.

●「四千万歩の男 忠敬の生き方」● 


四千万歩の男画像

2000年12月
講談社刊
(1600円+税)

2003年12月
講談社文庫化

   

2001/02/26

題名からして判ると思いますが、四千万歩の男伊能忠敬にまつわるエッセイ、対談、講演録等をまとめた一冊です。
伊能忠敬に関する事実、井上さんの思い等が
書かれていますので、「四千万歩の男」を読み終えた副読本として読むのが良さそうです。
何しろ、伊能忠敬という人は凄い! 自分の歩測で、日本の3分の2をほぼ正確に測ってしまったのですから。どれだけその一歩、一歩が一定だったことか。本書を読むと、そのことが何回も繰り返し強調されていますので、改めてその凄さを感じます。また、隠退後のセカンド・ライフを見事に生きた、という点でも、これからの日本社会のお手本になるような人物です。
ただ、収録された各篇の実際に書かれた時期は、かなり以前です。何しろ、ホンダ・シティのCMが譬え話に出てくるくらいですから。
機略縦横の井上さんのことですから、忠敬本人や内縁の妻だったお栄も登場し、井上さんと対談を交わす等、自由自在。それ故、気楽に読みつつ、それでいて忠敬の実像に近ける、という内容になっています。
まずは「四千万歩の男」から読むことをお勧めし
ます。

一身にして二生を経る/伊能忠敬先生に叱られて/伊能栄に聞く/足にこだわって話は伊能忠敬に及ぶ/素晴らしきかな伊能忠敬的セカンドライフ/根津の大石/地図ゲーム/歴史は地理にかなわない/歩く論理(対談・安野光雅)/「四千万歩の男」の読み方作り方/読者が聞く「四千万歩の男」/忠敬と同時代人/途方もない大事業

  

19.

●「紙屋町さくらホテル」● ★★


紙屋町さくらホテル画像

2001年02月
小学館刊
(2000円+税)

 

2001/01/28

 

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副題に「最新戯曲集」とあります。戦前戦後に時代設定した3篇の戯曲を収録した一冊。
久々に味わう井上戯曲ですが、どの作品もその根底に芝居のもつ面白さを訴えているところがあり、とても楽しい気分にさせられます。

「紙屋町さくらホテル」は、敗戦直前の昭和29年、広島の小さなホテルが舞台。移動演劇隊・さくら隊の面々に、天皇の密命を受けた海軍軍人、それを追う陸軍軍人が混じり、一生懸命舞台を作り上げようとします。庶民の視点から戦争責任を問う、そんなストーリィ。
「貧乏物語」は、マルクス経済学者・河上肇博士の拘留中、残された家族・女性たちの頑張りを描く作品です。この作品にも、国家の名を借りて横暴に振舞う官憲たちへの、庶民のささやかな抵抗が感じられます。女性たちが主役である点で
東京セブンローズと共通するものがあります。
「連鎖街のひとびと」は、敗戦直後にソ連の支配下となった大連のホテルが舞台。その一室で、新劇作家と大衆演劇作家が、ソ連軍から劇をするよう命令され、唸っているところから始まります。シェイクスピアや、モリエール、浅草演劇の面白さまで盛り込み、3篇の中では一番笑える作品です。
芝居というのは本当に楽しい、そして人々の気持ちをひとつにまとめる力があるものですね、と改めて感じさせられた一冊です。

紙屋町さくらホテル/貧乏物語/連鎖街のひとびと

   

20.

●「日本語は七通りの虹の色−自選ユーモアエッセイ2−」● ★☆


日本語は七通りの虹の色画像

2001年02月
集英社文庫刊
(495円+税)

 

2001/03/14

自選ユーモアエッセイ、第2弾。
今回は、中心に日本語に関わるエッセイ集が居座り、本書の顔になっている、という印象です。
その中でも、表題作となっている「日本語は七通りの虹の色」が特に愉快です。1日に8種類の新聞を読んでそれらを結びつけると、ちょっとした傷害事件もなにやら奇怪な事件となってしまいます。
他には、無人島に一冊持っていくとしたら自身の書き込みがいっぱいある広辞苑!という「世界に一冊しかない本」「それからの吉里吉里国」「好きで嫌いで好きなアメリカ」
出典原本は下記のとおりです。

「新東海道五十三次」1976年文芸春秋刊/「ジャックの正体」1979年中央公論社刊/「私家版日本語文法」1981年新潮社刊/「聖母の道化師」1981年中央公論社刊/「本の枕草子」1982年文芸春秋刊/「ことばを読む」1982年中央公論社刊/「にっぽん博物誌」1983年朝日新聞社刊/「自家製文章読本」1984年新潮社刊/「悪党と幽霊」1989年中央公論社刊/「ニホン語日記」1993年文芸春秋刊/「文学強盗の最後の仕事」1994年中央公論社刊/「餓鬼大将の論理」1994年中央公論社刊/「ニホン語日記2」1996年文芸春秋刊

              

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