長谷川純子作品のページ


1966年神奈川県生。イラストレーター、ルポライターとして数々の雑誌で活躍し、2004年05月短篇集「発芽」にて小説家デビュー。

 


   

●「はずれ姫」● ★★




2006年08月
新潮社刊
(1500円+税)

 

2006/09/26

題名から得た印象、そして事前に読んだ書評からは思いもよらない趣きの短篇集、5篇。
どの主人公も類稀な=人並みな生活から零れ落ちたような男、女ばかり。
頭も股もユルイ若い女、小さな飲み屋の内で生きる中年女、引きこもりの男、人と交われない男。
そんな彼らが、自ら閉じこもった世界の中で淫靡な妄想を繰り広げる。そのきっかけとなるのは餃子のタネ作りだったり、白い豆腐、バスタブだったり。ちょっと変じゃないかというパターンばかりなのですが、妙に明るくカラッとした雰囲気があるので、ついこれらの主人公に引き込まれて共感してしまう、という面白さがあります。
こんなのは身体に毒だよと言われても、妙な味わいについ惹かれて止められない、そんな味わいがこの短篇集にはあります。

5篇の中で圧巻なのは表題作の「はずれ姫」
妻にすらまともに相手にされない冴えない中年会社員が、ふと入った名曲バーの女主人の虜となってしまいます。「あんな綺麗でいい女、一回でもいいから抱いてみたい」と。
妖艶にして淫靡、そして最後はゾクッとする怖さあり。
永井荷風の描くが如きねっとりとした女の情念、内田百の描くが如き怖さ、そして久世光彦が描くが如く妖艶な雰囲気が各々ちょっぴりある。それでいて乾燥した明るさがあったりするのですから、これはもう恐れ入ります。
要は冴えない中年男がズルズルッと引きずり込まれてしまう、後悔先に立たずのストーリィ。短編であってもこの読み応えは忘れ難いのです。

その他「ナッちゃんの豆腐」もかなり面白い。淫靡な妄想を広げる中年女版「フランダースの犬」というところでしょうか。
そして「蛍を飲む」の中で話に登場する“伊勢佐木町の白いメリーさん”、以前横浜に勤務していた頃幾度もみかけたことがあります! ホント、一度見たらあの姿は忘れられない・・・。

マキの包むもの/はずれ姫/ナッちゃんの豆腐/蛍を飲む/サリーの恵み

 


   

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