森田誠吾作品のページ


1925年東京生、東京商科大学中退。「魚河岸ものがたり」にて第94回直木賞受賞。2008年10月死去。


1.
曲亭馬琴遺稿

2.魚河岸ものがたり

3.明治人ものがたり

 


 

1.

●「曲亭馬琴遺稿」● ★★




1981年03月
新潮社刊


1990年06月
新潮文庫

 

1990/07/17

 

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「南総里見八犬伝」の作者・滝沢馬琴の人となりを丹念に描いた作品。秀作だと思います。

滝沢馬琴という人、そんなにも高評と悪評のある人物だったのでしょうか。それが森田さんの執筆の動機だというのですが。
いずれにせよ本作品は馬琴が主人公ですから、馬琴は正当化されています。

馬琴、読本の執筆で生活を支えている。人気は上々のようですが生活は決して楽ではない。実は作料が入るほど出費も派手になりがちで寄付や酒食の供応などの経費が多く、執筆を減らした方が結果的に残るものは多かった、というのは現代の様相と極似していて面白い。
そう、馬琴の生きたのは江戸時代ですが、現代社会と全く変わりない面をもっている。統制色が少ない分、むしろ明治より江戸時代の方が現代に近いのでないかと思える程です。

馬琴という人物、すこぶる生真面目である。
元は下級武士の三男坊なのですが、一家はあまり運に恵まれていなかったようで浪々の上町家の婿養子となる。
結局商売を辞めて読本作家となるのですが、家庭設計も着実であり、最低限の収入の道を家族にきちんと残しています。もっとも本人曰く、二女一男ともに不出来ということですが。

作品の執筆は、唐からの翻訳ものも仕入れ、ネタ探し、知識の習得に十分投資している。
現代の作家も馬琴と同じようにネタ探しに努めつつ小説を書いているのかと思うと、小説家の裏話が明らかにされているようで面白い。また、一度小説家の道に足を踏み込むと、常に書き続けることが宿命になるようで、苦労して書く割に実入りが少なく、高齢の身、健康にも悪影響がある、というのは現代同様である。

こうした作品を書くための下調べは大変だったと思うのですが、作中の馬琴も同様だった筈であり、馬琴の姿に作者の姿をダブらせて見ることにもなります。貴重な一作と言えます。

  

2.

●「魚河岸ものがたり」● ★★★         直木賞




1985年09月
新潮社刊


1988年07月
新潮文庫

 
1989/03/05

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東京築地の魚河岸を舞台に、その町で働く人々を描いた連作短篇集。

ストーリィは、その町に吾妻健作という青年が、母親と共に住みついたところから始まります。
主人公は早朝の散歩から、河岸のフクさん、小さなラーメン屋の青ちゃんと親しくなり、さらに塾の先生として親しまれ、「河口のまちに埋伏」することになります。そしてそこから、彼を案内役として、心惹かれる幾つかの物語が展開していきます。

下町を舞台にした連作短篇集という構成は、読み易いし、面白く読めるという定番メニューでしょう。
ただ、本作品にはそれにとどまらない、格調の高さが感じられます。それが、この作品に自然と惹かれる理由だと思います。

また、本作におけるヒロインと言ってもよい、高見麗子という女性の抑制的な心情、最後に健作が町を離れる情緒にも、端整な美しさが感じられます。

私好みの一冊です。

市場通り/門跡橋/築地川支流/波除神社/海幸橋/勝鬨橋/晴海通り/隅田河口

 

3.

●「明治人ものがたり」● 

 

1998年09月
岩波新書刊
(640円+税)

 

1998/10/12

この本は、著者が入院中に乱読した中から見つけた、興味深い「話のたね」をまとめた一冊とのことです。

明治天皇の人間性のこと、森銑三という伝記家のこと、森鴎外の娘・茉莉と幸田露伴の娘・との対比。
明治天皇の部分では、星新一「夜明けあとが度々引用されていて、つい興味を誘われます。

しかし、何と言っても興味つきないのは、森茉莉さんと幸田文さんの比較です。
同じく文豪を父に持ちながら、こうまで異なった道を歩んだのかと思うと、二人の人生に影響を及ぼした二大文豪の業の深さというものを感じざるを得ません。
文さん自身のエッセイを読むより、ずっと文さんのことが判る本かもしれません。

阿川佐和子と 檀ふみさんの違いなど、この二人の違いに比べれば、大したことないと思えてきます。(「ああ言えばこう食う」)

睦仁天皇の恋/学歴のない学歴/マリとあや

 


 

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