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1.日無坂 2.いさご波 3.春告げ坂 |
●「日無坂(ひなしざか)」● ★★ |
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2010年12月
2008/09/01
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きりっとした緊張感がいささかも途切れることなく、それでいて底辺には家族としての愛情が脈々と流れているのを感じることができる、いい小説だなぁと、心から感じられる作品です。
老舗の薬種問屋・鳳仙堂の跡取り息子だったが父親と諍いし、勘当されて今は浅草裏の賭場を預かる伊佐次、かつての利一郎が主人公。 勘当した惣領息子のことを今にして悔い気に掛ける父親、勘当されながらも今にして漸く父親の苦しさを思いやることができるようになった伊佐次。 |
●「いさご波」● ★★ |
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2012年04月
2009/12/03
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藩が改易になって録を失えばその日から家族共々食べていくのに苦労する。やっと仕官できて平穏な幸せを得られたというのに難題が押し付けられる。そうかと思えば、家中の争いの犠牲にされたり、一方的に恨みを買ったりと、武家とはとかく生きていくのが面倒なものらしい。 冒頭、「沙の波」の主人公がつぶやく一言「父上、生きていくこととは難儀なことですな」にそれは象徴されます。 同じく難儀さを描いていても、岩井三四ニ「難儀でござる」のようなユーモアは感じません。 「沙の波」は、赤穂藩が取り潰しとなり一生を浪人として苦労した父親を経てようやく仕官を得た主人公が、その14年後に迎える試練を描くストーリィ。 凛々しく清新な雰囲気が魅力の時代短篇集。お薦めです。 沙(いさご)の波/暁の波/ささら波/夕彩の波/澪の波 |
●「春告げ坂−小石川診療記−」● ★★ |
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2015年03月
2011/12/13
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小石川養生所に勤める青年医師を主人公にした、時代物青春譚。 時代小説、主人公は見習い医師の青年、となれば当然思い出すのは山本周五郎「赤ひげ診療譚」(主人公は保本登)と、藤沢周平「獄医立花登手控え」シリーズ(主人公は立花登)。 同じ登という名をもつ青年医師を主人公とする2作ですが、主人公像もストーリィ内容も全く対照的。 それに対して本書の主人公=高橋淳之祐はどうかというと、前述2人のちょうど中間に位置するような主人公像です。 生真面目という点では保本登に似ていますし、町医者の養子となって育ったという点では、町医者である叔父の元に居候となった立花登と境遇が近いと言えます。しかし、やんちゃ坊主といったところがある立花登のようなカラッとした明るさは持たず、幼い時に父親が詰め腹を切らされ切腹し、母親もまもなく病死したという生い立ちの陰を今も引きずっているところがあります。そのためか何かと一本気、すぐ熱くなり、弱い者、虐げられている人間のことを放っておけないという人物設定。 舞台となる小石川養生所の様子も、従来のイメージとは異なるもの。養生所に住み込みで働く看護中間たちは、飲む、打つ、そして養生所の米や薪を横流しするといった、ろくでもない人間ばかり。 しかし、そうした中でも淳之祐を助け、一生懸命患者たちのために尽くす者たちもいます。 自分の生き方を模索し続ける淳之祐ですが、どんな世間であろうと温かく見守ってくれる、あるいは手を携えて共に行動できる仲間たちがいるものだという本書ストーリィは、淳之祐だけでなく私たちの心にも希望を与えてくれるようです。 そんな高橋淳之祐と新入りの看護中間で訳ありの伊佐次らが、患者にまつわる様々な難題に真摯に向かい合っていくという時代物ストーリィ。 比較的地味な作品ではありますが、読み終えた後には含蓄の多いものを感じます。 春の雨/桜の風/夕虹/照葉/春告鳥 |