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21.嵐をこえて会いに行く 22.みちゆくひと |
【作家歴】、暗い夜星を数えて、あのひとは蜘蛛を潰せない、骨を彩る、神様のケーキを頬ばるまで、桜の下で待っている、やがて海へと届く、朝が来るまでそばにいる、眠れない夜は体を脱いで、くちなし、不在 |
珠玉、森があふれる、さいはての家、まだ温かい鍋を抱いておやすみ、草原のサーカス、川のほとりで羽化するぼくら、新しい星、かんむり、花に埋もれる、なんどでも生まれる |
| 「嵐をこえて会いに行く」 ★★ | |
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2015年刊行の「桜の下で待っている」を思い出させられる、連作短編集。 同作と同様、本作でも東北新幹線・北海道新幹線で移動する人たちが各篇の主人公となっていますが、同作は<下り>だったのに対し本作は<上り>であるという処が対照的。 上りと下りは偶々のこと、とも言えますが、各篇の主人公たち、その背に何かを背負っているという気配を感じます。その点も前作と少々異なる処。それは10年という時間の経過によるものかもしれません。 それにしても本作、あぁいい題名だなぁ、と思います。 主人公たちの心の内に何らかの決意、意志を感じますから。 ごく普通の日常生活にも、あえて踏み出す、ということは幾つもあります。それを描き出している処が、本作の魅力です。 ・「ひとひらの羽」:離婚して一人暮らしの高木志津夫。長い付き合いの友人に会うため、函館から青森へ。 ・「遠まわり」:ホテル勤務の三浦慎治、自衛隊に入隊した恋人に会うため、函館から本八戸へ。 ※珍しくもちょっとファンタジー要素のある篇。 ・「あたたかな地層」:作家の藍井円香、急に書けなくなり、取材旅行の帰途、今は盛岡に住む元担当編集者に会いに行く。 ・「花を連ねて」:老人ホームに入所している祖母の具合が悪くなり、大原凛子は4歳の娘を連れて青森から仙台へ。 ・「風になる」:大物政治家だった亡父の跡を継いで政治家になった相庭知子、仙台から東京へ向かう新幹線車中で、離婚も考えているという夫からのメールを受け取ります。 ひとひらの羽/遠まわり/あたたかな地層/花を連ねて/風になる |
| 「みちゆくひと」 ★★☆ | |
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不思議な物語です。 不動産仲介管理会社に勤める原田燈子(32歳)は、母親の晶枝が死んで天涯孤独の身となった。 しかし、母親との関係は幼い頃からずっと疎遠であり、母親の不在が事実となっただけのこと。 4歳下の弟=輝之が3歳の時に道から飛び出して車に撥ねられて死んで以来、自分を責める一方で輝之の執着し、燈子のことには無関心、ずっと放ったからししていた故。 実家の片づけをした際に母親の日記を見つけた燈子は、それを自宅に持って帰る。 ある日、燈子が気づくと、その日記に新しい書き込みがあった。 (ここはどこだろう?)と母親の筆跡で。 それから後は、あの世において晶枝が、輝之を捜し求めて彷徨し続ける姿が描かれます。 未だ幼くして死んだ息子への想いを遺している所為か、<夜行>に加わらず歩き続けています。 やがて寄り添うためのように姿を現したのは、夫の啓和。 晶枝は明らかに過去に縛り付けられていますが、燈子はそうでない、とは必ずしも言い切れないようです。 果たして二人は、各々の縛りから脱け出すことができるのか。 晶枝、啓和が彷徨する世界、姿が何ともリアル。 死んでもなお、生きているときと同様にあがき続ける姿が、もっとはっきり描かれるのですから。 何かを求めて歩き続ける、そうすればいつか、何かに出会うことができる。その姿勢は現実世界にも通じるものだと思います。 なんとも不思議なストーリーですが、気持ち良く感じられます。 それは登場する人々が、現世であろうとあの世であろうと、相手に寄り添おうとしている姿が鮮明だからでしょう。 お薦めしたい佳作です。 眩/鳴/冥/解/結/歩/巡 |
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