阿川大樹(たいじゅ)作品のページ


1954年東京都生。東京大学在学中に野田秀樹らと劇団「夢の遊眠社」を設立。企業のエンジニアを経て、シリコンバレーのベンチャー設立に参加。99年「天使の漂流」にて第16回サントリーミステリー大賞優秀作品賞、2005年「覇権の標的」にて第2回ダイヤモンド経済小説大賞優秀賞を受賞し作家デビュー。


1.
D列車でいこう

2.
インバウンド


3.終電の神様

  


     

1.

●「D列車でいこう」● ★★


D列車でいこう画像

2007年05月
徳間書店刊

(1700円+税)

2010年07月
徳間文庫化

  

2012/08/29

  

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当サイト内で村(町)おこし作品をとりまとめているのですが、本ストーリィは村おこしならぬ、“赤字ローカル鉄道おこし”というところでしょうか。
定年退職済の元国家公務員=
田中博、関連会社へと肩叩きを受けた大手銀行支店長=河原崎慎平、その部下で能力を発揮させてもらえず限界を感じていたMBA取得の総合職女子=深田由希がふと出会ったのは、廃止予定決定済の赤字ローカル線=山花鉄道。営業距離=30キロを職員僅か20名で運営と、効率化経営においては日本一でありながら、通年赤字は3千万円、債務超過目前という状況。
そんな山花鉄道を救済しようと、上記3人がそれぞれの夢を実現すべく再建を買って出る、というストーリィ。

頼まれて村おこし、町おこしというのは最近よくある話なのですが、先方から依頼された訳でもないのに東京から広島県の片田舎まで押し掛けて再建に奮闘する、コンサル契約も無く無償奉仕に近い、というところは相当に風変わり。
さらに、あの手この手と次々に繰り出す増収策、アイデアの数々がすこぶる楽しい。
最初こそ“再建”という後ろ向きな言葉がチラチラしていましたが、後半になると大勢の人間が各々の夢を叶えようと集まって熱気充満、黒字経営に留まらず皆にとっての“楽しい鉄道”の実現へと様相がいつの間にか一変してしまうところが本ストーリィの魅力。
楽しいストーリィ好きな方に、お薦め。

    

2.

●「インバウンド」● ★★


インバウンド画像

2012年07月
小学館刊

(1300円+税)

  

2012/08/17

  

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沖縄を舞台にしたお仕事小説。さてそのお仕事とは、コールセンター業務。題名の「インバウンド」とは、電話を受ける仕事のことだそうです。

コールセンターの会社が沖縄に多いことはよく知られた事実ではないかと思います。
主人公の
上原理美は、東京の短大卒業後そのまま東京で就職したものの、リストラされて沖縄に戻ってきた25歳。結局一人前になれなかったという挫折感から、実家には内緒のまま、同じコザ市内でゲストハウス〜アパートでの一人暮らし。
そんな理美がありついた仕事はというと、大手コールセンター業務会社。食堂のオバアに「コールセンターだけはやめとけ」と言われたものの、そこは沖縄、他に選択肢はなかったという次第。
しかし理美、適性があったのか、自分では自信ないながらもいつの間にか高い評価を受けていたようで、電話応対コンクールに出場し日本一を目指すことになります・・・・。

あっさりとしたストーリィ。
でもそこは、コールセンター業務という仕事に絞り込んだストーリィだからこそということもあり、また上原理美という主人公のキャラクターと合わさって、単純明快にして中々爽快です。
オートコールセンターを業務としている会社の仕組み、電話オペレーターたちが求められている仕事ぶり、また入れ替わりの多さという実情もしっかり描かれていて、十分面白い。
コールセンター業務に興味のある方、お薦めです。

     

3.

「終電の神様 ★☆


終電の神様

2017年02月
実業之日本社文庫刊

(593円+税)


2017/03/10


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終電間近、満員状態の通勤電車が人身事故によって一時停止。
そこで足止めを食った乗客たちを主人公、事故がきっかけになってふと起きた出来事を描いた短篇集。

人身事故が起きてしまうと少なくとも40分位は電車が止まってしまいますから、それは迷惑なもの。ましてや終電間近の電車ともなれば苛々すること、焦ること多かりしと思うのですが、本短篇集では余りそうした印象は受けません。
むしろ、それがきっかけとなり、各篇の主人公たちにとっては良い方向へ転じる、という風です。

7篇の中で特に私が好きなのは、冒頭の
「化粧ポーチ」と最後の「ホームドア」。共にちょっと驚かされる展開に温かさとユーモアが感じられて微笑ましい。
一方、登場人物の個性が際立つ
「高架下のタツ子」「赤い絵の具」の篇にも惹かれます。

困ったなぁという出来事も、ちょっと見方を切り替えてみれば、むしろ良かったなぁと思うに至ることがあるかもしれません。
そんな気持ちで読んでみるのが相応しい短篇集。


1.化粧ポーチ/2.ブレークポイント/3.スポーツばか/4.閉じない鋏/5.高架下のタツ子/6.赤い絵の具/7.ホームドア

     


  

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