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「誰もないホテルで」 ★★ |
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原題「ゼーリッケン」とは、スイス北東部=トゥールガウ州の丘陵地帯の名称で、作者の故郷とのこと。 本書はその故郷を舞台にした10篇から成る短編集。 いずれのストーリィも、ちょっとしたことで目の前の人生が彩りを変えてしまう、そんな不思議さと面白さを感じさせられる面があります。 しかし、主人公にとっては悲哀や喪失感をもたらす出来事もあれば、楽しさや喜びをもたらす出来事もある、といった風。両方があるからこそ“人生”、という気がします。 「誰もいないホテルで」:最も魅せられた篇。アナという不思議な女性との出会いは面白くもあり、魅力的でもあり。 「自然のなりゆき」:保養地の思わぬ出来事で夫婦の間に情熱が戻る顛末は、面白いと言ってしまって良いのやら・・・。 「主の食卓」:神父が直面した思わぬ事態、主人公のように笑っていられることなのかどうか。 「森にて」:森の中で3年間暮した少女のその後。奇矯さと悲しみが混じり合って漂う篇。 「氷の月」:退職してカナダへ移住すると言っていた守衛のビーフィーでしたが、ある出来事の後に姿を消してしまう・・・。哀感尽きない篇。 「眠り聖人の祝日」:野菜作りを始めたアルフォンス、ロックフェスで知り合ったリュディアとの駆け引きが温かくて面白く、希望を感じさせてくれる篇。 「最後のロマン派」:ピアノ教師の女性が主人公。どうあがこうと、現実は厳しい哉。 「スーツケース」:突如起きた妻の病気と入院。スーツケースを目の前に困惑するヘルマンの姿が、滑稽であり哀しくもあり。決して他人事とは言っていられません。 「スウィート・ドリームズ」:中年夫婦と若いカップルという違いはありますが、「自然のなりゆき」と共通するストーリィ。 「コニー・アイランド」:人生のある一瞬の光景を捉えた篇。 静かに人生が流れていくような思いを抱かされる短編集。 どこか乾いた明るさが感じられる故に、だからこその人生、と前向けに受け留められる処が本書にはあります。 誰もいないホテルで/自然の成りゆき/主の食卓/森にて/氷の月/眠り聖人の祝日/最後のロマン派/スーツケース/スウィート・ドリームズ/コニー・アイランド |