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Neige Sinno 1977年フランスの南アルプス地方オート=アルプ県生。フランスとアメリカの大学で学ぶ。博士課程ではレイモンド・カーヴァー、リチャード・フォード、トバイアス・ウルフについて研究。2006年からメキシコ在住。作家、翻訳家。「悲しき虎」にてフェミナ賞、高校生が選ぶゴンクール賞、ル・モンド文学賞、ストレーガ・エウロペオ賞等多数の賞を受賞。 |
「悲しき虎」 ★★☆ |
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2025年08月
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フランスの片田舎にある小さな町、そこで作者は 9〜14歳という少女時代、継父から性的虐待、レイプという非道を行われ続けていたという。 成長してから作者は母親を説得して、共同して継父を告訴、本人がすんなり事実を認めたことから、継父は懲役 9年の実刑に処せられたとのこと。 子どもに選択肢はありません。どんなに嫌で惨めな状況に置かれようと、相手が義理であろうと親という子どもにとっての絶対的権力者である以上、逃れられないのです。 ただ、本作は上記犯罪の告発だけに留まりません。<性的虐待>という今も繰り返される非道な行為に関して、問題提起の書であり、作者による深い考察の書でもあります。 本作には、社会において広くこの問題を考えてほしい、という作者の姿勢が感じられます。 何故ならば、性的虐待は特異なケースではなく、数多く行われ、それは今になっても少しも変わっていない、という前提があるからです。 実際、継父があっさり事実を認めたというのもそこに罪悪感を抱いていなかったからかもしれませんし、出所後継父が故郷の村にすんなり受け容れられたのに対し、作者と母親は村の評判を傷つけたとして排除されたのだそうです。 性的虐待は、決して一部の特異なケースだけの犯罪ではない、広く社会に蔓延っている犯罪である、そしてその被害者からの訴えを受け止め、保護する存在が必要である、ということを広く訴える、ということに本作の主眼があると感じます。 今の時代でも、自らが行った性的虐待に、同意があった等々、いろいろな言い訳をして罪悪感を持たずにいる人間は多いことでしょう。 だからこそ本作の意味がある、と言えます。 是非、お薦め。 ※なお、実父との近親相姦関係を語った作品にキャスリン・ハリソン「キス」がありますし、A・ヘイリーも「殺人課刑事」の中で、キリスト教社会だからこそ家庭内での性的虐待が起こりやすいという問題を描いています。両作品とも30年近く前に刊行された作品ですが、加害者側の状況はまるで変わっていない、ということなのでしょうか。 第一章 人物描写/第二章 亡霊たち |