ウィリアム・シェイクスピア作品のページ


William Shakespeare 1564〜1616 英国の劇作家・詩人であり、文学史上最も偉大な劇作家と言える。喜劇、悲劇、史劇、浪漫劇とあらゆる分野で傑作戯曲を生み出し、今もなお舞台での上演数、映画化された作品も数多い。

 ※ 詳細は → “シェイクスピア”お薦めページ


1.リチャード三世

2.じゃじゃ馬ならし

3.エドワード三世

4.二人の貴公子

 


     

1.

●「リチャード三世」● ★★★
 
原題:"Richard V"     訳:小田島雄志

 

1976年11月
白水社刊
シェイクスピア
全集・第4巻
(3500円)
−絶版−


1983年10月
白水社
Uブックス版
シェイクスピア
全集・第4巻
(580円+税)

1985年11月
白水社
シェイクスピア
全集愛蔵版
第1巻
(6300円+税)

   


2001/11/24

定期的に書評を投稿しているISIZEの書評企画で “悪人小説”がテーマとなったことから、久々に再読しました。
“悪人”と言うと私がすぐ連想するのは、何と言っても本作品。シェイクスピアが創り上げたリチャード三世という主人公は、それだけ強烈な印象をもたらす人物です。
考えてみると、シェイクスピア劇の中で題名となった悪人は、このリチャード三世のみ。「マクベス」もありますけれど、マクベスはむしろ悲劇の主人公ですから、除外すべきでしょう。

時代は、英国で長く続いた内乱“バラ戦争”最後の頃。ランカスター家から王位を奪ったヨーク家エドワード四世の、2番目の弟がグロスター公リチャード、後のリチャード三世です。
このリチャードの悪計ぶりがとにかく凄い。
クラレンス公ジョージを死に追いやり、兄エドワード四世の遺児2人も殺害してしまう。そして遂に王位を手に入れるというストーリィ。
しかし、リチャードの凄さは、その悪逆非道ぶりより、その操る言葉の信じ難いほどの見事さにあります。
自分が殺したヘンリー六世の息子エドワードの未亡人アンを葬列の最中に口説き落として妻とし、更には息子2人と実弟等を殺されたエドワード四世の元王妃エリザベスまでも説得して、その愛娘と自分との結婚を承諾させてしまう。それでいて、その直後に相手を浅はかな女だと嘲うのです。
その辺りの凄さ、“悪”の魅力を溢れるくらいに持つのが、このリチャード三世なのです。(リチャードのように女性を口説き落としてみたいと思うのは、凡人の浅はかさ故でしょうか ^^;)
そして、決戦を控えた前夜、戦場でのリチャードとその相手であるリッチモンド伯ヘンリー(後のヘンリー七世)の枕元を、殺された者達の亡霊が訪れるシーン、翌日の戦場でリチャードが発する「馬をくれ、馬を! 馬のかわりにわが王国をくれてやる!」という言葉は、とても忘れられない名セリフです。

なお、「リチャード三世」はシェイクスピアのごく初期の作品です。したがって、シェイクスピア全盛時の作品と比べると、ストーリィは単純なもの。
百年戦争・バラ戦争
と続く英国史劇として、シェイクスピアは「リチャード二世」、「ヘンリー四世」第一部・第二部、「ヘンリー五世」、「ヘンリー六世」第一部・第二部・第三部、本書「リチャード三世」と8作品を書いていますが、後の4作品が初期の四部作。
それ故、単独でも充分読み応えある作品ですけれども、できれば「ヘンリー六世」3作に引き続いて読みたいものです。その方が読後の感慨ははるかに大きいものがあります。
なお、シェイクスピアを読むのなら、本作品は是非読んでおきたい一冊です。

           

2.

●「じゃじゃ馬ならし」● ★★★
 
原題:"The Training of the Shrew"     訳:小田島雄志


1976年11月
白水社刊
シェイクスピア
全集・第4巻
(3500円)
−絶版−

1983年10月
白水社
Uブックス版
シェイクスピア
全集・第7巻
(580円+税)

1985年11月
白水社
シェイクスピア
全集愛蔵版
第1巻
(6300円+税)

  


2001/11/24

本作品は、富裕な商人の長女であるけれども“じゃじゃ馬”ということで有名でキャタリーナと、そのキャタリーナを無理やり女房にしてじゃじゃ馬を見事乗りこなして見せようとするペトルーキオによる、理屈抜きに楽しい喜劇です。

この作品を表面的に捉えてしまうと、専制君主の如くに傍若無人に振る舞い、強引にキャタリーナを順々な妻に仕立て上げてしまうペトルーキオを主人公とする、男性本位・女性軽視のドタバタ劇ということになってしまいます。
と言われようが何しようが、この戯曲がとても愉快で面白いことに相違ないのです。

そもそもこの作品を表面だけで捉えてしまうこと自体が謝りなのです。
キャタリーナはじゃじゃ馬ですけれど、もともと頭の良い女性。そんなキャタリーナが、ペトルーキオにいくら傍若無人に振舞われたとはいえ、それだけで従順な妻になどなる訳がありません。ペトルーキオの心底に、キャタリーナを本当に思う心があることが判った故に、彼女はペトルーキオと心を合わせ名コンビを結成するのです。
そうでなくしてあのキャタリーナが、いくらペトルーキオが命じたからといって帽子を足で踏んづけるようなことをする筈がないではありませんか。あれば妹ビアンカ等の2組の夫婦に泡を吹かせてやれという、ペトルーキオを息を合わせた演技に他ならないのです。
そういう雰囲気があるからこそ、この作品は明るく、笑ってしまえる喜劇になり得ているのです。

※なお、本作品をアレンジしてミュージカル映画に仕立てたキス・ミー・ケイトも名品です。歌も良いですけれど、何といってもダンス・シーンが圧巻です。

      

3.

●「エドワード三世」 ★★
 
原題:"THE REIGN OF KING EDWARD THE THIRD"     訳:河合祥一郎




1592,3年頃

2004年12月
白水社刊
(2000円+税)

 


2005/08/26

シェイクスピアの作品は長らく37作とされてきましたが、最近の英米の研究成果により3作品を加え、現在では40作品とされています。
本書「エドワード三世」は追加3作のうちの1作で、「伯爵夫人の場」をシェイクスピアが書いたのは間違いないとされていますが、単独執筆か共同執筆かには意見が分かれている作品です。
本作品のテーマは、恋+戦争。

エドワード三世は「リチャード二世」の祖父にあたる名君で、英仏百年戦争が開始された時の英国王。
前半は、フランスに進撃したエドワード三世が臣下の奥方であるソールズベリー伯爵夫人に邪な恋を仕掛けるという内容。
エドワード三世と伯爵夫人のやりとりが見応えあります。伯爵夫人の機知、毅然とした振る舞いが圧巻。流石シェイクスピアと言いたい場面です。
後半は、フランス軍を率いるジャン王王子シャルルと、イギリス軍を率いるエドワード三世黒太子エドワードとの戦争対決。
勇猛果敢な英軍に対し、仏軍のだらしなさは目を覆うばかりでいくら何でもと思いますが、英国戯曲であれば当然と受け止めておくほかないでしょう。
前半の恋部分が独創的なのに対し、後半の戦争部分は史実をざっと追っただけと思えますが、「ヘンリー六世」等の初期作品は皆同じようなもの。ただし、英国史上有名な黒太子エドワードを描いた部分は素晴らしい。後の「ヘンリー五世」と並ぶ英雄像と言って良いでしょう。
また、この黒太子エドワード、解説によるとその死生観は「ハムレット」にも通じるものだという。
単独執筆か共同執筆かに関わりなく、本作品が見応えある戯曲であることに疑いはありません。読めたことは嬉しい限り。

※エドワード三世(1312-77、在位1327-77)、ガーター勲章の創始者。1347年美女の誉れ高いソールズベリー伯爵夫人が舞踏会でガーターを落とし、その恥辱を救うためエドワード三世がそのガーターを自分の身につけたことが、ガーター勲章の始まり。翌年創設されたガーター勲爵士団は、ヨーロッパ最古の騎士団。
※ガーター勲章はその色からブルーリボンとも呼ばれ、映画等で最高の賞がブルーリボン賞と呼ばれるのは、これにちなんでのこと。

          

4.

●「二人の貴公子」(ジョン・フレッチャー共作) ★★☆
 
原題:"The Two Noble Kinsmen"     訳:河合祥一郎




1613年発表

2004年1月
白水社刊
(2500円+税)

 

2005/07/16

シェイクスピアの作品は長らく37作とされてきましたが、最近の英米の研究成果により3作品を加え、現在では40作品とされています。
本書「二人の貴公子」は、追加3作のうちの1作で「ヘンリー八世」と同様にジョン・フレッチャーとの共作。
作品の材源となっているのは、「カンタベリー物語」の中の「騎士の話」とプルタルコス「英雄伝」の中の「テーセウス伝」とのこと。

ストーリィは、従兄弟同士でありかつ親友同士だった若者アーサイトパラモンの2人が、同じ相手に恋してしまったために、その時から相手を裏切り者と罵り合う敵同士となり、最後にはエミーリアを獲るために命を賭した試合を行う、というもの。
本作品は、シェイクスピアの他の作品をいろいろと思い出させるところがあって、そこが楽しい。
始まりは「夏の夜の夢」と同じく、テーセウス(シューシュース)ヒポリタの結婚式。親友同士が恋ゆえに仲違いする話は「ヴェローナの二紳士」を思い出しますし、パラモンを慕う余りに気が触れてしまう牢番の娘は、「ハムレット」オフィーリアを思わせます。
ただ、恋において明快だった他のシェイクスピア作品に比べ、本作品はその辺りがすっきりしません。2人に恋されるヒポリタの妹エミーリアは、アーサイトとパラモンの2人各々に惹かれてしまい、自分ではついにどちらとも決められない。その結果としてのこの物語の決着も、余り納得がいくものではない。

しかし、それを越えてなお面白いのが、アーサイトとパラモンの罵り合うやりとりであり、エミーリアが決めきれない恋に苦しむ独白です。どちらも相当に読み応えあるセリフ回し。
そしてまた、牢番の娘が狂った故にさらけ出す言葉にも、読み応えがあります。オフィーリアのような貴族の娘ではないだけにかなりあけすけなセリフも飛び出し、その瞬間さぞ観客も湧いたことだろうと思うと、すこぶる楽しい。
ストーリィより、恋にもだえる4人のセリフ回しが見所なのです、この作品は。

なお、シェイクスピアの時代には女優など存在せず、女役は少年俳優が勤めたというのは周知のこと。
本作品を上演するにあたっては、エミーリア役、牢番の娘役と相当に達者な少年俳優の存在が不可欠だった筈であり、そうした事情に想像を巡らすのも、シェイクスピア劇の楽しいところ。
※1613年の初演当時、エミーリア役はリチャード・シャープ(11歳?)、牢番の娘役はリチャード・ロビンソン(15歳)という少年俳優だったらしい。

   

John Fletcher 1579〜1625 シェイクスピア後を継いで国王一座の座付き作家となる。王政復古時代にはシェイクスピアより人気を博した。シェイクスピアとの共作は「ヘンリー八世」と「二人の貴公子」。

   


 

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