ジョン・マグレガー作品のページ


Jon McGregor 1976年司祭である父親の任地バーミューダ島生、英国ノーフォーク州で育つ。ブラッドフォード大学卒。2002年デビュー作「奇跡も語るものがいなければ」にてブッカー賞候補、サマセット・モーム賞およびベティ・トラスク賞を受賞。

 


   

●「奇跡も語る者がいなければ」●  ★☆ 
  
原題:
"If Nobody Speaks of Remarkable Things"     訳:真野泰
      サマセット・モーム賞、ベティ・トラスク賞受賞

  

 
2002年発表

2004年11月
新潮社刊

(2200円+税)

 

2004/12/21

本書は、英国北部のとある大学町、とある通りのある夏の最後の一日、住民ひとりひとりを積み上げるようにして描いていった長篇小説です。
登場する一人一人は、「22番地の小さな眼鏡をかけた女子学生」「18番地のドライアイの男の子」「16番地の手に火傷のある男」「20番地2階の老夫婦」というように、個人の名前抜きに描かれていて、匿名のごく普通の人々であることが強調されています。
実はこの1997年 8月31日は、ダイアナ元皇太子妃がパリで交通事故死した日。世界中の注目を集めたその生と死の一方で、ごく普通の人々の平凡な日々の中にもドラマティックな生と死がある、というのが本書のテーマとのこと。

本書は極めて高い評価を得た作品ですけれど、私としては読み通すのがしんどかった、というのが本音。高い評価を受けた小説なのにそう感じられない、というのは実は嫌なものであって、放り出しもできず、困惑しながらも我慢して最後まで読み通す、というのが常なるパターン。
概ねそんな作品は、斬新な語り口、それと判らない巧妙な仕掛けが施されているというもので、最後までそれが理解できない自分に落ち込んでしまうことになる。前回そう感じたのも、やはり同じ新潮社のクレストブックス最後の晩餐の作り方。 

この作品、読むのならまず構成を先に頭に入れておかないと、ちっともストーリィが頭の中に残っていかない。
登場人物は既に述べたように皆匿名ですが、AがBを眺めているところが描かれるかと思うと、次にはBがCを、更に次にはCが○○をしているAを眺めている、という風に立体的に展開していく。しかし、とくにこれといった出来事が起こる訳でなく、そのうえ長く長く続く文章があったりと、とても捉えにくい。それなのに、その文章は「斬新な文体で恐るべき完成度」と言われているのですから、つらい。
その第三人称で語られる一日と交互に、その3年後の小さな眼鏡をした元女子学生の、第一人称による物語が語られていきます。こちらの展開ももうひとつ判りにくい。出会い頭にただ一度したセックスで妊娠してしまった彼女の、戸惑っている様子が描かれます。
本書中、一人一人の人生にも味わいはあるのです。
ドライアイの男子学生は、眼鏡の女子学生に好意を抱きながらなかなか話し掛けられないでいる、老夫婦の夫は重い病を抱え込んでいるようで老妻にどう伝えようかと逡巡している、火傷の男は火事で愛妻を喪ったらしい。一方でパキスタン人の双子の男の子たちややんちゃを発揮して騒ぎまわっている。...でも、それだけではなァ。
ごく普通な人々の平凡な生活の中にも奇跡はある、そしてそれは語られて初めて奇跡となる、というのが題名の所以ですが、どんな奇跡が生まれるのか。それを知るには、最後まで読み通すほかありません。読み終わった時には、正直言ってほっ。

 



新潮クレスト・ブックス

    

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