アレクサンダー・マクラウド作品のページ


Alexander MacLeod  カナダ・ノヴァスコシア州ケープ・ブレトン島で生まれ、オンタリオ州ウィンザーで育つ。父親は作家のアリステア・マクラウド。ウィンザー大学卒業後、ノートルダム大学、マギル大学でも学位を取得し、ハリファックスのセント・メアリーズ大学で教鞭を執る。教職の傍ら短篇を書きため、2010年「煉瓦を運ぶ」を刊行、ギラー賞、フランク・オコナー国際短篇賞の最終候補にノミネートされ注目を集める。現在ノヴァスコシア州ダートマス在住。

 


   

「煉瓦を運ぶ」 ★★
 
原題:"Light Lifting"     訳:小竹由美子


煉瓦を運ぶ

2010年発表

2016年05月
新潮社刊

(1900円+税)

 


2016/06/21

 


amazon.co.jp

聞き覚えのある著者名だと思ったら、それもその筈、孤高の作家=アリステア・マクラウドの息子さん。
教職の傍ら10年くらいをかけて書き溜めていた短篇を一冊にまとめた本短編集にて、作家デビュー。
するとギラー賞、フランク・オコナー国際短篇賞の最終候補にノミネートされる一方で、グローブ・アンド・メール紙他で“今年の本”に選ばれる等、高い評価を得て注目を集めたとのこと。

各篇ストーリィはごく日常的な、本当にちょっとした事柄(交通事故までそう見做して良いかどうかは迷うところですが)。でもそのことが主人公や登場人物にとっては、きっと人生における大きなインパクトになった筈、というものです。
客観的に見ればそう大したことではない、でも当の本人にとっては実に衝撃的な出来事・・・人生において忘れられない出来事とはそんなものかもしれません。

マクラウドの文章は極めて単純、簡潔にして平明なもの。父親であるアリステア・マクラウドのような孤高の厳しさといったものは感じませんが、余分な贅肉を切り落した文章という処では共通するものがあるように感じます。
そして、各篇において何を伝えようとしているのか、それが明らかに語られることはありません。また、ストーリィの時間軸が時によって前後するため、ストーリィの流れをつかみ難いところがありますが、理解ができるようになってくると、各篇の印象もかなり変わってきます。
その点、内容が掴みきれなかったら繰り返し読んでみることをお薦めします。

「ミラクル・マイル」は、陸上の1500m走の選手2人が主人公。「親ってものは」は、生まれたばかりの我が子のために父親が右往左往させられる姿が描かれます。
表題作
「煉瓦を運ぶ」は、煉瓦運びというキツイ労働をした若者の姿が描かれます。「成人初心者T」は水泳に絡むストーリィ。
「ループ」は、自転車で薬局から薬を配達するというバイトをしている少年が主人公。「良い子たち」は4人兄弟が隣に越してきた少年に振り回されるストーリィ。「三号線」は、交通事故によって妻と幼い息子を失った男の辛い気持ちを描いた篇。
私としては「ループ」が一番印象に残りました。

各篇に共通するのは、感情問題ではなく、肉体的体験がストーリィの鍵になっていること。
アレクサンダー・マクラウド自身、「人がある行動をすることによってその後の人生が変わってしまう、そういう瞬間」に興味がある、とのこと。本書はまさにそうした短篇集です。

ミラクル・マイル/親ってものは/煉瓦を運ぶ/成人初心者T/ループ/良い子たち/三号線

 



新潮クレスト・ブックス

     

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