C・S・ルイス作品のページ


Clive Staples Lewis(クライブ・ステープルズ・ルイス) 1898〜1963
英国の批評家・小説家。英国・北アイルランドのベルファストで弁護士の息子として生まれる。オックスフォード大学卒業後、1925〜54年オックスフォード大学にてフェローとチューター。その後ケンブリッジ大学にて中世・ルネサンス期イギリス文学の教授。1950年に始まった「ナルニア国物語」は子供向けの人気シリーズ。

 
(ナルニア国物語・全7巻)

1.ライオンと魔女

2.カスピアン王子のつのぶえ

3.朝びらき丸 東の海へ

4.銀のいす

5.馬と少年

6.魔術師のおい

7.さいごの戦い

 


   

1.

●「ライオンと魔女」● ★★
 
原題:"THE LION,THE WITCH AND THE WARDROBE"     訳:瀬田貞二

  
ライオンと魔女画像
 
1950年発表

1985年10月
岩波少年文庫
2000年06月
新版第1刷

(680円+税)

 

2005/01/24

 

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「ナルニア国ものがたり」第1巻。
“豊かな物語性”という言葉が自然に浮かぶ、児童向けファンタジー冒険小説。

第2次大戦中、空襲を避けてロンドンから片田舎の古い屋敷に疎開してきたピーター、スーザン、エドマンド、ルーシィという4人の兄弟姉妹が主人公。
その古い屋敷には、主人である年寄りの学者先生でさえ知らない謎が隠されているらしい。
ある日、がらんとした部屋に置いてあった衣装だんすに潜り込んだルーシィは、その奥が雪に覆われたナルニア国という別世界に通じていることを発見します。
最初はルーシーが、次にエドマンドが、そして最後は4人の兄弟が一緒に衣装だんすを抜けてナルニア国へ入り込みます。この衣装だんすの奥が別世界に通じているという発想が秀逸。なんとも愉快ではありませんか。

その夢みたいな世界ナルニア国では、住民はみな動物だったり神話に出てくるような半人半獣だったり。人間は4人の兄弟のみです。でも、下半身が山羊(フォーン)のタムナス、4人を歓迎してくれたビーバー一家と、皆各々人間以上に人間的であるところが楽しい。
とくにビーバーの奥さんの家庭を切り盛りする様子、その落ち着きぶりには、すっかり心楽しくなってしまいます。
そのナルニア国は、国中を冬で覆い女王を名乗る魔女と、偉大なライオン=アスランの戦いがちょうど始まるところ。その戦いに4人も積極的に関わっていきます。
ナルニアの住人たちの善悪が明確である一方で、冒頭4人の兄弟の間に仲間割れが生じてしまうという点が印象的。盛り込むべきことはちゃんと盛り込まれています。
本物語はまだ始まったばかり。本シリーズの真価はこれからでしょう。

※映画化 → 「ナルニア国物語/第1章ライオンと魔女

   

2.

●「カスピアン王子のつのぶえ」● ★★☆
 
原題:"PRINCE CASPIAN"     訳:瀬田貞二

  
カスピアン王子のつのぶえ画像
 
1951年発表

1985年10月
岩波少年文庫
2000年06月
新版第1刷

(720円+税)

 

2005/01/29

 

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「ナルニア国ものがたり」第2巻。
第2巻に至って、漸く「ナルニア国」の面白さがつかめてきました。
それは、この物語が第1巻から第7巻まで繋がったひとつのストーリィではなく、それぞれ単独のストーリィが立体的に組み合わさることによって大きな“ナルニア国”の物語を築き上げていくらしいということ。
単に説明で知らされるからということではなく、第2巻に至ってそれが実感として感じられるのです。

第2巻は、ピーター、スーザン、エドマンド、ルーシィの4人が休暇を終えて学校の寄宿舎に戻る途中から。
突然4人は何かの力によって引っ張られ始めます。そして気が付くと、4人は再びナルニアに戻っていたのです。
しかし、それは4人が王位についていた頃の楽しいナルニアではなく、その千三百年後、テルマール人に支配されて荒れ果てたナルニア。
そしてそこでは、昔の楽しいナルニアに戻そうとするカスピアン王子とおじのミラース王が戦いを繰り広げているところだった。
4人は、カスピアン王子の吹いた魔法のつのぶえによって、再びナルニアへ呼び戻されたという次第。

4人はナルニアを元に戻すことができるのか。アスランはどうなったのか。そして読者は、本巻でナルニアという世界の一端を知ることができます。
プロローグから本章に入ったという感触、これから後の物語への期待が膨らんでいく楽しさが本巻にはあります。

※映画化 → 「カスピアン王子の角笛

    

3.

●「朝びらき丸 東の海へ」● ★★
 
原題:"THE VOYAGE OF THE DAWN TREADER"     訳:瀬田貞二

  
朝びらき丸東の海へ画像
 
1952年発表

1985年10月
岩波少年文庫
2000年06月
新版第1刷

(760円+税)

 

2005/02/06

 

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「ナルニア国ものがたり」第3巻。
今回は、朝びらき丸に乗り込んで東の海の果てへと、冒険を求めて航海するストーリィです。
行き先で主人公たちは、様々な不思議な出来事に遭遇します。まるでスウィフト「ガリヴァ旅行記」のようですが、そこはそれ、児童書ですから社会風刺の要素はあまりありません。想像によって繰り広げられる様々な出来事を楽しんでいけばいい、という巻になっています。

人間界からナルニア国に飛び込むのは、ペベンシー家の4人兄弟全員ではなく、今回はエドマンドルーシィの2人と、その従兄弟のユースチス・クラレンスの3人。クラレンス家にある船の絵を見ていたら、いつの間にか絵の中に吸い込まれていた、それこそカスピアン王自ら、ミラース王に追放された7人の卿の消息をつかむため航海中の朝びらき丸だったという次第。前巻の3年後という設定です。
このユースチスが真に偏屈で自分勝手、嫌な性格の少年。第1巻のエドマンド以上です。
本巻で私が感じた見所は3つ。
ひとつは、ユースチスが竜に変身してしまい、自分の身勝手さに気づき、人に好かれまた人を好きになる楽しさにも気づく、という章です。
本巻ではカスピアンと人間界の3人、そのいずれも主人公というには弱い。彼らを圧倒して存在感を発揮しているのは、冒険心と勇気を皆に鼓舞して止まないねずみの族長、リーピチープです。彼の存在がお見事、これがもうひとつ。
そして最後には、この世の果ての先にある海の様子です。地球のように丸くはないらしい。
前2巻とはまた違った面白みのある巻。

※映画化 → 「アスラン王と魔法の島

     

4.

●「銀のいす」● ★★
 
原題:"THE SILVER CHAIR"     訳:瀬田貞二

  
銀のいす画像
 
1953年発表

1986年03月
岩波少年文庫
2000年06月
新版第1刷

(760円+税)

   
2005/02/27

   
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「ナルニア国ものがたり」第4巻。
今回の主人公は、前回ベベンシー兄妹と一緒にナルニアへ行ったユースチス・スクラブと、ジル・ポールという少女の2人。
学校のいじめっ子から追われた2人が、アスランの名前を唱えながら願うと、何とナルニアへ。
そしてジルは、アスランに命じられ、カスピアン王の息子で行方不明になっているリリアン王子を救い出すため巨人の国へと旅します。

冒頭、ジルがアスランと別れてナルニア国へ向かう、物語の幕開けが壮大で素晴らしい。惚れ惚れします。
ただ、その割りに本巻では、主人公となったユースチス、ジルの2人がどうもぱっとしない。2人に代わって見事な活躍を見せるのが、2人の旅の道連れとなった沼人泥足にがえもんです。
この沼人、沼の近くに住み、短い胴と長い手足をもち、手足の指には水かきがあるという人物。
そして3人は、巨人の国へ、さらに地下の国へ向かうという大冒険物語。この地下の国へ入り込んでからの展開にはワクワク、ドキドキします。
泥足にがえもんの、何でもすごく悲観的に言う話っぷりには苦笑せざるを得ませんが、彼のナルニアを愛する気持ちは並々ならぬもの。朝びらき丸で活躍したリーピチープには及ばないまでも、本シリーズ中忘れられない登場人物のひとりです。
前3巻に比べて主人公2人に物足りなさがありますが、冒険性+サスペンス性において読み応えたっぷりの巻。

   

5.

●「馬と少年」● ★★
 
原題:"THE HORSE AND HIS BOY"     訳:瀬田貞二

 
馬と少年画像

1954年発表

1986年03月
岩波少年文庫
2000年11月
新版第1刷

(720円+税)

 2005/04/30

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「ナルニア国ものがたり」第5巻。
第5巻は物語を遡り、ピーターらベベンシー兄妹が王としてナルニアを治めていた時代のストーリィ。

主人公は、本シリーズで初めて人間界の子供ではなく、ナルニアの南、カロールメンで漁師に拾われて育った少年シャスタです。
シャスタは奴隷として売られるところを、ナルニア国生まれのもの言う馬・ブレーに助けられ逃げ出し、共にナルニアに向かって旅します。
途中、嫌な老人との結婚から逃げ出してきた姫君のアラビス、雌馬のフィンと道連れになりますが、2人と2匹はナルニアの同盟国アーケンに対するカロールメンの王子の攻撃計画を知ることになります。それから2人と匹の旅は、アーケンとナルニアへ急を知らせるための必死の旅となります。
2人と2匹の冒険物語というストーリィのため、シリーズの中でも独立した物語という印象が強い。その分、まとまりが良く、気軽に楽しめる巻と言えます。
なお、ベベンシー兄妹からは、スーザン女王、エドマンド王、ルーシィ女王の3人が特別出演。

    

6.

●「魔術師のおい」● ★★
 
原題:"THE MAGICIAN'S NEPHEW"     訳:瀬田貞二

  
魔術師のおい画像
 
1955年発表

1986年03月
岩波少年文庫

2000年11月
新版第1刷

(720円+税)

 

2005/05/07

 

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「ナルニア国ものがたり」第6巻。
本巻では、アスランによってナルニア国が作られる様、そして第1巻ライオンと魔女から始まるこの物語の謎を明らかにされます。
どちらかというと、ナルニア国ものがたりのひとつとしての面白さは薄く、シリーズ最終巻を迎えるに先立ってナルニア国の謎を解き明かしておくための巻、という印象を受けます。

名探偵シャーロック・ホームズがまだ生きていた時代、ディゴリーという少年とポリーという少女の冒険物語です。
ディゴリーは母親が病気になったため、母親と共にアンドルー伯父の家に越してきます。そこで隣家のポリーと知り合います。
2人は空き家の探検をするつもりが、アンドルー伯父の部屋に入り込んでしまい、自分勝手な伯父の実験台にされて別世界に送り込まれてしまいます。そこでディゴリーがつい余計なことをしたばかりに、魔女を縛っていた呪文を解いてしまう。
おかげで魔女ジェイディスは2人につきまとって人間界に現れ、近所に大騒動をもたらします。
その魔女を何とか元の世界に戻そうとしたところ、2人が魔女や伯父、馬車屋と共に行き着いたのは、アスランがまさにナルニアを作ろうとしていた世界、その現場。
「ライオンと魔女」で出会った幾つもの謎。ナルニアには何故ものいうけものたちが居るのか? 魔女はどこから来たのか? 何故ナルニアに街灯が1本あるのか? 何故衣装だんすはナルニアに通じていたのか?
それらの謎が本巻ですべて明かされます。最終巻に至るためには避けて通れない巻。

   

7.

●「さいごの戦い」● ★★★
 
原題:"THE LAST BATTLE"     訳:瀬田貞二

  
さいごの戦い画像
 
1956年発表

1986年0月
岩波少年文庫
2000年11月
新版第1刷

(720円+税)

 

2005/05/09

 

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「ナルニア国ものがたり」第7巻。
ナルニア国の終焉を描いたシリーズの最終巻です。

大毛猿ヨコシマが愚かなロバのトマドイを騙してライオンの毛皮をかぶせ、アスランの名を騙ってナルニアのものいうけものたちを誑かします。
そのうえカロールメンの兵達を国内に引き入れ、ものいうけものたちを重労働に酷使します。
チリアン国王の存在はあるものの、毛猿やカロールメン人が傍若無人に振る舞えること自体、ナルニアという世界が崩れ始めていることが感じられます。
そんな窮地に再びナルニアに送り込まれたのが、ユースチスジル。2人はチリアン王、一角獣のたから石らと共にカロールメン軍に立ち向かいますが、ナルニアの住民たちは既に分裂してしまっていて、ついに力尽きます。

前半にもうナルニア国の楽しさは失せ、読み手はまるでナルニア国終焉の証人という立場を与えられたかのようです。
そして後半、アスランがついに現われ、チリアンとユースノス、ジルのほかピーター、エドマンド、ルーシィらも呼び寄せ、一同を新たな世界に導きます。
そこに至って、初めて“ナルニア国ものがたり”の真の全体像が明らかにされます。まさに壮大な叙事詩!
第6巻にて失楽園に通じる、それを超えるファンタジー的な叙事詩という雰囲気を感じていましたが、この最終巻で知ったこの物語全体はまさにそのとおり。
本巻の魅力は、もはや物語の面白さにあるのではなく、壮大なファンタジー叙事詩が完成されること、そこへこの物語に登場した多くの心正しき仲間たちと一緒に至れる、という満足感にあります。これだけの満足感を児童向け作品で味わえるのは、まさにこのシリーズだけといって過言ではないでしょう。

そして、この大団円を迎えたところで、もう一度第1巻の最初から読み直したくなります。その点もまた、「ナルニア国ものがたり」の尽きない魅力と言って良いでしょう。
「ナルニア国ものがたり」を読もうと思うなら、全7巻をすべて読んで欲しい。そうでなければ、この物語を読む喜びは少なく、この物語の真の姿を知ることもできないのです。

  


     

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