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●「微笑がいっぱい」● ★★★
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1993/10/31
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ラードナーというのは、一度読んだだけで愛着を覚えてしまう作家です。単純明快なストーリィ、さりげない語り口。そして、ユーモア、風刺、哀感、どれをとっても一級の作家です。 ラードナーは、元々プロ野球を題材とした小説を書いてデビューした作家ですが、その為もあってかその作品には野球ものが多く、秀逸なものが目立ちます。 アメリカ文学で短篇小説の名手と言うと、O・ヘンリの名が思い浮かびます。O・ヘンリの作品は、日常生活における喜怒哀楽をユーモアとペーソスで語ったところに素晴らしさがありますが、ラードナーはそれに強烈な風刺を加え、さらに野球等とてもアメリカ的な面を描いているところに、大きな魅力があります。その作品は、若い頃のヘミングウェイの「ボクサー」等作品に影響を与えたと言いますが、「チャンピオン」を読むとそれは充分納得できること。 ラードナー作品は決して滑稽譚ばかりではありません。スポーツ選手を英雄視するマスコミの風潮を風刺した「チャンピオン」があると思えば、礼儀正しい生活を尊重する彼の考え方を表した「古風なクリスマス」のような作品もあります。 微笑がいっぱい/メイズヴィルの吟遊詩人/弁解屋アイク/チャンピオン/当り屋/ハリー・ケーン/この話もう聞かせたかね/保養旅行/古風なクリスマス |
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ラードナーを初めて読んだのは、1979年に「アリバイ・アイク」が新潮文庫化された時でした。その面白さに興奮し、単行本の「微笑がいっぱい」と「息がつまりそう」を買って読みました。その後3冊とも絶版となり、1993年に「微笑がいっぱい」のみ復刊されました。しかし、それも今は絶版となったようです。アメリカを代表する作家の1人だけに、ファンとしてはとても寂しい限りです。なお、現在では、福武文庫にて「ラードナー傑作短篇集」が刊行されているようです。 |