エーリヒ・ケストナー作品のページ No.2



11雪の中の三人男

12.消え失せた密画

13.一杯の珈琲から

14.ケストナーの「ほらふき男爵」


【作家歴】、エーミールと探偵たち、飛ぶ教室、点子ちゃんとアントン、 エーミールと三人のふたご、二人のロッテ、動物会議、サーカスの小びと、小さな男の子の旅

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11.

●「雪の中の三人男」●  ★★★ 
 原題:"DREI MANNER IM SCHNEE"      訳:小松太郎




1934年発表

1971年11月
創元推理文庫


1981/11/01


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百万長者のトーブラー氏が、何の気まぐれか貧乏人シュルツェに変装して雪中のグランドホテルに投宿する。広告の懸賞に当選したご褒美という設定。
しかし、同じく懸賞にあたった失業中の青年フリッツもまた宿泊しにきたことから、ホテル側が百万長者と貧乏人を取り違え、様々な珍騒動が展開されるというストーリィ。

ホテルの従業員や宿泊客が勝手な損得勘定を繰り広げる中、フリッツ、シュルツェ、ケッセルフート氏(トーブラー家の下男が変装)の間には、お互いの地位・身上を超えた友情が芽生えます。
3人でこしらえた雪人形のカシミアが、彼らの友情を象徴しています。社会的地位によって人を差別する世相への風刺が、この作品にはこめられています。

後半に入ると、さらにトーブラー氏の娘ヒルデガルトまでが家政婦を連れて乗り込み、フリッツとの間にロマンスが芽生えます。
取り違えとロマンスという古典的ストーリィですけれど、ケストナーのユーモアが随所に散りばめられているだけに、心ゆくまでの楽しさがあります。
そして、人と人との関わりに希望を感じさせてくれる名作です。

 

12.

●「消え失せた密画」●  ★★
 原題:"DIE VERSCHWUNDENE MINIATUR"     訳:小松太郎




1935年発表

1970年02月
創元推理文庫

2024年04月
中公文庫

2000/08/06

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コペンハーゲンの競売で競り落とした高価な密画。
それを、蒐集家の秘書
イレーネ・トリュープナーがベルリンまで運ぶことになりました。ところが、彼女の周囲には、盗賊団の監視の目が光っています。

そんな折、ベルリンから突如家出してきた肉屋のオスカル・キュルツがふとイレーネに知り合うこととなり、老キュルツはこのスリリングな冒険に巻き込まれ、イレーネと一緒にコペンハーゲンからベルリンまで旅することとなります。
2人につきまとうのが、ルーディ・シトルーフェというハンサムな青年と、どこかコミカルな 盗賊団の手下たち。

ケストナー作品ですから、スリリングさより、ユーモラスな雰囲気が漂うのは当然のこと。盗賊団の首領が、ピストルで相手を傷つけるのは大嫌いというのですから、血生臭いこととは無縁のストーリィになっています。

老キュルツとルーディ、盗賊団の面々の個性が楽しく、イレーネの可憐さも快い。
さしづめ、まろやかで、ユーモラスという味付けがなされた、後味の良いサスペンス小説、という作品です。楽しいですよ。

 

13.

●「一杯の珈琲から」●  ★★★
 原題:"DER KIEINE GRENZVERKEHR"     訳:小松太郎




1938年発表

1975年03月
創元推理文庫

   

1991/12/31

  

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夏の休暇をザルツブルクで過ごそうと、主人公ゲオルクは国境をはさんで目と鼻の先にあるドイツの町にやってきます。それからは、国境を越えてザルツブルクへ往復する毎日。
為替管理の制約から、サルツブルクでゲオルクは無一文状態なのですが、ある日待ち合わせた友人カールがこなかったことから、コーヒー一杯の代金が払えない羽目に陥ります。その時ゲオルクを救ってくれたのはンスタンツェという若く美しい娘。
それから毎日、ゲオルクの日記形式で、小間使いだというコンスタンツェとのロマンスが語られていきます。

筋立ては、マリヴォー「愛と偶然との戯れに似ています。
でも、この作品の魅力はそうした恋愛喜劇にあるのではなく、ケストナーらしいユーモアと限りない温かさにあります。
そしてまた、登場人物のすべてが善意の人ばかり、という気持ちの良さがあります。ゲオルクの友人カール、コンスタンツェの兄フランツル、そして彼女の父親。そして芝居と知りつつ、騙され役を黙って演じていたアメリカ人家族。
マリヴォー作品では恋する男性が最後まで騙されていましたが、本作品で最後に騙されるのは、コンスタンツェの父親です。フランツまでも騙す側に加わる所為か、そこには一家の温かさが感じられます。

コーヒー一杯から始まるロマンス、というストーリィは洒落たもの。ケストナーのユーモア3作品では、最も香り高い作品のように感じられます。

 

14.

●「ケストナーのほらふき男爵」●  ★★
 
原題:“ERICH KASTNER ERZAHIT”




1938〜61年発表

1993年02月
筑摩書房

2000年01月
ちくま文庫
(950円+税)


2000/01/16

ナチス体制下で、反戦作家ケストナーの著作は焚書にあったりしました。その中でケストナーは、子供に広く知られた話を語 りなおす仕事を始めました。その作品をまとめたのが、本書です。
再話といっても、そこはケストナーのことですから、新しい語り口、新しいテンポによって、古い話がまるで新しい話に蘇っています。古今の名作というのは、子供にとってはとかく読みにくいもの。子供からすれば、本書はどんなに面白かったことでしょう。本書に収められた話を読み聞かせた時の子供の笑い声が、まるで聞こえるような気がします。
子供だけにとどまりません。大人にとっても
「ドン・キホーテ」「ガリバー旅行記」「長靴をはいた猫」は、原作以上の面白さがあります。面白さが判りやすく要約されている、という印象です。原作を読んでいる作品については、そのことが尚のこと 感じられます。
再話といっても、これらはあくまでケストナーの物語なのでしょう。主人公たちを見る目の温かさが、原作者とは違うような気がします。

ほらふき男爵   Munchhausen,1938
ドン・キホーテ  Don Quichotte,1956
シルダの町の人びと  Die Schildburger,1956
オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら  Till Eulenspiegel,1938
ガリバー旅行記  Gullivers Reisen,1961
長靴をはいた猫  Der gestiefelte,Kater,1950

 

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